帰還に失敗した堕ちた英雄がオラリオに行くのは間違っているだろうか? 作:匿名希望
「ありゃあ、羅宇に亀裂が走ってやすぜ………別嬪さんを乱暴に扱うたぁ色男が過ぎますねぇ」
「優しく扱ってるつもりだっだが、寝台の近くに置いちまって飛び起きた際にな」
「へぇ、こんな煙吸いながら、夢見が悪いことあるんですねぇ。いえ、こんな煙吸うからですかい?」
「わかるのか?」
「長く扱ってるもんで」
商会系ファミリアである【カヤノヒメ・ファミリア】の極東から来た
「ま、雁首と吸口は無事ですねぇ。頑丈だ………羅宇の交換だけで十分でしょう。掃除もついでにしていきます。初回のサービスだ」
「悪いな…」
「羅宇はどれにいたしやす? 竹は勿論、黒檀やダンジョン産もありやすが」
「おすすめで頼む」
「…………商人相手にそりゃあ悪手ですぜ、旦那」
「今まで一つの種類しか吸ってこなかったからなぁ。金ならある、何なら利用するごとに高いのから買ってやっても良い。今は、職人に任せる」
「口が上手いお方だ、職人と言われちゃあ商人としてのおすすめを売るわけにもいかねぇや」
引き出しを開き、中の羅宇を見せてくる。
「色はいかがいたしやす?」
「………紫」
「りょうかいです」
煙管を分解して、吸口と雁首のヤニを綺麗にしていく。新しい羅宇の長さを整え付け直す。
火をつけ、煙を吸う。
「美味い………」
「へへ、何分職人なもんで」
「そうか……お代だ」
柊は金を払いその場から去っていった。
煙を吸い、吐き出す。
常人なら直接吸えば天国まで意識がすっとび、そのまま本当に天国に行きかねない劇薬。人の吐息と混ざると著しく効果が落ちる安心設計。
因みに作ったのは金食い豚の二つ名をもつエルフ。
「さて、どうするか…………」
予定外の出費。
「一先金稼ぎが………」
「あ! 柊さん!」
「ああ?」
と、聞こえた声に振り返ると鈍色の髪を持つ女が駆け寄ってきた。
「ちょうど良かった! 会いたかったんです!」
「…………はあ?」
「荷物持ちかよ」
「違います。デートですよ、で、え、と!」
シル・フローヴァに誘われるままついていけば、荷物を持たされる。デートなどと嘯きながら、買っているのは明らかに店で使うものばかり。
「他の男を同伴させながらするデートなんざ聞いたこともねえ」
「う〜ん。皆心配性ですからね〜………でも私が頼んだわけじゃないですし、この際あの人達はストーカーということにしておきましょう!」
「……………いい性格をしている」
「えへへ、照れますね」
などと嘯く街娘に、柊は胡乱げな目を向け煙を吸い込む。
「極東の………煙管、でしたっけ? 甘い匂いがしますね」
「直接吸うなよ? 劇薬だからな」
「柊さんは普通に吸ってるじゃないですか」
「俺に毒の類は効かねえよ。都合の良い効能だけ受け入れるんだ」
「へ〜。あ、耐異常ですか? あら、でもLv.1の筈じゃ………」
「探るな鬱陶しい」
「えへへ、ごめんなさ〜い」
敵意はない。感じるのは情愛の類と………微かな期待。何を勝手に期待しているのか、と若干苛立ちを覚えるも少なくとも英雄に向ける類ではないので放っておく。
「柊さんは、オラリオに来る前はどんなふうに過ごしてたんですか?」
「ベルと一緒に暮らしていた」
「極東で?」
「故郷から無理矢理誘拐されて後は色々あってベルに会った」
「う〜ん………色々を聞いてみたいですけど、やめておきますね」
そういったことを聞けるほど深い関係でもないし。そう引き下がるシルに賢明だな、と返す柊。
「柊さんは故郷に恋人がいなかったんですか? そのままベルさんについてくるぐらいですし」
「故郷には居なかったな」
「つまり恋人自体はいた、と。どんな人でした? やっぱり顔も性格もいいんですか?」
「顔はお前の方がいいな」
「う………え? そ、そこはお前よりじゃないんですか?」
突然の不意打ちに赤くなるシルに興味なさそうに視線も向けず立ち上る煙に目を向ける柊。赤くなっていたシルもその態度にムッと頬をふくらませる。
「
「顔は良かったんですね」
「ああ、先日あった緑の髪したエルフよりはな」
「それもそれで俺の恋人は目茶苦茶可愛いと言ってるようなものの気が………」
少なくとも女神にも嫉妬されると言われるエルフの女王より上という当たり相当綺麗だと思っていたのだろう。
「性格………性格はなぁ…………」
少なくとも告白された瞬間間髪入れず断る程度には……まあ結局付き合ったのだが……。
『私に惚れる相手なんて、容姿しか見てないから付き合ったとしてもすぐに逃げ出すでしょう。私のほうが捨てたいのに捨てられたなんて噂を流されても困りますから付き合わないのです』
彼女自身も自分の性格の悪さは自覚していた。
仲間達も『性格を代価に容姿を与えられた』とか言う程度には、性格が捻子曲がっていた。
それでも皆、戦うわけでもない彼女が旅についてくることを拒否しない程度には、彼女を気に入っていた。
「………どういう方なんですか、その人」
「小説家………孤児院出身でありながら、人の孤独心を良く刺激する文でかなり売れていたな」
ある日突然人の顔が見えなくなり、死に顔だけ人の顔を見れる男の話。
夫に蔑ろにされ、私を見てと言えば英雄に救われた者達に石を投げられた英雄の妻の話。
毎日夜になると虫の一生を夢に見る女の話。
言葉の通じぬ二足歩行の動物の群れの中で生きる動物の話。
音も聞こえず目も見えず、ただただ周りの仲間が死んでいくのを感じるだけの………植物の話。
色々と考えさせられる話を書くのが上手かった。今度は英雄譚を書きたいから、同行させてくれ。足手まといにはならないとも言ってついてきたのだったか……。
語りも得意で怖い話で魔法使いを泣かせたり恋愛話で聖女を赤くさせたり………。
「あと、そうだな………祭りが好きだったな」
男も女も子供も大人も楽しむ祭りの日は、何処か懐かしそうな顔をして笑うのだった。
「お祭りですか。そう言えばそろそろオラリオでもお祭りがありますね」
「フィリア祭か………そうだな。楽しむのも、悪くないだろ」
◆◇○◇◆◇○◇◆◇○◇◆
地上にてモンスターを
その当日に、モンスターが逃げ出した。
「…………はぁ」
ハエトリグサのような頭部の中央に歯茎を持つ異形の植物型モンスター。それだけなら、まだいい。モスヒュージとかもいるし………。
問題は、それが明らかに誰かの意思で作られ操られているということ。どうしたって彼女を思い出す。つい苛立って、やりすぎてしまった。
「おいお前ら、これに見覚えは?」
「な、ないけど………」
「そうか」
今このオラリオでダンジョンに一番深くまで挑む【ロキ・ファミリア】でも知らぬモンスター。自然発生ではない、植物型。
「…………チッ」
イライラする。具体的には何を、とは言えないが胸の奥にたまるわだかまり………。
「ちょっと、何処行くのよ?」
モンスターの死体から飛び降り歩き出す柊に髪の長いアマゾネスが問い掛ける。
「………ダンジョン」
理由? ただのストレス発散だ。
「これって、あなたの魔法?」
「道具の力だ」
そう言って枯れた木のような、干からびた腕のような戦鎚をしまうとそのまま歩き去ってしまう。
「道具………魔道具? 魔道具って、長文詠唱みたいなこと出来たっけ?」
髪の短いアマゾネスが見上げるのは、結晶の塔。バベルほどではないがまわりの家屋より遥かに高い巨大な塔だ。
戦鎚で地面を叩いた瞬間地面が一瞬泥になったかと思えば泥の槍がモンスターを貫きそのまま結晶となり硬化した。
その規模たるや。やもすればリヴェリアの魔法に匹敵するかもしれない。
元の世界を気にしている人が多かったので説明すると、異世界原住民は知性を得るために神々から神性を分け与えられ進化した存在である意味では神の子とも言えなくもない。
ただし大本を失ったので神性は失われ、知性こそ失わなかったものの魔法や奇跡を緩やかに失い、数年後に起こる神性を失っていたとは言え生きていた神を失ったことによる世界の再編で5割以上が死ぬ。その後改めて人の時代を歩み始める。
もう彼等は自分達だけの力で歩むのだ。
周辺国に関しては人道とか正義とか言って邪魔した奴等は殺されたけど最終的に一番大きく、一番力を持っていた国が他所の世界に責任を押し付けたせいだからとその国を守ることをやめた。
元カノの幼馴染
元カノ曰くずっと一緒にいるからって知った気になり本質を見ようとしなかった男。彼は柊のせいで彼女は死んだと言っていたけど、元カノは彼を孤児院に住んでるなぁ程度にしか思ってなかったよ。
柊の吸ってる煙
常人が使えば廃人待ったなしの劇薬。元の煙管の持ち主の娼婦が使っていた薬に加え、魔族や落ちた怪物の死骸を金食い豚が混ぜ合わせて作った香の煙を再現している。
アミッドが知ったらブチギレるレベルで体に悪いしミアハも最初は止めようとしたが柊の精神面を見てなるべく吸いすぎないよう忠告した。
因みにミアハは薬草を生み出す事に特化した神なので体に害がない煙を作ろうとして柊に止められた。
柊の中ではまあ話を聞いてやるかという評価になった。
次回は少しだけ時間を戻して怪物祭から