三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
一目見ただけでその女は異常だと思った。
眼窩は深く窪んで目は血走り、頬は痩けて手足は骨と皮だけにさえ見える。
あの服もバックも確かブランド品だよな?
俺は興味ないんだが、現物は結構見てるからな。
『兄さんが別れた恋人に贈る予定で買っていたのをくれたんだけど、私には一切良さが分からないからあげるわ。友達へのプレゼントにでも使いなさいよ。似た理由でくれたんだし、兄さんも文句言わないでしょ』
こんな感じで母さんから送られてきたんだが、女のそれは扱いが悪いのか薄汚れているし、服の大きさが合わないのか襟元が随分と緩そうだが、腹だけはパンパンに膨れ上がっていた。
因みに贈る相手も数人しか居ない上に、誕生日とかでもブランド品を贈られたら重いだろうから、換金して交際費やら伯父さんの娘である従姉妹へのプレゼントの費用に使っている。
「にしても見てたら食欲失せるな」
「飯の時は飯だけ見るヨロシ。食う事だけ考えるのが最善アル」
女の食う姿は思わず愚痴が出る程で、大食い大会に参加したのかって感じの汚い食い方だ。それこそ胃の中に食べ物を流し込む事だけが目的みたいな勢いで大皿から取り分け用の巨大なスプーンみたいなやつを使って食べる姿は異常としか言えない。
「来た時に見たけど、その時は腹もガリガリだたネ」
「全部食いもんで膨れたってか? 彼処までよく入るな……」
あれか? 満腹中枢が壊れていて常に空腹だとか、痩せの大食いの中に居る胃下垂だとかの類か?
「お客様! 料理は取り皿に取り分けてお食べ下さい!」
「五月蝿い! 家に居たら気持ち悪いし、お腹が減って減って堪らないのよ!」
どっちみちあの皿の料理は食いたくねぇな。
流石に店員さんが止めに入るも女はテーブルにしがみついて離れず、腕を掴まれたからか顔を突っ込んで食べている。
まだ熱いのか湯気が立っているにも関わらず一心不乱に食べ進める姿に他の客は恐れ慄いてか店から出て行くし、嫌なタイミングで来ちまったと思う中、リンマオは何も気にした様子も見せずに料理を口に運んでいた。
「もぐ…それでこの後は…もぐもぐ、汗を流して、もぐもぐもぐもぐ」
「食うか喋るかどっちかにしろ」
「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ、ごくん」
そうだよな。お前なら食べる方を選ぶよな。
もう変な女は無視して俺も次の料理を取って来ようと立ち上がった時、ガチャンと大きな音がして悲鳴が上がる。
見ればあの女が暴れたせいで大皿の中身がぶちまけられて、それが店員の一人に掛かったらしい。
「ちょっと離しなさいよ! こっちはお金払ってるんんだから!」
「他のお客様の邪魔になりますので此方に来て下さい!」
此処迄くれば店員も我慢の限界らしく女は店から追い出されて行くが、その最中も手が届く場所の料理を手掴みにして食べこぼしも気にせずガツガツと貪っている。
思わずその姿をマジマジと見詰めていると女の背中が初めて見えた。
「……何だありゃ」
女の奇行に対してでも、ガリガリの背中に対してでもない。
例えるなら湿った場所で大きい石を持ち上げた時の光景。
小さな虫が蠢く様に、女の背中で底位の妖魔達が蠢いていた。
「ありゃあ……」
どういう状態の人に起こる症状なのか見覚えはある。
グロい見た目の底位妖魔の集合体に気分が悪くなる中、俺はポケットのスマホを操作して勇さんにメッセージを送った。
「あの、お客様。食べ切れない量をお取りになるのは他のお客様のご迷惑に……」
「大丈夫ヨ。この程度なら楽勝で食べ切れるアルから、あの女が駄目にした料理を持って来るヨロシ」
そして少し目を離す間に料理を山盛りを超えたギガ盛りにしたリンマオと困り顔の店員さん。
いや、彼奴も何処に入ってるんだ?
「あれだけでチャレンジメニュー級はあるだろ」
普段は彼処まで食べないで、精々が十人前程度なのに、バイキングに来たら普段より食べてしまうのは分かるんだが。
伏柄流や霊力によるアレコレも妙な存在だが、リンマオの大食いも十分異常な範囲だよな……。
「……もう大皿で持っていってヨロシ?」
いやいや、駄目だろう。
取り敢えず止めよう。
しかし、あのオバさんからは霊力は感じなかったし、契約関連の術を持つ妖魔との繋がりも感じなかったがどうなってるんだ?
小さい頃に見え続けて困った妖魔も霊力のコントロールで視界から消し去れる様になった俺だが、初恋の相手である小姫との出会いを切っ掛けに常に見える様に戻している。
キモい虫が家や隣の神社以外で視界に映るのは憂鬱だが、こうやって発見出来たのは幸いか。
俺が気が付かなければ発見が遅れていた可能性だってある。今の段階がどの程度かは知らないがな。
「手遅れじゃなきゃ良いが……いや」
全部背負うなって意見は納得いくんだが、彼処までの異常な姿が呪具の影響だった場合、被害が出た時点で手遅れだ。
ちょっとだけ気が滅入る中、俺の目の前にフォークで刺した料理が差し出された。
期間限定メニューのトリュフ入りのオムレツで、特製ソースが掛かっている。
「これ美味いヨ。食べるヨロシ」
「うん、そうか」
取り皿を差し出して乗せて貰い食べてみれば本当に美味い。
「あの女が残り全部食べちゃったからナ。惜しいけど分けてやったヨ」
得意気な顔をするマオリンに俺は釣られて笑みを溢す中、送ってから一分以内にも関わらず返信が届いていた。
さてと、今回はどんな面倒なものが出て来るのやら……。
そうやって女が追い出された後は、俺達を含めて残った客は片手の指で足りる程度の人数だった。嫌になって帰ったのもいるが時間も時間だしな。
汗臭くて迷惑なんじゃと今更になって気が引けるが、幸せそうに食べ進めるリンマオ相手に“汗臭いから店を出よう”とか言えない俺は他の客や店に心の中で謝った。
そして制限時間間際、デザート全種類をしっかり食べきったマオリンは満足そうな顔で店から出る。
本当に食った、かなり食った。
「今度はワタシのお気に入りの店に行くカ? 熊の手やワニのステーキや蝙蝠スープとか色々ヨ」
満足そうにさする腹には腹筋が浮き出しているだけで、さっきの女みたいに膨れている様子すらないんだ。
腹筋? 腹筋で押し込めてるのか?
それはそうと誘われたからには行こうとは思うんだが……。
「色々な意味でどんなメニューの店か気になるラインナップだな、その店」
……他にどんなのが出るのか怖いな。ワニのステーキはちょっと興味有るけど。
「じゃあ、大和の家でシャワーを浴びて……オヨ? 知り合いアルか?」
これからどうするのかって話をしながら歩いていた俺に向かって路地裏から小さな手が伸び、少し遠慮がちな様子で掴んできた。
俺が動けば手の持ち主が転んでしまうだろうから動きを止めればリンマオも止まる。
「ああ、前にちょっとな。先月以来だな、百舌ちゃん」
「あ、あの、お久し振り……です」
上背があるが猫背のせいで低く見え、少し貧相というよりは栄養不足から来る痩身。所々擦り切れたTシャツに所々雑に短く刈り上げた黒髪。それだけなら服装に拘りが無いタイプの女の子に見えるだけだが、目を見ればそうじゃないと分かる。
相変わらずか……。前に新しい友達が出来たって言ってたんだがな。
淀みに淀んだ瞳、まるで自分の周囲に絶望し憎悪している、そんな目だった。
「どうした? また相談でもあるなら聞くぞ。まあ、聞くだけで役には立てないんだが」
彼女の名は
「さっき一緒に居た人、確か去年のインターハイの優勝者ですよね? や、大和さんの学校の名前だったからテレビで観てました」
「友達でな。稽古に付き合った礼にって飯を奢ってくれたんだ。っつっても食事券を親から貰ったからだそうだが」
リンマオとは別れて百舌ちゃんと公園のベンチで並んで座る。
休日の昼過ぎの公園だ、それなりに人が居るからか時々視線を感じるが、俺みたいに百九十近くの男と小柄な中学生が一緒に居るんだから目立ちもするか。
俺は気にしないんだよ、八雲やらが何時も外でも纏わり付いて来るし、目立つ容姿だから。
「悪いな。俺のせいで変に注目浴びてて。……他人が苦手だったっけ?」
「はい。でも、謝らなくて良いです。悪いのは……見てくる連中ですから」
百舌ちゃんの声には人への嫌悪が隠さずに含まれていて、下から睨む姿に周囲の人達はそそくさと足早に去って行くばかり。
それに満足したのか百舌ちゃんは少しだけ表情を和らげて少しだけ俺の方に寄る。
「私、友達が出来たのですが、その友達の上司に酷い人が居るんです。大和さんならどうすれば良いか分かりますか?」
「難しい問題だよな。労基に相談……しても辞めない限りは匿名だろうと全員に報復とかあるだろうし」
困り顔で百舌ちゃんの相談に乗る俺だが、こんな風に相談に乗るのはこれが初めてじゃない。
あれはちょっと前の頃、日課の走り込みの途中で騒がしく吠える野良犬が木の前に居ると思ったら、その木の上に百舌ちゃんが居て、降りられずに困ってたんだ。
後から聞けば犬に追われて何とかよじ登るも降りられなくなったらしい。
「おい、あっちに行け」
「ガルルル……キャンッ!?」
声を掛ければ俺にターゲットを移す犬だったが、少し睨み合っていれば尻尾を丸めて逃げ出した。
犬好きとしてはもう少し穏当な追い払い方があっただろうが、状況が状況だけに諦めるしかない。
「待ってろ。近くに消防署も交番も在るから助けを呼んで……って、不味い!」
「え?」
本人は気が付いていないが乗ってる枝は根本から折れようとしていた。
咄嗟に他の枝に掴まる間もなく百舌ちゃんは木から落ちて、俺が何とかキャッチ。
それでこの日は終わったんだが、他校の不良に絡まれてたり電車で痴漢に遭ってたりと何度か偶然助けに入る機会があって懐かれた。
……会った時の髪も今と似た様で実際は無理に刈られた感じだったり、持ってた鞄が妙に傷だらけだったのもあって、彼女が相談があると言って来たなら話し相手にはなるようにはしている。
今回みたいに注目を浴びるのだって、俺みたいな大男と知り合いだって知られれば妙な真似をする奴も減るだろうし、気晴らし程度にはなってくれたら良いさ。
「じゃあ、また何かあったら相談してくれ。役に立てないなりに話は聞くからさ」
「は、はい……」
今日も相談に乗るという体で軽く話をして別れる。
それにしても友達が居ないだの家族に頼れないだの言ってた百舌ちゃんが友達を心配して相談する迄になるだなんてな。
俺が居ても居なくても同じだったかも知れないが、役に立った所があるなら嬉しいな。
「……行っちゃった。もう少しお話を……ううん、我が儘は駄目」
大和さんが去って、その背中を見送っていると何時の間にか公園には誰も居なくなる。
やったぁ……あの人以外の人間なんて居なくなるべきだもの。
『随分と仲が良さそうでしたね、百舌ちゃん』
「見てたんだ。うん、そうだよ。私を助けてくれて、私に優しくしてくれる人。あなた達精霊さんと同じ私のお友達なんだよ……影女さん」
『それは重畳。それは兎も角、やってもらいたい事があるんですよ。お友達としてお願い出来ますか?』
断る理由は無い。昔から私のそばに居て、彼等が見えるって言っても信じてくれず嘘つき扱いした人間とは違う私のお友達。
「へへ、えへへへへ。精霊さんの為なら……何でもするよ」
小さい頃から私にだけ見えた精霊さん、大切な大切なお友達。
「ふぇ……ふへへへへへへへへ」
だからね、絶対に役に立つの。頼られるのが嬉しい、友達の役に立てるのは幸せ。
人間は嫌い……一部を除いて、精霊さん達は大好き。
だからね、もっともっと役に立って、大勢の精霊さんとお友達になるんだ。
「こっちは夜勤明けだってのに五月蝿いんだよ、ダボハゼがぁあああああっ! うちの病院に入院希望かよ、あぁんっ!」
響いた怒声に身がすくみ、幸せな気持ちが消え去っちゃった。
「五月蝿い……迷惑……消えちゃえ」
ポシェットに普段から入れている物に手を伸ばすけど、多分私よりも小さい子の叫びが聞こえたのは公園とはフェンスを隔てた先に建っているボロボロのアパート。
壁は黒ずんでいる上にヒビまで入って随分と年期の入った建物というのが感想。
入居者募集中の看板だってサビが浮き出ている上に落書きをされているし、割れた窓を放置している部屋もあった。
「……もう行かなきゃ」
これ以上人間の存在を感じる場所に居るのは嫌だったし、直ぐに立ち上がって人が通らない裏道に向かう。
両親は私を居ないものとして扱うし、部屋にこもって窓のカーテンとドアの仕切りを閉めれば私の世界から異物は消え去ってくれる。
本当に人間なんて消え去れば良いのに。
闇病みメーカーで作成
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