三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

103 / 110
蜂に追われて虎穴に入る

プレオープン早々にトラブルが起きるだなんて今度も事業は失敗に終わりそうだ。幾ら何でも幸先が悪過ぎる。

 

 彼奴相手に叫んだからか少し乾いた喉を潤す為に飲み物を買った直後に起きた停電。乗り物の多くが動きを止めて発電施設では今頃大騒ぎで復旧作業に当たっている光景が目に浮かぶ様だ。

 

 貸しておくだけで結構な額になる一等地や何処にしまってあったのか不明な大量の金塊やらを売却した結果がこれか、と将来義父になる叔父に対して心の中で嘲笑する。

 

 ああ、家がおかしくなったのは何時からだろう? 病気の影響で子供を作れなくなった叔父が事業に熱意を注いで失敗を続けた頃から? 事業資金と負債の穴埋めに先祖代々の財産を処分して影響力が薄れ始めた時から? 負債の穴埋めに土地やらを買い取るのが父様が殆どで、実質的に財産は減っていないと叔父が反省の欠片も無いから?

 

 その父様がアメリカ人ってだけで未だに結婚を認めたくないって嫌味を言う上に僕を養子にするのを強引に決定する迄になったから?

 

 昔から続く名家。華族の末裔。一体何時までそんな事を言っているんだか。もう内情はボロボロだって外にはバレているってのに。

 

 でも、一番の理由には心当たりがある。僕だけが認識している存在、あの化け物が突然家に現れた事だ。

 きっと彼奴が家の皆に何かしたんだろう。

 

「どうかしたの? さっきから怖い顔をしているわ」

 

 停電によって音楽も乗り物が動く音も消えた中、随分な時間を考え事に使っていたんだろう。不意に心配する声が掛かった方を見れば少し不安そうな表情が僕に向けられていた。

 

 ……何をやっているんだ、僕は。今はせっかく彼女と一緒に居るってのに不安にさせてどうする。

 

「ああ、悪い。折角遊びに来たのにこんな事になって不満だったんだ」

 

「ええ、驚きだわ。でも、一緒にお散歩するだけでも楽しいわよ?」

 

 飛野恵麻(ひの えま)、招待されたパーティで出会った同年代の女の子。髪の毛こそ彼奴と同じ銀髪だけれども、こっちは見ていて安心出来る。

 僕の言葉に純粋な笑顔を向けてくれる姿を見れば胸が高鳴った。

 

 

 うん、あの女が鬱陶しく言って来たが、僕は此奴が好きだ。出会ったばかりだから遠回しに伝えた事はあるけれど、多分ちゃんと伝わってないな。

 

 likeとloveで認識の行き違いが起きている気がするんだ。

 

「じゃあ、このまま此処に居ても仕方が無いから景色の良い所にでも行こうか。ほら、逸れたら困るから……」

 

「ふふふ。エスコートよろしくね。こんなデートも貴重で楽しいわ」

 

「お前のそういった所は素直に好きだと言えるな。まあ、招待した身としたら楽しんでもらえて嬉しい」

 

 手を差し出せば躊躇せずに握り返される。これ、向こうも僕を意識しているからだったら嬉しいけれど、友達としてしか意識していないから恥ずかしがらずに手を握り返してくれただけの気もするんだ。

 

「……連絡は無しか」

 

 一瞬だけスマホの画面を確認すると直ぐにポケットに入れる。その一瞬の後、緊張で鼓動が高鳴り手に汗が滲むのを感じた。

 

 駄目だ、動揺を悟られるな。僕だけじゃなく恵麻にも関わるんだぞ。不自然に見えない程度に足を早め、好きな子とのデートを楽しんでいるだけを装う。

 

  そうだ、悟られるな。気が付いている事に気が付かれるんじゃない。ジェットコースターに向けた画面に映るアレを意識するな。

 

 人間の足と同じ形の足を持っていて額から人間の顔を生やした化け物なんて僕は知らないし見えていない。

 

 アレはそういった対処をすべき相手だと本能が告げる。もし僕だけだったら脇目も振らずに逃げていただろうけれど、隣りに居る恵麻を守るべきという使命感が勇気をくれた。

 

 カサカサと虫が這い回る音は少しずつ遠ざかって行き、曲り角を何度か曲がってジェットコースターから完全に離れた所で一度立ち止まる。

 

「ふぅ」

 

 潤したばかりの喉は緊張でカラカラに乾いているけれど、あの化け物からは完全に離れられた安堵感から息を吐き出す。

 多分危険からは遠ざかっただろうし、今は恵麻を楽しませる事を考えよう。停電でさえなければ見て回るコースを考えていたのに。

 

 

 さてと、停電でも楽しめそうなスポットは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無視だなんて酷いな、お前

 

「え?」

 

 園内マップに視線を向けた瞬間、耳元で囁く様な声が聞こえた。成人しているかしていないかって年頃の男の声。

 不満そうな事を言いつつも声色は楽しそうで、思わずスマホを取り出して間接的に背後を見るけれど特に変わった物は映り込んでは居なかったんだ。

 

 気のせい? そう思いたい……。

 

「取り敢えず動物との触れ合いコーナーに行くか? 小学校の飼育小屋風のがあるんだ。野外だし停電でも大丈夫だろうしな」

 

「ウサギさん居るかしら!」

 

「確かウサギやハムスターにポニーが居て、小さめの水族館じゃペンギンショーもやっていた筈だ。停電じゃなければ行ったのにな」

 

 耳にへばり付く様な声はもう聞こえず、それでも声が聞こえた場所に居続けるのには抵抗があって少しでも遠くに行こうと地図に目をやり、自然な流れで遠ざかれる場所を目指そう.。

 

 

 恵麻も行きたがっているし、向こうで過ごしていれば停電だって解消されるだろうさ、うん。

 

 再び直ぐ後ろから声が聞こえた。咄嗟に後ろを向くけれど誰も居ない。正確に言うならば恵麻以外の誰もが居なくなっていた。

 プレオープンという事でごった返す程の客は居なくたって従業員や疎らだけれども他の客は確かに居たのにだ。

 

 一体何が起きた? 皆、何処に行ったんだ? それにあの声は……。

 

 ほら、気が付いてた

 

 っ!? 間違い無い。さっきの奴だ!

 

 気が付いていた事に気が付かれていたと確信した時、全身に悪寒が走った。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いっ!

 

 誰か助け……。

 

「どうかしたの? 皆、急に消えて何処に行ったのかしら?」

 

 僕の手を少し握る

 

「あっ! マジックショーなのね! 正解でしょ?」

 

 少し呑気な感じもしたけれど、その明るい笑顔に僕は救われた。此奴に怖い思いをさせたくない。何が起きているのか全く分からないけれど、僕が守ってやるんだ。

 

 それには天上家の長男とか関係無くって、好きな女の子はちゃんと守らないとだろ?

 

「そうだな。何かイベントがあるって聞いてはいたんだ。続きが何処かで行われる筈だし、園内を探してみよう。先ずはこっちだ」

 

 だから心の中で膨れ上がる“怖い”を押し殺して恵麻と手を繋いだまま進む。

 

 嬲る様に少しずつ少しずつ時間を掛けて近寄って来る化け物から遠ざかる為に。

 

 

 遠回りで撒きつつお化け屋敷に行こう。彼処なら恵麻を隠せる場所がある筈だ!

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。