三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
妖魔はどの様な場所に存在するか? その問い掛けへの答えは多岐に渡る。
誰も足を踏み入れていない廃屋? 山奥の濁った池の底? それとも警備員さえ帰った夜の学校?
そう、どれも間違いないだろう。妖魔は人の放つ負の念によって生まれ、人が抱くイメージによって形作られるのだから。
不気味な姿をしただけの底位の存在も嫌悪感を抱く見た目という無意識からその姿を得た。
つまりだ、多様化が進み、情報社会として日々数多くの人々が自分が知り得た事、真実虚偽妄想問わず広め続ければ妖魔はそれに合わせて生まれ落ちるのである。
そもそも学校に出るのも其処を舞台にした怪談の広まりによる産物であり、妖魔の存在する場所とて社会の発展によって増える。
『楽しいなぁ楽しいなぁ。皆、悪い事が、人を傷付けるのが好きなんだもの』
発展した情報社会、インターネットは世界中に広がり人々の悪意も匿名性によって増幅されて……その妖魔が意思を持つデータ、電子妖魔とでも呼ぶべき存在として誕生したのは必然だった。
ミツメアザリ、元は下位から中位と格付けされる妖魔であり、悪意は持つが自分の手は汚したくないという負の感情から生まれ、術によって額に目玉の模様が浮かび上がった人間は欲を抑える枷を外して暴走状態に陥ってしまう。
そしてミツメアザリは額の模様を通して苦しむ被害者の嘆きを嘲笑うのだ。
ネットで悪者とされたから匿名で好き勝手に叩く。
詳しく知らないが好き勝手に非難する。
ミツメアザリにとって今の情報社会はわざわざ動かずとも十分楽しめるが、そもそも動こうにも何も出来なかった。
負の念で構成されていようがデータはデータ、それらしい情報を送り込む事は出来ても実体を持っている同族と違って人を操る術は使えない。
電子妖魔ミツメアザリには扇動や誘導は可能でも洗脳は不可能……だった。
『やっほー。この音声は僕が適当に話したのを再現して流してあるよ』
日々匿名で流れる悪意を流れるまま眺めるだけの日々に飽きが生じ始めた時、ポリゴンで作られたパンダが現れた。
何故か背後に糞上司やら性悪王だのと罵詈雑言の文字が流れているがミツメアザリには人の悪意でなければ無意味な事、それよりも差し出された霊力の塊の方が重要で、気が付けば手を差し出してそれを受けとる。
『ヒヒ、ヒハハ、ヒハハハハハッ!!』
身体中を駆け巡る膨大な霊力、己という存在が別の次元へと昇華される実感、この日よりミツメアザリの日々はより充実した物になった。
動画再生サイトに投稿された何の変哲も無い動画に紛れ込み、検索結果から内に抑圧された物を抱えている者の前に現れる。
黒くガッシリした人型。頭は大きな白い紡錘形で、中心にはニヤニヤと笑う三つ目の黒い面のような顔があり、遠目には大きな一つ目。
動物の戯れる姿を撮った可愛らしい画像が突如切り替わり、一切の操作……パソコンの電源を元から切ったとしても消えない映像の中で遠くからその存在が接近する姿に目を離せない、この時点でミツメアザリの術中に嵌まった犠牲者がどアップになったミツメアザリと視線が重なった時、その額に目玉の模様が浮かび上がるのだ。
『楽しいな楽しいな。少し後押ししただけで人間は簡単に……あら?』
電子妖魔はネット上の存在だ、当然だがその存在はデータによって構成されている。
故に現実側から攻撃を仕掛けてもパソコンが壊れるだけ、ネット上を自在に彷徨う相手には何の影響も与えないが、データ故に対処法も存在するのだ。
相手がデータならデータを破壊する方法で、今まさにウイルスがミツメアザリの元に迫って来ていた。
『こんな短期間で感付いたのは凄いけど、無駄なのに随分と暇なのね』
次の獲物を誰にするかSNSへの書き込みや検索履歴からの物色途中、己を害しようと迫るウイルスの存在に気が付いても余裕は崩れない。
前までの対ウイルス性能は市販の対策ソフトに毛が生えた程度であり、プロのハッカーからの攻撃には少々厳しいものがあったが、謎のパンダより力を授かった今であれば対ハッカー部隊が充実した国の最重要機密を守る防衛システムよりも遥かに強固であり、逆に送ってきた相手を洗脳してしまう程。
『……え?』
その防衛システムが一切機能しない。ファイヤーウォールも破壊されたデータの修正プログラムも対攻性プログラムの全てが解析され無効化されてミツメアザリにウイルスが届く。
データの海に逃げ出すも道を塞がれ、その体を構成するデータが解析され分解されて行った。
あのパンダがそうであった様にウイルスを通して音声が再生される。
「たとえ妖魔であろうとプログラムで構成されているなら、ボクチャンの領分でもあるサ! はーいクラッキング爆弾どーん!!」
ウイルスの勢いが爆発的に増幅、一切の抵抗が無意味に終わり、虫けらの様に踏みにじられる。助けを求める声すら出せず、思考することすら秒で不可能となったミツメアザリはネット上から一切の痕跡すら残さずに消え去った。
そのウイルスの送り元……零課の支部にて四つのパソコンを同時に操る女性は笑みを漏らしながらグッと伸びをして、手元に置いてあったエナドリを喉に流し込むとゴミ箱に放り投げるのだが、ゴミ箱に届かず底に残ったエナドリを撒き散らしながら床に転がった。
「ボスボス~! 犯罪を誘発させていた妖魔を解析したし、その結果から自動撃破システムをボクチャンの相棒達が精製してネットにばら蒔いておくゼ!」
「よ、良かったぁ。じゃあ、後は警視庁に連絡して犠牲者への対応をしてもらいますね、
「ノンノンノーン! ボクチャンはククルルだぜ、マイボス! んじゃ、ボクチャンは一仕事終えたし、彼を迎えにいくついでに新車を受け取って来るゼ」
彼女からの報告を受けた勇の返事を途中で遮った彼女は机を蹴って椅子のキャスターで壁まで移動すると、大きく足を上げて飛び降りる。
そのまま袖が少し長い手を軽く左右に振って少しフラフラした足取りで部屋から出て行った。
「あれ? 倉持さん、ククルルって何徹目でしたっけ?」
「一応気絶明けですが、睡眠はとってますよ」
二人は軽く言葉を交わすと手元のブラックコーヒーを飲み干した。
「ヤッホー! 超絶美少女ハッカー・ククルル参上だゼ星!」
肩まで伸ばしたコバルトブルーの髪にオレンジのメッシュ、語尾に★マークを言葉で付ける妙なテンション。動画配信者みたいなド派手なファッションにサングラスを掛けたスーパーハイテンション。
ガルウィングを開いて親指を立てながら白い歯を見せて不敵な笑みを浮かべる姿は端から見れば真っ当な人には見えないっつーか、ちょっと痛い人だと思ってる。
「ところでククルルさんって公務員でしたよね?」
「イエス! 但し! ボクチャンを公僕だと侮るのはハイリスクだからね」
そう、この人って公務員なんだよ、何度会っても未だに信じ難いけど、公安のお偉いさんからのスカウト枠。
未だにマジでって思うんだが、マジなんだよな、と信じ難いものを見ながら車に目を向ける。
車高の低い真っ赤なスポーツカーは新車の輝きを放っているけれど、同時に真新しい擦った傷が幾つもあって、前面部分も荒れ道でガリガリと削ったらしい傷だらけ。
そんな彼女の名前、いや、通名はククルル。本名も実年齢も俺は知らないが零課所属の天才ハッカーだ。
「ククルルさん、免許持ってましたっけ?」
「激務の合間を縫って何とか昨日ゲットしたんだぜ、大和ボーイ。まあ、ミステリアスレディなボクチャンの個人情報はトップシークレットだから見せられないんだけどね」
「……はあ」
免許証の写真や名前の辺りを指で隠しながら見せびらかす姿は嬉しそうだし、零課の大変さは送り迎え中の会話だけでも伝わって来るからな。
勇さんも漸く大型バイクの免許取れたって言ってたし、貴重な休日を教習所に行くのに使っていたかと思うと苦労が偲ばれる。
「何と言うか、大変だったんでしょうね」
「大変だったんだゼ!」
ただ、ククルルさんの場合は主に実習で隣に座る教官の人の前まで今のテンションの相手をしていたであろう事だけれど……。
「やっべ……」
この時、突風が吹いて伸ばした手に収まっている免許証が飛ばされたかと思うと俺の足元に落ちたんだ。
「うん? いや、当然か」
免許証の写真のククルルさんは普通に黒髪で真面目そうな表情だった。それと本名は……。
「ストォップ! レディのシークレットは見ない振りがジェントルの行いなんだし、口に出したら怒るからね!」
「……はあ」
「その意表をつかれたって反応だけど、よくよく考えてみるんだ、ボーイ! 漫画に出て来る偉そうな喋り方のキャラだって面接を突破しないと入学も入社も無理なんだ。つまり面接官相手にはですます口調で……いや、本当に忘れて。特に年齢の部分」
「はい……。ところで早く行きませんか?」
目立つんだよな、この人って。
ド派手な車と衣装で彼女自身も目に痛い。今は周囲に猫しか居ないが、誰かが通れば印象に強く残りそうだし、支部に行くなら目立つ前に、だ。
うん? この車でこの人と
「別の車って有ります?」
「遠慮せずに乗るんだよ、ボーイ。暇はないけれどお金は貯まるからね。三台分の金を注ぎ込んで海外から取り寄せたボクチャンのスペシャルカーにサ!」
どうしよう、絶対に乗りたくないんだが……。
不安だらけの中、乗りたくないが乗らざるを得ない俺は家の中にダッシュして帽子とサングラスとマスクを用意すると誰かが来る前に急いで車に乗り込む。
「うぉ……」
金を掛けたってのは本当だったんだって座り心地に思わず声を漏らすのだが、シートベルトに手を伸ばした時には既に車は動き始めていた。
方向転換の為にバックしたと思ったら門にガツン、アクセルを急吹かして一気に最高速度まで到達すると壁にガリガリ擦り付けながら進むものだから猫達は一目散に退避して安全な場所からこっちの様子を窺う姿は一瞬で見えなくなった。
「はっはっは! 海外の退魔士に頼んで乗車中の安全は確保されてるんダ!」
「その代わりに車がボロッボロになってますよね? それと交通ルールってご存じですか?」
「知ってないとテストは受からないよ? ボクチャンの頭脳なら一発合格だったよ」
実技担当! 実技担当は何をやってたんだっ!?
こんな無茶苦茶な人、普通に試験落ちるだろうっ!
そんな俺の心境なんて知りもせずにククルルさんはグッと親指を立てて笑みを向ける。
次の瞬間、ガツンという音とともに車は止まった。
「えっと
はい、そして只今事故の現場検証の真っ最中。手慣れた感じで街路樹に衝突した車を調べているけど前側が完全にへこんだ上に正面からぶつかった木が上から叩きつける形で倒れかかっており
「め、免停ですか?」
「まあ、確実にね。でもさ、二度と乗らない方が良いって、君は。今年で二十二歳なら分かるよね?」
遠い目をしながらここに続く道の惨状を眺める彼に俺は静かに頷くだけしか出来ない。
「取り敢えず合格出した教習所教えてくれる? 思いっきり抗議して来るから」
ですよね……。
結局、この後で倉持さんが迎えに来たのでククルルさんとは一旦別れる俺だった。
「やあ、大和先輩。先日以来だね」
「お、おう……」
俺が支部に到着するとエレベーター前で小姫が出迎えてくれる。さっきの悪夢のようなトラブルで生じた時間のロスがこれに繋がったのなら別に良いかと思える中、勇さんの所に向かう最中に俺の意識はある一点に集中されていた。
あの唇が……。
君が欲しい、まるで求婚の言葉みたいなそれに関わるファーストキス。
其がどんな理由から行われた行為であっても惚れた相手からキスされたとか、向こうもファーストキスだとか知ったら意識せずにはいられないだろ?
緊張して右手と右足が一緒に出やしないかと心配になる中、扉を開いた先では深刻そうな顔の勇さんが待っていた。
「っ!」
目の下の隈から徹夜が続いてるんだろうが、其以上に今回の依頼が深刻なものだってのを見るだけで告げられた気分だ。
こっちに敵意がある訳でもないのに威圧感が凄まじいな……。
「お二人共来て下さり感謝します。今回、連絡を受けて調査した結果、例の女性は呪具を使用した一般人である事が断定されました」
「やっぱりな……」
あの底位に群がられた姿が以前目にした状態……規模はずっと小さいが同じだったから予想しちゃいたが正解だったか。
でも、人を呪わば穴二つ、扱いきれない呪いの力がこびりついて底位の餌場になっちまったってのは分かるんだが、飢餓状態みたいなのは何でだ?
「そしてもう一つ。反魂香が……正確にはその紛い物が使われたのでしょう。関与する妖魔の名は
応援お待ちしています
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
-
五凶星 ごきょうせい
-
悪六烈 おむれつ
-
七福塵 しちふくじん
-
四従死地士 しじゅうしちし