三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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感想結構来た 嬉しい


忘れモノ ⑦

「"雨宿り"は捨てられたり忘れられた傘が妖魔になった存在。同じ中位の唐笠お化けや傘化けの分類の中では下の方だけれど、それでも中位なのは変わらないし、厄介な能力だって持っているのさ」

 

 人口の激増、ストレス社会なんて言葉が生まれる程の負の念、情報習得手段の多様化、そして大量生産される物。

 昔は器物百年だのと言われ、質は高いが発生率は低かった九十九神達だけど今は逆。

 そして数が多いと手が回らないし、基本的に妖魔に対抗出来ない一般人を守るのを考えれば今の方が面倒だろうね。

 

 

「厄介な特性って……確か中位以上の九十九神の周囲では下位の妖魔が発生しやすいんだっけか?」

 

「そうだね。妖魔とは基本的に人の負の念、要するに怒りや悲しみ、恐怖とかの感情が集まった存在だ。九十九神は一般的なイメージによって、物にそれが集まって発生するんだけれど、本来なら数年程度じゃ無理だ」

 

 心霊スポットとか事件や事故の現場周辺は負の念が集まりやすいから話は変わるけれどね、と付け加えつつ零課の集めた行方不明者の資料を手に取るけれど、居なくなった時間帯やら活動範囲からしてとても立ち寄れる場所じゃない。

 

「病原体を運ぶ渡り鳥みたいなものなんですよね。九十九神の霊力って物に宿り始めた負の念を刺激して短期間で増大させるので常に探索の対象ではあるのですが……」

 

「完全に把握なんて無理なのが現実さ。ああ、それでも伊弉諾一族関係者は零課に感謝しているよ。今のご時世、妖魔関連の隠蔽等の後方支援は国のバックアップが無いと難しい。それを理解せずに天狗になった連中は本当に……」

 

 利用しやすい、という言葉は流石に飲み込む。

 いや、自分が特別な存在だと傲って調子に乗った奴は使いやすい駒になるんだけれど、それを目の前の人達に言うのはちょっとね。

 

 色々と支援してくれる零課からの印象は良く保つに越した事はない。特に善人相手なら此方も善人だと思われていないとさ。

 

 

「まあ、普通に戦うのならそれ程恐ろしい相手でもない。君だって下位妖魔の相手は何度もしているんだろう? 昨夜戦っているのを観察させてもらったよ」

 

「見てたのか。悪いな、粗末なものを見せちまって」

 

「いやいや、十分だと私は思うけどね」

 

 実際、霊力の放出量はお粗末で話にならないけれど、それを補って余りある力と技で下位妖魔を圧倒していた。

 零課の支部長はもう考えるのも嫌だけれど、彼だって規格外。

 下手な退魔士の強化した状態よりも素の状態で強いとさえ思える彼だけれど、私が着目したのは別の場所。

 

 

 ああ、妬ましいとさえ思えてくるよ、その規格外の霊力量はさ。

 

 私にも君の霊力が十分の一でもあれば歴代最高の天才児と讃えられただろうに、そんな風に思うと自然と拳に力が籠る。

 

 おっと、いけないいけない。落ち着かなくちゃね。

 

 

 

「それでだ。本来なら実家から人手を出してもらいたいのだけれども、生憎この身は修行中、家を出て速攻で助けを求めるには軽い案件だ。自分でどうにかしろと言われて終わりさ。そこで提案だ。君と私で雨宿りを倒そう。共同作業ってやつかな?」

 

「お、おう」

 

 にこやかに手を差し出せば戸惑いながらも握り返される。

 計画通り。人が良さそうだったし断らないと思ったのは正解だったみたいだね、

 

 握る手から感じる莫大という言葉じゃ言い表し切れない霊力の量、そして一目見た時の感覚。

 運命だと思ったよ。私にとって転機だと感じたよ。

 

「是非良い仕事にして、君を手に入れられる様に頑張るよ」

 

「……その俺を手に入れたいってどんな意味だ?」

 

 おや、流石に一目惚れをしたって都合良く勘違いはしてくれないか。

 ベタベタ触る時に意識はしてくれて可愛い反応を見せたから、小さい女は眼中に無いってのは大丈夫だろうけれど。

 

 少し照れた様子の彼に手応えと罪悪感、そして若干の羞恥を覚えてしまうのは私が甘いからだろう。

 

「ふふふ。さて、どうだろうね。女の子に全部言わせずに察するのもいい男の条件だと思うよ。無論、異議は聞き入れるし納得すれば意見を変えるけどさ」

 

 こんな風に余裕ぶってる私だけれど、交際経験も無ければ異性の友人も僅か、あんな風に触れ合うのなんて皆無。

 なのに如何にも優雅な感じで振る舞うなんて少し恥ずかしいけれど、向こうにそれらを悟られていないのが幸いだよ。

 

 

 

 さて、懸念は一つ、それがどうなるかだけれど……。

 

「可能なら君のお友達にも手を貸してもらえれば嬉しいかな? 念には念をってやつさ」

 

 感じるんだよね、随分と染み込んだ妖魔との契約の繋がりをさ。

 少し歪な感じで強さまでは読めないけれど、契約を行う力と知能があるのなら中位以上はほぼ確定。

 

 後は私が契約の更新を促して上手くやれば使える相手が増えるって寸法だ。

 さてさて、果たしてどんなのが出て来るやろ。

 

 長い間契約を続けている彼が普通に暮らしている所から随分と狡猾なのか時間感覚がおかしい怠惰な奴かは分からないけれど、それでも目的を果たす為ならば……。

 

 

 

 

「ちょうどその友達からメールが来たぞ」

 

「へぇ……」

 

 妖魔は多かれ少なかれ“こういう存在だ”というのに縛られる。化け物が人間の道具を使うなんて変だからかメリーさんみたいなのを除いては基本的にはメールなんて使えないんだけれど……これは随分と自由が効くらしいね。

 

 どんな相手なのかは分からないが、警戒しておいた方が良いらしい。

 

 

 

「のぅ。大和の奴はそろそろ中位と戦えると思うか?」

 

 人形の中に戻って沈んでいた意識が浮上する。無機質な瞳を通して前を見れば今日終了のイベントやらの為に部屋に籠っていた筈のドロシーが何処か期待した顔で話し掛けていた。

 

 フンスと鼻で息をしての得意顔、任せられて当然、勝てて当然というのは修行の相手をしてやっているからか、付き合いの長さからの信頼か。

 まあ、我が元の実家に居た時に父が依頼していた退魔士連中も今の大和程度のが徒党を組んで中位に挑んでいた頃合いだろう。

 

「下位の内の中間程度か? 今相手をして無事に帰って来れているのは……」

 

 我等はこの家から動けぬ。今の世は金さえ有れば外に出ぬとも十分な程に娯楽と便利な物に溢れているが、流石に大和の戦う姿は見れぬからな。

 零課から得た情報や大和が見聞きして得た情報、今の奴の力から推察するが、確かに中位との戦いも視野に入れる頃合いか。

 

 つまりは次の領域に踏み込むか死んで終わるかの瀬戸際に踏み込むという事だが。

 

「現代の連中は大和の年頃でも守られるべき子供と扱われる。中位に挑むにしても万全の準備を整えてからだろうよ。それでも足りぬのが妖魔であるが」

 

「余達が破れた時の様にか?」

 

 ドロシーの言葉に沈黙で返す。この話題は屈辱が故に避けたいのか続きが語られる事は無かった。

 

 妖魔の位は五段階に区別されるが、一つ違うだけで大違いだ。

 

 最も弱く他の妖魔の餌にしかならぬ低位が植物や虫だとすれば下位は猫や犬。

 小型の愛玩犬から大型の狩猟犬と同じ犬でもちがう様にピンキリではあるが、中位から上は知能も力も下位の上澄みでさえ敵わない。

 

 

「まあ、我等が鍛えたのだ。お守り付きで中位にも勝てぬ様な情けない姿は見せぬだろう」

 

「で、あるな。さて、中位に挑む頃という話題で思い至ったのだが、余が人として生きていた頃のフランスでは男女の身長平均が百六十程、腹違いの兄上は高い方ではあったが、それ程大きく違いはせぬ」

 

 急に真剣な顔になって何が言いたいのだ?

 

 大和に関わる話題だ、我も無碍には出来ぬと人形の中から姿を見せる。

 しかし身長の平均がどうしたと……。

 

 

「百九十近い大和を相手する場合、百六十付近を相手にするのに慣れていた余では遅れを取る可能性があるのだ。ほ、ほれ。体の大きさに比例して例のモノも大きい可能性があるだろうしな」

 

「そうか。正直どうでも良い。逆転快楽堕ちでもすれば良いのではないのか?」

 

 この色ボケがどうなろうと正直言ってどうでも良いが……いや、それで目の前でイチャイチャされても不愉快か。

 

 我ならば生前より経験が無くとも優位に立てる確信があるのだが、吹っ切れて色欲全開に走る二人の姿を想像するとゲンナリとする。

 

 

「人形より抜け出せる様になってから関わった男は大和程度。ご無沙汰の余では心許ないが、あくまで抱くのは余であるベキである」

 

「そうか。もう黙れ」

 

「其処で折り入って頼みがある」

 

「そうか。断る」

 

 何か期待した様子で両手を広げ、随分と発情した顔だ。

 嫌な予感もするし、付き合うのも無為な時間なり。今の我は力を蓄えた後で湯浴みをしなくてはならないのだ。

 

「是非今からでも余の勘を取り戻す為の練習相手になってくれ」

 

「……後ろを向け」

 

「む? 先ずは攻めたいのか? ふぅむ、まあ、別に良いだろう。最終的に可愛がってやるのは余であるしな!」

 

 何の疑いもなく背を向け、壁に手を付いて腰を突き出そうとした所で腕を伸ばす。

 ……数百年の付き合いだが、新たな一面を見てしまったのは最悪の結果だが、忘れた方が良いだろう。

 

 

 

「寝ていろ。阿呆めが」

 

 そのまま首に手を回して動脈を締め上げる。ああ、本当にこの色ボケは年中盛りおって!

 

 我の腕の中で気を失ったドロシーを適当な所に放り投げ、身を清めるべく風呂場へと向かう。

 我に手間を掛けさせるとは、大和の奴は本当に身の程を知らぬな。

 

 

 

 

「取り敢えず大和を巻き込むか。ドロシーの奴がマゾでもあった、送信」

 

 直ぐに自分の行いが大名の娘として正しいのか分からなったから、取り敢えずドロシーを足先で小突く事にした。

 小柄な体格の割に大きい胸の感触が伝わって少し不愉快であった。

 

 

「……」

 

 腹が立ったので暫し爪先でグニグニと弄くり回しているとチャイムが鳴る。

 一応家主である大和は留守で、我等がまさか応対する訳にも行くまい。

 

 家に女を連れ込んで共に暮らしている、そんな風に奴の評判が下がるのは別に良いのだ。あの娘共とつるんでいる時点で今更だが、此度だけは違う。

 

 

 

「暫し待つが良い。入るのは許さぬ。一歩足りとも足を踏み入れること無く、その場で平伏の構えを取っていろ」

 

 大声は出さぬ、その場に居る者に語り掛ける様呟けば了承の意が微量の霊力と共に戻って来た。

 これぞ民草の上に立つ者であったからこそ使える業、相手の側に寄らずとも縄張り(領地)の中ならば声を届け、同時に届けさせる事すら可能となる。

 

 

「用意せよ。我が出向く」

 

 我の言葉と共に小屋前の地面から鎧と陣旗を身に付けた骸骨が這い出す。

 そのまま骸骨は恭しく我の前に平伏し、女乗物を地面に置いて小屋の扉を開いた。

 

「では、進め。扉を閉め忘れるでないぞ」

 

 カタカタと骨が鳴ると共に駕籠が持ち上げられ動き出す。

 背後からは扉の閉まる音、一々命じねばその程度の事も出来ぬのは難点であるが、死した後も我に付き従っているのだ、別に良いだろう。

 

 

 例えそれが魂を囚われての強制であり、今ももがき苦しんでいるとしても、我に仕えられるのだ。

 

 

「母や店の者を斬ったのだ。その程度で許してもらえるなど僥倖と知れ」 

 

 

 何気無い呟きに返事は無く、その代わりにミシリミシリと骨の軋む音が僅かに耳に届く。

 武装をし駕籠を担ぐのは肉を持たぬ骨の身、そういった妖魔ならばいざ知らず、そうではない者が無理に行えば骨が耐えられる訳も無い。

 やがてひび割れ、折れて破片が飛び散るも倒れるよりも前に青い炎がその場所を包んで癒す。

 

 

「礼は要らぬ。決して駕籠を揺らすでないぞ」

 

 カタカタと骨が鳴る音、それは炎で炙られ骨が軋み続ける苦痛への悲鳴やも知れぬが、そんなこと知りはせぬ。

 我はただ命ずるのみ。この骨達は我の下僕であり、それの意思がどうであれ我に付き従っておりさえすれば良いのだから。

 

 

「ああ、暫しこの場で直立の姿勢で待機せよ。面会を申し込まれ即座に出向くのでは我の沽券に関わるのでな。十分待機だ」

 

 我に命じられるまま動きを止めた骸骨の軋む音に耳を傾けながら、スマホで気に入った歌を再生する。何を言っているのか半分以上理解不能だが、ヘビメタは中々気に入ったものの一つ、ドロシーの調子外れな鼻唄とは比べものになりはせぬ。

 

 骨が軋む音、骨がひび割れる音、骨が折れる音、炎が骨を焼く音に何時しか雨音が混ざる。

 

 

「……ふむ」

 

 門から玄関まで庭を通らねばならぬが、大和は傘を持って行ったのだろうか?

 

「少々狭くはなるが駕籠に入れて運んでやっても良いな。どうせならば夜の散歩として遠乗りも一興」

 

 ならば不躾な招かざる客の相手などは直ぐに終わらせるかと駕籠を少し早めさせて門へと向かう。

 

 

「待たせたな。平伏のまま待つが良い。門を開けよ」

 

 どの様な者が来たのかと御簾を越して横目を向ける。ドロシーの好む童向け番組の玩具が幼子と共に平伏の格好を取っていた。

 

 




応援待っています

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