三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
カラスが鳴きながら巣に帰り、赤い空が影を伸ばす時間帯。本来なら帰宅途中の学生の姿や夕飯の買い出しに出掛けていた人達の姿が見える時間帯。
今は夕暮れ時、太陽が沈み始める時間帯、昼と夜の間、逢魔ヶ時がやって来た。
何時もだったらチラホラと姿が見える筈の人の姿が見えないのは周囲の道路を封鎖した警察組織の人達が理由、表向きは大規模なガス漏れの上に火災が発生した家まであるから。
「下がって!」
「撮影していないで避難して下さい!」
最初の頃は封鎖地点で集まった野次馬がスマホで様子を撮影していたが、異臭が漂い始めたからか慌てて逃げ始めたんだが、対岸の火事じゃなくなった途端にあんな醜態を晒すんだから呆れるよな。
姿を隠す為の車内からその様子を眺めながら俺は呆れるが、今は目の前の敵の方が重要だ。
「臭いな……」
「こんな大規模な作戦は初めてかい? 必要な措置さ。….ティッシュでも詰め込みたいけどさ」
俺達が並んで眺めるのは火災が起きているという事になっている立派な一軒家。
車庫も手入れをされていない家庭菜園もある庭付きも二階建て。
その一軒家は渦を巻く煙に覆われ、更には封鎖地区一体に蔓延するのは化粧品に似た薬品臭。
発生源は零課が用意したお香であり、ヘリからの撮影に都合の良い幻術を被せる物だとか。
必要な物だってのは分かるんだが、化粧品売り場の真ん中に立っている様な臭いは鼻を抑えたくなるな。
「因みに妖魔が嫌う臭いで通り掛かった奴が乱入するのを防ぐ役割もあるのさ。この規模なら……一時間辺り二千万円って所かな?」
流石公安、秘密部署で人員が限られているから超絶ブラックだけど予算や給料は桁違いって事だよな。
「二千万って確か父さんの年収がその辺りだったっけ?」
「私も実家じゃ年間のお小遣いがそんな感じだったよ」
え? 小姫に実家ってそんなに金持ちなのかよ。伯父さんも恋人にはそのくらい渡してたって話だが、この間まで中学生だった奴の小遣いが年額二千万って……。
「必要経費込みなのが惜しかったよ。私は道具も沢山使うし、月一万円も残らなかったかな?」
驚く俺の横で肩を竦めながら小姫は敷地内に一歩踏み出し、俺も慌ててそれに続く。
そして二本の足が敷地内に完全に入った瞬間、俺達は世界から姿を消した。
「話には聞いちゃいたが、こんな感じだったのか」
昔から存在した不審な失踪事件、人や獣や自分の意思によるものもあり、不思議と思うのは誤った解釈や無知からくるもの。
その例外が俺達の目の前の光景だったよ。
「神隠しとはよく言ったものさ。そりゃあ神という文字が名前にあるのも居るんだけれどさ」
確かに俺達が家の前に到着したのは夕暮れ時、空から降り注ぐ光も赤いが……赤の種類が違う。
まるで血の様な鮮やかな赤、それが透明な膜になって世界を包んでいる様に周囲一体が赤に染まり、あのお香の悪臭も家を渦巻く煙も消えて、代わりに屋根の上から俺達を見下ろす無数の視線。
品の良さそうな服装の老婆を中心に猫や犬や鳥とかのペットに多そうな動物達、そして子供の姿も幾つか。
「領域内でお待ちかねって訳か。反魂香を使ったらしい女の人……達は家の中かい?」
どうせ答えないだろうと分かっていながらの問い掛けを向けられた老婆達は当然何も答えない。
まあ、わざわざ領域……妖魔が住みかや隠れ家として作り出す異空間に誘い込んだ獲物にご丁寧に接する訳もないのは分かっちゃいたさ。
それにしても動物の数が多いのを見る辺り、ペットが亡くなって悲しむ飼い主を利用したって所か。
「じゃあ、作戦通りに行こうか。不足の事態には……」
「臨機応変だな」
別名出たとこ勝負な取り決めを口にしながら更に一歩踏み出せば屋根の上から俺達を見下ろす老婆達が大きく口を開けた。
蛇みたいに顎の間接を無視し、口が裂けるのも構わずに見せた口の中から俺達を見るもう一対の瞳。
途端にタバコやゴミを燃やす様な悪臭と共に口から噴き出したのは鉛色の煙で、蛇や長虫を思わせる形状で宙を游ぐかの様な軌道で漂う先端が俺達の方を向けば赤く光る目とボロボロの歯を持つ口が見える。
老婆から出て来た奴が一番大きく、残りはその半分の大きさもないし、霊力にも大きく差があるな。
「始めましてだね、煙々羅。周りのおチビちゃん達は育ち切ってないみたいだけど途中で出てきて助かったよ」
『ええ、そうね。私の宿主が残った香をお金目的で売ったの。大切に大切にされてるペットに毒のエサをあげて、子供が遊ぶ場所に罠を用意して』
『ウケケケケケ』
中央の一番大きい個体が喋れば周囲のも似た声で微妙にタイミングを外しながら笑い始める。
女の声だ、それも甘え声を無理に出している感じで、ぶりっ子声とでも称するべきな感じの妙な声。
『まぁ、でも……』
今までの妖魔とは別物だ。それがこの短時間で俺が下した評価だが、それは霊力だけを指してはいない。
確かに霊力は多いものの数日前に戦った雨宿りとどっこいどっこい、同じ種類の妖魔と群れている事、何よりも言葉から明確な知能があるというのが感じ取れたからだ。
今までの暴れるだけの奴とは違うってところか。
俺が警戒を募らせる中、煙々羅は小姫に視線を向けて醜い口元を更に歪める。
朧気にしか認識出来ない表情にも拘らず声と共に感じられたのは嘲笑だ。
『育ってないのはお嬢ちゃんもではなくって? ブラブラブラブラ余計な脂肪の塊を二つもぶら下げてるけど身長が全然育ってないし、何よりも霊力が……』
「火来針」
大きく笑う周囲に合わせて大きく開けた口の中、小姫が投げた真っ赤な針が飛び込むと同時に炎を噴き出した。
針を中心に周囲一体に散る炎は圧力と共に熱をばら蒔き煙々羅達を吹き飛ばす……いや、違うな。
「不意打ち失礼。どうせ互いに淑女的に戦う気なんてないから良いだろう?」
確かに団扇で扇いだ様に煙の体は散ってバラバラになりながら薄くなって行くが、カメラ映像を巻き戻す様に元の状態に戻って行く。
想定通り、作戦は続行だ。
煙々羅の体が散った瞬間、既に小姫は動き出していた。
「じゃあ、たっぷり注いでもらうとするよ」
俺に向かって飛び付いた彼女は首に手を巻き付かせる様に抱きしめ、そして唇を重ねる。
柔らかい唇の感触が続いたのは二秒程、既に煙々羅は七割程まで修復を終え、その状態で俺達に向かって来ていた。
『ふざけるな!』
「いや、ふざけちゃいないさ。これも作戦通り……」
俺の首に絡んだ手は解かれて唇は離れる。地面に小姫が降り立ったのを音で感じながら煙々羅に視線と言葉、そして右手を向ける。
もう一秒後には触れる距離まで来た瞬間、親指で中指を弾いた。
『ギャッ!?』
続ける事数度、迫って来る煙々羅達の顔面に風穴を開けてそのまま貫通する。
内側から四散し、即座に修復していくも指を弾くだけだ。
一発毎に乾いた音が響き、それが重なって更に加速して行く。
それでも倒せないが、時間稼ぎにはなる。
それで良い、俺はそれで十分だ。
「小姫、頼んだ!」
煙々羅が群れをなしていると聞いた時、一番の問題になったのは反魂香を使い死者の肉体を明け渡してしまった人達の身の安全だ。
今回どうして暴れ出したのかは不明だが、隠れ蓑となる入れ物の保持の為に使用者が必要な以上は近くに置いているだろうが、巻き込むのを恐れていては戦いの腕が鈍る。
故に分担。
俺が足止めをし、小姫が速攻で安全を確保。兎に角時間が惜しいから、俺は倒す事よりも時間稼ぎで格上の小姫は使用者を探して集める。
その為の時間稼ぎだったが……何故かしゃがんで少し震えていた。
「ひゃっ、ひゃう……。だ、駄目だ。前回よりもずっと……」
「えっと、小姫、さん?」
俯いていて表情は見えないがどんな顔をしているのかを考えれば、前回のキスの時に見た表情がどうしても頭に浮かぶ。
声も震えているし、内容も内容だしな……。
「これ癖になりそ……此処は頼んだよ!」
呆然とする中、小姫は我に返るなり顔を上げて即座に立ち上がる。
一瞬だけ見えた顔は真っ赤になっていたし妙な色気があって目に焼き付いたが、敵の前だ。
小姫が地面が弾ける勢いで一足飛びに玄関に向かって飛ぶと同時に再び指を弾き、煙々羅の体を四散させた瞬間には彼女の手がドアノブを掴んで勢いを殺さずに内部に転がり込んだ。
開いた扉から見えたのは、家の面積からはあり得ない程に長く伸びた廊下と床や天井にまで歪んだ扉が無数に設置された異様な光景。
そして蠢く底位の妖魔達
「こりゃ、探知能力がそれ程高くない俺が入っても呪具の気配を感じて進めはしなかったな」
任せて本当に良かったよ。
『な、何をした!?』
何をした、か。
お喋りに付き合う必要なんて本来はないんだが、今はそっちのほうが都合が良いか。
「伏柄流古武術奥義・
因みに人差し指と薬指で挟んだ物を飛ばす
『だけ? だけって、えぇっ……』
「いや、引くなよ、人外」
俺の目的は足止めだが、煙々羅達が動きを止めて顔を引きつらせるのは何かちょっと違う。
その目は理解不能な存在に向ける目だった。
意思を持ってる煙の化け物に引かれるとか腹立つな。俺がどれだけ頑張って使えるようになったと思ってるんだ。
腹立ちついでに指先に込めた霊力を中指で弾き出そうとするが制御が狂って飛んでいったのは空気だけ、これじゃあ妖魔には通じない。
未だ実戦レベルで通用する段階じゃないって事か……。
今は時間稼ぎが優先、ダメージなしが混ざろうと構うものかと連発すれば徐々に不出来なのも混ざり、それが未熟の代償とばかりに小さい煙々羅の一体が真横から俺へと迫っていた。
咄嗟に腕を差し込んでガードしようとするも煙に手を突っ込んでも通り抜けるのと同じで防げる訳がない。
腕をすり抜けたまま煙々羅の頭部が俺の頭に叩き込まれ、霊力で強化した上でも響くのは大型のハンマーで殴り付けられた様な衝撃だ。
肺の中から空気が押し出され、気が逸れた俺に後続が続く。
大きく口を開けての食らい付こうとするのをバックステップで回避するも、体当たりまでは完全に避けきれない。
無様に転がるのだけは避け、家の方に入り込もうとする個体に貫気を放つ中、煙々羅達は俺から少し離れて二階よりも少し高い場所まで浮き上がったと思ったら体の一部がモコモコと激しく盛り上がり始め、拳大の煙の塊になって降り注いだ。
「おいおい、んな真似も出来るのかよ!?」
煙々羅や雨宿りと名前が残っている妖魔は次に同じものが発生した時に備えて戦いの様子が書き残されているが、当時の記録の中で戦った個体が必ずしも全力を出しきった訳でもないし、新たな力に目覚める事もあるってことかよ。
「資料だけを鵜呑みにするな、か。事前に言われてたのに情けない……なっ!」
すかさず貫気を連発して相殺。指への負担からくる狙いのずれや霊力操作の乱れによって逃したのはその場で身を捻って最低限の動きで回避。何発かが当たるのは気にしない。
生憎、頑丈なのが取り柄だから残念だったなってところだ。
俺に当たらなかった煙の弾丸は地面を陥没させると同時に霧散し、煙々羅達の体へと戻って行く。
『何で何で何でそんなヘッポコ出力の癖にそんなに動ける上に頑丈なのよ! 本当に人間なの!?』
「ちょっとばかり頑丈な上に鍛え方が良いんだよ、俺は。それに霊力の強化もなしに強化ありの俺よりも強い人が居るからな」
『本当に人間!? 妖魔の血でも混ざってるんじゃないの!?』
この妖魔は今まで戦った妖魔と異質だとは思ったが、今は本当にそれが助かるぜ。
俺の話に驚く知能と常識の範囲の知識を持っているからこその混乱は、言葉を喋れるが会話が通用しないタイプや本能のままに叫ぶタイプと違う。
知能の高さ故の厄介さもあるんだろうが……時間稼ぎに会話が有効なのは助かるな。
「さあな。三年寝太郎か頼光四天王の子孫なんじゃねぇの? 知らないけれど」
俺の体は頑丈だから多少攻撃を受けても大丈夫だが、さっきから受けている攻撃を受け続けるのは多少で済みそうにない。
このままズルズルと話を長引かせたいと即座に浮かばなさそうな名前を出してみたが、小姫が戻って来るのにまだかかりそうだと痛む脇腹に意識が向いた時だ。
背後から強大な霊力を持った妖魔の気配がした。
『か、影女様。どうして此方に……』
すわ援軍か、そう思ったが反応からして知己ではあるが招かれざる客人。
思わず視線を向ければ家の影の一部が伸びて女の姿を映し出していた。
『おおっと! 人でありながら人を外れた存在とは驚きですね。是非お話を窺ってみたいところです。それでは皆様、お待ちかねのパンパンショッピングのお時間となりました。リポーターはこの私、影女が勤めさせて頂きます』
え? 何だよ、この通販番組みたいなノリは。えぇっ……。
『えぇっ……』
おい、煙々羅までドン引きしてんじゃねぇか……。
触れられん敵なのは某アメコミ風戦隊物の彼のオマージュ
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