帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
柊の特徴を紹介するぜ!
まずは髪! 真っ黒だ! 適当に伸ばして首の後ろでまとめている。
次に目! 夜煙の効果が切れて飛び起き涙で目元がカピカピなので目元に元カノを心配させないよう始めた赤い化粧をしているよ。
毒に高い耐性があるとは言え薬物を乱用してるから顔色は悪いし化粧されていない目元は隈だらけだ
上記の見た目になるまでは家族に愛され、仲間とともに英雄になるのを夢見てキラキラしてたのに世界を救い仲間を全部失い、安全なところで過ごしてただけのその世界の住人にもっと犠牲を出さず世界を救えと石を投げられ薬漬けになりとても淀んだよ!
癖だね!
悔しかった。
言い返せなかった。
言い返せるわけがなかった。
だから、逃げ出した。
逃げた先は、ダンジョン。
「う、あああ!!」
モンスターを斬る。弱くて惨めな自分認め、自棄になった。遥か遠くに、その背中が見えないほど先に進む彼女に追い付くために!!
「はぁ………はぁ………!!」
気が付けば……
その理由の一つ………『新人殺し』と呼ばれるモンスターの一体、ウォーシャドウが生まれる。
影のように黒いからだ。鏡のような円盤を貼り付けた顔。異様に長い腕の先に映える鋭い爪は、第二級冒険者でも致命傷を負いかねない。それが、2体。
「居た………! 下がってて!」
「!!? な、なん………で………」
と、そんな『新人殺し』と新人の間に金色の風が吹く。アイズ・ヴァレンシュタインが、その場に現れた。
「大丈夫、今………」
「なんで!!」
「!?」
突然の大声に思わず固まるアイズ。ベルは、ウォーシャドウ達を睨みつける。
「僕が、やるんだ! 僕は、やるんだ! やらなくちゃ!!」
ベルはそう叫び、ウォーシャドウに突っ込んでいく。アイズを警戒していたウォーシャドウ達も近付いてくるベルに標的を変え、爪を振るう。
「づう!!」
ナイフで受け流し、体を胸に叩きつけ吹き飛ばす。2枚目の爪による刺突を体を回転させながら回避し勢いを利用し蹴りつける。
「!!」
「!!?」
ダメージは、少ない。ベルのステータスが低いのもあるが、あの瞬間ナイフで攻撃するだけの技術がないからだ。
だが、戦えている。
「……嘘」
彼の装備は、どう見ても駆け出しのそれ。ギルドで支給される安物だ。
ギルドの支給品を使う辺り、彼の【ファミリア】に先達は居ないか、先程の青年のように後輩に興味を持たないかだろう………。
アイズは………違った。父の剣を真似、フィン達からも教わり、【ファミリア】からある程度の水準の武器を与えられた。
果たして自分は、駆け出しの頃にあんな装備でウォーシャドウと戦えたか?
それが強くなるためだと言われれば、間違いなくやるだろう。ただし戦いになったかは別だ。
「あぐっ!!」
先程の意趣返しとばかりに、ウォーシャドウが体当たりを食らわせる。人並みの大きさで人以上の膂力は凶悪な武器となる。
吹き飛ばされたベルは、ナイフを落としてしまったことに気付く。アイズが今度こそ助けになろうとして………
「がああああああ!!」
兎のような外見に似つかわしくない獣の如き咆哮を上げウォーシャドウの鏡のような頭を砕く。鋭い爪の生えた手首を掴み、反対側から迫るウォーシャドウの腹へと突き刺す。
「!!」
胸を貫くだけの余裕はなかった。同族の死体にバランスを崩しながらも鋭利な爪を振るうウォーシャドウ。ザックリと肩を斬られながらもナイフを拾い胸を切り裂く。
「────」
魔石が砕かれ灰へと崩れるウォーシャドウ。ダンジョンは弱った獲物だけでも殺すというように、天上に亀裂が走りダンジョン・リザードが落ちてくる。
鰐のような体躯を持ち素早く動くトカゲは血の匂いに目の色を変えベルに襲いかかる。
片腕が動かぬ状態ではバランスが取りにくく、回避しきれずザリザリと石のような鱗が服と皮膚を削る。
「ごぅ………えっ…………!」
鞭のようにしなり棍棒のように太い尾がベルの腹を叩く。
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
「ああ! 危ないでございます!」
冒険者様は普段どのような冒険をなされているのですか? と興味本位で聞いた春姫は、水の入った桶を持ってくるように言われ、言われるがままに持ってきた桶の水面に映された光景に叫ぶ。
兎のように可愛らしい少年がモンスターと戦っていた。ハラハラと見ていたりハッと驚いたり金髪の騎士が現れてワクワクしたりと表情の変化が著しい。
娼婦ではあるが、男を前に緊張してすぐ気絶したりと割と小娘のままだ、この16才。
「コンみてぇだ………」
何気に知能が高く学ばせれば人の言葉や文字を解し本を強請っていたペットを思い出す。尤も、あれは英雄譚より恋愛小説を気に入っていたが。
「あ、倒しました! でも、気絶してしまったのでございます………」
水面に映るのは血を流しながら倒れる少年。馬鹿にされ、悔しがり装備もナイフ一本のまま飛び出し到達階層を更新した結果。
自業自得。
己の実力を見誤り深く潜りすぎ死ぬのも、早く強くなろうと深く潜り死ぬのもオラリオでは珍しくもない光景。
ただ今回は運良く、身の程知らずを抱えたまま地上に戻れるだけの強者がいた。金髪の女剣士に担がれる白髪の少年を見てホッと安心する春姫は、もしやこのまま2人は! と男女の逢瀬をドキドキ見詰めるエロ狐であった。
柊が指を鳴らすと水が蠢き燕の形を取り春姫の顔に突撃する。
「こん!?」
「冒険は終わり。観覧はここまでだ」
「こ、このままあのお二人はどうなるのですか? も、もしや2人で夜の街に消えて………! ああ、まさかそんな!」
「黙れムッツリエロ狐」
「ムッツリエロ狐!?」
ガーン、とショックを受ける春姫。遊女の
「は、春姫はムッツリエロ狐などではないのでございます!」
「緊張して気絶するくせに知識と興味は一丁前。ムッツリエロ狐じゃねえなら助平狐だ」
「すけ!? うう、柊様は意地悪でございます………」
涙目で恨みがましく睨んでくる春姫に、柊は煙を吐きながら胡乱げな瞳を向ける。
妙な女だ。自分の未来を見ていないくせに、他人との繫がりに縋っている。いや、未来を見てないからこそか…………。
ようは自分はもうすぐ死ぬから、それまでの繫がりを大切にしよう、そう諦めているのだ。
向こうで何度か見た生贄の女達。このエロ狐はそんな生贄達の中でも特に大人しい目をしている。このまま消えればそれで終わりだと思っている目。
「お前の力は、まあ強化か」
「こん!?」
柊の言葉にビクッと体を震わせる春姫。なんとか誤魔化さねばとオロオロした後、ハッと何かに気づき悲しそうな笑みを浮かべる。
「………柊様も、わたくしの力を知り訪れたのですね。ですが、無理な話でございます」
「あん?」
「イシュタル様は、恐ろしいお方。わたくしが逃げることも、わたくしを奪うことも出来ません………どうか諦めてください。それでもせめて、その時が来るまでこうしてお会いしていただけるだけで春姫は幸せです」
「……………俺はお前の力など知らん。予想しただけだ」
「………予想?」
「イシュタルとか言う神にはあったこともないが、オラリオについて調べりゃ見えてくるものもある」
『調べ予想し、仮説を立てる。その仮説でさも真実を知っているように揺すれば、真実なんて意外と簡単に解る』とは仲間の魔法使いの言葉だったか………。
だから閲覧可能な情報を徹底的に調べた。閲覧制限がかかっていても、調べられることは調べた。
そこで立てた【イシュタル・ファミリア】の仮説の一つ……『【イシュタル・ファミリア】にはステータスを一時的に大幅に上げる存在がいる』であった。
『女神』は嫉妬深い。男神に崇められる美の女神達の中でも特に持ち上げられているのがフレイヤとイシュタルだ。
因みにフレイヤの方が人気もファミリアの実力も上。
とは言え派閥の実力はともかく規模は超え、フレイヤについで男神共に崇められているのは間違いなく、フレイヤより先にと戦争を吹っかけ返り討ちにされた。
その際明らかに報告されているLv.にそぐわない者達が存在し、女神達はギルドに【イシュタル・ファミリア】がレベル詐称をしていると訴え、結果は白。
ギルドとそのファミリアはイシュタルに罰金を支払い、弱体化したところを潰された。その流れはあまりにスムーズ。
「そして俺が見た限り、逃亡防止………いや、
「あう!」
首輪に指を引っ掛け引き寄せる。魔力を帯びたその首輪は、春姫が歓楽街から出れば居場所を伝える魔道具。春姫だけが、徹底的に逃さぬよう処置されている。
「そしてさっきの態度。強力なスキルを持ってるって俺の勘は当たりだったわけだ……」
「っ………その通りで、ございます。ですが…………ですが! わたくしを奪おうなどと、絶対に思ってはいけません。そのようなことをすればイシュタル様に」
「別にお前の力などいらん」
と、首輪から指を放し肩を掴むとクルリと回し膝の上に乗せる。
「そもそも、
なにせ上げるべき恩恵がないのだから。
同様の理由で
「で、では………どうしてわたくしに関わって…………」
首筋に当たる吐息の熱に焼かれるように全身を熱くしながら問いかける春姫。なにせ自分は娼婦としても出来損ないだった………わざわざ関わる理由が、自身の持つ『妖術』以外に何があるというのか。
「お前は娼婦で、俺は客だ……それ以外の関わりがここで必要か?」
「あっ………! で、すが………わたくしは、すぐ気絶して………んぅ……」
着物越しに臍の下を押されピクンと震える春姫。
反対の手は蛇のように腕を絡め取りながら、指を絡める。
「まあ別に娼婦はそこまでやらなくても楽しみ方はいくらでもある。特にお前は、昔飼ってた狐を思い出す」
グリグリと臍下を押していた指が離れ、抱きしめるように首に手を回しながら耳に触れられる。
「ひ、柊様は飼っていた狐にこ、このようなことを?」
「腹や耳の裏、尻尾を撫でたり………ああ、あと匂いを嗅いだな…………つっても、お前は彼奴みたいな毛皮はねえけど」
「ひゃう!?」
首筋に鼻が触れたと思えば、滑られる。緊張からかいた汗が舐め取られる。
「さっきも言ったが、俺とお前は客と娼婦だ。彼奴と同じ扱いするわけがねぇ………俺はただ、嫌なことを忘れるために
「…………い、いやな………こと? 嫌なことを、忘れる?」
「お前にもあるだろ? 忘れたい事………酒に異性に美味い飯に薬………忘れられねえからそれに溺れる。お前が望むなら、何もかも………………気絶してる」
「きゅ〜〜ん」
顔を真赤にして目を回す春姫。昨晩よりは触れられたが………これは事をなすにはそれなりになれさせなきゃ無理だな。
「おい、気絶した………」
柊の言葉に襖が開き、黒髪の
「今日は抱こうとしないのかい?」
「また絡まれるのも面倒だ」
と、別の場所を見る。昨日のアマゾネスが隠れている。
「話は聞こえてたけど、全部知ってるあんたをただで帰すわけにはいかないって言われると思わないのかい?」
「死人がどうやって俺の帰路を遮る?」
その言葉に遊女は冷や汗を流す。ただの疑問。自分達が止めようと殺して帰れる、絶対の自信。
もちろん【イシュタル・ファミリア】には第一級のフリュネがいるし………春姫の力は
でもフリュネは無名の冒険者に一方的に殺されかかったらしいし、時期的に此奴だろうしなぁ。
「降参。告げ口はしないよ………で、どうするんだい? 代わりに誰か呼んでこようか?」
「お前でいいだろ」
「喜べば良いのか、そんな適当にと憤れば良いのか解らないねぇ……ま、良いけどさ。どうする? 春姫が起きた時に学べるように、ここでやるかい?」
「別の部屋でいい」
春姫を布団に寝かせ、遊女の案内のもと廊下を歩く。
「あんた、春姫がそう長く生きてられないのわかってんだろ? それが病気の類で無いことも」
「ああ、ありゃ近々捧げられる生贄の目だ」
「助けてやろうとは、思わないのかい? 結構気に入ってるみたいだけど」
「何で俺があんな死ぬつもりのガキのために戦わなきゃなんねえんだ」
と、面倒臭そうに吐き捨てる柊。
「俺はな、誰もかれも救う英雄なんざもう目指さないと決めてんだ」