三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
女が三人寄れば姦しいとか言うけれど、結論から言わせてもらえば一人だろうが五月蝿い奴は五月蝿い。
「それで、休日の朝っぱら急に相手をしろとかどうしたんだよ、リンマオ」
まあ、答えなんて聞かなくても分かっている程度には友人をやっているのがリビングのソファーに座っている奴なんだが。
黒帯の道着に鉢巻き、手にはサラシを巻いているというコッテコテの格闘キャラの服装をして、頭にドアノブカバーみてぇな名前の知らない飾りを着けている黒髪糸目。
名前はファン・リンマオ
空手部エースにして去年の全国大会個人の部で全試合を一本勝ち、それも決勝以外は五秒以内に終わらせた猛者だ。
「迷惑だたカ? なら昼からにするヨ」
性格は思い立ったら即断即決な所はあるんだが、流石に朝から訪問するのは不味いって思ったんだろうな。
帰ろうとしたが俺はそれを手で制する。
「いや、別に良いんだが、新入部員の勧誘の演目に随分と乗り気だな」
いや、確か最初は乗り気だったんだよ、一年生をビシバシ鍛え上げてやるって。
全国大会団体戦でも準優勝したし、それで有力な部員が来れば楽しめるからだってな。
「一年生の体育の様子を窓から眺めてからやる気無くしてただろ、お前」
「確かに期待を裏切られて失望だたヨ。見所の有る奴、数人しか居ないアル。でも、八雲を含めて事前に勧誘しても断られたネ」
あー、うん。男女併せてもリンマオの練習相手になる部員は居ないし、唯一勝負になる顧問だって幾らエースだっていっても一人にばかりかまけられないしな。
だから新入生に期待するなって方が無理があるんだが、それも裏切られたって事か。
思い出しただけで気落ちしたのかリンマオは肩を落として溜め息を吐くが、急にガバッと顔を上げれば気合いは十分だ。
相変わらず切り替えが早い奴だな……ちょっと羨ましい。
「でも、よく考えれば部長達先輩達は今年で引退、入部時から部長達には世話になたシ、部の今後を任されるだろうから気合いも入るヨ」
だから稽古の相手として成り立つ俺に相手をしてくれって事か。
二年生になったばかりだってのに気が早いとも思うんだが、義理堅さから来ているんだろうし、それに……。
「まあ、俺も久々に対人の稽古をしたかったしな。勇さんや貞信さんは忙しいみたいだし」
そもそも道場の仲間で互角以上の人は社会人が多い、学生の俺と違って気軽にって訳にも行かないからな。
「ああ、それじゃあ今日来たって事は部が休みで学校は使えないだろ? ……使えても部外者の俺が部に参加するのは問題だがな」
「だから大和も入部するヨロシ。ワタシも嬉しいし、困る奴は居ないネ」
「また勧誘か。確かに部長になったあの人には世話になったし、顧問は旧知の仲だがよ……」
大学で空手の方も始めて段位を得たあの人と違って俺はあくまでも伏柄流古武術、それでもリンマオとはちゃんと空手の試合が成立しているんだが、入部はちょっとな……。
部の雰囲気は良いし、何度断っても期待の眼差しを向けながら勧誘して来る友人の存在もある。
二年生になってからでも入部して学生生活を楽しみたいとは思うんだが。
「悪いが何時も通りに断らせてくれ」
「仕方無いネ。気が変わるのを期待してるヨ」
まさか妖魔と戦うから部活なんてやれないなんて、そんな事は言えないし、ダチを騙すのは最低限にしたいから出任せで断れもしない。
そんな事をしなくても事情を聞かずに諦めてくれはする良い奴だしな。
「あのー、大和さん。空手部に入らないって事はオカ研の部長になってくれるのを了承してくれるってことで良いっすか?」
「いや、どうしてそうなるネ? 相変わらずか、お前。頭と胸に行く栄養がぜんぶ背に行ってるヨ」
「な、何を言ってるっすか!? そんな事を言う先輩だって自分と変わらない癖に?」
そんな義理堅い良い奴のリンマオではあるが、何故か八雲とは相性が悪い。
平均より少し小さい身長を気にしてるらしいが、八雲も八雲でとある理由からリンマオが苦手だからな。
「文句あるカ? 断崖絶壁」
「胸だけじゃなく身長も無い人が何を言ってるっすか、ナイチチ!」
「……」
それでも武闘家としての誇りを持つリンマオは手を出さないし、八雲だって俺にちょっかいを出しはするが、口論になっても手を出すのは嫌う善良な馬鹿だ。
「そっちの方が貧乳アル!」
「自分の方が三ミリは大きいっす」
いや、それでも人の家で低レベルな遣り取りをするのは本当に止めろって。
こんな争いに巻き込まれるのは勘弁だから無言を貫く。それで巻き込まれないなら……。
「よし。こうなったら大和が揉んで優劣を決めるヨロシ」
「それが良いっすね。じゃあ、早速揉むっす、大和さん」
「いや、男相手に何言ってるんだ、テメーら。それに……」
二人揃って揉むほどないだろ、そんな言葉を何とか飲み込む。
てか、痴女みたいな勝負に巻き込むな、馬鹿共。
「だて、試合になれば触られる事あるネ。気にしてたら男女で戦えないアル。それに大和なら邪な気持ちで触らないネ」
「自分も小さい頃からくっ付いてるし、変な事はされてないっすからね」
これは信頼か? 異性として意識されたい相手じゃねぇが、だからってこれはない。
二人の顔が平然としているのが余計に質が悪いなぁ。
取り敢えず俺がどうして困らないといけないんだ? よし、俺も信頼出来る友人に頼るとするか。
『もしもし? 今はダンテの地獄遍を読んでいる所なんだが』
「ああ、悪いな委員長。八雲とリンマオに胸を揉めと言われてな」
『は? 八雲さんとやらは名前しか知らないが、リンマオの胸は揉める程無いだろう? 掌を当てて指を曲げれば即座に胸骨に当たるに決まっている』
そうか、委員長は本当に正直な奴だな、この場じゃ一切頼りにならなかったけど。
それと悪いな。うっかりスピーカーにしてたからリンマオには丸聞こえなんだ。
明日会う時までは言わないでおくよ。恐怖に震える休日とか嫌だもんな。
「お前達が気にしなくても、ポロっと勝負について話された後の俺が気にするんだよ。ほら、さっさと行くぞ。八雲も話は道すがら聞いてやるから」
「道すがら……?」
おい、八雲? まさか道すがらの意味が分からないって事はないよな?
俺がこの馬鹿に勉強を教える中、理数系が壊滅的だが文系は輪を掛けて酷く、特に文章を読み解く問題に苦戦していたのに頭を痛めた俺が出した結論は一つ。
『おい、取り敢えず本を読みまくれ。勉強の合間はずっと読書だ』
『え? これって児童書じゃないっすか? しかも低学年向けの奴』
『可愛い従姉妹が欲しがった俺のお古を貸してやるんだ。無駄にせずにそして丁重に扱え』
これの結果、部分点は貰える程度になったし、入試だって定員割れによる補欠合格を勝ち取った。
例年だと定員割れとかしないんだが、別にそれは重要じゃない。
「お前、テスト勉強は手伝ってやるから発表の一ヶ月前には開始するぞ」
「え? なんでっすか?」
お前が馬鹿だからだよ。長期休みまで追試の手伝いとかやってられるか! せめて五教科中三教科はギリギリ回避しろ!
「じゃあ、ささと行くネ。父ちゃんから株主優待券貰ったから昼にバイキング奢るヨ」
「おっ、悪くねぇな」
「太っ腹っすね、ファン先輩!」
「いや、お前の分は無いに決まってるアルよ? どうして奢って貰えると思たカ。足りない頭で考えるヨロシ」
マオリンが見せて来たのは近所に出来たばかりのバイキングレストランの食事券だ。
久々に対人での訓練が出来る上にタダ飯とは有り難い限りだな。
「さっさと行こうぜ。先輩だって待ってるだろうしな」
……それに二人が来てからずっと向けられる怒気を考えたら多少の役得が欲しいもんだよ。
あくまで自分達は人の理から外れてしまった存在ってのはお玉とドロシーの考えで、客人と偶に帰宅する両親が居る間は魂が宿らされている人形の中からは出て来ない。
散らかした私物まで認識させない術を使う徹底っぷりに気を使わせて悪いと思うんだが、居なくなった後で不機嫌になるのが考えものだよ。
そういえばリプリーの奴も子犬の時は来客に過剰に警戒してたが、犬が縄張り守ろうとするのと同じなのか?
この疑問を口にしたら怖いので聞くに聞けないんだが、そんな所だろうな。
「……帰りにケーキでも買って帰るか」
あっ、少しだけ圧力が弱まった。じゃあ、抹茶プリンとショートケーキを買って来てご機嫌取るか。
「あらあら、よく来てくれたわね。歓迎するわ」
俺達が訪れたのは空手道場。詳しくは知らないが空手が日本に広まった頃からあるとかで、伏柄流の道場に所属していた頃は他流試合での交流もあった。
突然だが、比良坂高校の空手部は全国大会常連だ。現在の部長は個人戦二連覇で団体戦でも負けなしの強者だ。
どれだけ剃っても存在感を主張する青髭に角刈り、そして俺よりも十センチ近く高い身長の筋骨隆々。
「三田原先輩、久し振りです」
そしてオネェ言葉の彼こそが男子の方のエースで空手部長に三田原権三郎。
清く美しくをモットーに気は優しくて力持ちという昔話の主人公の様な豪傑っぷりで、部に専念したいからと断るも生徒会から勧誘される程。
「はいはい、堅苦しいのは良いからウチの部のバトルジャンキーの相手をして頂戴な。……今のアタシじゃああの子の練習相手になれないもの、手間掛けさせてごめんなさいね。まあ、引退迄に絶対追い越してみせるけどね」
ウインクして前向きに語る三田原先輩だけど、腐らずにいられる前向きさは本当に凄いと思う。
何せ幼い頃から道場主の祖父に
「まあ、何かと俺も振り回されてはいても友人ですからね。多少の頼みは聞きますよ」
友達に頼まれたし、先輩にも頼られた。
なら、気合い入れてやらなきゃな。
元からあった気合いを入れ直し軽く準備運動を始めれば、リンマオは既に防具とグローブを装着して準備万端で体をほぐしていた。
「さあ! 試合始めるアルよ!」
「いや、気合い十分な所悪いが、俺も着替える必要があるから待ってくれ」
あーもー! 本当にこの猪突猛進娘には困らされるな。
「いやいや、本当に大和と知り合って良かったヨ。これで新入部員集めに気合い入ったネ」
三田原先輩の家での試合を終え、俺達は約束通りにランチバイキングの店に来ていた。
取り皿に肉料理を盛りに盛り、大道芸かって感じに山積みにした皿を一切崩さずに運ぶリンマオの後ろで俺は自分の好みの料理と二人分のサラダを取り分ける。
もうちっと野菜食え、バランス考えろ。
「そうか。それは結構だが……もう少し手加減ってものを覚えてくれ」
「うん? 大和なら幾ら全力で打ち込んでも気絶しないし、全力出さなかったら稽古にならないネ」
「俺が言ってるのは時間だよ、時間。四時間もぶっ続けで相手をさせやがって……」
時計を見れば午後一時半、朝起きて二人の対応をして道場に直行してからリンマオが満足する迄試合の相手をしたんだが、まさか四時間ぶっ続けで戦った上に基礎トレまで付き合う羽目になるとは……。
「先にシャワーで汗流した方が良かったんじゃねぇのか? 散々汗かいたんだからよ」
混み合う時間を過ぎたから客が少ないが、混み合った時間帯に来ていたら食欲以外の理由で迷惑だったよな。
掃除機みたいに料理を吸い込んで行く友人の口元を見ればしっかり噛んでる、但し途轍もなく速くだ。
「女に汗臭いとかデリカシー無い奴ネ。それに動いてから時間置かずに食べた方が良いアルからな。でも、ちょっと気持ちが悪いから飯が終わったらシャワー貸すヨロシ。ウチ、少し遠いからナ。何なら一緒に浴びて背中も流してやるヨ」
「だからテメーはそういう発言を抑えろって。自分が年頃の女って自覚があるんならよ」
恥は無いのか、恥は。
「失礼な奴ネ。ワタシだってレディの自覚あるヨ。大和も汗を洗い流したいだろうし、効率を考えた結果ネ。別にワタシが居ようと後ろを振り向いたりはしないだろうし、何にも恥じる事はないアルよ」
「いや、恥を知れ。ったく、この話題は終わりだ」
呆れながら取り出したのは数枚の写真、写ってるのはリボンとかで着飾った猫だ。
「例の見合いの話カ?」
「ああ、猫のな」
そう、急に見合いの相談が来たと相談する八雲だが、自分じゃなくて猫の見合いだ。
その見合いに出す写真がどれにすべきか決まらないからって渡されたんだが……。
「別に猫は嫌いじゃないが、俺って犬派だからな。どれも可愛いとしか……」
「ワタシなら真ん中を選ぶナ。肉が結構付いて見えるし、食うなら焼くのが一番ネ」
「そういうのを猫好きの飼い猫に向かって言うから揉めるんだぞ?」
旅行先で食べた猫の料理が気に入ったとかで、猫を見れば飼い猫だろうが飼い主の前だろうが平気でそんな発言するもんだから猫好きとは相容れない。
色の好みや食文化の違いは尊重するけどな。
「ちょっと! お金払ってるんだから邪魔しないでよ!」
突然、店内に大声で怒鳴る声が響く。見れば異様な痩せ方をした一人の女性客が取り皿を使わずに、直接大皿から料理をがつがつと貪っていた。
委員長のほうは、まだどんなキャラにするか未定
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敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし