三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
目が覚めたら動くに動けない状態だが、俺はどうすれば良いんだろうか?
体の大きい俺でも十分休めるこのベッドは特注の品で、母さんが言うには博物館に仕舞われているクレオパトラのベッドの複製の更なる複製品。
マットだけは最新の技術を使っているが、どうも部屋の内装とは不釣り合いなデザインだ。
「偶にあの人の考えが分からなくなる……」
何故か誕生日に贈られたから使っちゃいるが、本当に母さんのチョイスに戸惑うんだが、今は別に良いんだよ、それについては。
お値段マット合わせて約一万ドル、お陰で一晩寝ればグッスリ快眠、短時間の睡眠で疲れが取れる。
だから今日も早朝に目が覚めて、目の前には深い谷間。
動いても全く軋まないマットの上、俺に添い寝していたドロシーは俺の頭を抱き抱える様に手を回した状態で、谷間に息が掛かりそうな程に近い。
どっちかが身動ぎすれば顔を埋めたい……じゃなくって顔が埋まりそうな状態の中、上に視線を向ければ目が遭う。
「この状況で考え事か? ああ、気にせずとも良い。初物を頂くのはこれが初めてではないのでな。扱いはちゃんと心得ておるぞ」
「いや、何をしてんだよ、テメー」
薄い赤のスケスケのネグリジェの下には際どい下着、思わず見える範囲全てに視線を向けてしまったが、これって完全に負けだよな。
そもそも俺のベッドに何でドロシーが添い寝してるかって言うと、煙々羅との戦いで負った怪我が問題だった。
「悪いが今回の治療は無しだ」
俺のカルテを片手に向き合っての第一声、それに理由を問うより前にたんぽぽさんは不機嫌を隠さずに口を開いた。
「右腕左腕と肋骨にヒビ、指も痛めてやがるし、内臓も結構傷んでやがるな。あれか? 俺を過労死させる気かよ、あぁん?」
零課の車で運ばれた病院でたんぽぽさんに診察をしてもらったまでは良いんだ。
今までだって戦いで負った怪我を一晩経たずに治してくれたし、だから家で事故ったとか毎回言い訳を考えなくても良かった。
……実際、俺みたいに裏で退魔士やってる奴で近くに治療系の術使える人が居ない場合はどうやってるんだろうな。
「過労死って、今までも治してくれたでしょう?」
大袈裟だなと笑いたかったが、たんぽぽさんの表情からして脅しとかじゃないらしい。
「大袈裟じゃねぇよ。霊力込みの煙吸って肺もダメージ受けてるし、こりゃ一晩掛かるぞ」
え? 中位以上と戦って一定以上の怪我をした場合に戒めとして一回目は治療をしないとかじゃなくって?
「俺の治療術は怪我を負わせた霊力の影響を受けるタイプなんだよ。あの嬢ちゃんの方は自分専用の治療術があるから平気だそうだが……」
「あっ、小姫の方は大丈夫だったんですね。安心したぜ」
それにしても最初はたんぽぽさんが戒めで断ったと思ったけど、戦いを経験すりゃ否が応でも危険性は理解出来るか。
敢えて他人から言われなくてもどれだけ危険かなんて現場に出りゃ分かるんだし、貴重な能力の持ち主の彼女がわざわざそんな事をする筈も……。
「俺はさっき数時間必要な大手術終えたばっかで疲れてんだ。一応診察はしてやったし、後は普通の医者に任せても良いし……そもそもあのフランス娘なら俺よりも治療術の腕前は上だろうがよ」
「え? 嫌です」
思わず即答、だって理由があるんだよ。
「あの二人とは友人になるって形で契約してるけど、治療してもらうには対価が必要だって前に言ったでしょう?」
そう、十年以上の付き合いで結ばれた絆は確かなものだが、これはこれでそれはそれ。
普段の修行の対価に衣食住とお小遣いを渡しているのとは別で、修行以外で妖魔の力を使うんだったら別の対価が必要だと言われている。
これがケチなら文句も言えるんだが……。
「封印状態で力を振るう為の儀式みたいなものですからね。ドロシーからは大怪我の治療には三日以上の添い寝だって言われてます」
「だったらやりゃ良いじゃねーか。あの色ボケも見た目は良いんだしついでにヤっちまえよ」
「他人事と思って簡単に言うな!?」
絶対に何か起きてしまう、そう心配してたのだが……。
「安心せよ。この機に乗じて襲うなどせぬ。義姉であるマリー姉様にも誓い、其方から求めて来たなら兎も角、三日目の朝まで余から手は出さぬと約束しよう」
拍子抜けだったが油断を誘っているのかと疑いつつも、ベッドの中では俺の寝顔を見て楽しんでいるらしい以外には何も起きず、この機会に卒業しちまうのかって心配は杞憂に終わった。
……その筈だったのに。
「三日目の朝まで手は出さないって約束だったよな!? 尊敬するマリー・アントワネットの名に誓ったよな!? 糞っ! 動けねぇ!?」
「今はもう三日目の朝であるぞ? つまりは約定の範囲外であり、お主はまな板の上の鯉。此処で食わぬ方が兄上にもマリー王妃にも叱られるであろう」
「手を出す方が絶対に叱られるだろ!」
押さえ込まれれば力の差で抜け出せないのは長年の付き合いで分かっちゃいたから先に逃げ出そうと動きたいのに動けない。
「余から逃げられるとでも? 安心せよ。事が終われば解放しよう。その時には逆に余が囚われるかも知れぬがな」
今まで誘惑やらセクハラとかはされたけど、お玉が助けてくれたり途中で止めたりとかで助かってきたんだが、今度は不味いか……?
「えっと、俺って好きになった相手がいてだな……」
「知らぬ。先に言っておくが余は言い訳は与えぬぞ。余達との契約をより強固にするためとか、それで自由が増えるのは今は忘れ、獣の如く貪り合うのだ」
「貪られるだけだよな、俺が!」
布団から上半身を起こしたドロシーは荒くなった息遣いで俺に顔を近付けると
指でなぞる様な動きで膝の辺りから徐々に上へと持って行き、途中で止めた。
流石にこれ以上は無しか? まあ、幾らドロシーでも其処迄は……。
「ほれ」
「うぷっ!?」
油断した所で空いた手が俺の頭を掴んで抱き寄せる。
甘い香りがする谷間へと正面から無理やり突っ込まれ、目の前は白い肌だけしか見えない状況だ。
……いや、悪い気はしなかったよ、正直に言えば。
友達だって認識なのは変わらないけれど、ドロシーが美少女だってのも変わらないんだし、俺だって年頃の男だ。
「……む。意固地な奴であるな」
でもされるがままなのは癪だって事で息を止めて目も閉じる。
これで感じるのは左右から柔らかく挟み込んでくる肉の感触だけ。
肉球! これは犬か猫の肉球!
そんな風に言い聞かせても何が当たっているのかは分かってる訳で、ちょっと失敗だったかも。
お玉を呼ぶべきだったけど、今この状況じゃ色々な意味で叫べない。
「詰まらぬ反応であるな。何より! これでは大和の顔がしっかりと見えぬではないか」
自分でやっておきながらプリプリ怒り出したドロシーの胸から漸く解放されたんだが、元々雑に着ていたのか下着がズレてしまっているのに思わず目を向けてしまった時、止まっていた手が動き出した。
「ほほう? 抵抗しながらも体は正直……これは予想以上に凄いな」
「いや、もう終わりにしようぜ。もう朝飯の時間になるし……」
「そうか。では、数分で済ませよう。余のテクで即座に極楽へと昇らせてやる。ぶっちゃけ、惚れた女を床に連れ込んだ時に備えて女の扱いを教えてやらね、ばっ!?」
俺に跨って下着を脱ごうと手を掛けた瞬間、背後から側頭部に向かって振り抜かれたフライパンがドロシーを壁まで吹っ飛ばした。
「ちっ! 今ので曲がってしまったか」
壁に頭から激突して目を回すドロシーの頭に半熟の目玉焼きが落ちて、根本からひん曲がったフライパンを片手に不機嫌そうなお玉は俺の方に一瞬だけ視線を向けると何事もなかったみたいに窓に向かってカーテンを開ける。
「馬鹿め。約定違反にならぬのは我も同じだ」
「わ、悪い。助かった」
「愚か者めが。我達と出会った頃から進歩無しとは反省せよ。妖魔と契約する時には条件をしっかりと確認せねば身を滅ぼすぞ」
あっ、うん。言い返す言葉が一つも無いな。
ちょっと反省しつつ少し惜しいとも思いながらドロシーの方に視線を向ける。
多分暫くは起きないし、放置しといて良いか?
「取り敢えず帰りに新しいフライパン、をっ!?」
横から胸倉を掴まれて引き寄せられる。何がどうしたのか理解する前に唇に柔らかい物が触れていて、お玉の顔が間近にあった。
「勘違いするからな。この機会に契約の強化をしただ……け……」
体から霊力がゴッソリ持っていかれる感覚の俺に対してお玉は平然とした態度で俺を見下ろしながら淡々と喋り、そのまま俺に向かって倒れ込んで来た。
「あれ? 意識飛んでる?」
咄嗟に受け止めたけど、お玉は完全に意識を失っているし、ドロシーも多分暫くは目を覚さない。
時計を見れば少し余裕があるが二度ねする程じゃないか。
「放置してランニングに出たら五月蝿いよなあ、多分」
後からギャーギャー言われるのも嫌だし、部屋の中で軽く動こうと邪魔なドロシーを担いでお玉と並んでベッドに寝かせた時、不意にスマホが鳴る。
「こんな時間に掛けて来る馬鹿は……馬鹿の時点で八雲しかいないか。ほら、八雲だ」
画面を見れば八雲の名前が予想通りに表示されていて、これまた予想通りと言うべきか、俺が寝てたら起こす為に玄関からチャイムと猫の鳴き声の大合唱。
「やかましいな。まあ、そーいや聞いたい箏があったんだ。泉と橋本が居る時に訊いたら二人に悪いからな」
スマホを頭から少し離して電話に出れば電話口から聞こえるのは相変わらずのやかましい声。
『もしもーし! 山さん起きてるっすかー! 自分っす! 八雲っすよ!』
普通に聞いてたら耳がキーンってなってたし、取り敢えず会った時にしばいておくか。
「起きてるから電話に出たんだし、テメーって事は名乗らなくても分かるっての。おい、ちょっと聞きたいんだが……普段どんなパンツ穿いてるんだ?」
『ピンクのレース付きっすけど、どうしたんっすか?』
「いや、最近威嚇するレッサーパンダやらコアラのやらを見ちまって、それが流行なのかと……」
『いやいや、そんなの何処で買えるんっすか? 売ってるの見てみたい……あれ? パンツ見たってことっすよね? 大和さんのドスケベ〜!』
「うっせぇぞ塗り壁の擬人化」
『貧乳のことっすか!? 貧乳について言ってるんっすか!?』
橋本達にはとても訊けない質問だから八雲にしたが失敗だったな。
こりゃ暫くは弄られるな。
「んで、朝っぱらから何用だよ」
『実はオカルト研究会の創部についてなんっすけど、一年生の子を誘ってオッケー貰ったのに二年生以上が掴まらないし、此処は大和さんに改めてお願いしようかなって、実は昨日の放課後にはオッケー貰ってたんっすけど』
「俺に伝えるって自分から言い出したのに今思い出したんだろ、テメー」
「……何か奢って口止めするか」
八雲だから何訊いても構わないが、ちょっとウザい反応を考えりゃ失敗だったか。
ちょっと気になっただけだし、どうでも良い情報まで来るんだから訊かなきゃ良かったな。
「……妙だな。もう聞こえるが……」
ネットで軽く検索すれば出て来そうだが、ちょっと気恥ずかしいのもあって八雲に教えて貰ったのを後悔し始めた時、玄関の様子が普段とは何かが違った。
「ンニャァアッ!」
「フッシャァアアアアアアア!!」
何時もなら俺が姿を見せてから全力で威嚇する猫達だが、今日は何故か俺が出て来る前に騒いでる。
近所トラブルも聞かず、俺に毎日威嚇をする為家の前までやって来る以外は賢くて躾の行き届いた飼い猫なんだが、今日は随分と興奮してんな。
「きゃあっ!?」
「悲鳴……」
どうやら門の前で騒いでいるらしいが、あの猫達が人を襲ってるのか?
一応八雲にメールしておくとして、このまま放置ってのも問題だろうし、ちょっと様子を見に行くべきかと思い玄関から出ようとした所で動きを止める。
「霊力……?」
霊力は科学的な説明とかが一切不明、だから霊力の探知も第六感的な奴だからか最近の激闘の影響かちょびぃぃぃっとだけコントロールが上手くなったんだよ。
だからか何んとなーく門の前から微弱な霊力を感じ取った俺は足早に門まで進んで門を蹴り開ける。
普段から俺にちょっかいを掛けて来る上に妙に嫌ってる猫達だが、感じるのは人間以外の霊力。
いや、あの猫達も普通の猫じゃないんだとは思うんだが、放置は出来ないよな。
「だ、駄目です! その子達は虫や小鳥の類じゃないんですから離してあげて下さい!」
だから慌てて外に出て見れば軍服姿の女が猫を捕まえようとして慌てるも、猫達はのらりくらり悠々と逃げ続け、その上で宙を泳ぐクリオネみたいな謎生物を咥えながら他のも追い掛けていた。
「ニコラ・テスラも言いましたが愛とは作るのではなく与える物! その子達に愛を与えて下さい!」
……うん、家に戻ろうか。
「あっ! 其処の人、この猫ちゃん達をどうにかして下さい!」
やっべ。見つかった……。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし