三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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忘れモノ ⑥

 歓喜、羞恥、困惑、焦燥、今の俺の心理状態はそんな感じだ。

 朝に出会って名前すら聞かずに別れた恋の相手、そんな彼女と思わぬ再会を果たしたんだ。

 

 これで運命かと舞い上がれたら良かったんだが……。

 

「今朝は名乗らずに失礼してしまったね。可能なら許して欲しいな」

 

「い、いや、俺も同じだったし……」

 

 俺の肩に気安い感じで触れる手、息が時折掛かる距離に彼女が居て、まるで友人みたいに肩を寄せ合う。

 時々胸が当たってるんだが……。

 

 三人が余裕を持って座れる広さの座席で俺と彼女は隣り合って座り、その近さで感じる感触や匂いに俺の胸は高鳴った。

 顔なんて熱いし、多分真っ赤になっていて、心臓も今まで妖魔との戦いで経験した事がない程に高鳴っている。

 

 幾ら暗くても赤面しているのが見えないとは思わないし、抱き付くとまでは行かなくても触れてくっ付いているのに高鳴る鼓動に気が付かない筈も無い。

 

 

「じゃあ、今からしよう。小姫、伊弉諾小姫(いざなき こひめ)さ。小姫と呼んでくれたら嬉しいな」

 

「お、俺は武尊大和(たける やまと)だ。好きに呼んでくれ……」

 

 手を差し出されたから差し出し返したら、小さくて柔らかい指が俺の手に絡み付く様に握られる。

 余計にドキドキが止まらないんだが、同時に頭に浮かんだのは高校入試の合格祝いだってアメリカのは伯父さんの豪邸に呼ばれた時の会話だ。

 

 

 

 

 

「HAHAHA! 俺様やアンジーは金持ちだからお前も近付く相手には注意しろよ? 利用しようと近付いて来る奴は沢山居るからな!」

 

「仲良くなった後で伯父さん達を紹介してくれって頼まれるとか?」

 

 伯父さんはいわゆる成り上がり、アメリカンドリームを掴んで一代で大企業を起こした人だし、ちゃらんぽらんな部分も有るけれど苦労だって沢山しているから言葉にも重みがある。

 だから今も会話を直ぐに思い出せたんだろうな。

 

 

「ちょっと足りねえな。今挙げた例はマトモ寄りの連中で、圧倒的に多いのはそうじゃない連中だな。ニコニコ笑いながら寄って来て取り込んで、逆らえなくなってから利用してくる」

 

 ハニートラップとかな、とゲラゲラ笑うが俺にはピンって来なかったんだよな。今まで色仕掛けとか受けた事無いし。

 そんな俺の困惑する姿が面白かったんだろう伯父さんは大きな手で俺の頭をグシャグシャと雑に撫でて来る。

 

 俺も大きいが伯父さんはアメリカ人の中でも更に大柄でマッチョだ。そんな人が割りと手加減無しで頭を撫でて来るんだから首がもげるかとさえ思う中、不意にスマホの画面が目の前に差し出される。

 再生されていた動画には金髪美人の姿、ダイナマイトバディを隠す事無く晒して自分の胸やら大切な部分を弄ってるんだが、それを隠す為の画像処理は一切無しだ。

 

 

「……」

 

「真っ赤になって顔を逸らすとか可愛い反応だな、おい! まあ、大和も年頃になったって事だし、今後は注意しろってこった。因みにこいつは俺様の彼女の一人で高級コールガールだ。セクシーな動画を送ってくれって頼んだらこれをくれてな。他の動画もあるが送ってやろうか?」

 

「……要らない」

 

「遠慮するなって。何なら耐性付ける為に中学卒業のついでに童貞も卒業しちまおうぜ。大丈夫、ちゃんと警察沙汰にはならない様にしてやるし、お前の好きな巨乳揃いだ。何なら同時に二人にしてもらっても良いんだし、今から一緒に行こうぜ! アンジーに知られたら怖いし絶対秘密な」

 

「伯父さん」

 

「ん? 後ろ? 後ろに……げげっ!?」

 

 俺が指差した先、其処に居たのは笑顔を浮かべ手招きをする母さんの姿。尚、眼は笑っていなかった。

 

 

 まあ、伯父さんのアドバイスが間違っているとは思わないし、周囲も関わるから心に刻んだよ。

 

 母さんを絶対に怒らせるなって事と一緒にな。

 

 

 

 

 だからだろうか、恋した相手が親しげに接してくれる嬉しさが……五%減なのは。

 

 いや、ほら、人によって他人との接し方は別々だし、俺だって実際にこの子に惚れている身だ。親しみをもって接して来るからって疑うのも嫌だし……。

 

 

「しかし君って随分と鍛えているね。それも魅せる為じゃなくて使う為の筋肉だ。私は女の子だし、この通りに小柄だしさ」

 

「そうか……」

 

 これから向かう先で聞かされるであろう妖魔関連の事件の事、情報源が必要な相手とはどんな奴なのか、厳しい戦いになるのか、それらについて頭の中で巡らせて気を紛らせようとするんだが、細い指が服の上から体に触れる度に、可愛らしい声が聞こえる度に意識が全部持って行かれちまう。

 

 ……うん、正直に認める。例えこれが何かの企みがあっての態度だとしても俺は嬉しい。伯父さんの忠告って殆ど意味が無かったな。

 

 

 

「所で今から向かうのってどんな所なんだい?」

 

「どんな……所……」

 

 あっ、うん、零課の支部がどんな所なのか知らないのか……。

 

「そうだな……」

 

 俺は知っている。だからどんな所なのか言えるんだが、別の意味で言える筈が無いんだよなあ……。

 

「どうしたんだい?」

 

 言い淀む俺の姿を見て、小首を傾げる彼女の姿に心臓がドキリと跳ね上がる。その理由は余りにも彼女が魅力的だったから。 

 可愛い、綺麗、妖艶、美しい、クール、愛嬌がある、俺が知る言葉じゃ目の前の彼女の魅力を言い表せ切れない。

 

 誰かを手に入れたい、そんな欲望が俺の中で生まれる感覚を初めて覚えた。

 肉欲じゃなく、とは言えない。彼女にはそんな魅力があったからな。

 

 

 だからこそ、言えるかぁあああああああああああああっ! だって、だって支部が何処に在るかって……。

 

「……ラブホテル」

 

 車内に響いたのは倉持さんの気まずそうな呟き。決して大きい声じゃなく、寧ろ耳を傾けていないと聞こえない大きさだ。

 それでも聞こえたその声だが、小姫は驚いた声をあげたりしなかった。俺の時は情けない大声で驚いたってのに、余裕綽々な態度を一切崩す事が無く、逆に……。

 

 

 

 

 

 

「おや、気が利くね。丁度良いし今言おう。……君が欲しい。私のものになってくれないかい?」

 

 体を密着させて耳元に息を吹き掛けながらの囁き。その顔は……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと、無理しない方が……」

 

 囁いた途端に余裕の仮面が剥がれて真っ赤な顔をした彼女は羞恥からか震えながら俯いている。何と言うべきか、取り敢えず可愛いな。

 

 

 

「可愛いな」

 

 あっ、口に出しちまったが、まあ、本心だから別に良いだろ。

 

 

 

 

 

「何か勘違いしているみたいだけれど、市街地に建っていても不思議じゃなく、コソコソ入っても目撃者に不審に思われず、それで一定以上のスペースを確保するとかの理由からの偽装だからね? 普通のオフィスとか謎の建物だと弊害があってさ」

 

 何やら誤解をしている小姫に倉持さんが説明するが、目の前に現れたのがネオンが派手な建物では説得力が無いよな。

 

 七色に光るネオンは目に痛く、手広く好みを広げる目的があったのか中央は日本の城風で、左右はそれぞれアラビア風と西洋風で構成されていた。そしてホテル名は『ラブラブハートキャッスルズ』。

 少し市街地寄りに在る同様のホテルよりも割高な値段を電光掲示板で流し続けるこのホテルこそがこの地域一帯を妖魔から守護する秘密組織の本拠地なんだ。

 

「いや、此処が支部になってる理由は説明を聞いて理解はしたのだけれど、私を騙して連れ込みさえすれば後はどうとでもなる……とか思っていないよね?」

 

「気持ちは分かる。何か女の子を連れ込むにはアレな場所だからな」

 

「……未成年二人を車に乗せて行く俺が一番それを感じているからね? えっと、今は誰も居ないか」

 

 三人して少し気乗りしない雰囲気で敷地内に入れば、カーナビが自動で駐車場や建物のロビー付近のカメラの画像を映し出す。

 零課の関係者以外が全くは入って来ないのはラブホテルという偽造上難しいので時々物好きや通常のラブホ以上に人目を忍びたいカップルが利用するらしいんだが、今日は一般客は居ないらしい。

 

 そのまま地下駐車場に進入して、スタッフ用の入口から中に入り、飾りっ気の無い通路やラブホの業務担当(事情を知っているだけの人が多いらしい)の休憩部屋の前を通り抜ける。従業員用エレベーターで一般客が部屋を取れない会員専用フロアへと向かうと其処には……。

 

「いや、どう見てもホテルの内装じゃないかい? ラブホとかドラマでしか知らないけど、どう見ても特殊部隊の基地って感じじゃないんだけれど。……先に言っておくと私は君達より遥かに強いし、何かあれば実家が嗅ぎ付けて報復をしてくる……と思うよ」

 

 ヤバイ、俺が初めて此処に来た時と同様に完全に疑われているぞ。

 

 目の前に広がるのはド派手な装飾やハートを散りばめた模様の壁や扉。扉には番号札が張られているし、どう見ても化け物と戦う為の基地とは思えないだろう。一見してそう思える方が頭がおかしいだろうな、うん。

 

 小姫なんて完全に疑いの眼差しを向けて指先に絡めた糸と針に霊力を込めて宙に浮かしているし、最後の方は少し言葉尻が弱まった気がするが、それでも俺達より強いのは本当だろう。

 

 

「霊力の放出量が……」

 

「まあ、これでも退魔士の名門一族の出身なんだ。この程度は当然さ」

 

 俺が一度に使えるの量の数倍、いや、十数倍の量が糸と針に注がれているし、更にその霊力を身体強化に回せば俺も倉持さんも瞬殺される。

 生殺与奪の権利を完全に握られる中、緊張した俺の耳に届いたのは扉が勢い良く開き……そのまま蝶番を破壊して向かいの扉に破片が突き刺さる音だった。

 

 それを成したのは部屋の中から突き出した細腕。掌底突きの構えだが、その腕には一切の霊力が込められてはいない。

 扉は防音の為に分厚く頑丈に作られた物だが、それを完全な力と技のみで成し遂げた人が慌てた様子で部屋から飛び出して来た。

 

 

「戦いの気配がしましたけれど大丈夫です、か……」

 

 そして現状を把握、敵らしき相手は目の前に居らず、俺達も臨戦態勢ではない。

 

 

 

「えっと、もしや私、またやらかしてしまいました? 今朝に引き続きまたしても……」

 

 分厚い扉がバラバラになって正面の扉や壁に突き刺さって幾つかの破片は扉を貫通して床に刺さっているし、やらかしとしか言えない。

 

 

「また始末書でしょうね、支部長」

 

「そ、そうですよね? 今朝もハンドルを握り潰しちゃったバイクの件で怒られたばかりなのに、また徹夜しなくちゃいけないのかぁ……」

 

 今にも気落ちから崩れ落ちそうな姿を見せる公安全然課支部長こと勇さん。

 その姿に俺は強く思ったが

 

 

 

「何度かスカウトされたけど、絶対に零課には入りたくねぇな」

 

 公務員になったら強制的に部署替えになるだろうし、就職先はしっかり考えないとな。

 

「え? いや、入ってよ。お給料は良いし、君みたいにフリーの退魔士は貴重だから各種手当は豊富だよ? 問題は使う暇が無いほどに忙しいけれど老後の資金にはバッチリさ」

 

 倉持さん、最後に小声で呟いたのは聞こえてるから。

 “過労で早死にしかねないけど”って不吉な言葉をなぁ!

 

 

 

 

 

「ねぇ、彼女って霊力使わずにあの扉をぶち破ったけど何者なんだい?」

 

 俺がこの世の闇に正面から遭遇する中、小姫が視線を向けたのは人間離れした力で破壊された扉だ。

 心底信じられないって様子で扉と勇さんを交互に見ている。

 

「何者かって聞かれても、古武術の道場主の祖父をもつ、強い人としか」

 

 気持ちは分かる。霊力で身体強化をしているからこそ分かるんだよ、勇さんの無茶苦茶っぷりは。

 

 あの人、鉄パイプを手刀で綺麗に切断するからな。

 小学生の時にそれを見て、俺も鍛えていけば可能だって思ってたんだが、今じゃ勘違いだとハッキリ分かる。

 

 

 

「あの人は勇さんってジャンルの存在だと思った方が楽だぜ?」

 

「……成る程。色々と察したよ。……じゃあ、さっさと話し合いに行こうか。観たいテレビがあるのに録画出来な……録画し忘れたから早く帰りたいんだ」

 

 小姫は考えるのを止めた。それが正しいと俺も思う。

 バイクを背負ってバイクよりも速く走れる人をどう説明すべきなのか俺だって困るからな。

 

 

 

 

 

 

 

「あははは、確かに勘違いしちゃいますよね。内装だって他のフロアと変わりませんからね」

 

 壊れた扉を見なかった事にして入った一室、パソコンやらの機材や資料の山が所狭しと置かれた部屋は大きいベッドやガラス張りのシャワー室といったラブホに抱くだろうイメージそのままだ。

 

「幾ら公的組織の施設でも表向きじゃないし、消防局とかの監査もあるらしいからな。俺も初めて連れて来られた時は共通の知り合いに助けを求めるか迷ったし」

 

 何か”良い場所に連れて行ってあげます”とか言われて、前日寝るのが遅かったから寝てしまった俺が目覚めた時に居たのはラブホの駐車場。

 勇さんはそのまま平然と中に連れ込もうとしたし……。

 

 しかも、当時の俺は中学生。

 

「そ、その話はもう勘弁して下さい!? ちゃんと説明するの忘れて連れて来た私が全面的に悪いとして……今はこの資料に目を通して下さい」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 差し出された資料を目にすれば数人の顔写真と詳しい個人情報が載っているんだが、どうも子供が多い印象だ。

 

「小学生が多いな……」

 

「ええ、大和君が手にした資料に載っている少年ですが、2シリーズ前の戦隊ヒーローのロボットの玩具に連れ去られました」

 

「ロボットの玩具? いや、確かに強い感情を込められた物が妖魔になったりするけれど、ロボットの玩具?」

 

 妖魔になるなんて、強い霊力を持つ持ち主が悲惨な死を迎えでもしたか、中身に強い妖魔でも封じ込められでもしたのかと思った時だ。

 テーブルに一枚のコピー用紙が置かれる。

 

 印刷されていたのは古い資料のカラーコピー、くらげ傘って感じの妖魔が人に覆い被さる絵だった。

 

 

 

 

「伊弉諾家ではこう呼んでいるよ。中位妖魔『雨宿り』。一連の誘拐事件にはこの妖魔が絡んでいるんだろうさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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