三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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選択シ ③

 人間、イライラしていると中々寝付けないものだね。私も昨夜、実家から掛かって来た電話がウザったいから眠れなくって一晩中ゲームをしちゃったよ。

 

 盛り上がってはしゃいだ上にイヤホンがテレビから外れちゃったせいで隣の合法ロリヤンキーナースに怒られたけど、視線だけで人を殺せるだろ、彼女。

 

 電話の用件は大和先輩について……正確には彼が使役しているという妖魔に関する調査の命令。

 零課から得られる情報や私が聞いた限りじゃ、片方が高度の治療術が使えるって事と上位相当の妖魔だって事だ。

 ああ、それに友達になるって契約の影響か契約者の生活空間内部しか行動出来ないって所だったかな?

 

 

 

『ほらほら、今後は他の家も霊給者を取り込もうとするだろうし、伊弉諾としてもちゃーんと知っておきたいのが上の人達の意見って訳なの。小姫ちゃんだって仲良くなった男の人の家に行って調べる位は出来るよね? 私は落ちこぼれには無理だって思ってるんだけどね』

 

 その指令をして来たのは私が嫌いな相手……向こうと此方の両方の意味で。

 そして内容も声色も私を馬鹿にする感情が全く隠さずに伝わってくるんだから最悪さ。

 指令書で良いじゃないか、どうしてわざわざ電話して来るんだよ。

 

 即ガチャ切りしない自分の冷静さに少し驚きつつも声は平静を装う。

 お子ちゃま相手に反応してるなんて知られたくはないからさ。

 

「五月蝿いよ、可愛くない方の弟妹」

 

 腹立つ言葉に私も罵倒で返すけれど、鼻で笑う音が聞こえて来た。

 この時点で、クソ生意気なあの妹の勝ち誇った顔が頭に浮かんだよ。

 

 

『こっちも霊力が殆ど無い出来損ないなんて姉とは思ってないよ? まあ、その無駄な胸を使って繋ぎ止めたら良いかもね。退魔士として役立たずなんだし、その程度の役に立ってね。あはは』

 

 へぇ。要するにハニトラをしろと。

 私に、この私によく言って来たね、中途半端な知識のマセガキは。

 

「胸を使うって要するに(自主規制)とか、更に進んで口で(良心による表現)したり、それと(載せたらban)迄とか?」

 

『は?』

 

 ほら、この程度のワードで動揺して一度受話器を手落とした。

 

「そ、そうね。落ちこぼれにしては機転が……」

 

「ああ、そこまで進んだら(十八禁)したり、(卑猥なワード)の他にも(載せられない)で、(掲載禁止)ってのもありかな?」

 

『ひゃ、ひゃわわわ……』

 

「おいおい、どうしたんだい? そうだ…どうせなら君も(エロい表現)で……切れた」

 

 糞ムカつくメスガキの声が耳に残って眠れそうになかったし、ちょっと悪戯してやったけれど構いやしないさ。

 

 妙に知識があるんだが所詮はお子ちゃま、卑猥な言葉をペラペラ喋れば案の定の反応を見せてくれたし、普段から偉そうなメスガキが顔を真っ赤にしているのが頭に浮かぶよ、ざまぁ。

 

「お腹減ったしご飯でも……げぇ!」

 

 炊飯器を開ければ中には茶碗一杯分も残っていない。だが一度ご飯を食べたいと思ったら空腹は増すばかりだ。

 じゃあ、パン……も無い。

 

「カップ麺は高いから買えてないし、コンビニでも行って……た頃の私を殴りたい」

 

 楽で良いとコンビニに行ってばかりだったから今現在お財布の中がピンチなんだよ。

 コンビニスイーツに少し豪勢なオニギリ、何より三十円や五十円引きのシールがスーパーより高い品を買う免罪符になっている。

 

 

「米と味噌と冷凍の肉は有るんだ。調理するのが面倒なだけで……背に腹は変えられないか」

 

 ギリギリ今月分の食料はある。ダイエットだとでも思えば耐えられる。

 そんな事よりも今は指令をどうすべきか考えようか。

 

 あのメスガキが一方的に伝えて来た調査命令を受けないって選択肢は無いだろうし、そういった思惑って知られたら好感度下がりそうだから正直に頼むしかないだろう。

 

 だって、私でもコソコソと自分の周囲を探る連中とかムカつくしね。

 

 

「朝の散歩の時間に彼の家の前を通ったから挨拶ついでに話を聞こうとしよう。その時に朝ごはんに誘われたなら遠慮せずに招待されようっと」

 

 うーん、女の子が一人暮らし中の同年代の男子の家に遊びに行くとかエロ漫画なら絶対キスから本番行為まで行き着くの決定じゃないか。

 彼なら襲うとかはないんだけれどさ……。

 

 あの腹立つ妹に一泡吹かせる為に連呼した猥談トークだけど、霊給者である彼を引き入れつつ仲良くなるには多分避けては通れない……かな?

 プラトニックなパートナーになるって手段もあるんだけれど、時間を置かずに手っ取り早い方法ならそれが一番だ。

 

 

「一応予習をしておこうかな? そ、それと何処かでゴム製品を買って常備しておくべきかも……」

 

 少しの付き合いで分かるんだけれど、大和先輩は霊力の対価に体を求めるとかするゲスな相手じゃないし、恋愛感情は抜きとして人間的に好ましいし、退魔士としては家や私自身の為にも魅力的だ。

 

「ま、まあ、そんな流れになるかは兎も角、余裕を持って対応する為にも知識は必要だよね」

 

 妖魔退治で向かった先で拾った十八禁な内容の雑誌をパラパラと捲り、自分がする時を思い浮かべるけれど、こんな事までするの? って驚きで一杯だ。

 

 

「い、今は此処迄進まなくって良いや。発情期の獣じゃあるまいし、彼を理由に変な見合いとかを防ぎながら……うわぁ」

 

 キスと同時に注がれるだけでも最高に気持ち良かったし、もし関係を持って恋人にでもなった上で……お腹減った。

 

 肉欲よりも食欲、ピンクな考えは腹が鳴った時点で食べ物に成り代わられた。

 

 

 

「……途中のコンビニでフライドチキンの一つ買う程度なら良いよね?」

 

 今日のお昼ご飯をワンランク下げればどうとでもなる。チキンステーキ定食を塩サバ定食にすれば。

 

 揚げ物、それも肉が今直ぐに猛烈に食べたいんだ。

 

 

 

 

 

 

「新商品のバジル風チーズとポークソテーライスバーガーか。398円」

 

 ……お昼は素うどんだな。七味入れよう、たっぷり入れたら味変出来るし。

 

 

 

「今日はこれだけで良いや。カロリーは足りるだろうし……」

 

「ジャンボ肉まんとすき焼きまんに辛子と酢醤油お付けしますか?」

 

「いや、不要だよ」

 

 くっ! 薄弱! 余りにも意志薄弱!

 

 

 財布の中身は赤信号、家賃を払えばすっからかんだ。

 肉まんをモチャモチャ食べながら大和先輩の家へと向かい、すき焼きまんの中が思いの外ネギや白滝が多かった事に不満を持ちながら神社の近くまで辿り着いた所で足が止まる。

 

「この気配は……妖精か。おいおい、思ったより情報が出回っているじゃないか」

 

 こんな町中で大量発生する存在じゃ……いや、有り得るのか?

 

 袋耳神社に視線を向け、木の上から私を監視する猫達に両手を挙げて、何もする気なんて無いよ、と伝えて肩を竦めれば監視は消えるけれど、此処に来る度にこの視線はキツいな。

 

「にしても妖精の気配をちゃんと隠せば良いのに、何を考えているのか、何も考えていないのか、分からないのが煩わしいな」

 

 妖精ってのは自然界のエネルギー版の妖魔みたいな存在、本来は自然豊かな山や森、無人島や灼熱の砂漠とかの人が余り居ない場所に生息するんだよ。

 その力は主に他者への加護。自然に活力を与え、生物には強化や治癒の力を与えるし、力の強い精霊が神話やお伽噺の原型になったってのが有力な説だ。

 

 ……宗教関連の連中は自分達のカは別だって主張するのが多いけれどね。

 

 そう、人間の負の念から生まれる妖魔とは別の存在だからこそ自然の気が強い場所を除いて人が住む場所には基本的に長居しない、基本的にはね。

 

 そんな妖精が町中で大量に居るって事は家にしていた木が伐採されて運ばれたから迷子になっているだけか、もしくは……。

 

 

「ああ、やっぱり妖精使いか」

 

 曲がり角から時折覗く杖を持った後ろ姿、私達とは少し違う霊力は妖精と暮らす中で変質した物。

 人並み越えてのお人好しって言える程の善良さと霊力の高さに加えて妖精と触れ合える力っていう三つが揃って漸く成れる特殊な退魔士、それが妖精使いだ。

 

 

 

「あの脳内お花畑の善意押し付け集団の事だし、どうせ彼の事を嗅ぎ付けて勧誘しに来たんだろうね」

 

 退魔士の基本理念は妖魔を倒す事で混乱を未然に防ぐ事、人助けは余裕が有れば。

 無茶をして貴重な力の持ち主が減る方が後々の被害増大に繋がるし、その方面はお役所連中に任せるって方針だ。

 

 反対に妖精使いは人助け優先、力がある者の義務って感じで妖魔関連以外の災害や事件にも首を突っ込みたがるし、自然保護活動にも積極的で、結構な数の無人島や手付かずの土地を所有している。

 

 

 まあ、勝手にやってるのは良いんだよ。別に私達だって世俗から離れた人嫌いって訳じゃ無い。助けられるなら助けるけれど、あの連中は此方にまで人助けすべきって意見を押し付けるから面倒なんだ。

 

 

 何かこう、行事とかで周囲より数段張り切っている体育会系的な? 悪い事とは言わないけれど、自己犠牲って押し付ける事じゃないだろうってね。

 

「……さてと、ちょっと話を聞かせてもらおうか」

 

 何か猫の鳴き声が五月蝿かったり慌てる女の声が聞こえてくるけれど状況は分からない。

 偶然居るだけなのか、接触の為に此処に居るのか、それだけでも確めておかないと実家に知られた場合にメスガキが鬱陶しいだろうしさ。

 

 

 

「やあ、妖せ……コスプレイベントでも行くのかい?」

 

 妖精使いが何の用で来たのかと聞こうとしたけれど、妖精使いの象徴である杖とは不釣り合いな軍服姿だったので別の問い掛けが口から出てしまう。

 

 えっと、基本的にファンシーだったり化学繊維を使わないのが方針じゃなかったっけ?

 

 

 

「そ、其処の人! 霊力を封印されている状態で恐縮ですが助けて下さい! この猫ちゃん達が妖精さん達を獲物だと思ってるらしくって!」

 

 ……うん? 封印?

 

 霊力が封印されている状態? 私の?

 

 退魔士の名門一族伊弉諾家の長女で類稀な放出量を持ちながら霊力がゴミの私が実は霊力が封印されていた、それを特殊な妖精使いが見抜いた事を切っ掛けに私の伝説が始まる。

 

 タイトルは『退魔士一族の落ちこぼれだけれど、妖精使いの力で覚醒、神に届く霊力で無双します 〜今更媚を売ってももう遅い〜』とか?

 

「退魔士って見抜いたのは兎も角、どうして私の霊力が封印されているって思ったんだい?」

 

「え? だって霊力を安定させている技術に比べて霊力量が余りにも少ないですし、見抜けない方が……あれ? 封印の痕跡が無い?」

 

 私に杖を向けた妖精使いは得意顔で術を使おうとして、数度術の行使が不発に終わった所で首を傾げる。

 いやいや、そもそも伊弉諾は平安時代より更に遡って存在する名門だし、当主の娘が封印されているかどうかなんて分からない方がおかしいからね?

 

 

「悪いね。私はただの落ちこぼれさ。じゃあ、彼氏と朝ご飯を食べる約束だったから失礼するよ。ほら、行こうか」

 

「お、おう……」

 

 別に其の内話す予定だった事を思わぬ機会で口にした事には何も感じないけれど、妖精使いへの評価は下降中だよ。

 

 この短期間に情報を得て家まで来た行動力やらは評価してやるけれど、結局はイメージ通りの妖精使い。

 思い込みが強いと言うか親切心で動けば問題は起きないと信じてると言うか……はぁ。

 

 大和先輩の腕に抱き付く様に腕を絡めて家の中へと入って行く。

 途端に刺す様な視線を二つ、胸に刃を突き立てられ首に縄をくくり付けられた錯覚を覚える程の殺気を向けられるけれど直接的な行動は無し、と。

 

「ドッと疲れた気分だよ。少し休ませて……もらえるかい?」

 

「まあ、別に良いけれど、さっきの奴等は大丈夫か? 猫達とか……」

 

「猫達に何かするならとっくにしているさ。契約によって霊力を与えられただけの猫じゃ妖精をどうにか出来ないし、そんな小動物を妖精使い達がどうにかもしないからね」

 

 余計に殺気が濃厚になるけれど敢えて大和先輩に強くくっつく。

 反応が面白いけれど、多分少し一人になっただけで何かされるな、これじゃあ。

 

 軽い様子見がとんでもない事になったものだよ。

 ……トイレとかどうしよう。

 

 

「妖精? ああ、妖魔にしては少し変な気がしてたんだ」

 

「おや? 妖精については知らなかったのかい?」

 

 これは会話をする切っ掛けになりそうだね。

 流れの中で家に居る二体について……っ!?

 

 

 

「主人様、御客人との歓談中に失礼致します」

 

「出過ぎた真似では御座いますが、どうか私達めに同席の許可を頂きたく」

 

 聞き出そうと思考した瞬間に既に目の前で跪いていた。

 恭しく頭を垂れて告げる言葉の一つ一つに込められた圧力に思わず視線が釘付けになる。

 

 和装の黒髪の美少女は凛とした雰囲気を持つ気高い空気の持ち主。

 

 金髪のドレスの美少女は優雅でカレン、高貴な生まれを窺わせる。

 

 おいおい、おいおいおいおいっ!?

 

 間近に見て漸く分かったけれど、こんな化け物と十年以上の付き合いで、反抗も従属化もされずに一緒に暮らして、剰え逆に従えているだって!?

 

 

「……君達の主人は随分な大物だったみたいだね」

 

 ドッと流れ出す冷や汗、ちょっとシャワーを浴びたい気分だよ。

 まるで獅子の口に飛び込んだ小鼠の気分、此処で逃げ出すのはちょっと難しいね。

 

 

 

「御客人、茶の一つでも出しましょう」

 

「どうぞ此方に」

 

 

 丁重な態度だけれど私への敵意は隠す気も無いってか。

 

 

 二人に案内されるがまま私はソファーに座り、対面に大和先輩が座る。黒髪の方は彼が座るソファーの後ろに表情一つ変えずに立ち、金髪の方は横向きの姿勢で彼の膝に座ると微笑みながら彼の顎を撫で……様とした所で黒髪の方に襟首を掴まれて放り投げられた。

 

 

 ……あれ? 一瞬だけ犬と猫の耳と尻尾の幻覚を見た気が……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、何やってるんっすか。ご飯の時間っすよ」

 

「んにゃあ!」

 

「た、助かった……」

 

「何かコスプレイヤーが居るっす……」

 

 

 

 

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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