三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
自然と人を守り、妖精と共に生きる、それが私達妖精使いの在り方であり、力を持って生まれた者としての義務。
誰かに強要されてもおらず、誇りにさえ思っているのですが、ちょっとだけ息苦しいと思う時も。
大体、今の世の中で自然由来の物ばかりを使うのも無理が有るんですよね。
世知辛い現代社会、妖精達の棲家である自然豊かな土地を手に入れるにしても土地代や管理の手間暇、固定資産税等のお金の問題は多いですし、妖精さん達の力で治療可能な怪我や病気にだって術者の能力や限度が有るんですから。
……アレルギーとかの自分の体由来の病気は治療が難しいし、歯のメンテナンスだって専門医には劣るので税金を含めて払う物を払う必要が有りますし、スポンサーを得て悠々自適に使命だけの人生なーんて無理な話。
いや、使命だけの人生を悠々自適とは認めませんしね。
一時期、社会経験も乏しく理想と力だけはあった頃にポカをやらかしてからは義務教育だけでなく高校は出ろってなったのですが、そうしたらお洒落とか色々と知識が入るし興味も湧く訳でして……。
妖精使いを知る者はこう呼びます。
理想主義の世間知らず……結構閉鎖的なコミュニティですし、思考が柔軟な人だってそれなりにいる師匠世代は兎も角、更に上の世代の方々って頭が固いですから否定は出来ないのですけれど。
人助けを謳う割には依頼料が高い偽善者……まあ、理想は理想として、それでも依頼されれば報酬は頂きます。
お坊さんがお経を唱えたらお布施を払うでしょう?
別に払わなくても困っている人の為に力は振るいますが、妖精さん達の為にも先立つものは必要ですし、払える人には払って貰いませんと。
良いじゃないですか、普通なら無理な病の治療だって可能なんですし。
後は押し付けがましいとか、結局は妖精ありきとか色々ですし、妖魔退治のついでに人助けを基本とする退魔士の皆さんとは少し相性が悪いのが実情です。
考えが古くて昔から変わらない、そんな人が多いのが 使いの実情ですが……。
「私は若手を中心に構成される革新派の一人でして、ちゃんと人生を楽しみつつ人助けをしようって主張しているのです」
お洒落もしたい、美味しい物も食べたい、色々な娯楽だって楽しみたい。
この軍服だってその一環、ドイツの軍服ってお洒落だと思うんですよね。
胸を張って自慢の仕事着を見せる。勿論普通の服じゃなく、妖精使いの伝統技法によって与えられる加護付きの衣装にだって負けないのです。
「それで俺の所に来たって事は……」
「は、はい! 矢張り伝統を守るべきと主張する妖精使いは多く、私達には実績が必要なんですよ」
今は普通に使われている事だって一昔前には受け入れられていなかった事は多いですし、文明を活かして情報を集めたりとかの点では数歩リードといったところでしょう。
一斉送信で受け取るメールって便利だなあって改めて思いつつ、今回接触を目的に訪れた方である大和さんは察して下さったらしく、退魔士らしい女の子……私が先程失礼な事を言ってしまった相手に一瞬だけ困った様に視線を送るので、私はピンッと来ちゃいました。
「其処の方が現在、その……霊力を供給している方なんですよね?」
妖魔が契約したり襲ったりした相手から霊力を奪ったり、時に支配下に置いた相手に霊力を与えて強化する事はあっても人から人に任意で分け与えられる力は妖精使い並に貴重。
これで供給量に相手への好意が関係していなければ悲惨な事になっていたでしょうが、先程玄関前で彼氏と言っていましたし、つまりこのお二人は既に……。
「あわわわわわわっ!?」
ど、どうしましょう!? お二人が恋人としてそういう事をしているのを想像しちゃいました。
「いや、どうしたんだい? 妖精使いってのは変なのが多いとは聞いていたけれども……」
妖精使いへの風評被害が聞こえた気がしますが、今の私にはそれに反応する余裕なんて有りません。
だって中学校は女子だけの所に通っていましたし、今だって女子高に入っているから同級生からの話と学校で友達に借りた少女漫画は過激なシーンが多いからと聞いたので読めなくって、結局は友達の会話でしかそっち方面の知識を持っていないから……。
で、ですが、私にだって理想がある。仲間の為に、これから妖精使いになる後輩の為にも、自分の眩しい青春の為にも貫くべき信念が有るのですから。
「や、大和さん!?」
勇気を出して右手を差し出せば周囲の妖精さん達が体を震わせて応援をしてくれる。
だから少しはしたないとは思いつつも震える声を絞り出し、戸惑う顔の彼の目を見据えて、やっぱり恥ずかしさから目を逸らしながらも言った。
「こ、恋人でもない私相手では抵抗があるでしょうけれど、そ、その、私と……今後何度も手を繋いで下さい!」
「……え?」
差し出した手が震えるのを感じるけれど、思い起こせば異性の手を握るだなんて幼稚園のお遊戯会以来。
言っちゃった! 私、凄い事を言っちゃいました!
妖精使いの資質は基本的に女性が多いので男性との付き合いが薄い事が多いですし、別に親から子に遺伝する訳でもないので私が所属していた団体は当然ながら女ばかり。
小さい頃からお世話になった師匠や長老達も女性で、小学校では男の子も居はしたけれど女の子とばかり関わってたから運動会とかのイベントでちょっと話をしたりはしたけれど……。
そもそも! 学校から帰ったら妖精使いとしての修行ばかりで女の子との関わりだって薄かったんですけど!
侘しいな! そして寂しいな、私の人生!
つまり触る必要があったから触った経験が僅かにあった今までと違い、今の私は自分の意思で男性と手を繋ぐという交際関係みたいな行為を求めているって事で……。
これ、出会って数日の方と結婚するのと同じなのでは!?
頭が沸騰しそうで、心臓の音が普段の数十倍の大きさで五月蝿い程に聞こえて来た。
だ、大丈夫大丈夫、深呼吸深呼吸。
「ヒッヒッフーヒッヒッフー」
「なあ、彼女が急にラマーズ法を始めたんだが、妖精使いの伝統とかなのか?」
「さあ? 妖精使いって秘匿主義だからね。多分何かの意味が有るとは思うけれどさ」
私達妖精使いは基本的に妖精使いとのみ行動するけれど、全く情報が入って来ない訳じゃない。
だから霊給者についても古い文献で読んだのですが、まさか互いに指を絡めて手を繋ぐだなんて破廉恥な方法なのには驚きましたよね。
「えっと……」
思考の海に沈んでいたせいで二人の会話が殆ど入って来ませんでしたが、私を見る大和さんの顔は少し困惑気味。
理由は何となく分かるんです、自分でもとんでもない事を言ったと思いましたから。
「そ、そうですよね。指を絡めて握り合うだなんて恋人のやる事ですものね」
今になって自分の発言が恥ずかしい。出会ったばかりの異性に恋人みたいに振る舞おうだなんてとんでもない事を口にしちゃうだなんて。
で、ですが、これも世の為、人の為。革新派の躍進を抜きにしても彼の膨大な霊力を注いでくれれば多くの人を助けられる筈ですから。
それでも相手からすれば男好きの色ボケに思えるんでしょうけれど、彼の恋人である彼女だって私を睨んで……あれ?
睨んでないどころか呆れている?
「いや、まあ、手を繋ぐのも霊力の供給の方法の一つなんだけれど、一番効率が悪い方法だよ?」
「え?」
「因みに私がやっているのはキスさ」
「キ、キス?」
キスって、あの天ぷらにしたら美味しい奴? こう手料理をあーんって感じに食べさせて? え?
まるで新婚夫婦みたいに食べさせ合う光景が頭に浮かぶ。瞬時に頭が沸騰しました。
「塩とか天つゆとかの違いは有りますか?」
「うん? 何を言っているんだい? キスだよ、キス。接吻、ベーゼ、口付け」
「はひぃ!?」
何かの間違いかと彼女の方を見れば人差し指で自分の唇をなぞる様に撫でているし、多分間違いじゃない、ですよね?
キス、キス、つまりチュー。男の人と唇を合わせる奴で、本当なら結婚式でする奴で……。
「あ、あわわわわわわわっ!?」
「因みに供給して貰うと凄く気持ち良いんだよ。エッチな事をした時の気持ち良ささ。君だって自分の指でした事があるだろう?」
もう私の頭の中には学校の性教育で習った事(但しパニックで半分以上覚えていない)が何度も繰り返し再生されて顔が火を付けられたみたいに熱い。
「ほら、こんな感じの事をした時のだよ」
両手で頬を挟み込んで混乱する私に近寄った彼女が見せて来たのはスマホの画面に映し出された漫画のページ。
町中で見掛けたゲームの広告ポスターのキャラが出ているんだけれど、数人の女の人が裸で同じく裸の男の人を囲んで……。
え? この人達って何をして……えっ?
「ほら、このヒロインなんて君に似ていないかい? 頭の中で置き換えてごらん」
私が戸惑う間も彼女はページを進め、私に似ている様な似ていない様なキャラのコマをズームさせる。
彼女はベッドの上で後ろから抱き抱えられて、そのまま男の人の一部が女の人の……。
耳元で囁かれた言葉にパニック状態の私は従ってしまい、頭の中では私が同じ事をされている光景が浮かんでしまう。
「きゅう……」
次の瞬間、私の意識は落ちた。
「あっ、やっべ。君、この程度で気絶するとかどれだけ純情なんだい?」
「言っておくが同性だろうとセクハラになるぞ? それにしてもお前もこの子も出会ったばかりの相手の人生を左右する選択肢を人生設計に組み込んでくるよな。退魔士ってそれが普通じゃねぇだろうな?」
「はっはっはっ! 今後もこんな感じに勧誘があると思うし、さっさと私と契約するのがお勧めだよ」
何か私について話をしている気がしたけれど今の私にはちゃんと聞こえない。
代わりに聞こえて来たのは今でも忘れない会話、幼い私が決心をしたあの日の風景が目の前で甦っていた。
「大丈夫よ。変な人が居ても急いで逃げれば良いんだから」
「駄目! 本当に危ないんだから帰らないと……」
深く暗い森の入口で幼い私は友人を連れて戻ろうとしたけれど、お化けを見たとか魔女が棲んでいるって噂のあるその森に興味を持った彼女は止められない。
彼女の腕を掴んだまま涙目で引き摺られて行きそうな森の中、何とか見える距離の木の下に魔女がいた。
血の様に真っ赤なとんがり帽子とローブを着てペストマスクを装着した女の人……の姿をした妖魔が手招きをしているのが怖くて今すぐに逃げ出したいけれど、友達を見捨てられないから私も一緒に森の中に足を踏み入れ様として、その手が急に痺れて思わず離してしまう。
「何で……」
私が手を離したのに気が付かずに友達は森の中にドンドン進んでいって、反対に私は一歩も進めない。
手を離してしまったのも、目の前から迫る見えない壁に押されて森から離れて行くのも全部妖精さん達の力。
だから必死にお願いしたけれど、叶わず私はそのまま森から遠ざかるだけ。
だって、妖精さん達にとって友達は私であって、私の友人はそうじゃないから。
木にとって邪魔になる枯れ葉が枝から落ちるみたいに、私の友人を見捨てる事で私を危険から遠ざけたいと、私を守る為にしてくれているから。
「お願い! 私が魔女と戦うから! だから、あの子を……」
魔女狩りや、その一環として行われた猫の殺処分。皮肉な事にその事に向けられた悪意や恐怖から誕生したのが魔女に分類される妖魔達。
当時の私じゃ倒すのは勿論、友人と一緒に逃げ延びるのも難しい中位妖魔。
妖精さん達は友達になってくれる心を持ってはいても、その精神の在り方は人間とは別物。だから、絶対に勝てない相手に私が挑むのを許してくれない。
小さな私は泣きながら手を伸ばすけれど妖精さん達は”危ないから逃げようね”や”君が巻き込まれなくて嬉しいよ”と伝えて来るだけ。
私まで魔女の術に掛からなかった事に喜び、絶対に勝てないのに友人
だって、妖精さん達にとって妖精使いとその素養が有る人以外はただ存在しているだけとしか認識していないから。
「お願い! あの子は私の、私に大切な友達なの!」
友達なら自分達が居るから大丈夫だと妖精さん達は私に言い聞かせる。大勢居るんだから少し減っても良いじゃないかと。
この日、私は始めての普通の友達を失って、だから決めたのでしたよね。
「絶対に妖魔の存在を……あれ?」
目を覚ませば知らない天井の下、畳に敷かれた布団の上で私は寝かされていた。
どうしてこんな所に居るのでしょう、と思い起こそうとしたけれど何故か恥ずかしさが込み上げて邪魔をする。
服はそのまま、杖も荷物も枕元、どうやら気を失ってから運ばれて来たみたいだけれど……。
「やあ、起きたみたいですね。妖精使いのお嬢さん。コーヒーと紅茶とココアのどれが良いですか?」
優しい声に視線を向ければ其処に居たのは優しそうなお兄さん……お姉さん? どっちだろう?
あっ、妖精さんが女の人って言ってる。
「えっと、貴女は? 妖精使いを知っているって事は……」
「僕は
「零課……」
何処か自嘲する様な彼女の口から出たその名前に思わず眉間に皺が寄ってしまう。
数度だけ話を聞いた事があるのですが、人材不足等の理由は理解しても納得は出来ないですよね。
だって、余程の被害が出ない限りは事故が多発している程度で済ませられるからと
応援待ってます
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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