三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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選択シ ①

 やっほー! キュートでダークでプリチーな喋るパンダ人形のアンノウンだよー!

 

 ねぇ、こし餡とつぶ餡、キノコご飯のキノコ以外抜きお菓子トッピングとタケノコご飯の竹の子以外無しお菓子トッピングならそれぞれ何を選ぶ?

 

 

 え? ふーん、そっちを選んだんだね。良かった良かった。反対側なら僕の手下が手を汚す必要があったし、そもそも僕がお願いするって面倒な目に遭ってたじゃないか。

 

 まあ、世の中には選択が必要なのさ。僕はしたい事だけをしたいし、食べたい物だけを食べるんだけどね。

 

 

 何かを選ぶ、何かを選ばない。それは君達の自由だけれど、その結果も受け入れるんだよ。

 誰かに選択を任せた結果であっても、任せるって選択したのは本人なんだからさ。

 

 僕? 責任とかお友だちに負わせるよ。だって面倒だし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僅かな灯りが照らす山道を一台の車が走っていた。

 夜の闇に溶け込む様な黒のオープンカーに乗っているのは中年の男と若い女だ。

 

「しかしわざわざ夜景の綺麗な高台なんて行かなくても普段のレストランで良かっただろ。ホテルだって近いんだからよ」

 

 ハンドルを握る男は髭を整えたい清潔感のある人物で、手首を飾る腕時計も首から下げたネックレスも高価な物であるのが伺える。

 靴も服もブランド品であり、随分と裕福な印象を受けるが品性という点では些か問題が有るだろう。

 

 ネックレスが輝く胸元は大きく開けられ鍛えられた胸筋が見えているが、服の柄は随分と派手で成金めいた感じがしている。

 それに歳の頃に比べて少々若者向けであり、金持ちアピールの為に服装や装飾品に金を注ぎ込んだ様に見えた。

 

 男は咥えていたタバコを躊躇無く投げ捨てながら助手席に座る若い女に不満を漏らす。

 癖なのか少し面倒そうな様子で髪を弄る手には結婚指輪らしき物が嵌っており、どうやら既婚者の様子。

 

「良いじゃないの。皆、SNSで行ったのを報告しているんだもの。みーちゃんだって行きたーい」

 

 男に不満の言葉を向けられた女は何処か媚びていると言うべきか、悪し様に言うならば頭の足りない印象の間延びした話し方であった。

 ブランド物のコートやハイヒール、バッグを身に付けた上でジャラジャラと装飾過多。

 妙な色気を放ちミニスカートから覗かせた足や開いた胸元にはすれ違う男の視線が向けられるのだろうが、そんな姿からは昼間に何処かに勤めて生計を立てている姿は想像出来ない。

 

 だが、実際は公私の区別が付けられていて、デートのオシャレ着が少々派手なだけの極普通の女性……などでは無く、少々タチの悪い所から遊興費目的で負った借金返済の為にとある店で働いていたのだが、今は高級車を乗り回す男に気に入られて俗に言う愛人家業の真っ最中。

 

 お金を持っていて顔もそれなりに良く、ベッドの中の方も経験値を積んでいるのか上々とあって彼女は男をすっかり気に入って、何時かは結婚する物だと疑ってもいない。

 

 

「ねぇねぇ。ババァとガキは何時捨てるの? みーちゃん待ちくたびれてお婆ちゃんになっちゃうよぉ」

 

「まあ、その内な。親父が五月蝿いんだ。さっさと死んでくれりゃあ良いのによ」

 

 今の家庭を捨てて結婚する、そんな言葉を女は信じている。今現在同じ様に男と結婚出来ると信じている女達や信じていないがお金の為だと割り切っている女達と同様に向けられた言葉を信じてだ。

 

 借金の動機や自己破産は気軽に出来ると思っていたから借金をした等々、頭の足りなさを口から次々に出る言葉以外でも周囲に知らしめている女だが、彼女が、そして他の女性達が馬鹿の極みだから騙されている、もしくは騙されていたのかというと少し違う。

 

「親父が死ねば功績を考えて俺が本社の社長だ。爺さんも文句無いだろ」

 

「そしてみーちゃんは社長夫人だね。やったー!」

 

 両手を挙げて喜ぶ女を内心では馬鹿呼ばわりしているこの男だが、祖父が小さな工場から大きくした大手企業の子会社の社長を任されていた。 

 祖父が苦労する姿を見ていたから息子である父も立派な人間になる為に必死で働き、親子二代でのし上がったのだが、問題は三代目であるこの男。

 

 商才はある、その部分は祖父や父から引き継いで新規事業を成功させた。だから多少金遣いが荒くとも多少小言を言われるのを右から左に受け流して終わりで済んだだろう。

 

 問題は女癖の悪さだ。

 

 彼には既に妻子がいる。祖父の友人の孫娘であり、小さい頃から男とも知り合いだった彼女との縁談は滞りなく進み、今年で五歳になる息子だっているのにも関わらず、少しでも気に入った女が出来れば金の力で囲い後妻にすると囁いて飽きれば手切れ金を渡し、企業のイメージダウンが社員への被害とならない様にと祖父と父が揉み消した。

 

 今は引退間近の祖父が会長を、父が本社の社長をしてはいるのだが、流石にそろそろ男の不貞行為の数々に堪忍袋の尾が切れそう、そんな時に父が体を壊したのだ。

 

「おい、上だけで良いから脱げ。もうすぐ目的地だし、夜景を見ながら楽しむぞ。他の連中が居たら見せてやりゃ良いさ」

 

 口煩い父が弱り、男にとって天下を取る日は近い。男の不貞に堪えかねた妻は家から出て行ったが大した金は持たせていないのでボロアパートに住んでいるらしいが、才能と財産があるからと勝手気ままな彼は気にしない。

 

 今は次の愛人はどんな女を選び、そろそろ鬱陶しくなった隣の女を捨てる前にどう楽しむかを考えている最中だ。

 

 そんな男の心中など知るよしも無い女は男の言葉を聞くと躊躇もせずにコートを脱ぎ、上着に手を掛けて持ち上げる。

 

「良いよー。どーせ結婚するんだもん。みーちゃん達のラブラブっぷりを見せてあげようよ。実はダーリンの好きなノーブラで……ひぃ!?」

 

 上着もシャツも一度に脱ごうとしたからか少し引っ掛かりながらも豊かな乳房が丸見えになった瞬間、女は悲鳴を上げて動きを止めた。

 走り続けるオープンカーが受ける風圧で手から離れた服が後ろに飛んだ瞬間、車は大きく横に曲がる。

 そのまま急ブレーキの音と共に減速するも間に合わずに標識に激突、大きくひしゃげた正面部分から煙が上がっているが二人に怪我は無い。

 

 二人とも無事に済んでいて普通ならば警察や保険会社に連絡をする所なのだろうが、二人は車から動けない。

 いや、必死の形相で動いて車から脱出しようとはしているのだ。

 

 

 

『あはははハハは! ねぇ、どっち? ドッチにするの?』

 

 子供の様なその声は二人の足元から響いていて、小さな子供の腕が足元から生えて二人の足をガシッと掴んで離そうとしない。

 

 青白い光に包まれた血の気の失せた小さな手が床から無数に突き出てもがく二人を押さえつけているのだが、中には指先が腐って骨が露出してしまっている物もある。

 

 

「何だよ、これは!?」

 

「知らないよ、どーにかしてよ!?」

 

 二人がどれだけ激しく動いても車が揺れるだけで足を掴む手が緩む事は無く、明かりは遠くから一つ一つ順番に消えて、何時の間にか空に輝いていた星も月も雲の影も見当たらないにも関わらず見えなくなって周囲一帯は車のライトのみが照らすだけ。

 そのライトも点滅と共に消え失せ、二人の騒ぎ声と何者かの声以外は車が揺れる音のみが響く。

 

 

 

『暗いのが怖いの? じゃあ照らしてあげるね』

 

 

 その闇が照らされる。宙に揺れ動く青白い火の玉が二人の乗る車を取り囲んでグルグルと車の周囲を回り、二人の顔は皿に引き吊る中、再び問い掛けがあった。

 

 

『ねえ、どっちかはイッても良いよ。どっちがイくの?』

 

 どちらかだけが行っても良い、つまり片方だけが助かるのだと判断した二人はチラリと互いの顔を見やる。

 同時に口を開こうとした瞬間、男の拳が女の顔を殴打した。

 

 指輪の石が強く当たった前歯が折れ悶絶する女は口を押さえて男に信じられない物を見る目を向けるが、男は笑っている。

 自分を見捨てる気なのだと、犠牲にする気なのだと分かってしまった。

 

「お、俺が……ぎゃあっ!?」

 

 どうせ飽き始めた相手だと平気で切り捨て様とした男の目に激痛が走る。

 自分が助かる為の言葉を途切れさせたのは女が吹き掛けたスプレータイプの容器に入った香水だった。

 

「みーちゃんが行く!」

 

 鼻の中に入った強い香りと目の激痛に男が両手で顔を覆う中、女が叫ぶと足を掴む手が消えて、女は一目散に駆け出して行くのだが、その顔には困惑の色が浮かんだ。

 

 

「あ、あれ? 足が勝手に動いて……」

 

 一刻も早く逃げ出そうとしたのか砂利を踏むのさえも構わずにハイヒールを脱ぎ捨てて男を一瞥もしない女の足は止まらない。

 向かう先にはガードレール、更にその下には随分と離れたコンクリート製の地面。

 

「やだやだやだ! ダーリン、どうにか……」

 

 

 

『じゃあ、逝ってらっしゃい。あはははハハはははハ! ゆーきゃんふらーい!』

 

 頭だけ後ろに向けて手を伸ばした所で女の足はガードレールを簡単に飛び越えて、そのまま真下へと落ちて行く。

 

「いやぁあああああああああっ!?」

 

 飛び出してから僅か後に聞こえたのは肉が地面に叩きつけられる音。

 下から助けを呼ぶ声は聞こえない。

 

 

 

「ふんっ。他人を見捨てようとするから罰が降ったんだ!」

 

 ペットボトルの水で洗い流すも未だ回復し切っていない目を女が消えた方に向けながら男は吐き捨てる。

 先に自分が見捨てて拳まで振るった事など既に忘れたかの様な態度であり、女への心配など微塵も無かった。

 

 

 

『じゃあ次は君もイく?』

 

「……はっ?」

 

 謎の声の問い掛けに何がどうしてそうなったのだと男は声を漏らす。

 あの女は死んだのだし、自分は五体無事に帰れる筈だったのにと。

 

 男が戸惑いから声を漏らしたのを切っ掛けにするかの様に動かなかった車がゆっくりと後退を始める。

 地面に漏れ出したオイルを残しながら徐々に速度を上げて行き、向かう先は先程女が飛び降りさせられたガードレール。

 

 ガンっと大きな音と共に激突しても車は止まろうとせず、タイヤが回転を続け地面を擦る音に混じって聞こえるのはガードレールが軋む音。

 

 

 

「待て待て待て待て! あの馬鹿女が飛び降りただろ!?」

 

『そうだね。じゃあ、次は君が逝こうよ』

 

 車に押されるのに堪えきれなかったのか元々老朽化でもしていたのかガードレールの一部が折れて下に落ちて行く。

 

「ううっ……」

 

 その真下に居たのは先程落ちたばかりの女。打ち所が良かったのか血を流しながらも辛うじて生きており、今助ければ生涯障害に苦しむ事になっても生きていられるだろう。

 幸い、この峠の近くには大きな病院も有るので誰かが救急車を呼びさえすれば……。

 

 

 

 そして、壊れたガードレールが真上から落下しなければ……。

 

 ガードレールの根本付近は壊れた際に鋭利に尖り、その部分が落下の勢いを乗せて女の上に落ちて来た。

 胸の真ん中を貫通し、そのまま昆虫標本か何かの様に女を地面に縫い付けて……。

 

 

 そして車の勢いは少し緩み、それでも止まらない。

 逆に男の恐怖心を煽る様にゆっくりとゆっくりと、それでも後輪が片方先に落ちれば車は大きく揺れる。

 

 

 

「あんなのと一緒に死ぬなんてごめんだ。殺すのは他の奴にしてくれ!」

 

 男の顔が涙や鼻水でグシャグシャになり、股間も染みが出来てアンモニア臭くなった時、車は急に止まった。

 

 

 

『嫌なの? じゃあ、朝まで此処にイタイ?』

 

「あ、ああ! 此処に居たい!」

 

 それでも強い風が吹いてバランスが崩れれば落ちそうな状態の中、男は謎の声の問い掛けに大きく何度も頷きながら肯定の言葉を返す。

 

 

『いーよ。じゃあ、落ちるのは中止ね』

 

 今度は車が前に進み、落ちた後輪も持ち上がって少し前に進んだ所で車は完全に停車した。

 足を掴む手も消えて、火の玉も最初から存在などしていなかったと思う程に痕跡すら無い。

 

 

 

「た、助かった……」

 

 緊張の糸が切れたのかヘナヘナと崩れながらも男は安堵の言葉を吐き出して、タバコの最後の一本を吸う。

 死ぬ寸前まで追い詰められた後のタバコは今までで一番美味く感じた男は日が半分近くまで届くまでタバコを吸い続け、そのまま横に傾いて意識を手放す。

 

 明日までこの場所に居さえすれば良いのだと安堵感に包まれながら眠る男が見たのは幼い頃の夢。

 早くに母を失った彼にとって唯一の家族だった祖父や父との思い出。

 遊園地に行った楽しい記憶。

 

 ああ、明日になったら祖父や父の顔を見に行こうかと自然と笑みが零れ……咥えていたタバコが口から離れて地面に落ちる。

 未だ消えていなかった火が残ったままの吸い殻は風に運ばれて漏れたオイルに触れて、当然の様に燃え上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、焼け死んだ男の遺体がトラックの運転手によって発見された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、ですか……」

 

 男の妻が連絡を受けたのはボロアパートの一室。

 彼女と男は幼い頃からの付き合いで、変な女に引っ掛かるよりは身元が確かな相手を欲しがった男の父と祖父によって持ち込まれた縁談を妻の両親が受け入れたのだが、彼女は男と結婚なんてしたくなかった。

 幼い頃に仲が良くとも成長に伴って悪化の一途を辿る女癖の悪さに嫌悪すら抱き、何よりも両親が経営する工場の従業員に恋人まで居たのだから。

 

 傾いた工場の社員の事を考えなければ受け入れなかった結婚は新婚早々に浮気の連続。

 別れたくとも工場への援助を考えれば言い出せず、男も世間体を考えてか別れる気もない。

 

 

 結局、女も何時かは別れて恋人と一緒になる約束をしていたが、口論の末に追い出された先で受けた男の死の知らせに思わず笑みが零れそうになって、電話先に気取られない様にしながらも笑みが浮かぶのは止まらない。

 

 

 

「ふふふ、うふふふふ。酔った勢いでしてみたコックリさんから聞いた呪いが本当に効いたのかしら? まさかね」

 

 妻が男に掛けた呪いは半信半疑での行い、学生時代に熱中していたコックリさんをしてみたら十円玉が指し示した縁切りの呪いの方法。

 自分と呪いの対象の名前をコックリさんをした紙の裏に書き、鋏で二つに切った後で縁を切りたい相手の名前の方をコックリさんの蝋燭で燃やすという物。

 

 

「ああ、そうだわ。あの子もついでに……」

 

 妻と男の間には幼い子供が居るが、彼女は男の血を引く我が子が嫌いだった。

 男が死んで唯一の相続者になった我が子が男の父と祖父から遺産を受け取った後は用済みだと、再びコックリさんの用意を始める。

 

 

「コックリさん、コックリさん……」

 

 そして、コックリさんを終えた妻が男同様に我が子を呪おうとした時だ。

 ドアがノックされ、恋人の声が聞こえた。

 

 

「ちょっと待って」

 

 もう呪いなど頭から消え失せた妻は蝋燭と紙をテーブルに置くと慌てて玄関へと向かう。

 扉を開けた時、隙間風によって舞い上がった紙が火で燃えたのだが、燃えたのは妻の名前の方。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妻は知らなかった。もう結婚は無理だと思った恋人が一緒に死のうと準備をしていた事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人を呪わば穴二つ。

 

 

 

 

 




次回予告 新しい退魔士登場予定

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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