三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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流れツイた物 ③

「え? 言っていなかったっけ? 閻魔大王含む地獄の十王は存在が確認されているよ」

 

 マジか!? じゃあ俺って衆合地獄にでも堕ちるんじゃねえのか?

 

 放課後は部活があるからと下校後に家まで迎えに来てくれた倉持さんの車の中、雑談で知った事実に俺は少しびびった。

 最近の俺って色ボケ気味だったからな。

 

「十王は妖魔寄りの妖精だし、認知度が高い分、力の強さ以外にも行動が制限されるからね。善行を積んでれば大丈夫……かな? 俺も男だし、君の年頃なら気持ちは分かるさ」

 

 ちょっと気になったので詳しく聞いたが、地獄ってのは死後に行くんじゃなくって死にそうな人の精神が取り込まれるらしい。

 臨死体験であの世を見た人ってのは運良く蘇生が成功した人であり、裁きは良くも悪くも平等なんだと。

 

 因みに閻魔大王の強さは妖魔の最高峰である神位の上位、それこそ神話の神や神自ら相手する様な怪物との事。

 要するに戦おうとか考えるだけ無駄って事だな。

 

 

「正直、地獄の実在を知っているのに悪事を重ねる連中が理解出来ないかな。肉体が死ぬ迄の間とはいえ、引き延ばされた時間は責苦を追うんだし、取り込まれた精神を解放させるか取り込ませない秘術でも持ってるのかと思うよ」

 

 誰も彼もが引き込まれる訳じゃないけれど羨ましい、と倉持さんは言うが、そりゃそうだ。

 死が間近に迫ったら拷問を受け続けるかも知れないって思ったら行動に制限掛かるし、身内が死にそうな時だって心配になるもんな。

 

「そういや母さんが言ってたな。あの世ってのは生きてる人間の為に在るんだって」

 

 あの世の存在所かオカルト全否定の母さん曰く、非科学的だが有用性は否定しない、らしい。

 

 残された者は個人が天国に行ったと心休まるか嫌な奴が地獄に行ったと溜飲を下げるて、自分に対しては善行を積もうとする、みたいな事を倉持さんと話をしていたら車は支部に行く途中の最後のコンビニの駐車場へと入って行った。

 

 

「新人さんと新しい協力者の退魔士の方でしたっけ? どんな人なんですか?」

 

 そう、そもそも俺一人しか車に乗っていない理由だが、俺や小姫以外にも今後この町で妖魔の相手をしてくれる人が増えたんだとか。

 それと朗報な事に支部の追加人員も、こっちは直ぐに移動願いを出すんじゃないのかって心配はあるが、今後忙しくなるなら短期でも人員が増えるのは助かるんだろう。

 

 ただなあ……。

 

「あー、大丈夫。支部長や俺とは違って自分から零課に移った変わり者らしいから。どんな人かは俺も会っていないけれど、支部長曰く馬鹿には変わりないけれど無駄にやる気は有るってさ」

 

 心配に思ったのは新人が増えるって事がぬか喜びになるんじゃないかって点だ。

 今まで何人もが激務に耐えかねて他の支部へと移って行ったし、寧ろ一時的な人員派遣の方が良いんじゃないかと部外者ながら思ったんだが倉持さんにも伝わっていたらしい。

 

「でも、やる気があるにしても倉持さん所の支部って別格の忙しさじゃ?」

 

「ククルルの同類」

 

 あっ……。

 

 成る程、酷い気持ちするが心配が全部吹っ飛んだ。

 ククルルさんの同類なら他の支部には行かない……行けないだろうしな。

 

「それで安心したのは本人には秘密ですよ」

 

「俺が言ったのも秘密に……何だ?」

 

 駐車場に停まった瞬間だった、中からエコバックを抱えた中年男性が車目掛けて飛び出して来たのは。

 明らかに運度不足の不格好なフォームでやって来たのは少し不健康そうなアンダーリムの眼鏡の男性だ。

 寝不足なのか目元に隈を作った彼は車に横からぶつかる勢いでギリギリに足を止め、窓ガラスに両手を叩き付ける様にして中を覗き込む。

 

 

「君が協力者の少年だな! 早速で悪いが力を持つ人間として色々と聞き取りをさせてくれたまえ。協力金は経費で出ると上に確認済みだからな」

 

「この人ですか?」

 

「うん、この人」

 

 出会い頭にこの反応はククルルさんの同類だというのは納得だな、こりゃ。

 もう絵に描いたような研究馬鹿と呼ぶべきかマッドと呼ぶべきか、兎に角俺の中じゃ完全に変人認定。

 

「これが同僚になるのか……」

 

 倉持さんも実際に本人を目にして数秒で辟易した感じだが、ある程度妖魔と戦えるこの人は支部の中で二番目に振り回されるのが決定だから仕方無い。

 

「が、頑張って下さい」

 

 言えないよな、これしか。

 

「……うん」

 

 この時の倉持さんは遠い目をして背中が煤けて見えた。

 

 

 

 

 

「名乗るのが遅れたね。僕は榊原大(さかきばら まさる)。前は科捜研に所属していたんだが、ある日急にボンヤリと妖魔が見え始めてね。又従兄弟の刑事が昔から何かの気配を感じているのは知っていたが……素晴らしい! 現代科学では解明出来ない未知の領域! 僕は心の底から感動しているんだ!」

 

 車に乗るなり目を輝かせながら一気に語るその姿に俺は少し気圧されてしまう。

 

 成る程な、この人は仕事に人生を捧げるタイプの人間だって事か。

 科学が大好きなのは母さんと同じだが、違いは科学的に説明出来ない物をどう思っているかで、母さんは現代科学を信じて否定するけれど大さんは未知の何かについて解明したいと喜ぶ、そんなタイプだ。

 

 いや、何か母さんが頭が固いせいで実在する存在を認められないみたいな感じになってるが、妖魔とか霊力とか意味不明だからな?

 

 人の負の念から生まれる意思を持った存在ってどうなってるんだよ!?

 霊力? 何処の器官で何を消費して生成してるんだ!?

 

 此処迄来ると現代科学の力不足とかそうじゃないって話じゃねーからな?

 

 

「霊力によって妖魔を認識出来る者と出来ない者の決定的な違いは何から来ているのか! 遺伝子上の情報? 内臓の働き? 脳内分泌物質? 気になる! 非常に気になる!」

 

 だから榊原さんがそれだけで優秀な人なのかは分からないけれど、狭い車内で叫ばないで欲しいぜ、五月蝿いから。

 

 仕事への熱意があるのは結構な事なんだろうが、本当に今回も変な人が来たなってのが感想だ。

 

 

「仕事は出来る人だそうで……」

 

「じゃないと流石に見えるだけで派遣されませんよね」

 

 その点、もう一人の新顔はマトモな感じで、コンビニで二人で居た間に散々質問責めにされたのか少し疲れた様子を見せている。

 気温が上がる時期にくたびれたコートに身を包み、白が所々混ざった髪は生え際が少し……。

 

 裏飯浩二郎(うらめし こうじろう)さん、俺と違って経験豊富な退魔士だ。

 何でも創作で結構出て来る様な札を使った術の使い手だそうで、俺も結構興味が有るから聞いてみたいけれど断念している。

 

 

 

「違う絵や文字を描く事で効果を変えて発揮するとの事だが、それは画材に含まれる成分が一定箇所に特定の比重存在する事での化学反応に似た現象なのかね?」

 

「い、いや……」

 

「例えば何ミリの誤差で効果が正確に現れないとかは? 良い紙に良い墨を使った書物や絵巻物は数百年持つが、札の場合はどうなっている? もしや先祖代々伝わるとっておきの札が存在したりは!?」

 

 ほら、この通り榊原さんが学術的好奇心を発揮して怒涛の質問だ。

 コンビニ内でも散々しただろうに学者ってのはこんなもんなのか?

 

「それともエネルギーの基点となる場所からの力の流れが関係するのだろうか? 一度通った場所の側を特定の時間経過後に再び力が通る事で反応するのか? 何にせよ結果があるのなら経過が存在する。現象があるのなら理論があって然るべきである」

 

 いや、母さんの研究に捧げる情熱を考えればこんなもんか。あの人、研究の為に携帯も碌に繋がらないど田舎に数ヶ月籠るし、父さんも絶海の孤島のジャングルに虫の研究目的で半年行ったきりだったよな。

 

 俺の力の事を知られた場合、両親の専門分野とは別方向でも質問されるんだろうかとか、聞き取りの際に散々無茶したのがバレて説教タイムの始まりだとか、色々と考えている最中にも質問は続いていたが、裏飯さんは困り顔で受け流すだけで半分も答えないし榊原さんは気にせず質問の手を緩めない。

 

 そうこうしている内にラブホのネオンが遠目に見えて来た。

 

「無論そちらとて秘伝の技術を公開する事に抵抗があるのだろうが、科学的視点による別方向からのアプローチは発展に大いに寄与すると私は思うのだが……」

 

「榊原さん、貴重な協力者を質問責めにしちゃ駄目ですよ。戸惑ってるじゃないですか」

 

「……むっ。確かに不躾であったか。申し訳無い。謝意を表明しよう」

 

 出会って早々の態度からは想像出来なかった事だが、榊原さんは注意されるなり即座に態度を変えて謝っている。

 変人ではあるけれど常識の欠片も持ってないタイプじゃないって事だな、と俺は少しだけ評価を改めた。

 

「いえ、学者なら気になるとは思うんで大丈夫だから気にしないでよ。ぶっちゃけ小学校の理科の頃から術ってどうなってるんだって思ってたもん」

 

 あっ、俺以外もそう思うんだ。

 

 一般家庭出身の俺と違って裏飯さんは子供の時から術を習ってたって感じの事を話していたからな。

 今は小姫みたいに何処かの一族に所属したりしてる訳じゃないらしいけれど、術が当然の存在な人生を送っていても疑念を持つんだなって驚いた。

 

 

 

「それはそうとして……おじさん、男だけでラブホに入るのちょっと嫌だなぁ」

 

 あっ、俺もそう思う。

 

 目の前のラブホテルが実際は妖魔から人々を守る為の公的機関の基地って理解していても、中年男性三人と男子高校生一人で向かうのは嫌だよなあ。

 

「女性陣も別の車で来ているので。……それに俺なんて毎日入るんですよ」

 

 変人な新人の登場で既に疲労した倉持さんの心に改めてダメージが入る。

 これで客が多いホテルだったら疲弊がどれだけの物なのか想像もつかないな。

 

「うん? 何か連絡が……うぇ」

 

 絞り出す様な声と共に倉持さんが携帯画面を見せる。

 その女性陣についてのお知らせが来ていた。

 

 

 

 

「女子高生二人連れてラブホに向かおうとしていたメンバーが職務質問受けてしまったって……」

 

「それ、大丈夫なの?」

 

「その二人も退魔士であるな!? 是非とも使用する術について教えてもらいたいのである!」

 

「あー、送ってくれていたのは正式所属はしていないけれど妖魔の存在を知っている協力者だし、ちゃんと上の方が何とかしてくれるから。ほら、一応零課は公安の組織だからさ。……胡散臭いけれど」

 

 この短時間で俺すら色々疲れたけれど、一つだけ確信を持って言えるのが一つ。

 

 

 

「勇さん、また心労が増えそうですよね」

 

「うむ! 協力者への職務質問とは厄介であるからな」

 

 アンタが理由だよ! このマッド!

 

 

 

 

 

「最近さ、未成年を使った売春斡旋をしてる連中が関西の方に居るんだってさ」

 

「はあ……」

 

 目的地だった零課の支部への道中、まさかの職務質問を受けた私達は最寄り(それでも結構遠いけれど)にまで来ていた。

 先に運転手さんが話を聞かれているから待っているんだけれど退屈だね。

 

 妖精使いは此処に連れられて来る理由になった理由や私が言った事を半分も理解してやいない。

 何処でどうやったら此処迄の箱入り娘に育つのやら、妖精使いの教育は本当に徹底しているよ。

 

 既に上の人間に話が行っているだろうし、私達が解放された後で職務熱心なお巡りさんは遠い土地に飛ばされるんだろうね。

 上がわざわざ介入してくるなんて何かあるんじゃないかって怪しんで彷徨かれたら迷惑だ。

 

「……丁度良い機会だし、君が妖魔について広めたい理由を教えてくれるかい? ルサルカ先輩?」

 

 驚いた事に彼女は私の二つ上、高校三年生だとか。

 指に巻き付いた糸を周囲に張り巡らして周囲に伝わる会話を別物に変える。

 つまり、端から聞いたら何の意味もない会話にしか聞こえないって訳さ。

 

 

「はい! 貴女も私達革新派に賛同してくれるんですね!」

 

 別に好意的に取れる様子なんて皆無だっただろうに、どうして嬉しそうにしているのやら。

 戸惑いを通り越して呆れを覚え、手を握ろうとしたので軽く振り払う。

 

 この楽観主義、此処まで酷いと本当に騙されて売春とかAV撮影とかさせられそうだな。

 

 そして途中からパニックや怒りで妖精の暴走がセットと。

 

 

「えっと、今回こうなった経緯はよく分かりませんが、妖魔の存在を公開していない事が原因ですよね?」

 

「まあ、そうだね」

 

「そう! 実在を知らない事で見えない人の危機意識も低いままですし、退魔士や妖精使いの活動も人目を避ける必要が有りますが不便じゃないですか!」

 

 話していて熱くなったのか妖精使いは立ち上がって語るけれど、近くのお巡りさんはギョッとした顔をしているよ。

 何せ私の術のせいで周囲には半ズボンのショタについて語ってる様に聞こえるんだからさ。

 

「妖魔の存在を公開し、それに対抗する人達が堂々と動き、戦えない人も危険を避けての行動を心掛ける! 故に私達は妖魔について世間に広める活動をしているのです」

 

「……御高説どーも」

 

 軽く拍手の真似事をしながら確信したよ。

 

 この女と私は相容れないってさ。

 

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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