三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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選択シ ⑩

「ねぇ、聞いてるの? 昨日は部屋に居るのにどうして返事してくれなかったのよ。私、少しだけ怒ってるんだからね」

 

 一浪の末に大学に入って早一年、俺は高校の時から付き合っている彼女の前で正座をさせられて説教を受けていた。

 俺とは違って志望校に一発合格、浪人した俺の勉強の手伝いまでしてくれる彼女には相変わらず頭が上がらない。

 

 少し地味だが真面目で気が利いて家事も……まあ、料理は俺がやっていれば何とかなる彼女とは半同棲状態、同じ部屋は流石に親が反対するからと同じマンションの同じ階層に入居して頻繁に互いの部屋に行き来しているんだ。

 

 運良く部屋は隣、それでも合鍵とかは互いに持っていないし、部屋にいる時も勝手に部屋に入らないって約束を交わしていたよ。

 互いに恋愛は楽しいが趣味には一人で没頭したいタイプだし、それで良いと思ってる。

 

 壁が薄いせいでイヤホン無しだとエロい奴を楽しめないのが難点だけれどな。

 

 

 

 

 

『ねぇ、私の話を本当に聞いてる?』

 

「あ、ああ、ちょっとボケッとしてて。最近夜更かしが過ぎたかもな」

 

「もう! 講義の最中に寝ちゃって試験に困っても知らないわよ! ……精々去年の試験の自己採点を見せてあげるだけなんだから」

 

 そう、この日常がとても良いんだ。

 ちょっと前まで俺は刺激が欲しいって思ってたけれど、もう懲り懲りだと思っている。

 

 

 話は彼女が怒ってる昨日の出来事の、更にちょっと前まで遡るんだ。

 今でも震えが来てしまう、そんな思い出したくもない体験を俺はした。

 

 

 

 

 

 あの人、また居るな。

 

 俺のバイト先のカラオケ店は駅前の四階建てのビルの三階なんだが、ヘトヘトに疲れた時は乗る事にしているエレベーターで乗り合わせる女は何時も同じ服装をしていた。

 

 赤いリボンが付いた帽子に白のワンピース姿で長身の女。赤いハイヒールのせいか余計に大きく見える彼女は黒髪を垂らしている上に目深に被った帽子のせいで顔は見えないが、最近の情勢を考えたら少し気になる程度で名前も知らない女の顔を覗き込んだりもしねえって。

 

 警察沙汰にでもなりゃ親がキレるし彼女にフラれかねないしな。

 

 何か八尺様とかいう怪談を思い出したが、其処まで背が高い訳じゃない。

 俺がそんなに高い訳でも無いしな。

 

 四階から降りて来る奴と何度も出会すとか怪談っぽいなとも思うんだが、会わない日もあるんだから偶然なだけだろうと思いつつも幽霊だったら逆に話の種になるんじゃ、と少しアホな事を考えていた時、不意にエレベーターの電気が消えて止まる。

 

「うおっ!? 低電かよ……」

 

 今日は彼女の部屋に行って飯食った後は勉強を見て貰って、その後であわ良くば……そんな予定だったのについてねぇ。

 

「彼奴、腹減ったら不機嫌になるからなぁ。とっとと復旧してくれりゃあ……げっ!」

 

 スマホを取り出せば彼女とのツーショット写真が表示されて淡い光が狭いエレベーター内を照らすけれど、直ぐに電池切れのマークと共に光は消える。

 

 やべっ! 今日は少し遅くなったからメールでも送っておこうとか思ったんだが。

 

 まあ、別に浮気を疑う奴でもないし、コンビニスイーツでも土産にすりゃあ良いか。

 

 これで変に疑う奴なら面倒だけど、そんなんじゃないから惚れたんだがな、そう思った時、明かりが戻ってエレベーターは動き出す。

 どうも手前で止まってたのか一秒経った位で扉が開いたので俺は慌てて駆け出したんだが、汗で滑ったのか入り口前でスマホを落としてしまったんだ。

 

 目で追えば床を滑る様にエレベーターの方に向かって行くのを慌てて追い掛け、エレベーターの直前で拾う。

 

 

「……あれ? あの女の人は?」

 

 エレベーターから俺が降りてから数秒、それだけの間に女の姿は煙みたいに消えていたんだ。

 

「ま、まあ、出口まで一本道じゃねぇし? 急いでたら……なあ?」

 

 隣に誰も居ないのに誰かに話し掛ける様に呟いた俺は、エレベーターの近くに幾らでもドアや通路が有るのを確かめて安心すると急いで帰って行く。

 あんなハイヒールで動けばカツカツと音が鳴るだろうが耳にしていなくって、速く動くのも難しいだなんて事は考えずに。

 

 

 そう、今回の事は何でもない普通の事だし、誰かに話す必要も無いからと意図的に思い出さない様にして……。

 

 

「さ、さて、体力作りの為に明日からは階段を使うか。運動運動……

 

 こうして俺はバイト先のフロアの行き帰りに階段を使う事にして、このビルではあの女を見る事は無くなった。

 

 

 そう、あのビルでは……。

 

 

 

「な、何で彼奴が此処に……」

 

 大学の構内、ショッピングモール、病院、今まで一度も見掛けなかった場所のエレベーターにあの女が居た。

 壁に背中を付ける様な姿勢で俯いて顔は見えずに立っているだけ。

 俺以外の奴が乗っていてもその姿を俺以外が見えてはいないらしく、エレベーターから降りたと思ったら視界から居なくなった瞬間には姿が消えている。

 

 目で追って何処に行くか確かめるなんて到底無理で、兎に角見えない振り、気が付かない振りをするしかなかったんだ。

 

 

「畜生。幽霊の癖に……」

 

 そう、認めるよ。此処まで来たらアレが幽霊以外の何だってんだ。しかもストーカーみてぇに俺の行動範囲で出現しやがって!

 

 最初は不気味に思っていたが、襲って来るわけでも話し掛けてもせずに一緒のエレベーターに乗って何処かに行くだけ。

 人間ってのは図太いもので、相手が少し大きいだけでヒョロヒョロの女……胸は彼女よりも少し大きい程度、だ。

 

 俺以外に見えないのは相談相手が居ないって不便さがあるが、エレベーターに乗ってる上に開いた扉から出ているんだから壁や扉をすり抜けたり空を飛んだりする訳でもなく、寧ろ俺から何かして法的なトラブルにならないだけマシかもとさえ思えて来た。

 

 

 

 

「すいませーん。清めの塩って置いてますかー?」

 

 まあ、そうなったらビビってた自分が情けないのを誤魔化す為にも腹が立たなきゃな。これが人間なら警察に相談するんだが、エレベーターで幽霊と毎回乗り合わせるって相談されたら怒られるわ。

 だから俺は考えて、取り敢えず幽霊対策になりそうな物を神社とか寺で調達する事にしたんだよ。

 

 一応お祓いとかしてる所にも行ったんだが、ホラー系掲示板の話である様に行った先で顔を見た坊さんが青くなって慌て始めた、とかが無いのは安心なんだか残念なんだか。

 

 正直、ちょっとワクワクもしていたし、幽霊に興味も出てたんだ。

 どうして俺について回るのか、どんな顔をしてるのか、とかな。

 

 美人だったら部屋に連れ込んでも彼女にはバレないし、ちょっとホラーテイストなエロ漫画な展開もきたいしたりとかは否定しない。

 

 他の奴には見えない存在を見てるって事への優越感だって有ったし、不安が興味に変わって俄然関わりたくなっていた。

 

 この時はそんな風に人気に構えてたんだ。

 

 だって幽霊っつても人間で日本人なら話が通じるだろうし、今の所は見えない以外は普通だから何かあっても女相手に遅れは取らない、と呑気に構えてた、構えてしまっていたんだよ。

 

 

 今思えばどうにもならない事だったりしても、自分から積極的に関わるべきじゃなかったのに……。

 

 

 

 

「今日は出ないのか……」

 

 この日、俺は開き直った事もあってバイト帰りにエレベーターに乗ったんだが、乗り合わせた数人以外に誰も乗っていない。

 散々怖い怖いと思ってたのに出なかったら不満に思うのも変な話とも思うんだが、わざわざポケットに忍ばせていた清めの塩が無駄になったな。

 

 

『二階です』

 

 機械の音声が響いてエレベーターが二階で止まると俺以外の奴が降りて行く。

 俺だけを残して扉が閉まろうとした時だ、廊下の向こうから走って来る男の姿が見えたのは。

 

 名前は覚えていないが何度かエレベーターに乗り合わせた事がある相手で、更に言うならバイト先の常連だ。

 向こうも俺の顔を見て安心したのか走る速度を緩めてニコニコしているのだ、此処で扉を閉めては後々面倒だと開のボタンを押そうと手を伸ばせば後ろから伸びた手が先に押す。

 

「いやー、助かりました」

 

 黙れ、気が散る。エレベーターにヘラヘラ笑いながら乗り込んで来た男に内心で毒付く。

 あの腕は間違い無く女の幽霊の物で、先程まで居なかった筈の場所に居るんだ。

 

 軽い会釈と一緒に男が入り易い様にと壁際に寄りながら僅かに横目で視線を奥側の壁へと向ける。

 

 居た、間違い無くあの女だ。壁に背を付けて無言で立ち、文字通りに倍以上の長さに伸ばした腕を元の長さに戻している。

 

 何が人間と変わらない。何が美人なら部屋に連れ込んで楽しもうだ。

 

 幽霊なんて所詮は化け物なんだと理解させられ、怒りも好奇心も消え去って残ったのは一層増した恐怖感だけ。

 一階に到着するなりエレベーターから飛び出して、人にぶつかるのも気にせずに走り出した。

 

 ビルが見えない場所まで走り抜け、駆け込み乗車で電車に飛び乗る。

 でも、乗ったのはマンション方面とは全く違う方向の物。

 

 ビルから離れても尚、誰かに見られている気がしたから普段の電車に乗るか迷った挙げ句に選んだ電車に乗ること一時間、更にバスを数回乗り換えていると何時の間にか視線は感じなくなっていた。

 

「何とか逃げ切った……のか?」

 

 ただ、今回は逃げ切れたけれど、バイト先には明日から行かない方が良いかもしれない。

 

 都合の良い事に新しい店長は前のとは違って鬱陶しい奴だ、新しいバイト先が見付かるまでは彼女に頭を下げるとして電話で辞めるとでも言えば良いだろう。

 

 さて、帰る前にちょっと変装するか。なんか漫画の探偵みたいだ。なんか

 

「ちょっと金がヤバい……」

 

 サングラスに帽子に新しい服にマスク、ついでにさっきまでの服を隠すバッグ。

 変装しなくちゃと色々買ってたら財布が少しピンチだし、こりゃ高校時代からの貯金箱に頼る日が来たな、あんまり入れてないけれど。

 

 

 取り敢えずバイトを辞めたら怒りそうな彼女の機嫌を取る為に手頃なスイーツを幾つか買い求め、当然これだけで誤魔化せる相手じゃないから言い訳を考えながらマンションが見える通りまで歩いて行って……其所で足を止める。

 

 

 

「何で……」

 

 買い物帰りや下校途中で人がごった返す中、人混みの中心に彼奴が立っていた。

 通行人は幽霊が見えないのか正面から向かって行き、そのまま体を通り抜ける。

 

 俺が咄嗟に横道に入り込んで覗き込む間も何人もが幽霊をすり抜けて行くが、そんな事など気にした様子も無い幽霊の声をこの時になって初めて聞いた。

 

何処なの? 美味しそうな顔のあの子は何処なの?

 

 小さな女の子みたいな声で、キョロキョロと頭を動かして誰かを探す仕草を取るが、多分探しているのは俺だ。

 遠回りまでしたのにどうやって家を探し当てたのか、美味しそうな顔だとか、その全てが幽霊の顔を見た瞬間に吹っ飛んだ。

 

 帽子を後ろに下げて噛むを左右に分けた事で晒される幽霊の顔。

 それはもう人間だったなんて思えない物だ。

 

 

 

アハハハははハハハはハは!

 

 全身を震わせる程の大爆笑をする口、それ以外のパーツが存在しない。

 額の先から顎の先にまで続く口はがま口財布みたいに大きく開き、唇は異様な迄に綺麗なピンク。

 

 あれが元人間だなんて俺は何かを勘違いしていたんだ?

 

 横道を通ってマンションまで迂回する最中、中学生位の女の子にぶつかったが足を止めて謝る余裕すら無い。

 

 全力疾走した時みたいに息が荒くなって呼吸が苦しい。早鐘の様に激しくなる鼓動に胸を押さえつつマンションのガラス戸を潜った瞬間、安堵からか崩れ落ちそうになった。

 

 

「此処迄くれば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

みーつけたっ!

 

 遠くから声がした。振り返りたくないのに振り返れば遠くからあの化け物が駆け寄って来ている。

 絡れそうな足を何とか動かしてエレベーターに転がりこみ、閉のボタンを押して扉が閉まる瞬間、ガラス戸に何かがぶつかる音を聞いたけれど目を向ける勇気は俺には無かった。

 

 

「よ、よし。一旦部屋に逃げ込んで……」

 

 自分に部屋がある階層のボタンを押そうとして指が止まる。

 あの化け物がエレベーターが見える場所まで来ていたのに住んでいる階層を教えてしまうんじゃないかって。

 

 なら上の階か下の階を押して階段で向かうか?

 でも、化け物が階段を使っていたら?

 

 提示される選択肢、直ぐに選ばないとエレベーターを開けて入って来るかも知れない。

 

 結果、俺が選んだのは本来の階層へのボタン。

 相手が嘘だと思うだろうとか言い訳をしたが、一秒でも早く部屋に逃げ込みたかったんだ。

 頭から布団を被って大音量でテレビを流して非現実な出来事から脱げ出したかった。

 

 そして到着するなりドアの前まで急いで向かい、ポケットを漁るが着替える前のズボンの中なのをおもいだ

 

「か、鍵は……」

 

 鞄の中身を放り出してズボンのポケットから鍵を取り出すけれど震える手じゃ鍵穴に中々入らない。

 

カチャカチャカチャカチャ

 

 早く早く早く……。

 

 鍵とドアノブがぶつかって鳴る音に被ってエレベーターが昇って来る音が聞こえた時、足が絡れてドアに頭をぶつけると同時にやっと入った。

 

「ひぃ!」

 

 エレベーターが俺の居る階層で止まる。その瞬間、鍵が刺さっる。

 

 やった!

 

 開いた扉に向かって荷物を引っ掴みながら中に転がり込んで扉を閉める瞬間、彼女の声が聞こえた気がしたけれど気にする余裕なんてなかった。

 

 

 

「頼むから気が付かないでくれ……」

 

 もうマンションまでバレてしまっているけれど、化け物が居るんならお祓いだって効果があるんだよな?

 取り敢えずと清めの塩を頭から振り掛けて一安心、電気を付けようと立ち上がり、スイッチに指で触れた瞬間、体が固まった。

 

 

 

此処かな? 隣かな?

 

 

 沈み始めた夕日に照らされたカーテンの向こう側、ベランダの手摺りを歩く化け物の影が見えた。

 

 

 ひぃ! と悲鳴を上げそうな口を両手で塞ぐ中、壁を向こうの部屋から叩かれた。

 

 

「ちょっとー! 様子が変だったけれど大丈夫なの?」

 

 壁越しに声が掛けられ、隣の部屋の電気がついたのか光が漏れる。

 

 

 

 

 化け物の動きが止まって、隣りに向かって行くのが見えた瞬間、俺は直ぐに隣の部屋に向かおうとドアノブに手を掛けて……何も出来なかった。

 

 

 

「きっと平気だ。俺以外には見えなかったし、きっと大丈夫……だ」

 

 俺の意識は一旦途切れ、目を覚ましたのは翌日の朝。

 嫌な汗を全身にかいた状態で玄関で倒れていて、ノックの音で目が覚める。

 

 

 

「おーい。起きてるの……って、何で玄関で寝てるのよ」

 

 チェーンロックされた扉の隙間から彼女の顔が覗いていた。

 昨日のは夢? それとも本当に大丈夫だった?

 

 良かった。本当に良かった……。

 

 安心すると同時に空腹を覚えて腹が鳴る。じゃあ、彼女と朝飯でも食べようか。

 

 

 

 

 ……っと誘ったんだが、準備の前にお説教の真っ最中な冒頭に戻る。

 

 

 

「ちょっと眠気がヤバくってさ。それよりも飯にしようぜ。何が食べたい?」

 

「いえ、私は朝ご飯は要らないかな? 前に見掛けて美味しそうだと思った物を食べたばかり。いえ、でも思い出したら他の物も食べたいかな?」

 

「おいおい、相変わらず食いしん坊だな。それで何を食べたんだ?」

 

 俺の彼女は料理は下手だが食うのは好きで、美味しい物を食べたいと思ったら直ぐにお腹が減るんだ。

 指摘したら恥ずかしがって両手で顔を隠す所も可愛いいけれどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの子の顔は思った通り美味しかった。貴方の顔はどうかしら?

 

 俺の目の前に大きな口が開いていた。

 




これの執筆期間に昨日は荷物用エレベーターが故障して休み時間減って、今日は職場での事故で帰るのが一時間遅れました


偶然ってあるよね ホラのずっとかいてたら被りもするって

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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