三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「ふーん。零課にあまり良い印象を抱いてはいないって様子かな? まあ、あの尊敬すべき馬鹿とは違って辞表を出した僕は何も言えないけどさ。……色々とお偉いさんが面倒なんですよ」
折角の休日の朝、録画していたドラマを一気見して、積ん読中の小説を最新刊の終わりまで読もうと思っていた所で掛かって来た電話。
仕事関係以外なら無視しようと思っていたけれど、まさか道場の後輩として学生時代から知っている仲の上に、今現在は手が掛からない生徒だけれど深夜徘徊して危ない事をしている大和の頼みじゃ仕方が無い。
そんな理由で朝っぱらから車に気絶した女の子を乗せて家に連れ込む女教師……あれ? 凄く犯罪臭いな。
「権力争い……ですか?」
そんな彼女はどうも零課には好印象を抱いてはいないらしいが、妖精使いの理念からすれば当然か。
僕だって実際に入って理想破れてって奴だしさ。
「そっ。零課は素質が零なら到底成り立たない仕事ばかり。だから週に一度は徹夜するなんて普通なんだってさ。まあ、僕が配属された支部は些か違ったけどね」
才能が無ければ写真や動画ですら知覚出来ず、仕事の内容からして大っぴらに補助人員をって訳にも行かない。
何せ今の社会じゃ退魔士だって人手不足、無い無い尽くしじゃ理想なんて折れちゃうものさ。
「世の中には複雑な事情ってものが存在するし、理想を貫けるのは諦めの悪い有能な馬鹿だけですよ」
肩を竦めて目の前の世間知らずから腐れ縁の元同僚達を庇う言葉を投げ掛ける。
零課時代に妖精使いに何度か関わったけれど、存在を把握しておきながら下位妖魔は基本監視のみにして、精々が不審者情報で人を遠ざけるのが基本な事に憤って抗議して来たっけな。
「そもそも、どうして平安時代の陰陽師みたいに退魔士が公的機関の管理下に置かれないのか。それは妖魔退治に誇りを持つ退魔士が政治的な思惑に邪魔されるのを嫌うのと、そもそも霊力なんて意味不明な力を持つ……いや、止めておきます」
生徒では無いにしても相手は子供で僕は教師、青春を謳歌している若者に汚い大人の思惑なんて聞かせるべきじゃないし、此処で止めておこう。
まあ、妖精使いが青春を謳歌しているかどうかは疑問だし、この子って多分だけれど……。
ちょっと確信には至らない事で、問い掛けた結果が間違いなら怒らせる事になる。
その場合は非常に面倒なんだよな。
視線を彼女の上に向ければ妖精達が遊ぶ様に飛び回っているけれど、いざ妖精使いを怒らせれば本人の意思とは別に妖精達が動き出す。
妖精達にとって大切なのは友達だと認識している妖精使いだけ、だから動く、その結果妖精使いがどんな想いをするかなんて気にしない……いや、理解出来ない。
そりゃそうだ。相手は妖精、人間じゃないんだから。
「ところで君って動画投稿しているよね? ククルルの奴の動画でちょくちょく取り上げられているやつ」
「そうなんです! 私が頑張って妖魔の恐ろしさを伝えたり妖精さんの素晴らしさをアピールしても全部トリックとか映像加工技術が凄いだけとか言われてしまって!」
だから彼女みたいに積極的に一般人と関わろうとするのは珍しいんだよね。
古い慣習にだって理由はちゃんと有るけれど、彼女はどういう気なのやら。
「……どっちにしろチャンネル登録者はショボいけれどね。毎日投稿していないし、ぶっちゃけトークとかグダグダだからさ」
一生懸命やっているのは分かるけれど、カメラワークも雑だし見ていて酔いそうになる事すら珍しくも無い。
映像も所々飛んでいるし、素人が安物の機材を使ったのがバレバレなのに明かされる加工が凄いって思われているんだ。
それが閲覧数には結び付かないってだけで……。
「私も勉強はしているんですが、ネットって結構制限が掛かっている上に機材だっておいそれと買えないので……」
自覚はあるのか肩を落として溜め息一つ、妖精達も彼女を励ます気なのか頭の周囲に近寄っている。
「学生じゃ場所だって借りるのに苦労するってのは分かるし、無理に撮影しなくて良いんじゃないのかい? この前だって一ヶ月くらい間が空いていたしさ」
「駄目です。私には理想がありますから」
「……ふーん」
コメントも好意的なものは彼女が可愛いとかその手のものだし、正直に言ってククルルがわざわざ邪魔をしなくても良いのに、それでもしているのは仕事のついでに趣味を楽しむためだろう。
取り敢えず動画投稿者には向いてないよ、君。
「そうだね。今日の夜にでもこの辺一帯を管理する零課の支部の面々に引き合わせてあげるよ。君と気が合うんじゃないかな?」
妖精使いは理想主義の世間知らずだなんて呼ばれるけれど、僕からすれば団体全体がそう呼ばれ続ける位に理想を捨てられないのは眩しくって羨ましいとさえ思えるのさ。
「私と気が合うのですか?」
「そう。多分だけれどね」
半信半疑、それも仕方が無いだろうさ。だって普通の零課と関わっているんだから、気絶した彼女を介抱した僕の言葉だからって易々と信じはしないだろう。
そもそも初対面の僕を信用するなって話ではあるんだろうけれどね。それでも彼女なら理想を捨てられない馬鹿同士で意気投合しそうだと確信するんだ。
「ちょっと無茶が過ぎて合法ロリヤンキーや脳内ピンク姫に怒られっぱなしの馬鹿共さ」
「は、はあ……」
あれはちょっと甘えているから無茶しているんだろうね、と苦笑すれば困惑した様子を見せる彼女に「会えば分かる」と言いつつ飲み物を用意する。
さてと、今日の予定は全部キャンセルになりそうだし、弟弟子には後で鬱憤晴らしの組手でも付き合って貰うとしようかね。
「それより君の話が聞きたいかな? 妖精使いとしてどんな戦いをして来たのか」
「はい! 是非聞いて下さい!」
彼女が喜ぶと周囲の妖精達も嬉しそうにするのが伝わって来るけれど、正直疲れるな。
完全に心を許していないためか、気が置けない相手に対する話し方をしているけれど、どうしても所々でボロが出ているし、さっさと引き合わせて休日を堪能したいよ。
取り敢えず探るべきなのは一つ。
この子が妖魔や退魔士の存在を公のものにしようとしているんじゃないかって事だ。
「それでは最初に……」
僕の予想通りなら対応を考えておかなくてはと身構えた時、途端に彼女の動きが止まる。
まさか怒気が漏れたのかと焦った瞬間、何と窓から飛び出した。
「すいません! 急用です!」
そう、白昼堂々と街中で空を飛んで何処かに行ってしまったんだ。
うん、あの子は色々と駄目だ……。
「そう言えば朝のランニングの時、妙なコスプレ女が大和の家の前で困てたアルな。何か知ってるカ」
「いや、詳細を知らないって事は放置したのか。そして知りはしたいとは……」
未だ始業のベルがなる数分前、ギリギリまで朝練に励んでたワタシは何時もの二人と話をしていたけど委員長は相も変わらずケツ穴の小さい奴ネ。
「お前、ぶっとい糞する時困りそうネ。街中で軍服着てる不審者とか気になるけれど関わりたくないに決まてるヨ」
「危機は少しは言葉を慎みたまえよ!? 淑女が何言ってるんだい!?」
「ワタシが淑女に見えるなら眼科受診お勧めヨ」
ぶっとい糞とか言った程度で興奮するとか委員長は繊細過ぎて驚くヨ。
もう少し図太くなるヨロシ。
「……確かに」
「……淑女からは程遠いか」
「さっさと気が付け、男共」
細くて小さいアルビノの女顔、女装してたら誰も男とは思えない癖に名前は
だて、委員長は制服の発注ミスで私服登校ヲ選んでたけれど、女物にも見える物だたからネ。
「取り敢えずワタシは朝練後の栄養補給の最中だから声のトーン落とすヨロシ」
「むっ! そうか。それでは静かにしていよう!」
八個目の焼きそばパンを自家製スムージー(プロテイン入り)と交互にモチャモチャ食べながら大和の方に視線を向ける。
どうせお前がまた変な事に巻き込まれるのに決まてるんだし、授業までの時間潰しに話せヨ。
今日は貞信先生が非番で空手部も副顧問しか居なかたし、不完全燃焼でモヤモヤしてるし、気になるコスプレイヤーについて話すヨロシ。
「……母さんのファンらしくてな。どうにかサインをって事だった」
「それじゃあ軍服も作中人物のコスプレだったのか。僕もファンとしては同好の士として話をしてみたいが家まで押し掛けるのは如何なものだろうか。君も有名作家を親に持つと大変だな」
ワタシには小難しいから一巻の半分でリタイアしたけれど世界中で売れてるサイエンスミステリーだたカ?
ドラマ版は観てるけど、それでも家まで来るのはどうか……ってしておくヨ。
物分かりの良い友人として腕組みをしつつ数度頷いたワタシは九個目を胃に流し込んだ所で教科書を出して、立てらせる。
ワタシの席は無駄に大きい大和が邪魔で見え難いし、これでシェスタシェスタお休みヨ。
寝る子は育つし、これで更に強くなれるナ。
じゃあ、出席確認が済んだら直ぐに……。
「委員長」
「ああ、教科書は倒しておくし、適当なタイミングで体をずらして先生から見える様にしてくれ」
おのれ、男共。
寝てからバレてしまった場合に怒られるのと、絶対に怒られるのが分かてて眠て怒られるのは別物だからナ。
結果? 勿論眠て、当然怒られたよ。
「酷い目に遭たネ。あの馬鹿二人、その内絶対に殴てやるヨ」
眠る位に余裕があるのなら、そんな事を言われてワタシだけ宿題が倍になた恨みを呟きつつ次の授業は移動教室なので準備をするけれど、全く酷い連中ネ。
先生も先生で、一年生の時のテストの点数を忘れたのカ? 余裕なんて屁で吹き飛ぶ程度もないヨ。
「それにしても選択授業間違えたカ……?」
比良坂高校には二年生から選択授業があるけれど、ぶっちゃけ興味が無かったからと簿記とかを選ばなかったのは少し失敗だったかもネ。
あの二人は選んだからワタシ一人、別に何時も一緒の必要は無いヨ?
でも、ちょっとだけ寂しい気がしながらも教室から一歩足を踏み出した瞬間、滑り気の有る妙な感覚が全身を包んで、周囲から人の声が消えた。
背後からコックリさんがどうとかこうとか話していたし、廊下では先生が不良を叱っていたのも聞こえた筈なのにそれも聞こえない……てか、姿すら消えてこれが神隠しかて気分だヨ。
「凄いアルね! あの平面胸が絶対に羨ましがるネ!」
ワタシは夏のホラー特番を楽しみにしている両親に付き合う程度だけれど、オカルト好きの八雲より先に体験出来たのは僥倖。取り敢えず写メで……ムムッ?
慌てて席まで戻ろうとしたけれど、吊るしていた筈の鞄が無い。教室は空で、まるで使ていないみたい
つまりは弁当も消え去ったって事ダ。
「まあ、物理的な危害を加えて来るのなら物理的な攻撃だって通じそうだし、蹴り倒せば良いのお化けを探せば良いだけネ」
効かないタイプ? そんな時はそんな時だヨ。
……問題はワタシにオカルト知識が殆ど無い事。
最後に見た話は布団の中に手を突っ込んで足が冷たいから見たのはお前か! って奴だたか?
「冷え性とか直前まで足を投げ出してたら間違われるのカ?」
前からの疑問を口にする。こんな時だしちょうど良いからナ。
取り敢えず次の授業までに戻らないと宿題が増える上に居残りさせられれば部活に使える時間が減るからと気合を入れて拳をグッと握り締める。
背後に誰かが立っていた。
「ホワチャァアアアアアアアッ!!」
そして繰り出す回し蹴り、振り返りざまに背後に立って居た奴に全力を叩き込めば避けられる事も無くこめかみに爪先が綺麗に入った。
『足は要らんかね?』
異様な事態、異様な場所、それに加えて数秒前まで確かの誰も居なかった場所にコピペでもされたみたいに現れた異様な相手。
故に躊躇も手加減も無し、問題が有れば後で考えるだけ。
「チィッ!」
だけど確かに入った蹴りは当てた筈なのに手応えが無い。
去年の全国大会では二連覇中の優勝候補を一撃で気絶させたワタシの蹴りが、更に磨きを掛けたにも関わらず相手を微動だに出来ていなかった。
「イィイイイイヤァアアアア!!」
丹田に力を込め、しなりを効かせた蹴りの連打でも効果無し。
目の前の相手が幻かとでも思いたいが、空気を叩く感触すら足に伝わって来ないという異様な感覚がそれを否定。
ワタシには分かるヨ。目の前の相手、間違い無く化け物!
『お前さん、足は要らんかね?』
「足? お婆さん、行商か何かカ?」
数歩分のバックステップ。息を整え、拳を構えながら相手を観察。
汚らしい身なりで大きな風呂敷を背負ったババア、声は嗄れて聞き取り辛い。
『今なら安くしておくよ。だから、足は要らんかね?』
「足って……豚足カ? ローストレッグ? まさか牛の脛肉アル?」
『いや、違うんじゃが……』
評価今以上をキープが目標
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