三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「丸呑みかあ。そーいや例の映画ではどうやって巨大ゴキブリ倒したんやっけか?」
落下先で待ち構える火間虫入道の大口が迫る中、真央は自分でも意外な程に冷静であった。通信が不安定な立体映像の様に消えたり現れたりを視界の先で繰り返している悍ましい怪物に生きたまま飲まれるのは色々な意味でゾッとするのだが、何処かで諦めた様に心は騒がず、指先で残弾数を確認する。
勿論抵抗の為では無い。非常に軟そうなゴキブリの見た目をしていているが相手は妖魔だ。霊力は先程の一発に全て込め、異界内部で鋭敏化した第六感とでも呼ぶべき霊視能力も働かない今の彼が全弾撃ち込んでも蚊が刺す程度にも感じないのだから。
拳銃を落とさない様にしっかりと掴み、銃口を向けたのは自分の額。胃に押し込まれ身動きが出来ずに生きたまま消化されるか収縮する内臓に押し潰されて圧死するか。
何方も嫌だし、そもそも妖魔を相手にする時点で凄惨な死は覚悟している。
戦場に他者を送り出しているのだから自分が巻き込まれる事も覚悟して想定して、遺書ともしもの際に安らかな死を迎える為の想定と準備はしていた。
何かの映画では飲まれかけた状態で無駄に弾を消耗したせいで最後に自分を撃とうとするも弾切れになったシーンを思い出し、自分は残しておいて良かったなどと何処かおかしい気分になりながら引き金に指を掛けた瞬間、実弾ではなく空気の弾が真央の背中に撃ち込まれた。
「待っとったで、大和君!」
それが大和の放った物である事は姉である勇の部下をやっている真央は知っている。大口を開けて待ち構える火間虫入道から弾き飛ばされ離れた彼は空中で即座に体勢を整えて着地する。
巨大ゴッキーに生きたまま飲まれる所だったので、もっと早く来てくれ!、と思わなくはない。体に付着した油はベトベトして気持ち悪いし、先程まで青春真っ盛り……実際は自分の香水の匂いでリーバス地獄であったのだが、喉奥まで出掛けた言葉は飲み込めた。
何度か似た感じの事を口にする犠牲者を見た事はあるが、家族を失った悲しみとか以外でそれを口にする相手はゲボカスなので見捨てて良いのではと思っている。
なので上司の弟の上に危険な任務を任せている少年には言えるはずがないのだ。真央は大人である。
「へっ!?」
それはそうとして真央に追撃を掛けようとした火間虫入道にも数発の貫気が撃ち込まれたら予想以上に紙耐久だったので体液や油や肉片や甲殻その他諸々が振り返った瞬間に頭から浴びせられたのには一言恨み言を向けたかったが、真央は理不尽が嫌いな大人なので顔にも出さない。
腹芸は警察キャリアを目指す過程で既に必要になるのだ。霊力が一定以上あったせいで妖魔対策という出世コース大外れに配属されて日重労働している人の精神は限界が近いが強い!
「……うん、気にすんなや。脆過ぎるゲロカス妖魔が……うん? 頭吹っ飛ばしたのに消えへん?」
頭を吹き飛ばされ断面が見えて余計にグロキモ状態の火間虫入道はべチャリと地面に倒れて内容打つを真央の方に垂れ流しているのだが、通常なら消え始めている死骸が消える様子が無い。
「えっと、ゴキブリについて嫌な情報をネットで見た覚えが……」
「……うん。昔観たネズミと兄弟の闘い描いた映画を思い出すわ」
頭を食われた状態で動き回る姿を描いた映画とか、頭が潰されても死因は餓死だとか、しぶとさの例えで使われるにしても異常過ぎるだろうが、流石に嘘だろ!? な虫であるゴキブリ。
新聞紙で叩けば死ぬ程度? そりゃ全身が潰れちゃうと死ぬに決まってるんだろうが。
そんな訳で頭を吹き飛ばされて倒れた火間虫入道は平然と起き上がる。目も鼻も触覚も吹き飛んでいるから誰が何処にいるのか分かる筈も無いのだが、だからか脚を激しく動かして手当たり次第に攻撃を始めた。
そして、それに呼応する様に周囲から何重にもなりながら聞こえてくる。
「あれか?」
「あれですね」
カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ カサカサカサカサカサカサカサカサカサカサ
ゴキブリ並みの生命力……それ以外にゴキブリに関する言葉で有名な物がある。
「「一匹いたら三十匹ぃーーーー!!!」」
嫌な足音と共に拳大から自動車程度と様々なサイズの火間虫入道が二人に向かって殺到する。巨大ゴキブリの群れを前に大和と真央の全身は鳥肌立ち、負傷した真央に視線を向けた大和は頭を失って尚も暴れる火間虫入道の横をすり抜けて彼を掴むと肩に担ぎ上げた。
「囲まれたら押し寄せられて押し潰されるだけだ。何処か開けた場所に行かなくちゃな」
「あー、うん。見捨てろとか言っても時間の無駄やろうから言わへんけれど手間掛けて悪いなぁ。自分、霊力殆ど使い果たして背後の警戒も出来へんお荷物やけれどよろしく~」
「何か余裕ですね!?」
押し寄せる害虫の津波を前に近くの柵の上に飛び乗るった大和は真央の態度に若干の呆れを覚えつつも正面から迫る個体の背中に貫気を撃ち込んで羽根を潰して後方の障害物にする。
そのまま園内案内の看板に目を向ければ屏風絵風で分かりづらいながら広い場所が見付かった。目玉であるお化け屋敷『旧校舎』近くの水族館前広場だ。
そしてちょうど同じ頃、火間虫入道から逃げていた神示達が旧校舎へと逃げ込んでいた。
「此処は美術館だよな? 確か叔父様が言うには……」
一般客立ち入り禁止のルートに有る抜け道から内部に入れば態々埃と古い木材の匂いを漂わせた薄暗い室内が見えてくる。
窓からは夕暮れ時の映像と共に赤い光が差し込んで室内を照らし、放置された椅子や画材や彫刻が二人が居る場所を美術室であると告げていた。
「取り敢えず渡り廊下を通って向こう側の校舎に行けば地下通路の入口が……」
「きゃあっ!」
化け物に追われた恐怖が冷めやらぬ中でも神示が冷静に行動を考える中、彼に手を引かれていた恵麻が悲鳴を上げて壁に飾られた絵を指差す。
飾られていたのは有名な絵画である『モナリザ』。いや、この場所からして正確には……。
「モナリザが動いたのだわ!」
怯えを浮かべた表情で見詰める先ではモナリザが確かに目を左右に動かし、時折歯を見せて笑みを浮かべる。
怖いのか恵麻が神示の背後に隠れる様にする中、落ち着いた様子でモナリザに近付いた彼は平然と手を触れた。
「モナリザ現象って知っているか? 後で教えてやるとして……これもお化け屋敷の仕掛けだ。レンチキュラーっていって、見る角度で絵柄が変わるカードと同じ仕掛けだよ」
こんな状況で人騒がせだよな、と笑いながら振り返れば恵麻の顔に安堵が浮かび……直ぐに引き攣る。
再び恐怖を浮かべて彼の背後を指差した時、上から垂れた液体が神示の頭を濡らした。
何が起きているか理解せねば身は守れないが、搾りカスの勇気を守るには振り返ってはいけないいと心が叫ぶ中で振り返れば見えたのは黒い服。
絵の中から身を乗り出したモナリザがご馳走を前に辛抱堪らんと涎を垂らしていた。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし