三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
死者の蘇生ってのは国や宗教問わず古今東西に結構逸話が残っているらしい。
ギリシャ神話では死を治療する薬を作り出した医者が居たし、キリストだって処刑されたけれど復活した。
富と権力を手にした後は不老不死を手に入れたがる、ってのも有りがちな話だよな。
反魂香もその手の類いで、死者の復活ってよりは死者の魂を呼び戻して姿を目にする為の道具……らしい。
いや、俺ってその手の話に疎いからな。
漢の武帝が夫人の死後にそのお香を炊いて煙の中にその姿を見たって話らしいけれど……。
「本来は死者との会合を果たすのみの道具ですが、今回使用されたであろう物も含め、死者が蘇りもしなければ幽霊なんて物も本来存在しません。死者は死者、死んだ時点で終わりなのですから」
……そう、勇さんが今口にした通り、死者の蘇生なんて存在しないし、底位に分類される人の姿をした妖魔だって正確には人っぽい姿をしていて、人の記憶を元にそれっぽい言動と姿をしているだけの存在だ。
母さんは学者としての考えで死者に祈る行為は無駄だって言ってたが、あれは実際生きてる奴が心の整理をする為だけの行為なんだよな。
「じゃあ、前に関わった猿の手の逸話みたいな事が起きてるんですか?」
俺が一度関わった呪物の名は猿の手、使用者の願いを叶える代わりに不幸を呼び込む使い勝手最悪の道具だ。
何せ逸話では屋根だかの修理費を欲しがったら息子が仕事上の事故で死んで、見舞金が入ったってやつだからな。
俺が関わったのは本来五本の指が一本しかない劣化品、呪いの力も本来の二割以下……俺としては助かったけど、猿の手の話の続きは……。
「まあ、反魂香……偽物とはいえややこしいから今回は便宜的にそう呼ぶけれど、一度関わった事があるから知ってるよ。簡単に説明すると死体を妖魔に明け渡す呪いだよ」
使用者の生気を奪い続ける事でね、と皮肉気に笑みを浮かべる小姫だが、猿の手だって似た感じだ。
息子が帰ってくるのを望んだが、扉を叩く音と声を聞いて悲惨な姿の死体を思い出してしまうんだからな。
多いんだよな、そういう話。
ゾンビやら吸血鬼に噛まれた場合やら化け猫やら、死体を弄んで残された人を苦しめるって話は本当にいたたまれないんだ。
「幾ら超常的な力である霊力であろうとも、死者蘇生なんてのは人の理を越えすぎているのさ。ゲームだって蘇生呪文は消耗が激しいだろう?」
「成る程な……」
「伝承の死者の復活なんて完全な作り話か幽霊擬きか死体を操る妖魔……それと極々希なケースとして高い霊力の持ち主が魂を呪われて妖魔になった場合だね。あれは肉体が壊れた後で妖魔になるから端から見れば生き返った風に見えるしね」
「……」
今回の一件を引き起こした呪具については分かった。
誰がどうやって一般人に渡したのか、あれだけの底位が現れている理由は不明だが、それは零課の仕事。
俺がするのは妖魔の相手、それ以外は出来ないんだから今はそのことだけを考えていれば良い。
「煙々羅ならクソ、じゃなくてメスガ……こほんっ。親戚と一緒に戦った……のを手伝った、とも言えない事はないよ。厄介な能力を持っているけれど初見殺しに近いからね」
どうも歯切れが悪いというか、以前一緒に戦ったっていう奴が気に入らないって様子だ。
苦虫を噛み潰した様な顔で語りながらメモに走り書きで情報を書いて行くが、多分年下なんだろうその子については聞かない方が良いか……。
「それで、いつ頃相手をするんだい? 私としては呪具を使ったらしい女の人が死んでからをお勧めするよ。死者の体を維持出来なくて追い出された時は一時的に弱体化しているからね」
「……そうか、それが退魔士としては普通なんだよな」
「そうさ。退魔士は妖魔を倒す為に存在し、より多く、より強い妖魔を滅する為に万全を尽くせと、そう教わるからね。目の前の人助けはあくまで副産物。医者が激務で体を壊して早々にリタイアしたら長く続けた時より救える患者が減るのと一緒さ」
小姫の言葉は一見すると人の命を天秤に乗せて数字で判断する、そんな非情なものに聞こえるだろう。
だが、惚れた相手云々が無関係に俺はそれを否定出来はしない。
人の負の念から産み出され、考えや問題の多様化と共に決して数も種類も尽きない化け物を相手にするのが退魔士で、出力お粗末な三流の俺でさえ勝てる時に勝とうとするべきだってのは理解しているんだ。
「……そうですよね。私達は戦えない身、後方支援しか出来ないのに、一人を助ける為に危険を冒して欲しいとは言えません。災害等の救助でも隊員の身が余りにも危険ならば即座に救助活動を行うとはなりませんからね」
そして俺以上にそれを理解しているのが勇さんを含む零課の人達だ。
調査が間に合わなかった、協力体制を整えている途中だった、万全を来そうとした結果に犠牲者が出ただなんて一回や二回じゃないんだろう。
そもそも闇に潜み不意に出現するくせに普段から認識が可能な人が限られている妖魔が相手なんだ。
後手に回るしかない上に、戦える人が限られている以上は急いては事を仕損じる。だから犠牲者が出る事を背負っていてはキリが無い。
……此処までは理解や理屈の話、実体験として正しいと分かってはいるんだが、犠牲者が出るのを許容するのは理解じゃなく納得の問題なんだ。
しなくてはならない。してはならない。二律背反するそれらに俺が思わず暗い溜め息を吐き出しそうになった時、その口が塞がれる。
唇に当たる柔らかいもの、小姫の指が俺の唇に優しく当てられていた。
「……まあ、今後長い付き合いになる間柄だ。その人の為じゃなくて、零課の人達と……何よりも大和先輩、君の為に頑張ろうじゃないか。その代わりに協力には期待しているよ? 色々とね」
少し困った様な呆れた様な苦笑の後、間近に近付けた顔で可愛らしくウインクを見せる彼女に不覚にもドキリとさせられてしまう。
それに協力とか色々とか、其が何を意味しているのか考えてみると霊力の供給についてだよな……。
小姫の唇に視線が向き、唇同士が触れた時の感触や蠱惑的な表情が頭に浮かぶが、人の生き死にで落ち込んでいる時でもこれとは初恋が恐ろしいのか、それとも俺が単純なのか。
伯父さんが前に女慣れはしておけって言ってたが、少しだけ納得出来る……かも知れない。
またキスするんだよな……。
「ふふふっ」
尚、そんな考えはお見通しなのかクスクスと笑う姿にも見惚れてしまう辺り、俺は本気で彼女に惚れてしまったらしい。
こんな時に誰に相談すれば良いのか分からないが、取り敢えず恋愛経験が豊富そうなのは……。
ドロシーなら……。
「抱いてしまえば良いのではないか? 余が経験を積ませてやっても良いぞ。
寧ろそうせよ。抱かせるのだ」
伯父さんなら……。
「口説き落として抱いてしまえば良いじゃねぇか。よーし。俺様の伝で経験豊富で指導が上手いのを手配してやるか」
駄目だ、爛れた恋愛観の二人に相談してもこんな感じになりそうだし、どうやってその行程に持って行くかが分からないんだっての!
「それでは私達は各種機関へ連絡を入れておきますね。倉持さん、取り敢えず消防局と警視庁からお願いします」
「死体を乗っ取っているし、何処かに誘い出す必要がありますよね? まさか家に火を放って逃げ遅れたという扱いにも出来ませんし」
「不発弾は先々月に使ってしまったばかりですからね。いえ、寧ろ調査を続けた結果に判明した事にするとか?」
そういった方向への興味だとか俺の偏見もあったとしても相談相手が当てにならない中、勇さん達は既に動き出しているし、俺達は邪魔になりそうだな……。
「ねぇ、先輩……」
ククルルさんは未だ戻って来てないし、所在無いから送って欲しいとも言えない状況の中、俺の隣に座っていた小姫は皆には聞こえない様にしたいのか耳元で囁いて来た。
「思うんだけど私達は互いについて理解しておくべきだと思うんだ。此処に居ても邪魔になりそうだし……二人きりになりたいから別の部屋に行かないかい?」
身を乗り出してもたれ掛かる事で小姫の体は俺に強く押し当てられる。
鼻腔を擽る甘い匂いに柔らかい二つの塊の感触だけでも頭が沸騰しそうな中での甘い囁き。
からかっているのか別の意図があるのか、それとも本当に?
二人がしそうなアドバイスが頭の中を駆け巡って、今の俺の思考はそっち寄りになりそうだが、此処が何処なのかって事が何とか理性を繋ぎ止めてくれる。
「伏塚支部長、私達は向こうの部屋で打ち合わせをして来るよ。車の準備が出来たら教えて欲しいな。じゃあ、行こうか」
俺の手に小さな手が重なって引っ張られる。
そのまま立ち上がって向かったのは廊下を挟んだ反対側の部屋、横に幾つか進んだ先だ。
その部屋の内装もドラマや漫画でチラッと見たのと似た感じになっていて、男女で入るのは少しだけ背徳感があるんだが、どうも変な風に思考が偏ってしまいそうになるな。
まだ高校生だって以前に此処がどんな場所か思い出せよ、俺。
ラブホテルだが、実際は妖魔に対処する公安の事務所だからな。ラブホテルなのは間違い無いんだが。
「それで打ち合わせってのは……」
今はちょっと小姫の顔を直視出来なさそうだし、部屋を見回している間に呼吸を整える。
呼吸音を抑えつつの深呼吸を数度、伏柄流で習った呼吸法はこんな時でも俺を助けてくれた。
「それじゃあ互いをもっと知ろうじゃないか。大和先輩、私は君にもっと好かれたいんだ」
この場所、この状況、この言葉。
もしかしてもしかしたら、そんな考えが一気に俺の頭の中に押し寄せて喉がカラカラに乾く中、小姫は冷蔵庫の中からお茶の缶を二本取り出すとソファーに座り、自分の横を手で軽く叩きながら俺を誘っていた。
「ほら、先ずは此処に座ってくれたまえ。時間がどれ程あるかは分からないからね。さっさと始めようか」
「お、おう……」
唾を飲み込んで小姫の横に座るも、俺は……。
「……まあ、これが私が今のところ実戦で使える程度の習熟度のものさ。派手なものもあるから全部は見せてあげられないけれど、雑魚相手に使って見せてあげるよ」
「とんでもないな。俺は強化しか使えないからな……」
俺は……脳内ピンクのドスケベです! 最低のゲス野郎です!
小姫の周囲には宙に浮く大きさ材質共にバラバラな針や糸、それらを使う術の中で室内でも使用可能な術を幾つか披露しつつ、先ほど述べた理由から此処では使えない術の説明を受け終えたのが今の状況だ。
「じゃあ、次は君のトンチキ武術のビックリ技……じゃなくて、武術の技がどんなのかを口頭で良いから教えてくれるかい? 共闘するなら互いの手の内は明かさないと事前の作戦立案や連携に響くからね。実戦で新技や隠し種を味方に初披露なんて許されるのは創作の中だけだ。情報を隠すべきケースもあるから一概には言えないけれど……」
私達の関係と状況は別だろう? と親しげな笑みを向けられると自分の汚さが身に染みて穴があったら入りたい!
そう、互いを知るとか云々は言葉通りの意味、連携の為に情報を共有しておこうって事に過ぎなかったんだよ。
そうだよ、得手不得手可能不可能を把握してこそのチームプレイだもんな。
事前に時間があったにも関わらず交戦時になって漸く そんな技が! とか仲間を驚かせるのは演出が必要なケースで十分、小姫は極々当たり前の事を言ってたに過ぎない。
「伏柄流の技っても俺は全部使える訳じゃないけどな。霊力で強化しないと未熟者用の技しか使えないのもあるし」
「構わないさ。君の事をもっと知りたいって言っただろう? あっ、教えてくれたらクローゼットにあるコスプレ衣裳の好きなのを着てあげても構わないよ? な、なな、生着
「いや、管理してるのは零課だから……」
流石にガキの頃から世話になってる人も居て仕事で付き合いがある人に服装のフェチを知られるのはちょっと……。
客を減らす為にネットの評価を下げようとしている癖にコスプレ衣裳が豊富なのは、退魔士には奇抜な服装で過ごすのも居るらしいからなのか分からないんだが、まさかメイド服だけでもフレンチだけじゃなくヴィクトリアン式や和式まで取り揃えてるとはな。
やはり着てもらうなら長袖ロングスカートの……。
「まあ、私もミニスカチャイナとかは抵抗があるし、君以外にも見られる可能性があるから止めておくとして……もう時間みたいだね」
「二人共っ! 緊急事態です!」
小姫の言葉から僅かに遅れて駆け込んできた勇さん達は慌てた様子だった。その手にしたスマホは通話が繋がっているままだ。
「急で申し訳有りませんが今すぐ出ましょう! 煙々羅……達が動き出しました!」
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