三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

4 / 110
起こった事をありのままに話すぜ  執筆中に来たキャラ募集の敵が今回の奴にそっくりだった トリックとか幻覚とは違う恐ろしいものを体験したぜ


忘れ物

 やあ! こんにちは。僕は愉快で可愛い小さな大熊猫のヌイグルミさ。

 

 またお前かって人も初見の皆も揃ってはじめましてだね。因みに名前は秘密だよ。まあ、ストーリーテラーのポジションを任された正体不明にして人畜有害で怠け者のマスコットを操っている……おっと、喋り過ぎか。

 

 ねぇ、皆は忘れ物や落とし物ってした事がある?

 

 買った物を袋に詰める時に台に起きっぱなしにしちゃったりポケットに突っ込んでいた筈の財布、鞄に入れ忘れた宿題のプリント、つい椅子に起きっぱなしにしてバックに仕舞った気でいた携帯電話、電車やお店の仲だからと外したお気に入りの帽子忘れた事に気が付いたら慌てて探す物ばかり、だって、失くなったら、誰かに持っていかれたら、そんな事になったら困る物ばかりだもんね。

 

 ……でも、忘れた事に気が付いたとしても気にしない物だって有るよね。

 

 使いかけのポケットティッシュや安物のハンカチ、ガチャガチャや雑誌の付録で手に入れた安っぽいストラップの紐が何時の間にか切れていたって事もあるんじゃないのかな?

 そうそう、小さな子供なら遊びに行った先で靴を脱いで家に帰ってしまったって事もあるだろうし、たまーに軍手が道端に落ちているのを見掛けるって玩ち……友達が言ってたっけ。

 

 傘がブランド物なら、ストラップがお気に入りの品なら慌てて探したりするんだろうね。

 

 じゃあ、安物で直ぐに壊れるビニール傘なら? 別にお気に入りでもなく何となく使っていただけのストラップなら?

 

 安物で大切じゃなくて思い入れなんてなくって、幾らでも代えが効く物なら探すかな?

 勿体無いとは思っても探す手間を掛けるかい? 僕ならしないさ、誰かにさせたりはするかもだけれど。

 

 

 しないよねぇ。そんなに惜しくはないものねぇ。要らない要らない、別の物を用意するさ。

 君達にとってそんな忘れ物なんて直ぐに忘れちゃう価値の低い物なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 じゃあ、忘れられた物にとって君達はどれだけの価値があるのかな? よーく考えてごらん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……所で僕の財布を何処かで見なかった? お金を出すのも面倒で滅多に使わないから何処に置いたのか忘れちゃったんだよ。

 

 探すの面倒だから誰か必死になって見つかるまで命懸けで探してくれない? 僕は食っちゃ寝してるからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 その少女はテストの成績も良いし学級委員長に選ばれる程には友人から頼られている。

 

 だからこの日にやってしまった事はほんの出来心、ちょっとした失敗で、次の日にならずとも自分の行いを恥じただろう。

 

 

 その失敗が致命的な物でなかったら、の話だが。

 

 致命的な失敗とは大抵の場合起きてから分かる事なのだ。

 

「どうしよう。傘なんて持って来てないよ」

 

 夕焼け空が雨雲に覆われ、小学校のグラウンド全体に水溜りが出来る中、図書室でお気に入りの小説を読んでいた彼女は空を見上げて溜め息を吐くしかない。

 

 ついつい夢中になっていた自分が悪いが、あまり遅くなると両親が心配するから困るのだろう。

 もう他の生徒は帰っている時間だから友達の傘には入れて貰えないし、遅くなる事を抜きにしても人の姿の消えた学校は不気味で怖い。

 

 古い蛍光灯が時折点滅してジジッジジッと嫌な音がする。

 実はトイレに行きたくもなっていたが、こんな暗い校舎のトイレに行く事を想像した時、浮かんだのは女子トイレに出る有名な怪談。

 尿意か恐怖か少女は体をブルッと震わせて意を決した様に一歩前に踏み出す。

 

 

「こうなったらダッシュで家まで……」

 

 帰ろう、そう口にしようとした彼女の目が何かを捉えた。

 傘入れと壁の間、掃除係が適当に作業をしたのか外から運ばれた土埃と木の葉に混じって転がっている子供向けの傘。

 本来は学校指定の地味な傘を使うのがルールなのだが、中には好きな傘を持って来てしまう生徒だっている。

 この少女は決められた傘を使っており、その傘があるんだからと友達の様にプライベートで使う別の傘も持ってはいないのが悩みであったが……手にした傘は汚れてはいるものの可愛い猫が描かれた水色の傘。

 

 

「誰かが放り込んだ時に落ちて転がったのかな?」

 

 何となく気になって隙間に手を伸ばして引き摺り出せば、長い間そこに転がったままだったのか汚れてはいるが広げて調べた限りは問題が無さそうだ。

 

「もー。皆、掃除はちゃんとしないと駄目じゃない」

 

 そのまま傘に付着したゴミを外で払い落としてから傘入れに戻そうとした時、名札が目に入った。  

 

 

「これ、みーちゃんのだ」

 

 書かれていたのは最近転校して行った子の名前。

 同じクラスの女の子で家がお金持ちだから欲しい物は何でも買って貰えるらしく、だから物を雑に扱う子だったと少女は思い出す。

 

 成る程、こんな所に置きっぱなしにしている筈だと納得して、もう一度傘を広げてみる。

 少し汚れたままだが、水色の生地に描かれた様々なポーズの猫のプリントが本当に可愛らしく、欲しいと思ってしまったのは仕方が無いだろう。

 

「もう取りに来ないだろうし……良いよね」

 

 普段から良い子でいる彼女は我儘は滅多に言わない、買わないと言われたら欲しい物も我慢していた。

 

 ずっとこんな傘が欲しかった。

 

 

「大丈夫。借りるだけ。持って帰っても誰も困らないんだし」

 

 このまま持って帰ってしまっても良いだろう、今日帰る時に使うだけで明日にでも先生に渡せば良い、そんな風に小さな悪魔が心の中で語り掛ける。

 

 ずっと欲しかったのだ、学校指定の地味な傘ではなくって今目の前にある様な可愛い模様の傘が。

 持ち主は別の学校に行ったのだし別に泥棒じゃない、そんな風に言い訳を心の中でしながらも良心が咎めるのか足取りは少し重く見える。

 

「わぁ!」

 

 それも雨空の下に傘を広げて歩き出すまで、雨音を聞きながら傘を見上げれば胸は弾むし心は踊る。

 ちょっとした悪い事をしたドキドキと可愛い傘を手にして歩く嬉しさに足取りは軽くなり、自然とスキップ鼻歌響く。

 

 傘を軽くクルクル回して自分もその場でクルッと回転すれば気分はファッションモデル。

 後で怒られるかも知れないし真面目な少女なら悪い事をしたんだと落ち込む事もあるだろう。

 

 それでも嬉しい束の間の幸福な時間。ああ、何て素晴らしい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 素晴らしい時間、それはあっという間に終わってしまう。

 次に来るのは恐怖の時間。

 

 

 

 

 

 アナタはだぁれ? みーちゃんじゃないわね

 

「え?」

 

 

 

 

 声がした。周囲に誰も居ないのに、直ぐ近くで声がした。

 

 思わず足を止めて周囲を見回す少女だけれど誰も居ない。

 気のせいか、そんな風に思って……そうであってと願って歩く彼女は足早で、もう嬉しさも楽しさも何処か遠くに消え去った。

 

 

「空耳空耳空耳空耳」

 

 嗄れた老婆を思わせるその声に少女の震えは止まらない。

 雨水が跳ねるのも気にせずの声がした場所から離れようと駆け出して、傘を持った手だって揺れるから降り続ける雨が小さい体を濡らしていった。

 

「この角を曲がれば……」

 

 脇目も降らずに走り抜け、車が来ていないからと信号無視までして少女は声が聞こえた校庭から遠ざかろうと走り抜けて来た何時もの帰り道。

 あの声が聞こえたらと思うと慣れた道さえ恐ろしく感じる。

 気のせいだと何度も言い聞かせたものの、心が、本能が訴えたのだ。

 

 あの声の主は危険な相手だ。絶対に関わっちゃ駄目だと。

 

 極度の緊張状態の中必死に走り抜け、コンビニや本屋の灯りが漏れる道まで来た所で漸く足が止まる。

 後は目の前の曲がり角を右に曲がれば家はもう直ぐ、安心すると緊張の糸が切れたのか一気に疲れが襲って来て息が上がる。

 

 

「も、もう大丈夫。今日は絶対に外なんか出ない」

 

 その場で膝を曲げてしゃがみ込んで荒い息を繰り返す彼女の頬を安堵から流れた涙が伝う。

 

 

 

 

 帰ったら家族に甘えよう、そんな風に思いながら立ち上がればお腹も減って来た。

 家に帰ったらお菓子を夕食の前にコッソリと食べるのも良いかと思い、不意に手を握られた。

 

 

「あれ……」

 

 強くなって行く雨で視界の悪い中、傘の柄を持つ手を突如握手でもするかの様に掴まれる。 

 声とは別物の恐怖に少女は大きな声で悲鳴を上げようとして手の主の姿を見る……見てしまった。

 

 

「え……」

 

 可愛い猫の傘、その内側に目が有った。

 

 少女の顔と同じくらいの大きさで血走った目が忙しなくキョロキョロと周囲を見回している。

 

 口も有った。

 

 少女の頭を丸齧りに出来る位に大きな口で、分厚い唇は青紫で歯はギザギザ。

 

 

みーちゃんじゃないわね。アナタ、本当に誰なのぉ?

 

 傘の内側に生地が膨らみ、少女と傘の目が合った。

 生臭くカビ臭い息が全身に掛かる中、聞こえたのは校庭で聞こえたあの声。

 

 少女の手を掴んでいるのは老婆の手になった傘の柄、黄色く変色した割れ爪を小さく柔らかい手に食い込ませて逃すまいと強く握る。

 

 

「わ、私はみーちゃんとは同じ学校で、傘が忘れられていたから……」

 

 もし泥棒だと思われたら殺される、そんな予感を強く感じた少女は必死に言葉を選んで語ろうとするが途中から出て来ない。

 当然だ、普段は善良な彼女がしてしまった些細な悪事、それは無意識に心にのしかかっていたのだから。

 

 転校した生徒の忘れ物、傘がないから仕方が無い、明日先生に渡す予定だった、そんな理由付けが自身を納得させる事が出来る程に悪事には慣れていない。

 結局の所、少女は自分を泥棒だと蔑んでいた。

 

 

そうなの。アナタ、そうなのね……

 

 口が眼前に迫り、奥が見えない程に深い口腔が見える。

 これから食べられるのだと少女が感じた時、足を温かい物が伝う。

 

 恐怖で忘れていた尿意、それは既に限界を迎えてスカートと下着を汚してしまう中、手を強く握っていたチカラが緩められた。

 

 

みーちゃんにアタシを届けてくれようとしたのね?

 

「あっ……。う、うん。でも、家が何処か知らなくって……」

 

 シワだらけの手が少女の頭を優しく撫でる。

 傘の目も口も醜悪な笑みを浮かべるも声は穏やかだ。

 

 助かったのだと気が付いた少女はその場に崩れ落ちながらも安堵の息を漏らした。

 

 

大丈夫よぉ、探すから。ほら、手を出しなさい

 

 宙に浮いたままの傘が差し出すてに恐怖と嫌悪感を覚えながらも少女は手を差し出す。

 相手は化け物だから、怒らせれば泥棒じゃなくとも殺されると思ったから素直に手を出して引っ張って貰い立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ、一緒にみーちゃんを探しに行こうねぇ

 

 

 

 そのまま少女の体は傘に運ばれて舞い上がり、高く高く、遠く遠くまで知らない何処かへと連れて行かれた。

 

 

 もう、永遠に戻る事のない旅路へと出掛けたのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想をまじで募集しています

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。