三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
数度静かに深呼吸をして意識を集中させ、正面の妖魔に視線を向ける。
片足で立ち、手に鉈を持った老婆の話は聞いた事が無いけれど、伝承を持っているタイプではないんでしょうか?
その手の妖魔って強くなりがちな分、つけ入る隙も有るから格上殺しすら有り得るのですが……。
どうしよう! 相手の情報が全く無い!
「すみません。あのお婆さんについて何か分かる事は?」
妖魔から視線は外さずに背後の彼女に訊ねるけれど、外せないって言った方が多分正確ですよね。
あの不意打ちで頭を潰して終わりだと思ったのに、咄嗟に割り込ませた腕が凍っただけで、その腕の氷も力任せに砕かれそう。
「自分では使わない物を押し付けたり、断たら人の足を持って行くババアだヨ」
「……成る程」
何処かで聞いた気もするのですが思い出せませんね。メジャーな話ではないにしても調べれば出てきそうではあるのですが……。
「あと、それを指摘したら自分で足切り落としたヨ」
「そうですか。何か逸話に関係でも有るのでしょうかね? おっと、そんな事よりも私が引き受けますので避難……」
「了解ネ!」
「判断が早いですね……。そして速い……」
色々な意味で
襲われた事で妖魔の危険性を理解したであろう彼女みたいに、蛮勇からの無謀や無知からの軽率、そんな行為に出ずに安全を優先する、それでこそ私達も安心して戦えるという訳で。
詳しく説明をして、動揺を落ち着かせて避難させる。必要な事ですが難しく、今まで怖がって逆に私の近くに居たがったり、バラバラに逃げ出す人も居ましたが、彼女の様な行動が助かるんですよね。
「動画にして公開して良い姿ならお手本として十分なのに惜しいなあ」
ついでに言うならば走るフォームも良いですし、あれは相当動けそう。
呟きながら視線を妖魔に戻せば凍らせた腕が激しく振るえ、全身の霜が剥がれ落ち始めていました。
底位は当然、下位だって多少は持ちこたえても結局は先程の冷気によって一撃必殺でしたのに、やはり中位は別格、効いてはいるみたいですがね。
氷が砕ける音がして、妖魔の腕の一部と共に氷の欠片が床に音を立てて散乱するけれど、当然の様に再生。
綺麗な状態で……えっと正直に言い難いのですが小汚い腕へと戻っています。
『お嬢ちゃん、足は要らんかね?』
少し離れているのに間近で話しているみたいな声。
成る程、問い掛ける事で何らかの呪いを付与するタイプですか。
「……」
だから無言。肯定か否定か、だけじゃなく、故意に曲解して受け取るであろう言葉は一切口から出さない。
その代わり、霊力を体外に溢れ出させながら別物にへと作り変える。
人の物から自然の持つ力に近い物へと、妖魔も扱う力から妖精さん達に近い物へと。
純度はそれなり、長老達には届かず本当の自然エネルギーとは似て非なる物でしかないけれど……。
「
その力は私の周囲を泳ぐ妖精さんに吸い込まれ、言葉に応じた力を発揮してくれる。
見える人にはクリオネに似てると言われる妖精さん達、だけれども本当は逆。
クリオネの原種が誕生するより前に妖精さん達が誕生して、クリオネはその力の影響を受けやすかっただけ。
だからクリオネは本当に妖精さん達に似ている。
『足は要らんかねぇ! キヒヒヒヒヒ!』
伝承や怪談から生まれた妖魔はそれに応じた力を得るケースが多く、だからこそ今みたいに情報が足りないのは困るんですよね。
あの様みたいに問い掛けるタイプなら返答が命取りにすら成り得るけれど、逆に背景となった話によって弱点が生まれてしまう。
そして中には特定の返答をする事が倒す近道になり得る事も。
「正しく、長所と短所は切り離せない。偉大なるニコラ・テスラの言葉の通りですね」
自分の足を切り落としたのも話の性質上そうなってしまって一時的に故障に似た状態だったのでしょう。
惜しむらくは恒常じゃなくて一時的な誤作動、ちょっとした刺激で正常になる事が有りますし、寧ろ今がそのケース。
まあ、要するに……。
「さっきの攻撃の威力が中途半端でしたね……」
鉈を振り上げて向かって来る妖魔を観察しながら呟くのは反省の言葉、先ほどの不意打ちで仕留められていれば良かったのに、と自分の見極めの甘さを悔いる。
しかし私が買った中古のテレビみたいですね、叩けば直るって。
『足は要らんかねぇ!』
それでも完全には直ってはいないらしく、今は本能で戦っているのか直線的な動きでの力任せ。
半人前なら強化していたとしても普通に骨を断てるのでしょうから威圧感が凄いですが、今や私も一人前。
そう、相性が悪くなければ中位を倒せるだろうと判断された実力者です。
「どれだけおどろおどろしく振る舞っても無駄ですよ。私は貴女より強いですから」
一度も瞬きをせずに迎える僅かな時間で詰められる妖魔と私の距離、鉈が届く距離まで三メートル、二メートル、一メートルを切って……。
今!
妖精さん達の体が赤く染まって体が大きく開く。そう、まるでクリオネの捕食時の姿みたいに。
その中から吐き出された真っ赤な泡が妖魔に触れた瞬間、灼熱が弾けた。
『ギャアアアッ!?』
「畳み掛けて! 炎の緋!」
チャージしていた分、威力はさっきの冷気よりも上。
火に包まれながら後ろに吹き飛ばされた妖魔に向かってさっきよりは内包する力が低い泡が次々に向かって行くけれど、一撃の威力よりも連射性能を重視しているから真っ赤な泡の壁になっているわ。
「よし! これなら……」
倒した、と確信すると同時に泡が弾けて炎が溢れ出し続けて私の目の前は炎の海。
凄い熱気が私の肌の表面もチリチリと焼くけれど、その炎は中央に発生した渦によって四散してしまった。
ううっ、妖精さんの炎で火傷を負ったりはしないけれど、熱は感じるからなあ。
『キヒヒヒヒヒヒヒ! 足は要らんのかねぇ?』
渦の中心は妖魔が手に持つ鉈。関節の可動域なんて無視した回転で炎を散らしながら一歩進み出た妖魔は所々焦げてはいるけれど、その傷も徐々に修復して行く。
「えぇ……」
今まで中位妖魔の相手は何度か一人でしたけれど、人型のは久々だから理不尽に感じるわ。
だって私達はお気に入りの戦闘服がボロボロになってしまうのに、向こうは……あれ? もしかして妖魔って服を着ていても実質全裸?
少し余計な事に思考がずれちゃったせいで思わず口から出た言葉。
咄嗟に口を塞いだけれど遅かった。
『成る程成る程、足は要らないかに対して、ええつまり要らないんだねぇ?』
妖魔の口が耳まで裂けて、同時に右足の付け根付近から嫌な感覚がする。
いえ、違うわ。感覚がするんじゃなくって感覚が無いのよ!
右足が全く動かないし、軽く叩いたけれど触れた手にしか感触が無い。
『それじゃあ足を……貰って行くよっ!』
「護りの白!」
床擦れ擦れを滑る様に迫る妖魔の鉈を防ぐべく妖精さん達が白い泡を吐けば膨れ上がって鉈を防……がない!?
「すり抜けた!?」
成る程、絡繰は大体読めた。これは一種の契約ね。
私の呟きを都合良く解釈した結果とはいえ、私と妖魔の間には足を差し出す契約が結ばれてしまったと
左足だけで跳んで避けたけれど僅かにてしまい浅く切り裂かれ、傷は数倍に大きくなった。
足へのダメージも増大させるのね……。
「……癒しの桃」
妖精さんが吐いたピンクの泡が私の傷を包み込んで癒してくれるけれど、傷口周辺の布地は当然直らないし血で汚れてしまったまま。
修繕と修復して貰わないと困るけれども、お金がちょっと……。
「配信の為にギガ多めのプランにしたし最新機種に色々と契約上乗せしちゃったからなあ……」
昔は世捨て人みたいな暮らしだった妖精使いも世の中の流れには逆らえない。他人の土地には勝手に住めないし、自分の土地には税金が掛かる。
お金だ、お金。美味しい物も楽しい事も、別に楽しくもない事にさえお金がいるのだ、凄く世知辛い。
「別にお金持ちになりたい訳じゃないけれど、一刻も早く例の計画を進めないと……」
『足っ! 寄越せぇええええっ!!』
傷は癒えても足は動かないまま。呪いを掛けた当人だから分かるのでしょうが、ジグザグに動いて狙いにくいですね。
……あくまでも妖精さん達は攻撃してくれるだけ、タイミングも狙いも私次第。
つまり今の状況は銃を持った相手に対して撃たれる前に接近しようとする歩兵って所でしょうか?
妖精さんの吐き出す泡の狙いを付け辛くさせる為に老婆の姿からじゃ想像も出来ない速度でジグザグに、しかも壁を蹴って飛び上がる変則的な動きを混ぜられたら正確な狙いなんて私にはちょっと……。
「本当に厄介……
解呪の術以外で呪いを解くには原因となった妖魔を倒すか呪具を破壊、若しくは膨大な霊力を放って内側から呪いの力を押し出す事。
まあ、そんな力技は私には無理なんですが。
私の霊力は……まあ、平均よりは少し高め? 呪いを解くのに消耗してたら勝つのは難しいから倒す事で呪いを解く。
「片足じゃちょっとバランスが取りにくいんだけど……」
妖精さん達が吐き出した緑の泡が弾ければ中から小さな竜巻が吹き荒れた。
その風の渦は私の足に絡み付いて体を浮かせ、天井スレスレまで私の体を持ち上げる。
『要らないんだろう? 足は要らないんだろう? 寄越せ寄越せ寄越せ寄越せ寄越せぇえええええっ!!』
目は真っ赤に光り、口からは涎が溢れ出す妖魔は次々に私の足目掛けて鉈を振るうけれど当たらない。
片足が使えていればもう少し速く動けるし、室内でなければ更に高い場所に飛び上がって一方的に攻撃出来るのですが、それを言うのならば向こうも片足の上に正気が完全に戻っている訳でも……わっ!?
投擲した鉈が回転しながら向かって来ると思ったら、避けた途端に軌道を変えて追って来た。
足への防御を無効化するだけじゃなくて投擲武器に追尾機能まで!?
「炎の緋……も効かないっ!?」
防御の為の白い泡だけじゃなく、迎撃の為に放った炎も鉈はすり抜け、咄嗟の動きが鈍ったせいで足を深く切られてしまった。
「くぅっ! 癒しの……桃」
再び傷は癒えるけれど痛みが即座に消える訳じゃ無い。
痛いのは嫌いだし慣れない、痛い目なんて出来るだけ避けてしまいたい。
『良いなあ良いなあ、綺麗な足だねぇ! 絶対に貰わないとねぇ! キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!』
「しまっ……」
『捕まえたぁっ!!』
痛みによって意識が一瞬飛んだせいで生じた隙、それを妖魔は見逃さない。
人の負の念から生まれた存在ですから狡猾で残忍、妖魔と戦う上で隙を見せては駄目だとは実戦を経験する前から散々言われる事。
妖魔の細い老婆の腕、それが万力の様な力で私の右足首をガッシリと掴んだ。
爪が、いえ、指が私の皮膚を突き破って肉にまで食い込む痛みに意識が乱れる。
付け根の辺りからミチミチと嫌な音がすると同時に走る激痛、このまま足を千切られると焦った私は杖を妖魔の頭に向かって振り下ろすけれど、頭が陥没する程の殴打を続けても指は抜けずに逆に食い込む一方です。
痛い、怖い、痛い、怖い、痛い痛い痛い痛い痛い。
歯を食い縛って耐えようとするけれど目から涙が溢れ落ち、足の付け根付近の皮膚は裂け始める。
そして空中で回転しながら私に向かう鉈、あれは確実に私の足を切断するんでしょう。
勝てない相手じゃなかったのに、状況が悪かった、判断が悪かった、何よりも呪われる様な油断をする心構えが悪かった。
このまま足を奪われて動けない所を襲われて私も彼女も……そんなの嫌だ!
感情が爆発すると同時に放出する力に乱れが生じて、抑え様にも抑え切れない。
「あああああああああああああああああああああっ!」
『キヒッ!? な、なんだいっ!?』
自然の力に性質を寄せていた霊力が普通の物へと戻り、それを吸った妖精さん達が真っ赤に染まって膨れ上がる。
動揺しつつも妖魔は力をより強めて指が骨近くに迄達し、鉈の刃先が足の表面に届いた瞬間、私を中心に半径三メートル程が赤く染まった。
灼熱に全身を包まれて息さえ出来ない中、不意にその熱が消え去って視界は正常な物へと戻った瞬間にわたしは床に落ちた。
落下の際に右足から落ちたせいか痛みは増すけれど鉈も妖魔も姿が見えない。
周囲の壁や天井は焼け落ちて瓦礫が散乱する中、バラバラになった妖精さん達が私を心配する様に宙を舞っていた。
「ごめんなさい。私が未熟だから……痛っ!」
落ち着いた所で痛みは増して来ましたが妖精さん達が再生するまでもう少し。
それまでは足の傷を癒せないので痛みに耐えるしか無い上に……/
「どうやって帰りましょうか……」
私の体が妖精さん達の炎で傷付く事はなくても服は別、さっきの暴走で見事に燃えてボロ布が辛うじて張り付いているだけ。
下着なんて普通の品ですから跡形もありませんし、取り敢えず領域から出たら女子トイレにでも篭って……あれ?
「妖魔は倒したのにどうして領域が消滅しない……」
『キエエエエエエエエエエエッ!!』
崩れた瓦礫の影から飛び出す人影、頭の半分と下半身が炭化して崩れ落ちた妖魔が足に向かって飛び掛かる。
「痛っ!」
咄嗟の反撃に杖を握った瞬間に走った痛みが杖を取り落とさせて、妖魔の手が私に迫る。
私、今動けないし妖精さん達も未だ……:。
思わず目を瞑る。そんな事で痛みは消えたりしないのに。
絶望から目を逸らす為だけに目を強く閉じてその時を待ち、耳には誰かの声が響いた。
「鳴き撃ちっ!!」
衝撃音と揺れ、そして叫び声を思わず目を開ければ目の前には絶望を消し去る希望。
「大丈夫か? 遅くなって悪い。助けに来たぞ」
妖魔は頭を完全に砕かれて消滅し、私の前に立つのは床に向かって拳を振り下ろした体勢の大和さんの姿。
「あ、有難う御座いま……した?」
安堵からお礼を言おうと動いた時、体の表面から何かが滑り落ちる感覚。
何でしょうと不思議に思えば大和さんは何故か私に背中を向けて上着を投げて来たのですが……あっ。
服の残骸が落ちて、私、裸……上も下も丸見え、そういえば最近処理をサボって、こんな時、こんな時は……。
「せ、責任取って下さい!」
あ、あれ? 私、とんでもない事を….あわわわわえあえあわwっ!?
「きゅう……」
この瞬間、私は意識を手放した。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし