三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
それはちょっと昔の記憶、伯父さんの所に娘が生まれたからって顔を見にアメリカを訪れた俺達家族が屋敷まで来ると二人の女の人が門の前で言い争いをしていた。
「この(自主規制)! 遊び相手の分際で調子に乗って!」
「あらあら、余裕がないのね。これだから(禁止ワード)は」
当時の俺は十歳程度、日本在住だけどアメリカ人の母さんから英会話は習っていたから日常会話程度なら出来ても、訛りが混じったり興奮して早口になれば聞き取るのは難しい。
分かるのは二人の様子からして伯父さんがやらかしたんだろうなって事だけだ。
「兄さんったら何をしてるのよ、全く」
「おや? 婚姻契約を結んで法律上の責任が無いのなら一人の相手に縛られるのは良いパートナーを探す上で非効率だって言っていなかったかい?」
「それは良いのよ、別に。問題はちゃんと対応しておかないから今こんな事になっているってことよ。これじゃあヤシキ入れないじゃない」
両親の会話から推察しなくても伯父さんの複数居る恋人の間で揉めてるってのは当時の俺にも分かったっつーか、数回も目にしているから考えるまでも無いっつーか。
母さんのその辺の考え方は聞かなかった事にしよう。
取り敢えず銃社会のアメリカで不用意に他人の揉め事に割って入るのは危険だからと、伯父さんの迎えで空港まで来た防弾使用の車の中で警備員が来るのを待っていたら案の定片方が銃を抜いて、何処からか放たれた銃弾で弾き落とされた。
銃を、じゃない。引き金を引くタイミングを見定め、ブレまで考慮して発射直後の弾を弾いたんだ。
後で敷の屋上からの狙撃だって聞いて驚いたよ。狙撃主兼伯父さんの秘書さん曰く、ボスの不始末で痴話喧嘩が起きたのに、それで銃を弾き落としてはボスの恋人が怪我をしかねないから、だそうだ。
「大会とか出ないんですか?」
「子供の頃の私より劣る選手しか居ないのに出る意味が有りますか?」
こんな感じの事は何度も目にしたんだが、ちょっと似た感じの事になっているのが血なのかなぁって思うんだよな。
いや、俺って伯父さんと違って女性関係が爛れてもいないし、扱いに慣れてるって訳でもないんだが。
因みに喧嘩していた二人は後で伯父さんが相手をして仲直りしたらしいと、伯父さんとの間に生まれた女の子を抱きながら教えてくれたのも伯父さんの恋人だ。
あの人を見ているとその辺の考えがバグりそうなんだよな、どうしてだか上手く回ってるしさ。
「しかし随分と仲が良いんだね。思ってたよりも親しい感じじゃないか」
顎に手を当てて少し興味深そうな感じで小姫が俺を見ているんだけれど、客が来ている時には姿を消すか従順な配下の演技を(面白がって)しているのに今日はちょっと変だ。
「おや、今日は普段よりも冷たいですね。先程も口付けと共に(霊力を)注いで下さいましたのに」
「普段から私達めの(魂が封印している人形の)服を一方的に剥ぎ取って(手入れをしている)のに……」
いや、変でも何でもないな。この二人、完全に悪ノリしてやがる。
普段は従順な配下の演技をしつつも屈辱だからと直ぐに姿を消していた。
今は小姫の前で俺とはそんな関係みたいな態度である、完全に悪巫山戯じゃねーかよ。
「あのなあ…ちょっと誤解を呼ぶ言い方するなっての」
軽く嗜めるが、俺がして良いのはそれだけだ。
小姫は確かに初恋の相手だがよ、二人は十年来の友人で長い間一緒に居た間柄。
……時々関係を迫られてる身からすれば二人が邪魔するのは嫉妬とかが混じってるのが分かるし、俺の為ってのも理解してる。
こんな時に伯父さんなら……いや、駄目だ。”三人揃ってベッドの中で虜にしちまいな。俺様の甥っ子なんだから楽勝楽勝!”とか大笑いしながら言われて終わりだ。
二人が小姫に警戒を向けるのは俺に近付いた目的が理由なのは分かっているさ。小姫自身がいずれバレるからって隠す気が無いのか俺の能力目当てだし、退魔士の名門一族らしいから望む通りに霊力の供給元として一緒に居れば危険な目にも多く逢う。
そりゃ俺が逆の立場でも面白くねえよ。
それでも俺は小姫に惚れているし、その好意は常に上昇を続けている。今こうして一緒に居られるだけで幸せだ。
その一方でお玉とドロシーは家族同然、一緒に居てくれるのが当たり前の関係だ。
恋心を貫きたいが、それは大切な相手の想いを無下にする行為にもなるのが辛い所。
どっちかを選ぶっていう選択肢……それは糞食らえだ。
「言っておくが妙な事はしてねえからな。二人は俺にとって大切な友達だって事だ」
俺は欲張りだから両方とも大切にしたい。じゃあ、どうすべきかって言うと、簡単に言えば強くなる事だ。
小姫に巻き込まれても不安にさせない程に強くなってしまえば良いんだよ。
二人からの好意にどう返すかは……ちょっと考えを保留で。
未だ想いをちゃんと伝えていない俺だが、伝える前に伯父さんみたいに男女関係が乱れてるって思ったら多分この恋は終わるだろう。
誤解だけはなんとしてでも……。
「ああ、勿論変な風には思っていないさ。だって彼女達は人の姿を持つ妖魔。古くからその手の相手と契約を結んだ場合、契約の強化の為に肉体関係を持つのは珍しくも無い」
肩を竦める姿からは慌てるのが大袈裟とでも言いたそうに思える。
え? いやいや、流石にエロい事するの普通じゃないよな?
まさか割り切ってするって事か?
「一部の妖魔以外は人との間に子供なんて出来ないし……わ、私も経験者が相手の方が助かるかにゃ……助かるかな」
そんな俺の葛藤なんて知らないとばかりに小姫は平然と……平然とはしてないか。
まあ、最後の方は動揺しまくりだったけれど平然としている姿に拍子抜けな感じだが、これって俺が二人と関係を持っていようがどうでも良いって事に……。
「まあ、君達の契約の繋がりを見るに口付けが精々……」
「なぬっ!? お玉よ、それはどういう事だ! 余を出し抜いてしたのか!? ちゅーしたのか!?」
「……はぁ」
そしてドロシーも演技が崩れてお玉が額に手を当てて溜め息を吐き出すグダグダな始末。
って言うか、小姫も俺とそういう関係になる事を前提にしていないか?
多分霊給者関連のあれこれだろうが、ちょっと複雑な気分を俺は覚えていた。
何と言うべきか、これは選択肢の問題なんだ。
「出会って一月も経たぬ内に抱かれた際の心配か? 今の時代の退魔士とは随分と気が早い。それとも……我が友を己の為に利用するのが決定したとでも思っているのか」
お玉の声色が代わり、押し潰されそうな程に空気が重くなる。圧力を向けられているのは俺じゃないにも関わらず上から物理的に押さえ付けられているみたいな中、その圧力を向けられている小姫は笑みを浮かべては居るが冷や汗を流して余裕が無い。
「随分と敵意を向けて来るじゃないか。ああ、妙に人間臭いと思ったら元々人間だったタイプだね」
「牽制のつもりか、小娘。大和の意を汲んで此処で死なせずにいてやっているのを理解せぬ訳でも有るまいに。我等が元人間だからと容赦を期待したならば見当違いだ」
お玉の手には何時の間にか骨で造られた刀が握られ、背後には薄っすらと炎に包まれた骸骨の兵士の姿が浮かぶ。
おいおい、マジ切れ寸前じゃねぇか!?
「妖魔に転じた時点で人心など殆ど失われた。大和以外の人間など死のうがどうしようが我には無縁な事だと身を持って知りたいのなら……ちっ」
お玉の掌に青白い炎が出現して一触即発の空気の中、チャイムも鳴らさずに玄関の扉が開かれる音が聞こえて来た。
途端に姿を消すお玉とドロシー。小姫が深く息を吐き出せば廊下の方から聞こえるのはドタドタと早足でこっちに向かう馬鹿の足音。
いや、もう一人居るな。
「用があって来る時はチャイムを鳴らすか声を掛けろって言ってるだろうが、八雲」
声も掛けずに扉をガラッと開けて入って来たのはお馴染みの馬鹿こと幼馴染みの八雲だ。
「あっ、やべっ! まあ、自分と大和さんの仲じゃないっすか。二つ目の実家みたいなもんっすし、そっちも家に来る時に何も言わずに入っても大丈夫っすよ」
これで何度目だと少し怒ったら流石に止まりはしたんだが、顔見ればヘラヘラ笑っていやがるし、全然反省してやがらねぇな、このまな板娘。
こっちにも都合が有るんだし、玄関の靴を見て黙って上がり込んで良いかを考えろ。
「テメーと俺の仲だろうが、客が居るんだし二番目の実家だろうが声くらいはかけろ。そして知らない奴を勝手に連れて上がるな、馬鹿。アンタも悪いな。その馬鹿が迷惑掛けた」
八雲の手が伸びる先には袖を掴まれて引っ張られて来たらしい妖精使い。慌てた様子や落ち着かない表情からして八雲の奴が連れ込んだってところか。
「お邪魔します……」
「大和さん、大和さん。この子、大和さんに会いたくて来たらしいんっすよ。モテモテ……あっ、小姫ちゃんまで居るじゃないっすか!」
知り合い? いや、そもそも同じ学校の同級生だ。それに珍しい苗字だから印象にも残るか。
長身貧乳と低身長巨乳って正反対だしな。
「凄いっすね! 自分、勇さんとかの年上組以外で大和さんが女の子を家に上げるの数人しか見てないっすよ! お隣さんで付き合い長いのに!」
それはそうとして声が大きい事には参る。
元気なのは結構だが、それでも限度があるだろう。
因みにあまり上げないのは同居人が五月蝿いからな。縄張り意識強いんだよ。
「うるせぇ、声のトーンは落とせ。そして人様に迷惑掛けんなっつってんだろうが」
どうせ俺に用があるって聞いて、それだけで連れ込んだんだろ。勝手に入れないから家の前で困ってたのに連れ込まれてしまったなら仕方がないか。
小姫は放置してたが、放置した方が良いと思った相手で、それは放置していても大丈夫な相手ってことでもあるからな。
「おい、八雲。ちょっと外してくれ」
「了解っす!」
あー、こんな時に余計な詮索しないから助かる。昔から世話を焼かされちゃいるが、それでも長く付き合うだけの奴ではあるんだよ、この馬鹿は。
俺の言葉におふざけで敬礼をしてから部屋から出て行く八雲だが、その足が廊下に出た所で止まった。
あー、これはアレだな。
「大和さんモテモテっすね。朝からお盛んじゃないっすか!」
「お前、暫く出禁な」
ほら、思った通り余計な事言いやがって、違うっつーの。
「二日くらいっすね!」
「四日だ、ボケ」
親指を立てていい笑顔を向ける八雲を軽く手首を振って追い出し、玄関の扉が閉まる音を聞いてから妖精使いに向き直る。
小姫もいつの間にか壁を背にして立っていて少し警戒した様子なんだが、当の本人は気にした様子も無い。
余裕ってことか……いや違うな。
違う違う、これは何かされるだなんて思いもしないタイプだわ。
性善説の持ち主とでも言うべきか、命懸けで妖魔と戦うんだから悪人じゃないとでも思ってるのか?
「ところで先程の彼女は帰しても良かったのですか?」
「あの子は妖魔やらを知らないし、霊力だって普通さ。だろ? 大和先輩」
「少なくても長い付き合いの中で彼奴が見えてるって感じた事も無いしな。知らないならそっちの方が良いだろ?」
八雲はこっち側を知らないし、知らなくて良い。オカルト関連を趣味程度にして呑気に楽しんでりゃ良いんだよ。
ぶっちゃけ退魔士関連って無理に関わっても良い事無いしな。
だから遠ざけて、此処からは関係者だけの話し合いだ。知らずにヘラヘラ笑ってろ。
この時、俺は八雲に何も知らせていない理由を聞いて不思議そうにしている妖精使いが気になっていた。
妖魔の存在が広まれば不安が増えるし、時に実在するのならと犯行を偽造する奴だって出るのは明らかだ。
だからこその秘匿、それを疑問に思う必要はあるか?
「ど三流退魔士の武尊大和だ。初めまして」
「妖精使いをやっているルサルカ・フォン・ハイドリヒです」
「……」
俺と妖精使い……ルサルカさんが名乗るが小姫は視線を一瞬送っただけで沈黙を貫く。その態度には少し敵意めいたものまで混じってるな。
「ルサルカ? 確か何処かで聞いた覚えが……」
零課から妖魔の討伐依頼を受けては居るが、あまり深入りしない方が良いって判断からか、勇さんは退魔士一族については教えちゃいない。
精々がザッと区分して三つに分ける程度だが、一度だけルサルカという名前を直接的じゃない方法で聞いた気が……。
「ふふんっ! 私も最近は登録者が増えて来ていますし、一度動画再生数が凄い事になりましたからね」
俺の反応に得意そうにスマホを見せて来たルサルカさん。
画面は動画投稿サイトのとある投稿者のページになっているが、動画は読み込みが全然終わらずに再生されない。
「今月のデータ使用量が凄い事になってまして。えっと、無線LANの機械とかは……」
「生憎無制限の契約をさせて貰ってるからな。ウチ、両親がアメリカで仕事してるからネットでやり取りしてるんだよ。えっと……ルサルカの妖精チャンネル?」
どうも内容からして妖精の力で怪奇現象に立ち向かったり枯れた植物を再生させるとかの内容……有体に言えば本来隠すべき力で動画を作ってるって事なんだが……。
「これって動画だろうと妖魔の姿は普通見えない筈じゃ?」
「ほ、ほら、物が勝手に壊れたりとか見えない何かが居るのは伝わるので、ちゃんと存在は伝わる……筈です」
「あれ?」
関連動画のリストの一番上には、このチャンネルの内容を科学的にだったり映像編集技術とかの関連で検証する動画が表示されている。
サムネには白衣を着てビン底眼鏡を掛けた知り合いがアップになってるんだが、そのタイトルが……。
「ククルルのオカルト解明チャンネル……」
あっ、思い出した。前に零課の支部に呼ばれた時、三徹目のククルルさんが大笑いしてたっけ。
『ヒーハー! 動画改竄終了完了お終いだー! このククルルの前じゃルサルカだかルカルカだか知らないけれど無力無力ぅ! 全てインチキに変えてやんよー!』
そうそう、この後で追加の仕事が決まってガチ泣きしてたんだよな。
「この人って私を妙に敵視してて、本当に妖精さんの力なのにトリックだって解説する上に、投稿動画がトリック有りのものに改竄されるんです。月に一度くらい徹夜で働く事になれば良いって酷い考えまで浮かんじゃいますよ」
そして被害にあった本人の反応がこれだが、一徹なんて優しいな。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし