三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「
小姫が俺の家に来た理由、それは奇妙な雨に関わる妖魔について知らせる為だったんだが、その名前を聞いた途端に驚きの声を挙げた俺に意外そうな視線が向けられる。
「妙だとは思ってたんだが、まさかの大物の仕業か」
「少しでも違和感を覚えたら探知を行いたまえよ。目前に迫らないと何も出来ない奴ばかりじゃないんだからさ」
うっ! 言い訳すら思い浮かばないな。
そもそも小姫と出会った時も妖魔が擬態している物に不用意に手を伸ばしていた俺、何を学んでいたんだって感じだぞ。
この失敗に少し呆れ顔の小姫だが、これ以上は勘弁して欲しい所だな。
あまり続くと心が折れるぞ? そりゃあポッキリとさ。
「まあ、我流でやって来たんだからこれ以上は言わないけれど、ちょっと気になるな。大和先輩は一体何処で奴の名を知ったんだい? 零課辺りとは思うんだけれど」
「いや、俺が知ったのは別口だ」
成る程な、意外そうな顔の理由がよーく分かった。
基本的に俺は零課の依頼を受けて下位妖魔の相手をして来たが、下位なんて名前を持っていても伝承や記録に残る程じゃねえ。
大抵の場合は個別個別で発生、倒されたら同じ姿と能力の妖魔が誕生する事は稀……だったよな?
お玉もドロシーも長い間封印されていたし、力の使い方こそ妖魔になって感覚的に理解するけれど座学の類には疎い。
つまり俺が知ってるなら零課繋がりだって思うのが普通だろうが、あんな大物に俺を関わらせる理由が無いのが確信に至らない理由だろう。
「別口? 他の誰かに教えて貰ったのかい?」
「ああ、俺が妖魔について知った頃の話なんだが……」
そう、あれはお玉達と出会って直ぐの頃、伯父さんの家に遊びに行った時の頃であり、俺が初めて退魔士と遭遇の記憶だ。
「雨? 父さんは降らないって言ってたのに当てにならないなあ……」
伯父さんの家の敷地は広くて、七歳になったばかりの俺じゃ数日使っても遊び尽くせない程に楽しかった。
今はツリーハウスで母さんの小説を読もうとしたんだけれど、英語の上に科学的な解説だらけで読んでいたら眠くなって、起きたら大雨だからついてないな。
「まるで台風みたいだ」
窓には凄い勢いで雨粒が叩き付けられているし、二度寝は出来そうにないから起きていようとは思うんだけれど、散々遊び回ったからお腹が減った。
「あっ! 連絡連絡」
このツリーハウスにはちゃんと電話が用意されているし、母さんが心配しそうだから連絡しないと大変だ。
母さんは連絡せずに遅くなったり何も言わずに出掛けるのが嫌いだ。
小言を言われるんじゃなく、悲しそうにするから子供心に引け目を感じていたし、電話番号は暗記していたので携帯に掛けたら直ぐに出た。
「母さん、今ツリーハウスに居るから。冷蔵庫? 未だ見てないけれど……」
伯父さんがちゃんと食べ物を用意してくれているから適度な量を食べて、その後で歯をちゃんと磨く様に言われた時だった。
窓から見た遠くの景色にツリーハウスの方に向かっている男の姿があったのは。
「伯父さんが雇ってる人かな? それかお客さん?」
何にせよ遠くじゃ分からないけれど、敷地に入るには警備の人が邪魔だから変な人じゃないだろう。
どんな人か気になってツリーハウスに置いてあった双眼鏡で覗いてみれば大男、しかも目つきが悪いし口元が常に動いているから食べ歩きか独り言の真っ最中だ。
「うわ、怖い顔。人の事言えないけれど……」
伯父さんもマフィアのボスっぽい悪人面だし、俺自身も目付きが悪い自覚があったりで特にそれだけで怖がりはしない。
ただ、何か違和感を覚えている間にも男はツリーハウスの前までやって来た。
「あれ? もしかして人間じゃない?」
大雨なのに男の髪型は崩れないままで、そもそも台風の日みたいな降り方なのに慌ててツリーハウスに入ろうともしていない。
それに何かがちょっと変だった。
成長した今にして思えば不用心と言うべきか、人の姿をした妖魔なんて友達であるお玉とドロシーしか知らない幼い俺は一切警戒せずに男の方を見ていて、男は俺なんて見ていなかった。
「臭うな、酷い臭いだ。鼻が曲がるとはこの事か。人間は碌な物を作らん」
男が手を前に突き出す。手の平が向いているのは俺が居るツリーハウスの方で、次の瞬間には凄まじい霊力が男の手に集まって……銃声と共に弾き上げられた。
「不愉快だ不愉快だ。糞を腕に塗りたくられた気分だな、全く」
男は誰かにじゃなくて独り言みたいに喋る。その足元には弾頭が潰れた口紅サイズの銃弾が落ちて転がって、俺を誰かが後ろから抱き上げた。
「遠くからでも顔を見ようとあの子には内緒で来たのについてないわね。まさか
小さい俺を抱き上げた相手の顔は見えなかったけれど、手には皺と古傷が刻まれていて声は女の人の物だ。
この時、誰かの声に似ている気がしたけれど今でもよく思い出せない。
「貴方。私はこの子を安全な場所まで連れて行くから足止めお願いね」
その言葉への返事とばかりに何回か銃声が響いて、俺の目は手で塞がれたから何が起きたかは分からなかったけれど多分あの男は大してダメージを受けていないとは感じた。
「さあ、お眠りなさい。あんな大物に会ったなんて後々怖くなりそうだし、暫く忘れていましょうね」
優しい声でそう告げられると同時に俺の意識は一旦途切れ、目を覚ませば何も覚えていない状態で伯父さんが寄越してくれた迎えの車に揺られていた。
あの人達は誰だったのかは分からないが、最近になって漸く戻った記憶を頼りにお玉に聞いてみれば随分と強い妖魔で、人間だった頃に家のお抱え退魔士達が全滅させられたのだと苦々しい表情で教えてくれたんだ。
「彼奴が現れる、それだけで周囲は胃の中に入れられたのと同じ状態になる。あの雨は水に触れれば力を失い、霊力の低い生者には大した力を発揮せぬが、妖魔や高い霊力持ちには効く。出来れば関わるな」
何方にしても記憶が戻った頃の俺は下位を事前調査の上で相手している三流、関わらざるを得ない場合を除いて積極的に関わる様なイキった奴でもなく、まして自殺志願者でもない。
まあ、こんな感じで過去に関わったから知っているんだが、後ろから肩に置かれたお玉の手に万力みてぇな力が籠ってるんだよな。
お前、忠告したんだから思い当たれ、多分こんな感じ。
こりゃ後でネチネチと叱られるパターンだな、面倒臭い。
「それにしても其処迄の妖魔に関する記憶を消すなんて……」
「更に付け加えるなら十年以上も術が続いているんだ。かなりの腕前だね。アメリカの名門一族とかかな」
「強い霊力は記憶に強く刻まれるんだっけ? 確かに凄いけれど……」
話し終えた時に先に口を開いたのはルサルカさんだったが、隣の小姫も同じ事を言おうとした様子だったけれど、こうして正面から見れば違うのが分かる。
口に出した言葉だけ聞けば同じでも、感心した様子の小姫とは正反対に不満を抱いた表情だ。
「あ、あの、記憶を消されてどう思いますか? そんな危ない相手の存在を知らないなんてどう思います?」
「どうって思ってるか? ……妥当な判断? あんな存在を、後から思い返せば恐怖が押し寄せるだろうし」
話を聞く限りじゃ人格と人の姿を持った災害そのもの、そんなどうしようもない存在なんて知っているだけ怖いだけ。
だから記憶を消したのは……あっ!
記憶を消した事についての話題になった事で思い出した事が一つ。
全く覚えていないから言い忘れていたが、どうも余所余所しい態度を向けられる理由があったんだ。
「ルサルカさん、その、裸を見ちまった事なんだが……」
「ひゃ、ひゃい!」
俺の肩に加わる力が片方から両方に増えて、力も強くなる。
しまった! 二人の前だと藪蛇だったか!?
ルサルカさんは俺の言葉と同時に真っ赤になって軽く跳ね、目を合わせようともしないんだが、年頃の女の子が男に裸を見られたんだから当然だよな。
「その記憶は決して貰っているから してくれ。小姫に記憶を抜いて貰ったから」
「ひへ?」
「足売りババアに襲われた先輩の記憶処理をしたついでさ。因みに君を女子トイレに隠したのは私だから裸は一切記憶に無いさ」
だから伝えれば安心して貰えるだろうとしたら小姫も横から援護してくれて、これで一安心だ、と思ったんだがな。
あれ? 少し不機嫌そうにしてないか?
「何で記憶を消したんですか?」
「針。私の一族の秘術の一つさ。詳細を教える事は出来ないけれど、二人ともちゃんと記憶は抜き取ったから思い出す事は無いだろう」
「違います! 記憶を消す必要が無かったと言っているんです!」
ルサルカさんが立ち上がって大声を出すと同時に妖精達がざわめく。
これが暴走なのか? いや、どうして怒る?
「鎮まれ、下郎。高貴なる我の目前である」
急な怒りに慌てるよりも困惑が勝つ中。俺の背後でも霊力が膨れ上がり、お玉の手には骨の刀が現れていた。
「取り乱すな、妖精使い。此処は我の陣地なるぞ。心を乱し妖精の暴走を許すなら……素っ首切り落とす」
げっ! さっきからイライラしてるのは分かってたんだけど、家で暴れそうなのを見てマジギレ一歩手前じゃねぇか(マジギレしたら警告も無し)。
刀の切先をルサルカさんに向け、背後には蒼い炎に包まれた骸骨武者がずらりと並ぶ様は壮観にさえ見えるんだが、それを向けられる本人は堪ったもんじゃねぇな。
このままルサルカさんが妖精を鎮めるかお玉が動くか、その何方かでしか終わりそうにない。
ドロシーは我関せずと静観の構えだし、俺とお気に入りの家具とゲーム機以外は巻き添えから守ってくれねぇだろうな。
「あー、成る程ね。君は大和先輩に自分の裸を目に焼き付けて欲しかったんだ」
そんな俺の予想を大きく外す一言、空気を変えたのはニヤニヤと笑みを浮かべる小姫。
この状況でとんでもない爆弾叩き込みやがった!
さあ! 今から弄りますよ、と大声で宣言したのと同じ彼女にお玉でさえ一瞬目を丸くした後で刀を虚空に消し去って骸骨武者も居なくなる。
「え? いや、そういう意味では……」
「成る程な。汝は出会った当日に肌を晒して誘惑する性癖の持ち主であったか。ならば致し方有るまい。変態の思考を高貴なる者の頭で理解するのは無理があった。……だが、主には露出癖に付き合う趣味はないぞ?」
「違いますから!? 私、そんなんじゃ……何で皆さん少し距離を開けるんですか!?」
悪い、ちょっとおふざけに乗っちまった。
この場の誰もルサルカさんが露出趣味の変態だとは思っちゃいないんだが。何故かリンマオの記憶を抜いた事に怒ってるんだ。
火事になる寸前の火薬庫を真っ当に鎮めるのは骨が折れるし、ちょっと弄るのが面白い。
やばいな。小姫が俺を弄る気持ちが少し分かった気がする。
打てば響く感じに新しい扉が目覚めそうになる中、怒りが吹っ飛んだのか周囲の妖精が落ち着いたルサルカさんの手を横から掴むドロシー。
「良いな。凄く良い! 純粋無垢な箱入り美少女が己の性癖を無自覚に発露し、意中の相手にそれを受け入れさせんと取り乱す。何と甘美な有り様よ」
「え? ええっ!?」
絶対碌な事をしないであろう満面の笑みを浮かべていた。
目をキラキラと輝かせて欲望を隠す気なんて一欠片も存在しない、そんな人の業を煮詰めた姿を前に俺は心の中で合唱、もうどうにも止められない。
唯一止められるお玉は……ゴミを見る目を向けるだけか。
「あのっ! 私は本当にそういうんじゃなくてですね」
「では、向こうの部屋で己の内に眠る欲求を追求させようぞ。幾つかを画像として残し大和へと送れば当初の問題も解決するであろうしな!」
「この方、人の話一切聞いてない!?」
そうなんだ。其奴、欲望に忠実だから一度スイッチが入ると力技しか通じないのに、強いから並大抵の力技じゃ無駄になるんだよ。
所で従者としての演技は? 欲望最優先ですね、分かってた。
自分だってフランス王朝の所属で国王の実妹だって口にしてるのに、一切箱入りのお姫様感が無いドロシーに腕を掴まれてグイグイと引っ張られて行きそうなルサルカさんだが、隣の小姫も我関せず。
そうだよな。何か嫌ってるぽいし……でもなあ。
「ドロシー、その辺にしておけ」
「期間は?」
「二……三日」
二日、と言い掛けた所で三本の指を立てられる。
欲望塗れのドロシーの相手はちょっと勘弁だが、会ったばかりの相手でも、友人が誰かにトラウマ植え付けるのもな。
じゃあ、俺が添い寝の相手をしてやれば避けれるんだからするしかないか。
だからだ、だから肩に置いた指の力を強めるの勘弁してくれ、お玉。
「……そろそろ本題に入ってくれるか?」
何事も無かったみたいに俺の背後に控えるドロシーにルサルカさんが警戒と怯えの視線を向ける中、グダグダなやり取りで止まっていた会話を再開させる。
雨虎が来たってのは分かったが、同時に去った筈だ。
いや、そうか!
「確か空白地帯になった所に底位が流れ込んで、餌目当てに他の妖魔も増えるんだったか? 成る程、その対策だな。……にしても短期間は平和でも零課の仕事量がエグいぞ」
下位の調査だけでも大変なのに、と続けた所でルサルカさんが不思議そうな顔をしたが、下位だって人に危害加えるんだから発見したら即滅だよな?
勇さんとか自分に妖魔を殴る力があれば楽なのにって嘆いてたし、追い込まれたら俺を鈍器に使いそうで怖い所がある。
っと、まあ、俺が雨虎について知らないと思っていたなら用事はそんな所だろう。
「大体はそんな所だよ。でも、それとは別に君絡みで面倒な事が起きそうでさ。……所でさっきの彼女達ってあれが本性?」
「ノーコメントで」
「失礼を致しました、主。罰は閨にて如何なる辱めも受け入れましょう」
「人前で普段の様に身動き出来ぬ状態で服を引き剥がされ様とも構いません」
おい!? 完全に俺の初恋叩き潰しに来てるよな!?
全く身に覚えが無いんだけれどな!? お玉!
そしてドロシーは言い方に注意しろ。魂封じてる人形のメンテだろうが!
「ふぅん。経験者ならわたしの相手の時も期待して良いのかな?」
「……きゅう」
あーあ、誤解されたし、また気絶しているし……。
面倒な事が起きるって言われたが、今の時点で面倒じゃねーか?
昔からの関係が心地良いからって誘惑跳ね退けてたのにこの有り様、心底心外だ。
これなら欲望に流されてた方が良かったんじゃないかとさえ思えるんだが、今日は何か疲れる日だな。
「結局、この人って何を怒ってたんだろうな? 全く分からん」
妖魔の存在を隠すのは普通だろ? それがどうして?
俺じゃあ妖精使いの知識が薄いからって分からないが、教義的なのでも関わっているのでは、とは思う。
承諾が必要とか。
それなら方向性の違いで小姫が嫌ってるんだと思ったら、俺の疑問に反応してか不機嫌そうな視線をルサルカさんに向けていた。
「簡単な話さ。彼女は妖魔の存在を公の物としようって考えで、その為に君が必要なんだろうさ」
「俺が?」
「ああ、そうだよ。そして妖魔の活発化を口実に今後は退魔士も多く街にやって来るだろうし……君を自陣に引き入れたい連中も多いだろうさ」
最後に肩を竦めて両手を広げ、マトモなのもイカれた連中もね、と小姫は皮肉げに呟いた。
「ああ、所で知っているかい? 最近、足や顔の無い死体が見つかって居るんだ」
これで章は もうちょっと
次はホラー入れたい
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