三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
終われば六千文字以上のホラーパート
その家庭の事を聞けば同情の念を向ける人も居るだろうが、少なくとも二人は同情を向けられる程ではないと思っていた。
これはとある親子に降りかかる不幸と不思議な出会いのお話だ。
「行ってきます!」
「ああ、気を付けてな」
数年前、彼は其なりに立派な一軒家に息子と一緒に住んでいた。
妻は息子を出産した日に容態が悪化して急死、一度も我が子を抱く事が無く死んだ妻の遺影に男が誓ったのは息子を立派に育てる事。
だから幼い頃からの夢だった刑事課から配属を変えて今は交番勤務のお巡りさんだ。
警察官という世間体と堅実さからシングルファーザーでも息子が後ろ指を指される事無く育つようにと思えば、この選択に迷いなんて無かった。
近所のサッカークラブに所属した頃から頭角を現した息子は小学校の頃から大きな大会で活躍し、強豪校への推薦の話すら来ている程。
プロを目指して道半ばで破れるスポーツ少年は数多かれど、息子はほぼ確実にプロになれるとすら言われる程の才能と周囲の誰よりも努力を重ねる熱意の持ち主。
亡き妻に胸を張って息子を育てられていると言える、そんな幸せな日々は彼が交番で道案内をしている時に届いた知らせによって脆くも崩れ去った。
その悲劇に悪人と呼べる者は関わってはいない。ただ、誰かの為に必死になって動いた結果引き起こされただけなのだ。
「ははは……。とんでもない事になっちゃったよ。ごめんね、父さん」
知らせによると息子が部活に向かう途中、パンクによって制御を失った車が散歩中のお爺さんに向かって突っ込んでいたのだ。
思わず飛び出した息子が突き飛ばした事によってお爺さんは転んだだけで済んだが、息子は足を壁と車の間に挟まれ、医者が言うには切除しかなかったという。
「サッカーはもう出来ないけれど、後悔はしていないよ。あの時にお爺さんを見捨てていたら俺は一生悔やんだと思うからさ」
「そう、か……」
それに車イスサッカーとかも有るしさ、と、真っ直ぐな瞳で語る息子の姿を見た男は誇らしいとさえ思う反面、何もしてやれない無力感から其以上の言葉が見付からないでいた。
必死に車イスや義足の練習をする息子を支える日々の中、夢破れた息子に何がしてやれるのか、何もしてやれない、あの時自分が車で送っていれば、そんな考えが頭の中をグルグルと駆け回る。
そんなある日、せめて息子が誇れる父親で在り続けたいと必死になって行った夜間のパトロールの最中、公園で高校生カップルを注意して家まで送り届けた後、交番への帰り道に小さな行灯の光に照らされた易者の姿を見掛けた。
駅前の様な人通りが多い場所ではないが、帰りのサラリーマンや学生が近道として通る様な公園の入り口付近。
顔全体を隠すフード付きの格好は如何にも怪しい占い師のイメージそのもの。非常に胡散臭い。
こんな所で占いをやってはいなかった筈だと思いつつも男は占いに興味が無い・・・・・・いや、その手の話には一切関わりたくはないと、そのまま横目を一瞬向けただけで通り過ぎる。
「もしも~し! 何か悩みがあるっしょ? 占って行かない?」
その時、背後から女の声が掛けられた。
「悩みがない人間の方が珍しいだろう。興味が無いから遠慮しよう。それよりも・・・・・・」
君は何歳なんだと、と男は易者に問い掛け様とした。
手元が隠れる長く広い袖からはみ出した派手なネイルや声の質からして若いのだろうと男は彼女に近寄ると警察手帳を出して自分の身分を証明する。
「まさかとは思うが未成年じゃないのか? 許可書か身分を証明する物を出して欲しいのだが」
「これって職務質問ってやつ? マジ!? 超ウケる」
真面目に聞く気なんて一切無いと明言しているかの様な態度に男は若干眉をひそめるものの、フードを外して露になった易者の人並み外れた美貌に思わず息を飲んでしまった。
ケラケラと笑う彼女は精々が高校生、それも少し不良が入ったタイプで、ピアスや日焼けした肌、肩まで伸ばしている髪だって染めたらしい茶髪。
「君、見た限りじゃ高校生だろう? もう家に帰る時間じゃないのかい?」
そんな相手だろうと男は他の者と同様の態度で誠実に接しようとするのだが、易者は指を組んだ手の甲に顎を乗せて男を見上げるだけで出すように言われた物は一切出す様子は無く、無許可でやっているのではという疑念が濃くなった時だ。
易者は男が向かっていた方向の分かれ道の内、交番に戻るには少し遠回りな方向を指差した。
「失せ物、探し人、向こうにあり。神仏に頼れど叶わぬ願いが叶うだろう」
「一体何を言って・・・・・・」
心を見透かされた様な、心を読まれた気がした。
目の前の易者は年頃の少女を思わせる明るい笑みを浮かべてはいるが、刑事課に所属していた経験が彼女の瞳の異様さを伝えている。
目の前の相手は見た目通りの存在ではないという直感と馬鹿馬鹿しいと否定したい理性がせめぎ合う中、男は喉がカラカラに乾くのを感じ、目の前の相手が一方的に教えた事の代価にどれだけ理不尽な代償を要求するのか恐ろしくて堪らない。
「まあまあ、今日の所はタダにしておいてあげるから行ってみるっしょ。ほら、これがウチの店の許可証。ウチ、これでも二十歳越えてるんだよね」
だが、よく分からない理由からの警戒とは裏腹に要求は無し:
今日の所は、その言葉に男は何をされた訳でもないのに否定したい。
二度と会いたくないと本能が告げていたのだ。
「確かに・・・・・・」
だから切り上げる事にした。
行灯の薄明かりで照らされた書類には何の問題も無く、そもそも勝手に占ったという事に男は触れずにその場から立ち去って行く
許可を得ているのなら相手をしていても時間の無駄で、今こうしている間にも困っている人が交番に向かっている可能性を考えて少し早足で進んだのだが気が付けば分かれ道の左側、交番に着くのが五分遅くなるルートを進んでいるではないか。
それは本来選ぶ道を選ばなかったという事であり、先程の易者が進めと口にした道だ。
「疲れているのか? 恐らく無意識に進んだんだろうな・・・・・・」
普段は独り言なんて口にしない男だが、この時は自分に言い聞かせる様に呟く。
まるで自分に言い聞かせる様に、頭に過ぎった考えを必死に否定する様に・・・・・・。
「なん…だ……?」
突如全身を襲う寒気。氷の柱を差し込まれた様な感覚とは真逆に汗が吹き出して心臓の鼓動が異常に速くなる。
不味い不味い不味い不味い不味い、振り替えるな振り替えるな振り替えるな……。
本能の警告とでも呼ぶべき物が頭に響く中、男は足に力を入れてその場から即座に離れようと……。
『足は要らんかね? どんな足だろうと売ってやるよ』
後ろから聞こえた声に思わず振り向いてしまった。
だが、背後を振り向いても其処には誰も居ない。
気のせいかと思い歩きだそうとした時、目の前にそれが立っていた。
フケだらけの汚ならしい白髪、垢やシミが街灯の薄明かりの下でも見える汚ならしい肌、そして所々抜け落ちている上に黄ばんだ歯をした小柄な老婆。
袖や襟元がボロボロの古着を着て背負う風呂敷には赤いシミ。
一目見て不審者だと分かる老婆の瞳はギョロギョロと常に動いており、正気を疑いたくなる見た目だが、鼻を刺激する悪臭を感じながら男は確信していた。
「足売りババア……」
その妖魔の名を、産み出される切っ掛けになった都市伝説について男は知っていた。
思い出すのは彼にとって思い出したくもない高校時代の記憶、忌々しい事件が起きるまでは本当に楽しかった比良坂高校オカルト研究会に所属していた頃、行方不明になった友人が最後に仕入れて来た怪談話。
元々は行商人だった老婆が小学生の悪戯によって足を怪我してしまい、身寄りの無かった彼女は怪我で歩けないまま死んだ。自分に怪我をさせた子供達を恨みながら。
夜道、もしくは学校のトイレに現れるというその老婆は出会った者に問い掛ける。その者が答えるまで付きまといながら何処までも何処までも。
足は要らんかね、と。
要ると答えた場合、三本目の足をくっ付けられる。
要らないと答えた場合、足を片方奪われる。
其処に弁明も懇願も抗議も通じない。
相手は化け物だ。妖魔とはその様な存在だ。
話せば分かる、言葉が通じるのならば……、その様な考えは人間相手に使う物なのだから。
助かる方法? 誰かを身代わりに差し出せば良い。自分は要らないので○○の所に行ってくれ、と。
友人が行方不明になってから廃部となり、引っ越しをしてから全てを忘れたいと記憶から消し去って思い出さない様にしていたその話の存在が目の前に現れた時、過去のトラウマが甦り、瞳はニタニタと笑う足売りババアから離せない。
『足は要らんかね?』
足売りババアが一歩男に近寄る。心臓の高鳴りが更に激しくなり、鼓膜が破れそうな程に大きく聞こえて来た。
男が黙っていたからだろう、足売りババアは更に一歩近寄って、都市伝説と同様に言葉を続ける。
『足は要らんかね? 一本だけ……』
男は一瞬だけ動きを止めそうになり、それでも絡れて転びそうになる足を必死に動かす事でその場から逃げ出した。
バクバクと高鳴る心臓、上手く呼吸が出来ずに痛む肺、朦朧とする意識はこの現実から逃げ出す為の救いにすら感じ取れる様な恐怖。
それでも此処で自分に何かあれば誰が息子を守るのかと必死に堪え、亡き妻と息子の顔を思い浮かべ名を叫ぶ事で自らを奮い立たせる。
男は刑事を辞めはしたが体は鍛え続け、声量だって年相応以上。
そんな彼が夜中に叫んで必死に走るにも関わらず窓を開けて外の様子を見る家は全く存在せず、そして……。
『足は要らんかね?』
足売りババアからは逃げられない。
瞬きをした瞬間、角を曲がった瞬間、その時に目の前には足売りババアが立っていて声を掛ける。
男の声とは比べ物にならないか細い老婆の声にも関わらず掻き消される事は無く男の耳に届くその声を振り払おうと男は更に大きな声を張り上げて行く。
『足は要らんかね?』
『足は要らんかね?』
『足は要らんかね?』
一体どれだけ逃げ続けたのだろうか?
「はぁ……はぁ……」
既に男に声を張り上げる事も駆ける事も出来ない中、何とか家の前まで逃げ続けられた。
震える手で中々穴に入らない鍵を持って扉を開こうと必死になり、背後に気配を感じながら転がる様に中に入り込む。
一歩踏み出せば家の敷地内という所で足を止めている足売りババアの姿に怯えながらも腰が抜けた状態で扉を閉め、施錠されているのを何度も確かめた男は漸く心の底から安堵した。
『足は要らんかね?』
「お願いします! 息子に、私の息子がまた歩ける様に二本の足を売って下さい!」
その言葉を遮る様な大声で、恐怖に震えながらも男は土下座をして、固い地面に額を擦り付けながら泣き叫ぶ。
その姿を何処を見ているか分からない瞳を向けながら足売りババアは見下ろし続け、違う言葉を告げる。
『駄目だよ。売るのは一本だけさ。それでも売って欲しいのなら全財産を差し出しな』
「構いません! だから、どうか……どうか!」
藁にも縋る想いで男は懇願を続ける。
神や仏に祈っても失った足が元に戻る事はないのだから、もしも本当に元に戻るのなら、再び息子がサッカーをする姿を見られるのなら他の全てを失っても、悪魔に魂を売っても構わない。
『ヒヒ、ヒヒヒ! 毎度ありぃ』
耳元で囁く様な嗄れ声で足売りババアは嗤い、顔を上げると消えていた。
「夢だった……のか?」
自分の願望が見せた幻だったのかと思いつつも鼓動が収まらないという現状がそれを否定する。
本当に大丈夫だったのか、致命的な選択肢を選んだのではないのかと悩んでいると既に家の前、帰るべき家は炎に包まれて夜の闇を煌々と照らしていた。
「……は?」
何が起きているのか分からずに放心したのは一瞬、即座に息子を救うべく炎の中に飛び込もうとした所で扉が開き、中から息子が這い出して来た。
「お父…さん……」
必死に両手で張って炎から逃れている息子の元に駆け寄った男の目に飛び込むのは義足ではない生の足。
失われた足とは肌の色や長さは違うものの、確かに男が望んだ物だ。
「良かった、良かったなぁ……」
男は涙を流しながら息子を抱き上げ、少し離れた場所に駐車していた車へと乗せる。
未だ火の手が上がったばかりなのか野次馬の姿は不思議な程に見えないものの遠くから聞こえるサイレンの音。
義足のはずの息子が普通ではないが二本の足を取り戻したという非現実的な状況を隠すべく大急ぎで遠くの病院へと連れて行く。
「やった、やったなあ。これでサッカーが出来るぞ……」
異常な速度で燃え上がる炎によって家が崩れるのがバックミラー越しに見えて尚、妻の遺影や思い出の品が失われてさえも息子が足を手に入れた事への嬉しさから男は泣き続ける。
これから大変だろうが、それでも息子の明るい未来は絶対に守るぞ、そんな風に亡き妻に誓いながら。
「どうして、どうしてこうなったんだ。どうして私は……」
建築基準法の用件を満たしているとは思えない程に古めかしくボロボロのアパートの一室、ガタガタの扉から吹き込むすきま風に薄いカーテンが揺れる狭い部屋の中で男が踞って嘆いていた。
ヒビと汚れが目立つ薄い土壁に背中を預ける彼の目の前には少し草臥れた一枚の写真、写っているのは息子なのか少し面影の感じられる少年で、快活そうな笑顔で手には新品のサッカーボール。
息子は火事の後少しして死んだ。
新しい足をくっつける為に無理矢理皮膚と肉を引き剥がした縫合面から細菌が、二本の足から息子とは違う血液型の血が、骨からは蝕んでいた病原体が入り込んで死んだ。
もう男には何も残っていない。
家族と過ごした家も、家族の思い出を集めたアルバムも、全て全て焼け落ちて、何もかが嫌になった男は仕事を捨て、人間関係を捨て、ただただ自暴自棄に生き続ける。
毎日、毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日思うのだ、死んでしまいたい、と。
男に唯一残っているのは家族との思い出だけ、それも救いになる物ではない。
「どうしてあんな化け物と契約したの? お父さんのせいで、お父さんがこんな足を僕にくれなかったら僕は……」
今、男の記憶の中の息子は最期の言葉を投げ掛ける時の恨みを向けた顔で、夢に出て来る妻は男を責め続ける。
呪ってやる、呪い殺してやると責め立て続ける。
家族旅行も入学式も授業参観も運動会も卒業式も全ての場面が男を恨み責め立てる顔に書き換えられ、あれだけ大切だった家族との会話の記憶さえ塗り潰された。
「なあ、早く呪ってくれ。私を地獄に送ってくれ。もう……死んでしまいたいんだ」
だから男はどれだけ死にたくても死ねない。死んだ妻に呪われる以外の死因なんて受け入れられないからだ。
そんな鬱屈した日々を男が送り続ける中、あの易者はケラケラと嗤っていた。
『っぱねぇわ。人間って本当に馬鹿っしょ。死んだらそれで終わり、死者の呪いなんて存在しないのに』
心の底から楽しそうに、世間的常識では同情すべき相手に対して正面からそれに外れる様に腹を抱えて嗤っていた。
後味の悪い展開を書くのは楽しいえ
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし