三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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忘れモノ ⑨

 伏柄流古武術は歴史を遡れば平安時代にまでだとか、道場主催のキャンプ先で酔っ払いながら師範が語ったいたが真偽は分からない。

 それは別として伏柄流は相手を倒すよりも誰かを守りながらの方が重要だ。

 

 

「鳴き打ちは相手の内部に衝撃を送り込んで全体に向かって弾けさせる技だ。鐘を打てば全体が震えるだろう? そこから由来しているんだが……会得した俺でも何故出来るのか分からない」

 

 例えると自転車に乗れる様になったが、どうして乗れているのか口では説明出来ない感じか?

 

「いやいや、本当に無茶苦茶だね。零課の人達にも戦える霊力持ちはいるだろう? 学んだりはしないのかい?」

 

「師範は死んじまったし、小さな道場なうえに学ぶのは小さい頃からってのが流派の決まりだからな。幼い頃から日常の動きや呼吸に伏柄流のを取り入れるとからしいぜ。それに……」

 

 そもそも霊力とか妖夢とか術とか科学的な説明とかどうなってるんだと思ったが、そんな言葉は飲み込む。

 言っても仕方ない事ってのはこんな事を言うんだろうし。

 

 

「それに?」

 

「それに……気になったんだが、何度か遭遇した九十九神は持ち主に執着しちゃいなかった。だが此奴は随分としてたな。会いたい会いたいって」

 

 喋るだけなら下位の妖魔にも珍しくもねぇが、大体は快楽に、人間を襲う事への楽しみに支配されている感じだった。

 だけど、さっきのは少し違う気がするし、ましてや……。

 

「あの玩具が人間を救ったのも気になったかい? 来た情報じゃ玩具の元々の持ち主はあの子供の兄らしいけど、雨宿りの性質によるのさ」

 

「性質? 他の物を妖魔にしやすいって奴だろ?」

 

「雨宿りってのは傘の九十九神だが、捨てられるか忘れられるか、そのどちらかが理由で妖魔になったんだけど、どっちかで違いが出てくる。まるで女王アリみたいに餌となる人間を連れて来させるんだよ。守れない報酬をチラつかせてね。そして大体が逆の方のを妖魔にするのさ」

 

 嫉妬の対象なら使い潰しても気にしないからね、と小姫は皮肉気に笑いながら遠目に見える建物に視線を向けた。

 

「会いたいってのも子供を助けたのも……」

 

「大切にされていたんじゃないかな? 妖魔だって意思を持つんだ。特に理性や知恵を持ってるのは単純に襲うだけじゃない。ほら、神様や妖怪と人間の恋物語なんて世界中にあるだろう? ましてや人の役に立つ為の道具として生まれたり、正義の味方を模して作られた玩具の妖魔だ。愛憎の違いはあれど、九十九神は下位であっても人を餌とのみ認識する様な妖魔とは違うのさ」

 

「ふぅん……」

 

 妖魔と戦うのに抵抗はないが、今回のを抜きにしても心があるのは知っている。

 だから少し腹が立つ、大切な相手を想う気持ちを利用しようってのが本当に許せねぇよ。

 

 

 

 

 ああ、でも雨宿りと正反対って事は大切にされなくって捨てられた物だって事かと気が付く。

 やる事は変わらないし迷いはしないけど、ちょっとだけ意思を持ってしまった事への同情は俺の中にあった。

 

 

 

 

 

『邪魔をするなぁあああっ!』

 

 地面を這って物陰から飛び出した細長いシルエット、蛇を思わせる動きで地面や木の上から襲い掛かって来たのはイヤホンだ。

 耳に入れる部分のパーツが失くなっていたり線が絡んだりしている状態でも動きには支障がないようだ。蛇めいた動きで迫り来る妖魔に拳で対応しようとした時、俺の真横をすり抜けて小姫が前に出た。

 

「まあ、私にも準備運動をさせてくてたまえよ」

 

 空気を切り裂く音と煌く剣閃、彼女の手に握られた一対の小太刀は周囲から一斉に向かって来た相手を全て切り裂いた。

 半身を断たれて地面に落ちたイヤホン達は陸に上げられた魚の様に少しの間だけ身を捩らせて動いていたが、やがて僅かな残穢のみだけで動かなくなる。

 

 

「打撃じゃあの細っこいのを捉えるのは大変だろう? ああ、それとも他の技があったかい?」

 

「うん? ああ、確かに外して伸び切った腕に絡み付かれたら厄介だったな。助かったよ。俺は鳴き打ちとかの方が得意だしな」

 

「その言い方だと線で捉えるのも有るって事か。それにしても随分と忘れ物が出るもんだ。大量消費社会にも程があるだろう」

 

 バイクの襲撃から少し経ち、相次ぐ襲撃に対して車に乗っていては逆に手間だと降りて進んだ俺達だったが、小姫の声には辟易した感情が籠る。

 振り返れば道路の真ん中や端に散らばった九十九神の死体、要するに壊れたゴミが大量に散らばっているんだよ。

 

「悪質なゴミ処理業者も呆れる惨状だよな。これだけ仕向けて来るとか相手も焦ってるのか?」

 

「本当に厄介なのは、自分の力がそこまで強くないのを知ってる奴さ。最初のバイクで倒せると思っていたのが外れたし、小物の雑魚を使って少しでも時間稼ぎと消耗狙いってところかな」

 

 バイク以降に出て来るのは折り畳み式の財布や口紅、そしてイヤホンみたいに小さな物ばかり。

 霊力もショボいとなれば捨て駒ってのも納得だ。

 

 

「正直同情するよ」

 

「どっちに?」

 

「どっちにもだ」

 

 幾ら人の通りが少ない道路だろうと朝や昼間に一切通らない訳じゃないし、分別せずに詰めたゴミ袋の中身をぶち撒けながら進んだみたいになってるのを見れば悪質な不法投棄を疑う惨状。

 

 これ、確実に隠蔽作業が必要だよな?

 

 普段は見えなくても下位以上に襲われれば一時的に見える事もあるし、妖魔について知る協力者は零課にはそれなりには存在するらしいが、だからって、ゴミが散らばったし掃除を宜しく、みたいな丸投げは出来ないから隠蔽や調整に手間が生じる。

 

 

「さてと、体が温まったところで到着だ。気を緩めずに行こうか」

 

「おう!」

 

 目の前には立ち入り禁止と書かれた朽ちる寸前の看板。何処の不動産屋かは読み取れない程にボロボロで、警備会社のシールは貼ってないが鉄格子の門が開かない様に錆び始めた鎖が絡んでいる。

 

 

「不意打ち狙いの奴は居ないみたいだね。ところで大和先輩、何体居ると思う?」

 

「二体大きいのが……って言いたい所だが、片方は分かりにくいな」

 

 今朝に見せてしまったミスは流石に繰り返しはしない。ましてや今は戦いの最中だ。

 俺は霊力を用い、範囲が狭くて不安定な索敵を続けてみたが、ひっきりなしに襲ってきた捨て駒と同程度の霊力は全く無く、代わりに建物の奥から僅かに感じ取れたのは大きい霊力の反応が二つ。但し片方はどうも変に感じるんだよな。

 

 何か無理やり小さいものをくっ付けて大きくしているっつーか……。

 

 

「どうも事態は予想よりも深刻らしいけれど、私と君が居ればどうとでもなるさ。ははっ。ど、どうせなら、キ、キスでもしてみるかい? 余裕の表れとしてさ」

 

「……しない」

 

 ほんの少し興味があったんだが、冗談でキスを求めてきているにしては余裕が無いな。声がプッルプル震えてる。

 

 あれ? 実は結構ポンコツ? それはそれで可愛いから良いけれど……。

 

「取り敢えず先に進もうぜ」

 

 多分有り得ないし、そんな形で初恋の相手とするのは嫌だが、乗り気な所を見せればワンチャンあったんじゃないか、そんな馬鹿な誘惑に惑わされながらも俺が鉄格子の門を一足飛びに飛び越えれば小姫は更に上を行く。

 俺の頭上を飛び越えるみたいにして、その結果俺の前でスカートが翻った。

 

 

「雨宿りは私が相手をするから、もう片方の相手は君に任せるよ。大きいと言っても下位の上の下程度、さっさと倒して私の勇姿に見惚れる為にも速攻で駆け付けてその目に焼き付けてくれたまえ」

 

「お、おう」

 

 本人が気が付いていないみたいだし、格好付けての台詞の後で言うのも抵抗有るから黙ってようっと。

 目に先に焼き付いたのは勇姿とかじゃなくてデフォルメされたレッサーパンダの威嚇する姿だなんてとても言えないし……。

 

 キスの話題とは大違いで表情が余裕有るものに切り替わったのは生粋の退魔士だからか? きっと俺とは生きてきた世界が違うんだろう。

 目に焼き付いた光景を振り払って進む先には所有していた会社が倒産、社長が夜逃げして残された研修施設だったらしい建物。

 

 

 

「このまま放置していたら建物まで九十九神になってしまうよ。あくまでも正反対の方が変化しやすいってだけだったしね。その場合、地面で足を作って歩くってさ」

 

「そりゃあ恐ろし……来たか」

 

 轟音と共に揺れる建物。随分と放置されていたからか半端に割れていた窓ガラスが更に割れ、壁の表面がポロポロと崩れる中、音は連続して聞こえて、段々と近づいてくる。

 

 そして、壁をぶち破って現れた。

 

 

 

 青色のくたびれた毛糸の帽子にサングラス、赤いロングコートに右手が滑り止め付きの軍手で左手は黄色の手袋、足の部分は流石にズボンだのスカートだのを忘れる奴が居なかったのかジャージの上を上下逆にしてマフラーで結んである。

 靴は子供用の長靴とヒーローのプリントがされた小さな靴。

 その全てに口と目があり、それぞれの霊力が無理やり繋ぎあって一つになっていた。

 

 軍手で持っているのは錆びた鉄パイプ。それを人間の可動域では無理な動きで振り回し、軌道上の壁を容易に砕いている。

 

 基本布だから打撃は効果が薄いか? 暖簾に腕押しって言うしな。

 

 フワフワと浮かびヒラヒラと浮かぶ相手に打撃を叩き込んでも拳が沈んだ所で巻き付いて来る姿が目に浮かぶ。

 それに複数の妖魔が合体している以上は一箇所だけ倒してもな。

 

 

 それにしても……。

 

 

「糞コーディネートにも程があるだろ。え? 服とかは本来セットだから一つになってるのか?」

 

「ファッションチェックを受けたらメタクソに言われるだろう見た目だけれど、そうだろうね。君が言う通りにセットとなってる物の場合は合体しやすいんだよ。……自我と記憶が混ざり合って崩壊するってデメリットは有るけれどさ」

 

 

『会いたいあいたぁいアワセロ何処に行ったのぉ』

 

「因みに私はコーディネートマンって呼んでる。女性物が多くてもウーマンにはしないのさ」

 

「じゃあ、俺もそう呼ぶよ」

 

 コーディネートマンの声は複数の音が混じって耳障りな不協和音になって響き、感情も寂しさや困惑や怒り嘆きが瞬時に入れ替わる。

 八つ当たりでもする様に鉄パイプを地面に叩きつける度に土が散らばって窪みが出来る中、もう興味は失せたとばかりに小姫は悠々と歩いてコーディネートマンの真横を通り過ぎようとしていた。

 

 

「じゃあ此処は任せたから」

 

「じゃー魔をするんじゃナァーイ」

 

 コートの袖が激しく捻れ、布地が悲鳴を上げる勢いで細くなる。それを振り上げた瞬間に捩れを戻す勢いで回転が加えられた鉄パイプは無防備な小姫の頭を砕こうと振り下ろされ、金属同士が衝突する様な音が響いた。

 

 

 

 

 

「邪魔はテメーだろうが、悪趣味コーディネート。そんなに寂しいなら俺が相手をしてやるよ」

 

 小姫と鉄パイプの間に差し込んだ腕に霊力を込めて防ぎ、少し曲がった鉄パイプを握るとそのまま投げ飛ばした。

 咄嗟に離そうとするも間に合わずにコーディネートマンは地面に叩き付けられるが平然と浮き上がる。

 

『お前如きサンなんてイラなぁい!』

 

「おいおい、つれないな。もう少し楽もうぜ、ダサコーデ」

 

 予想通りに効果は薄いが、小姫が建物に入るには十分な時間は稼いだ。

 あれだけ自信があるんだから中位にも勝算があるんだとは思うがよ。

 

 腰を低く落として呼吸のリズムを変える。

 

「さっさと倒して助太刀に行かせてもらうぜ? 治せる人は知ってるが、彼女の顔に傷なんて付けさせられねぇからな」

 

 それはそうとして今までの相手の中で一番の強敵だ。色々と試して経験値を稼ぎたいところだな。

 

 

『ソう、邪まヲする気ナンダな。じゃあ、死ネ』

 

 少し曲がった鉄パイプに込められる霊力が倍増する、この時点で俺の放出量を軽く越えられちまったよ。

 さっき受けた時には軽く腕が痺れる程度だったが、今度はちぃっと痛くなりそうか?

 

 

「受ければ分かるか」

 

 再び捻りを加えた事で回転が加わった鉄パイプが突き出された。

 手袋と靴の部分から急速に霊力が失われ、只の物に戻った手袋の代わりに袖が巻き付いて鉄パイプをより強固に固定し、布故の柔軟性から放つ軌道の読み辛い一撃は真下から俺の顎を狙って放たれる。

 肘の部分から手袋と靴の分だろう霊力を噴射して行う捨て身で渾身の一撃は攻撃動作を見てから動いていても避ける事は叶わない。

 

 

 まさに俺が今まで戦った妖魔よりも遥かに格上の存在であると証明して見せたコーディネートマン。

 その一撃は……俺が僅かに体を傾けた事で乱れた髪の先を撫でるだけに終わった。

 

 

『何…で避けテ……』

 

「俺が習った武術は護衛の為のもの。故に相手の動きを読むのを重視しているんだよ」

 

 動いたのを見てから判断しても遅いのならば、動く前から予想して判断すれば良い。

 狙いも軌道も分かっていれば避けるのは容易だろ?

 

 

 

「じゃあな」

 

 振り抜いた右の拳はコートの中央にめり込み、大きく後ろに押しやるもそれで終わり、コーディネートマンが嘲笑うのを感じると同時に絡み付く布。

 

 

 

 

 

「言っただろ? じゃあな、って」

 

 真下から振り上げた左手の爪が(ジャージ)から(サングラスと帽子)までを切り裂いた。

 




感想大募集

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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