帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか?   作:匿名希望

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全知零能

「………う…………?」

 

 ベルが目を覚ますと、知らない天井が見えた。

 薬の匂い…………ここは、何処だろうか?

 

「起きましたか………」

 

 その声に振り返ると、銀髪の少女がいた。小柄で、無表情。何処か人形を思わせる。

 

「えっと………僕は………あれ?」

「貴方はダンジョンで無理していたところを、ある冒険者に救われました、覚えてないのですか?」

「……………はい、すいません」

 

 ダンジョンに潜って、最後の方はもう何も覚えてない。いや、最初の方も覚えてないけど………。覚えているのは6階層に行ったことと、ウォーシャドウに囲まれたこと。その後、何があったんだっけ?

 

「あの、ここは………?」

「【ディアンケヒト・ファミリア】の治療院です」

「ディ、ディアンケヒト!?」

 

 まさかの名前にベルは顔を青くして、少女はそんな態度に首を傾げる。

 

「ぼ、僕……お金、ありません!」

 

 実はベルはとある犬人(シアンスロープ)に『彼処はね、お金の亡者ばかりなんだよ。ベルみたいなか弱い兎は骨の髄までしゃぶられちゃうから。うちにしといたほうが良いよ。というわけで、はいこの出来立てポーション売ってあげる』と忠告されていたのだ。

 

「お金の件ならご心配なく。貴方を助けた方が払いました」

「え! えっと、その人は………」

「覚えていないようなら教えないでくれと頼まれました。後、怒らないでくれとも…」

 

 お礼を言いたかったのに、と落ち込むベルはふと少女の言葉を思い出す。

 

「………怒る?」

「ええ、ナイフ一本で、深夜にダンジョンに潜るような命知らずを怒らぬ者がどうして命を預かる治療院で働けましょうか」

「ひい!?」

 

 静かな声で、途轍もない怒りを感じた。この人、キレてる。カタカタ怯える兎のように震えるベルを見て、はぁ……とため息を吐く。

 

「命は一つきり。死した命を蘇らせるなど、私では出来ません。どうか、命を大切に」

「ご、ごめんなさい…………」

 

 

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

「ベル君が強くなりたいって言うんだ」

「そうか」

「鍛えてやってくれないかい?」

「断る」

 

 神友のタケミカヅチから教わったドゲザなる行為をしてみたがにべもなく断られた。畜生、これ全然効かないじゃないか。

 

「頼むよ! ベル君とは、長い付き合いなんだろ? このままじゃベル君は無理して、何時か本当に………」

「だからどうした。それが俺に何の関係がある」

「そんな………こ、と…………」

 

 突き放すような柊の言葉に思わず顔を上げたヘスティアは、段々と尻すぼみしていく。ただしそれは、恐怖ゆえではない。

 

「………ごめんよ」

「ああ?」

「君の事情は、何も知らない。だけど、だからって無視して良いものじゃなかった………」

「………………」

「君がどうしてそこまで誰かのために行動するのを嫌がるのか解らない。話したくないなら、話さなくて良い…………僕は、君の主神(おや)じゃないから、頼りないかもしれないけど………それでも、神なんだ。何時か、頼ってくれると嬉しいな」

 

 その言葉に、その微笑みに、柊は一瞬だけ顔を歪めた。ほんの、誰も気付けぬ一瞬だけだが………。

 

「う〜んと、質問なんだけど。要は君のためなら良いのかい?」

「…………具体的には?」

「君はほら、ダンジョンにはお金稼ぎだけが目的で潜ってるだろ?」

 

 普通の冒険者なら一攫千金、名誉。或いは力を求めてダンジョンに潜る。だいたいの力ある冒険者はその力を得るだけの危険に飛び込む理由がある。

 だが柊は違う。力はとっくに手に入れ、ただ金を稼ぐためだけにダンジョンに入る。それこそ夢を諦めた殆どの冒険者のように………。

 要は金のため。ならば………

 

「もし僕がベル君を助けてほしいって思った時は、力になってやってほしいんだ。英雄になりたいと願うベル君を強くしたくないなら、それでも良い。力になるって、別にそれだけじゃないから」

「…………お前に金が払えるのか?」

「うぐっ! じゃ、じゃが丸くん現物払いで…………」

「………まあ、恩恵を刻んだつー嘘に付き合ってもらってんだ。プレミアムじゃが丸くん十個を最低価格に願いを聞いてやる」

「柊君………! ん? って、まてえ! プレミアム!? しかも最低価格って、条件次第では値を釣り上がるってことか〜!?」

 

 ヘスティアの絶叫が地下室に響き、柊は五月蝿そうに顔を顰め煙管を咥える。

 

「うぐぐ〜…………これもベル君のためだ………! 解ったよ! あ、あと僕暫く出掛けるんだ。ベル君にも言ったけど………修行はともかく、保護者として面倒を見てあげてくれないかい? もちろん、冒険者として、とは言わないからさ…………」

「出掛ける?」

「神友に頼み事………今度こそ土下座を成功させてみせる!」

「ああ、神の宴か………その格好で?」

 

 ピシリと固まるヘスティア。ず〜ん、と落ち込む。どうもその服しか持ってないようだ。

 

「………そこのカーテン使っていいか?」

 

 

 

 

 

「おお〜…………」

 

 カーテンを縫い即席で作ったとは思えぬ出来のドレス。髪も大人っぽく纏められた。

 

「器用だね」

「父さんの仕事が服飾だったからな………もう顔も思い出せねぇが、意外と学んだ技術は覚えているらしい」

 

 服と言っても特別な………何だったか? 母さんがその服を着て写真を撮っていたような………駄目だな。強烈な記憶ばかりのあの世界のせいで、元の世界の記憶はだいぶ薄れた。

 

「髪型もそうなのかい?」

「髪型は恋人やそいつが住んでた孤児院のガキにねだられた」

「ははぁ、恋人………君も隅に置けな────ん? 恋人居るのに歓楽街に入り浸っているのか君はぁ!!」

「元カノだ………もう死んだ」

 

 いや、と嘲笑を浮かべる柊。

 半月程度の付き合いだが、それは悲しい顔を隠す時の顔だとヘスティアは知っている。

 

「俺が殺した。なにせ盛大に俺を、人類を騙してくれやがったからな」

「………………」

「本人は騙していた気はなかったんだったか? 確か、その時までは忘れてたらしいからな」

「ごめんね………辛い事、思い出させた」

 

 ソファーに寝転んでいた柊を、そっと抱きしめるヘスティア。

 

「君は、今なにか欲しいものがあるかい?」

「酒と飯と女」

「台無しだよ!?」

「どうせまともに眠れねえなら、他の2つで楽しむしかねぇからなぁ………死ねねえし」

 

 死ねば大切な記憶に何も感じなくなる。それは、ある意味では幸せなのかもしれないが、ある意味では何よりも辛い事だ。

 

「ううむ………やはり呪いを…………!」

「解こうとしたら解く前に神界に送り返すぞ」

 

 頭を破壊すれば再生して神の力を使う前に天界に戻るだろ、多分。

 そもそも神は地上で力を使えぬわけではない。使えないように縛っているのだ。

 頑張れば神界に帰るまでの一瞬でオラリオを更地に出来なくもないが、その場合他の神々が抑止力気取りでなかったことにするだろう。

 

「僕、無力かい?」

 

 寝転がる柊の胸に乗りながら涙目で見つめてくるヘスティア。

 

「神は地上じゃ無力だろ」

 

 

 

 

 

◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆

 

 

 

 【ロキ・ファミリア】本拠(ホーム)『黄昏の館』。訓練場で、荒れ狂う獣が一匹。

 

「ルアアアアアアア!!」

 

 石畳を踏み砕き、音を置き去りに嵐の如き暴力を目の前の相手にぶつける。

 

「ぬぅ………ふん!!」

 

 スキルにより加速したベートの猛攻を、地面を踏み砕き足場を崩すという力技で止め隙を晒したベートを殴りつけるのはガレス・ランドロック。

 Lv.6の中でも特にパワーの秀でたガレスの拳に吹き飛ばされたベートは、ふらつきながら立ち上がる。

 

「やめじゃやめじゃベート。過度な鍛錬は体を傷つけるだけじゃぞ?」

「関係、ねえよ…………続きだ、ジジイ!」

 

 Lv.5のベートを気絶させるつもりでは放った一撃。吹き飛び砲弾と化したベートが壁を崩すほどの威力。

 相応にダメージが蓄積されているだろうに………良くやる。

 

「昨日の男が気に入らぬのは解るがのぉ………まあ結構的を射ておったし」

「的を射てたまるかよ!!」

 

 ガレスの言葉に、ベートは叫ぶ。

 ベート・ローガはあの男を認められない。

 

「あれだけの力を持ちながら、あれだけの強さを手にしながら、彼奴は諦めろって言いやがったんだぞ!!」

 

 ベートがどれだけ強くなろうと、守れないものは存在する。そんなものは嫌というほど知っている。

 だから遠ざける。罵って、嘲って、嗤って、傷付けて。弱い奴は逃げ出す。強くなれる奴は、立ち上がる。

 

「誰も彼も死なねえなんて無理なのは解ってんだよ! だったら、死なねえよう雑魚を追い出しゃいい! カスじゃねえ雑魚の尻を蹴り上げりゃいい! 何もしねえくせに、守りたいやつだけ抱えて他が邪魔なら自分で殺せだと!? 勝手にてめぇの諦念を押し付けてんじゃねえよ!!」

 

 口の中を切り、唾に混じって血を飛ばす。

 

「何で誰も哭かねえようにしようとしねぇ!?」

「そりゃあお前さん…………儂に叫ばれても知らん。儂はあの男じゃないからな」

「………………」

「だが、そうじゃなあ………お主の叫びは、自分に向けたもののようじゃから儂も儂自身の言葉で応えよう」

 

 ようは、あの叫びがあの男に向けての言葉だったら応えなかったのだろう。

 

「あの男がお前さんのようにしないのは、あの男がお前さんではないからじゃ………」

「…………知ってんだよ、んなこと」

 

 ベート・ローガは知らない。彼の過去に何があったのかを………。導けば誰もが強くなれると信じていたあの時間をベートが最愛の女を失い捨てたように、あの男もまた守ることを諦めるような何かがあったのだ。

 

「だがムカつくんだよ!」

 

 似ているから、助言した? 莫迦を言うな、あれは自分に言い聞かせるためだ。自分に言い聞かせるために人を利用しやがって!

 

「…………!」

 

 と、ベートの体が魔力に包まれ傷が癒えていく。ベートが振り返ると、そこには眼鏡をかけた少女……リーネが居た。

 

「勝手なことをして、ごめんなさい………でも………私、その………貴方を癒やしたくて」

「…………チッ。まあいい………おいジジイ、俺はまだ戦えるぞ」

「あ、うむ………ところでベート………リーネの後ろ」

「あぁ? ……………あ゙」

 

 よくよく見ると、リーネの後ろに【ロキ・ファミリア】の面々が居た。

 

「ベートさん、自分感動したっす!」「まさかそんな理由があったなんて………」「『何で誰も哭かねえようにしようとしねえ!』痺れました!」「これが神様の言う萌えなんですね!」「ツンデレ!」「ツンデレだ!」「ツンデレベートさんチーッス!!」

「てめぇらああああああ!!」

 

 

 

 

 

「………悲鳴?」

 

 遠くから聞こえる悲鳴にピクリと反応する柊。結構な人数が悲鳴を上げているようだが……まあ良いか、と興味をなくす。

 

「で? 酔っ払い共がなんのようだ」

「………【凶狼(ヴァナルガンド)】を一蹴した君に興味がある」「何者だ君は」「何が目的でこのタイミングでオラリオにきた」「いや、良い。酒を酌み交わしたいと思っているのさ」

 

 老若男女、正気を失ったメッセンジャー共がワインボトルを持ちながら路地裏を歩いていた柊を囲んでいた。

 香しいその匂いは、或いは神ですら誘惑するだろう。

 

「酒、ねえ………なるほどこりゃ美味い」

 

 適当に一つ奪い取り、ボトル一本飲み干す。そして、笑みを浮かべ二本目を持ち寄ってきた子供を見る。

 

「いくらでも渡そう」「その力を我等に貸してくれるなら」「何、君は好きに動き、少し周りの目を集めて──」

 

 グシャッとワインボトルが子供の頭蓋を砕く。脳漿が飛び散り、力なく倒れる体。周りの連中は、固まる。

 ワインを飲んだ後取る行動に対して命じられていたことに、このような状況を想定していなかったのだろう。正気を失い酒の魔力に取り憑かれた者達は、ただただエラーが起きたパソコンのようにフリーズする。

 

「生憎煙草の方が美味いんでな………」

 

 すう、と煙を吸い、吐き出す。

 二度と正気に戻れぬ程に酔い潰れた者達に目を細め…………

 

 

 

 

「あ、おかえりなさい柊さん。今日もダンジョンですか?」

「ああ、換金頼む」

 

 ミイシャに魔石やドロップアイテムを換金させる柊。ミイシャはふと、彼がワインボトルを持っていることに気付く。

 

「珍しいですね、柊さんがダンジョンからギルドに来る途中でお酒飲んでるなんて」

「ああ、絡んできた酔っ払い共から奪った」

「ええ…………」

 

 


 

 

柊の元カノ

堕ちた怪物達を狩り尽くし彼等を終わらせた後人類を滅ぼそうとした。

植物がある限り神性を失わぬので、知性体無き世界を作ろうとしていた。その正体は………まあ解るか

 

 

柊に誰よりも恋して(恨んで)愛して(憎んで)彼の幸せを祈っている(呪っている)。女の子って複雑ね

 

 

 

柊の仲間達

柊を追い詰めた世界を滅ぼそうとは思わないけど、柊がそれで少しは救われるなら邪魔はしない。

彼等がやめてくれ、家族を殺さないでくれ、よくも家族を、とでも罵ってくれたら、止まれていたかもしれない。

その場合自殺してただろうけど

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