三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「あーもー……」
狭いアパートの一室、本当に狭くて多分実家の玄関の半分程度の広さしかない上にすきま風も酷いボロボロの建物。
実家では使用人が掃除してくれていたから掃除なんて引っ越す前にやり方を一頻り教わっただけだ、面ど……慣れない作業だから疎かになるし、結構汚く見えるけれどペラペラの敷布団に寝転んだまま本とかに手が届くのが便利で仕方がないね。
そんな部屋の中、超絶美少女な私は悶えていた。
「ファーストキスだとか、そっちはどうなんだとか……あーもー! あーもーあーもーあーもーあーもーあーもーあーもー」
グルグルグルゴロゴロゴロ、羞恥心で赤く熱くなった顔を両手で多いながら左右に転がるけど、狭いから壁に即座に激突しそうだ。
まあ、鍛え抜かれた美少女である私がそんなミスを犯したりはしないさ。
少しゴロゴロ動けば落ち着いて動きを止めて資料に耽る。
「凄かったな、あの時のアレ……」
唇に指を当てて彼から霊力を貰った時の感覚を思い出す。全身に電撃が走った様な衝撃と頭が蕩ける様な快感、一人暮らしを始めてから試しに指を使ってやってみたけど、あれとは比べ物にならなかったな。
「ふわぁ……はっ!?」
思い出すだけで緩んだ表情が卓袱台に置いていた百均の鏡に映り込むけれど、自分で見ても情けないと言うべきか淫靡と言うべきか、私、こんな顔を会ったばかりの異性に見られたのか……。
更に言うなら見栄を張って如何にも余裕って顔をして、上から目線の発言。
あ、あと、寝た振りをしていたら彼が喋ったけれど、惚れたって言われて……。
「うわわわわわわわわわわわわっ!?」
頭が一瞬で沸騰して、何にも考えられなくなって激しくゴロゴロ転がると狭いので壁が迫って来たのを思わず殴って止まったんだけれど……やばっ。
このアパートってボロボロで壁が薄いから少し騒いだだけで隣の音がよく響く。
私の部屋は一階の角部屋、ただでさえオンボロアパートの上に事故物件、何でも前の住人は浮気者の夫が浮気相手と一緒に事故死した上、新しい男に無理心中させられたとかで家賃がお安いんだ。
折角の一人暮らし、実家からの最低限の仕送りから遊興費を捻出しつつ遅くまで寝ていても学校に遅刻しないって条件を満たすから多少の狭さは我慢するさ。
「やらかした……」
ただ、隣の住民が面倒なんだよなあ。
小学生かって身長に童顔だけど非常にガラの悪いスカジャン愛好の喫煙者。
あれで看護師だってんだから驚きだよ。
「こっちは夜勤明けだってのに五月蝿いんだよ、ダボハゼがぁあああああっ! うちの病院に入院希望かよ、あぁんっ!」
思いっきり叩き付けた手は薄い壁に穴を開け、バッチリと目が合ったのは件の合法ロリヤンナース。
一人暮らしだからって夜遅くまでゲームしてたら五月蝿いって怒られたし、ゴミ出しでも結構厳しい。
確か大家さんの親戚だったっけ?
ああ、マジギレしてるよ、怖いなあ。
「ったく、壁に穴開けやがってよぉ! こりゃ直すのが大変だぞ。……金も掛かるからな」
「……ぶ、分割で」
雨宿り討伐の報酬は来月振り込みだし、今月は少ない貯金と弟に借りたお小遣いでカツカツなんだ。
取り敢えず報酬が良い仕事を回して貰わないとね。
……その為には彼が必要かな?
金だよ、金金、世知辛い事に暮らして行くには金が要るけれど、同時に命あっての物種だ。
あーあ、実家に居た頃はお金を稼ぐのがこんなに大変だったなんてさ。
「ところで相談良いかな? 歳の近い異性と親密になるコツって知って……いや、何でもないよ」
「うぉいっ!? 絶対反省してねぇだろ! てか、なぁんで途中で止めた? 言ってみろよ、あぁんっ?」
……バレたか。
「あ痛たたたたっ。あの人も絶対トンチキ流派のデタラメ人間だな。霊力も使わずに強化した私にこんなダメージを与えるんだからね」
合法ロリヤンナースことたんぽぽさん、随分と可愛らしい名前だった彼女から受けた拳骨のダメージに、暫く経った今でも時おり悶えながら町を歩けば誘惑が次々と現れる。
肉屋の前を歩けばコロッケを揚げている匂いが漂うし、確か今日は長く続く名作アクションゲームの新作が発売される日だ。
一歩でも立ち止まれば、PVだけでも見ようと店の中に入れば、そんな事をすれば寂しい財布の中身が更に悲惨な事になってしまう。
「一人暮らしになった嬉しさと家を半ば追い出された自棄さで散財さえしなければ……」
今になって恨めしく思うのは最新型のゲーム機が中古で売られていたのに飛び付いてしまった自分自身の愚かさ。テンションが上がってソフトまで何本もダウンロードしてしまえば今月の生活費なんて殆ど消えてしまっていた。
散らかるからとダウンロード版にしなければ駄作だったやつを売って少しは取り戻せたものを……。
「小腹が減ったな。モヤシ炒めじゃお腹は膨らまないよ」
自由時間以外で勉強も修行もせずにゴロゴロしてたら怒られはするけれど、時間になれば出してもらえていた家のご飯が既に懐かしいよ。
「取り敢えずスーパーにでも行って……はぁ」
世の中の世知辛さに何度目かの溜息が出る中、私は路地裏へと続く道の前で足を止めた。
強化した嗅覚で捉えたのはゴミや排気口から出たであろう悪臭と、それに混じる血の匂い。
「わざわざ探して倒すのは馬鹿の行動だけれど、修繕費の足しにさせてもらうよ」
そして同時に下位程度の妖魔の気配を捉えた私は路地へと足を踏み入れた。
掃除が行き届いていないのか余程マナーが悪い連中が使うのかポイ捨てされた空き缶やマスクや煙草の吸い殻が散乱する薄暗い路を通る中、表通りから聞こえる車とかの喧騒に混じって通路の奥から何かを貪る音が聞こえてきた。
グチュグチュと水気のあるものを夢中になって貪る何か。
「いや、違うか……」
近くまで来たけど、そうしたら肉を食い漁る音に続いて何かを吐き捨てる音が聞こえて来る。
「成る程ね。どうしてこんな町中で出現したのかは知らないけれど、何が居るのかは分かったよ。出ておいで、
血の匂いは濃くなって行き、曲がり角の壁に向かって中身が少し残った空き缶を蹴り飛ばせば音が止む。
カタカタと鳴る音、固い足で地面を踏みしめる足音。
曲がり角から姿を見せたのは古びて黄ばんだ大型犬の骨格に無数の骨が絡み付くように接合した姿の妖魔。
咥えているのは血肉のこびりついた動物の骨で、それを骨だけの体で噛み砕いて飲み込めば肉だけが残って、たちまち背骨から食べたばかりの骨が浮き出した。
「ビンゴ! ……外れてたら恥ずかしいところだったよ」
骨抜き恐骨、下位から中位に分類される妖魔であり、内骨格を持つ動物を襲って骨を奪う。
あの音は肉を吐き出す音だと当たりを付けたが、ちょっと今後は控えないと恥ずかしいかな?
『チカラ……ヨコセ』
骨抜き恐骨は頭を地面に擦り付ける程の前傾姿勢のまま空っぽの眼窩の奥を濁った光で満たしながら唸り声を上げ、結合した骨と地面が砕ける勢いで飛び掛かって来た。
「……ふぅん」
まあ、下位の中の下ってところか。
服の中に仕込んだ小太刀の片方、名は
鞘から抜き放つと同時に骨抜き恐骨の真下を滑り込みながら刃を添える。
力はそんなに込めなくても良い。
ただ、刃が頭蓋骨から尾骨の先までを通り過ぎる瞬間に霊力を刃に集中させるだけ。
豆腐を研いだばかりの包丁で切る様な手応えで刃は通り、そのまま立ち上がると同時に鞘に納めて歩き出す。
骨抜き恐骨が地面に落ちる音を待つ必要はないさ。
あの程度の妖魔がこの呪具を受けて耐えられる訳が無いからね。
「ちぇ。私程度の霊力じゃまだ扱い切れないって事か」
呪具は文字通りに呪われた道具、ちゃんと霊力という餌をやらなくても力は発揮してくれるけど、私みたいにちゃんと霊力を注いでも足りなければ反動を受ける。
手の平に感じるピリピリとした痺れと針で刺した様な痛み。
「それにしても骨抜き恐骨がこんな町中に出るだなんて、一体何があったんだ?」
普通はこんな所で発生するタイプの妖魔じゃない。弱いから発生したばかりの個体なのは間違い無いけれど、これはちょっと零課への報告と調査依頼が必要だね。
「よしっ! 今晩には対面して報告しよう。そうすれば晩御飯代が浮く」
骨抜き恐骨を倒した分の報酬も来月だ。どうにか前払いで貰いたいけれど……。
「桁違いの霊力を持つ霊給者が見付かったんだ。実家から借りられると良いんだけれどね」
多分無理だろうとは思うけれど、やってみるだけやってみようかな。
彼、今頃何をしているのかな?
「もっと仲良くなりたいんだけれどね……」
公私含めてそう思うよ……私2公8の割合でね。
「分かっているであろうな。此度の狼藉、この甘味程度では七割しか減刑は許さぬ」
「愚か者め。甘味程度で七割も減刑出来る訳は無いだろう。精々が四割だ」
百舌ちゃんとの会話後、ご機嫌取りのスイーツを手に帰宅した俺を待ち構えていたのは不機嫌そうな二人の姿だった。
腕を組んで威圧感を発しながら俺を睨みながらリビングへと連行、今は罵倒しながら俺を道具の様に扱っているところである。
「いや、プリン程度でそれだけ減刑……」
現代日本のスイーツ凄ぇ、そんな事を考えつつテレビの画面を見れば、本日販売したばかりのゲームの映像が映し出されていた。事前に予約購入していたので、すぐに届いたのだ。
「なあ、俺も遊びたいんだが……」
「余達がクリアした後なら構わぬぞ」
「ああ、存分に遊ぶが良いぞ」
普段は日常との境界線として俺以外だと妖魔やらの存在を知っている関係者の前にしか姿を表さないのにゲームを受けとる時は姿を出しやがったよ、助かったけどっ!
画面では世界的に有名な兄弟が跳ね回ったり衣装を変える事で発揮する特殊能力を発揮して三面のボスと戦っているところだ。
買ったのは俺なのに、先に始めている上に今日はやらせずに正座で見ているだけなんだとよ。
「不服そうな顔であるな。余達を放置していたお主に非があるのだぞ」
そんな俺の膝を枕にして寝転がっているドロシーは不満そうに俺を見た後で、すぐに画面に目を向ける。俺に意識を向けた瞬間にボスの攻撃を受けてドロシーが操作するキャラがやられてしまい、お玉が操作するキャラも残り一撃でやられるところだ。
「もう残機が残ってないんだったよな。ほれ、頑張れ頑張れ」
目の前ではやりたかったゲームがプレイ中なのに何もしないのは手持ちぶさただとドロシーの頭に手を伸ばして頬を挟むとムニムニと動かす。これって楽しいんだよな。
モチモチプニプニの肌の手触りはお玉のスベスベツルツルの吸い付く肌とは別の触り心地だし、顎やら頭を撫でている時の心地良さそうな反応は犬を撫でているみたいなんだよな。
「もう少し顎の奥を撫でぬか。うむ、うーむ。余は心地好い気分であるぞ」
妖魔になっていようがフランス王家(自称)、正面切って言えはしないが人懐っこい犬みたいな奴だよな、此奴。
「……おい。其処の足手纏いは既に落ち、残ったのは我なのだが?」
そしてもう片方、ドロシーが膝を枕にするなら、ソファーに座りながら俺の肩を足置きにしているお玉の不満そうな声とともに、右肩に乗せられていた足が持ち上げられ、続いて勢い良く振り下ろされるのを腕で掴んで何とか止める。
「悪い悪い。頑張……れ」
「……」
さて、此処で失敗が一つ。
俺の肩に乗せた足を高く振り上げた状態で掴み、そのまま持ち上げればどうなるだろうか。
尚、俺は振り向いた状態であり、着物姿のお玉はノーパンとする。
俺の耳に届いたのは敵の攻撃が当たって死んだキャラの悲鳴と、それに続くゲームオーバーの音楽。
「……」
俺の肩からお玉の足が退けられ、ソファーの上で立ち上がったお玉は目の前に現れた蒼白い炎に手を突っ込んで一振りの刀を取り出した。
純白の骨で作られた柄と鞘を持つ刀で、刃は酷くガタガタとしていて傷口が悲惨な事になりそうだ。
マジギレお玉にマジで切られる五秒前……なんちゃって、冗談言ってる場合じゃないな!
「いやいやいやっ!? 今のは半分しか悪くないだろ、俺っ!? チラッとしか! チラッとしかみえなかったからっ!」
このまま斬られるだなんて冗談じゃないと必死に弁明をするがお玉は無言を貫き、刀は構えたままで今にも振り下ろされそうだ。
おいおい、そもそもノーパンで人の肩に乗せた足を振り上げたのはそっちの方だし、普段から抱いてやるとか言ってるよなっ!?
「そう考えると少し可愛いな」
「安心せよ、大和。お玉とて殺す気はない。それにちゃんと後で余が治してやるからな。治癒の術を使える余に感謝せよ。見せるのは切られたショックを癒す為の混浴の時で良いであろう?」
「お、おう。それは次の機会にして、出来れば怪我しないようにお玉を止めて欲しいんだが……」
「無理だな。……まあ、後で癒し系である余のも見せてやるから大人しく裁定を受けよ」
最低だよ、このいやらし系!
「……興が冷めた」
だが、助かった。何でお玉が怒りを静めたのか知らないけど。
「これでドロシーのは見る必要は失くなっただろう? それよりも……仕事のメールが入っているぞ」
少し怖いし、後でちゃんと謝ってから機嫌を取らないとな。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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