三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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流れツイた物 ④

「やあ。妙な事に巻き込まれたけれど直ぐに解放されて助かったよ。国家権力は凄いね」

 

 支部内に通されて十分ぐらいだし、思ったよりも早く上の人が手を回してくれたのか何事も無かった感じで合流する小姫達。

 うん、俺も深夜に出歩いて補導されかけた事があったから助かるってのは本当に分かる。

 

 

「端から見れば夜中に怪しい事をしているとか不審な点だらけだもんな。小太刀とかの刃物が見付かっても厄介な事になるだろうし、上の方の人間が理解してくれているのは良いよな」

 

 俺は素手だから未成年の深夜徘徊程度で済むから良い……いや、良くはないんだよ、非行行為なのは間違いないんだから。

 問題は道具を使うタイプの人、刃物は当然として工具の類いも正当な理由無しでの駄目だった気がする。

 

 かと言って道具使いませんって訳にも行かないし、お巡りさんだって職務に責任持っての行動だから責められないんだ、だからこそ国家権力のバックアップはありがたい。

 

 知っているだけで実態は見聞きするだけの人がこっちの都合を把握して動くのは大変だろうけれどな。

 中には妄想なだけの力を持たないのも居るんだろうし、零課が手を回してくれないと退魔士側も行政側もやりづらい。

 

「これで政治家とかにも退魔士用の席が用意して貰えれば手続きとか説明が楽になるんだろうけれど、生憎その辺からは閉め出されているからね」

 

 そんな風に考えていたのは当然だが俺だけじゃないんだが、どうも小姫の反応が気になる。

 何となくだが何処か皮肉混じりにも見えたんだ。

 

 

 

 閉め出されている? 何でだ?

 

 一部でも政治家や官僚が退魔士について知っていてくれるなら今でも便利とは思うんだけれど、それなら退魔士が居てくれたら便利じゃないかとは思うんだよな。

 どういう物なのか何となく知ってる人と実際にそうである人じゃ理解度が変わって来るだろうし、だから零課だって見えるのが所属条件だしな。

 

 だけど、そんな風に俺が思い付くのに長年退魔士をやってる一族が分からない筈が無い。

 

 そもそも零課みたいに見えたりする人が退魔士の補助をする部署が有るんだし、どうも秘密にする存在なのは分かっているんだが、どうも必要以上に線を引いていないか?

 

 

 ちょっと教えて貰うか。

 

「うん? それは怖いからさ。私みたいに記憶を操作する術の使い手だっているんだし、洗脳みたいな物だからね。使えないとしても、それは悪魔の証明って奴だからね」

 

「西洋の魔女狩りみたいな話だな。あれって薬草とかの知識を持ってた人も殺されたんだろ?」

 

「まあ、変に猜疑心を持たれてまで政治に関わる位なら退魔士としての研鑽を積むだけさ。平安時代は妖魔の存在が公になっていたから出入りする場所によっては身分が必要だったけれど、今となっては見えない妖魔よりも人の姿をした化物の方が怖いんだって」

 

 成る程な。

 

 よく考えてみれば政治家の仕事をしつつ退魔士としての修行もしますだなんて無理だろうし、そっちの方が良いんだよな。

 常識を越えた怪物と戦う以上は普通の人生なんて諦める必要が有るんだろうし。

 

 俺は今まで自分に力が有るから戦う、それで誰かの助けになるのなら満足だ、程度にしか考えていなかったんだが、長い間この世界で生きてきた人達は俺じゃ想像もしない苦労をして、それを乗り越えて妖魔と戦って来たんだからな。

 基本的に退魔士の役目は妖魔を倒す事、それが大勢の人を救う事に繋がるのなら今襲われている人を助ける為に危険を冒すのは避ける。

 

 ああ、それなら政治的な事から遠ざかる筈だと納得だ。

 

 政治的な事を兼任して修行に障るなら、補助をしてくれる機関に全てを任せてしまう、そうなる迄は色々と有ったんじゃないかってとも思うんだけれども……。

 

 

 自分達が化物扱いされる事を平然と口にする姿、それが少し気になった……。

 

「実感が少し沸かないって感じだね、少年」

 

「裏飯さん?」

 

「いやいや、別に悪い事じゃないさ。見えない人からすれば居もしない化物を見えるって言う変な奴だ。不気味だと遠巻きにするなら未だ良いけれど、苛めや虐待に繋がる場合もあるからね」

 

 何か他人事っぽい言い方するな、この人。

 

 まるで”そんな目に遭った人は大変だねぇ”とか言いたそうな様子だが、この人絶対に一般人出身じゃないんだろうな。

 

「おじさんは、まあ、周囲が特に反応しなかったし上手く立ち回ったけれど少年の方はどうよ?」

 

「道場で思いっきりぶっ飛ばされてから見える様になったからか脳の精密検査を受けさせて貰いました」

 

「そりゃあ良い親だねえ。子供の言葉だからと適当に扱う親も居るんだ。……隠すのも大変だったろう?」

 

「まあ……。お陰でオカルト好きの三馬鹿娘の世話係でしたよ」

 

 八雲の奴だけでも大変だってのに、橋本と泉迄加わって神霊スポットに突っ込もうってんだから当時は本当に何度見捨てようと思った事か。

 

「娘って事は女の子三人と一緒だったのかい? モテるねえ。おじさん、ちょっと羨ましいよ。この業界に居たら普通の子とは付き合いが難しいからさ」

 

「そんな良いもんじゃないですよ。放置も目覚めが悪いし、代わりの誰かが巻き込まれるのもって面倒見ただけですし」

 

「そうやって見て見ぬ振り出来ない時点で周囲に恵まれて真っ当に育ったんだね、君は。おじさんなんて小学生の時にちょっとあってさ。ほら、順番に足を触ってトイレに行っていた奴を探すって怪談を知ってるかい?」

 

「骨を齧ってた化け物が最後に“お前だ!“ってオチのですか?」

 

 裏飯さんが口にした怪談って有名なアレだよな?

 

 怪談話に出て来る化け物は大抵中位以上認定のパターンが多いらしいが、小学校の時に遭遇したって事か?

 

 俺がその頃は下位の中でも下の方の相手が漸くって所だろうし、この人が服の上から見て欠損も障害も無さそうって事は何とか助かったんだろうけれど……。

 

 正直気になった俺だが、詳しく聞くのは抵抗があった。

 何処か自嘲する様な笑みの上に見て見ぬ振りに対して俺を褒めてからの言葉だ。

 これで何が起きたのか全く察せない俺では……。

 

 

「僕もその話は知っているぞ。鼓動を聞いて確かめるパターンもあるが、そもそも顔を見て確認出来ないのかと疑問に思っていたのだ。夜中に出るが夜目は効かないのか?」

 

 俺では無理でもマッドは何一つ遠慮する事無く踏み込んで行く。

 

 え? いや、さっきの様子からして口にしたけれど話したくはないって感じだったよな!?

 

 

「あっ、口はでかいけれど目と鼻は無いタイプだったよ。おじさん、子供の頃から妖魔については知っていたけれどあれはビビったよ。後ろ姿だけなら普通の人間なんだもん」

 

「成る程、深海や洞窟に棲む目が退化した生物と同じか。それで顔での判別が不可能な事への整合性を取っているのであるな。人の持つイメージが負の感情から誕生するとは聞いていたが、電気信号と脳内物質の化学反応がどの様な道筋で意思を持つ存在に? 捕獲からの徹底的な検証は可能であるか!?」

 

「難しいと思うよ。拘束とか諸々で」

 

 

 裏飯さんも何で素直に答えるのかって思ったが、榊原さんみたいにグイグイ来られたら俺だって押しきられてしまう気がしてしまうだろうよ。

 威圧的とか鼻息荒くとかじゃなく、楽しそうとか好奇心を隠さず抑えずで一切悪意とかが無いのが悪いんだ。

 

 ちょっと話し辛いだろうが、とか相手の迷惑を理解しながらも都合を押し付けるんじゃなく、知的好奇心に突き動かされて他の何も一切合財頭に入っていない、それが今の彼だ。

 

 母さんもそうだけれど、昆虫学者の父さんも珍しい虫が手に入ったら他の用事が完全に頭から抜け落ちて、横から話し掛けても返事すらしないが無視しているんじゃなくって聞こえていない状態なんだ。

 

 知的探求の対象と自分以外世界から切り離す、それが学者って存在……なのか? この人含めて三人じゃ断言は出来ないな。

 うちの両親って専門分野じゃ上澄みの方らしいし、榊原さんだってただ者じゃない気がするんだよな。

 

 

「では別室で詳細をレポートに纏めたいから僕達は一旦退室させて……」

 

 もう興味を引いた事への追求に夢中無さなったのか裏飯さんを連れて行こうとしている辺り、絶対に何しに来たのか忘れているだろ。

 

「ねえ、流石に止めた方が……いや、矛先が向きかねないな」

 

 だけど俺も小姫も止めない。だって巻き込まれたくないから。

 単純に増強しか出来ない俺と違って小姫は糸やら針やらで色々出来るんだし、後から質問の嵐になったとしても、初対面であしらい方を考えてない時はな。

 

 つまり裏飯さんは生贄だが、そこは年長者に任せるって事で後で謝れば良いさ。

 

 

「ちょっと落ち着きましょうね」

 

 それに俺達が動かなくても他の零課メンバーに任せれば良いっつーか、勇さんは既に動いていた。

 椅子から立ち上がったと思ったら瞬きの瞬間に既に榊原さんの背後に立って肩を叩き、意識が向いた瞬間に真横に手刀を振り下ろす。

 気の抜けた掛け声から放たれる神速の斬戟は軌道上に置かれていたテーブルを何の抵抗も無く両断、破片すら飛び散らない綺麗な断面を晒して両側に倒れた次の瞬間に空気を切った音が追い付いた。

 

 音すら置き去りにする一撃、その後に待っていたのは空気が左右に押し出される事による暴風。

 

「のわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

 勇さんが動くよりも前に動けないメンバーは姿勢を低くして備えていたし、倉持さんとかの動ける面々は平然と耐えながら宙を舞った書類を掴んだり花瓶とかが倒れない様に押さえるだけ。

 俺も小姫も裏飯さんもこんな風程度じゃ微動だにしなかったので飛ばされそうになったのは二人。

 

 

「相変わらず人間辞めてる人だよな……おっと」

 

 ルサルカさんと榊原さんがその二人、後者は転びそうになったのを裏飯さんが襟首を少し乱暴に掴んで助ける。

 あの様子だと困った笑いを浮かべながら内心ではイラッとしてたな……。

 

 そして前者、つまりルサルカさんなんだが、俺が手を掴んで引き寄せて倒れるのを防いだ。

 

「あ、あの……」

 

 ……迄は良かったんだが、俺が掴んで助けようとしたのと同じタイミングで妖精達も彼女を助けるべく翠の泡を吐き出して、発生した泡が反対側から体を支える……つまり俺が引き寄せる力と風に対抗する風の二つが同じ方向に向かって来たって事で……。

 

 結果、俺は胸でルサルカさんを受け止めて、彼女は咄嗟に掴まろうとしたのか俺に抱き付く姿に。

 見下ろせば俺を見上げる彼女は抱き付いた状態で真っ赤になって固まっていた。

 

 尚、動かないので下手に剥がそうとしたら転びそうで剥がせない。

 

 何か見た目以上に華奢だとか胸が着痩せするんだとか色々と感想はあるんだが、今は別の問題だ。

 

 

「……どうしろと?」

 

 助ける為とはいえ惚れた相手の前で出会ったばかりの女を抱き寄せる姿になった事に戸惑いつつ榊原さんの方を見れば口をあんぐりと開けて固まってた。

 

 

 

 

 

「霊力の強化も無しに素手でテーブルを切り裂いただと!? 支部長殿はサイボーグか何かか!?」

 

「そこまで今の科学は発展してませんよ、失敬ですね。唯の古武術の鍛錬の応用です。妖魔なんてのが存在するんですし、生身でテーブルを切り裂ける人間が居ても……いえ、何でも有りません」

 

 そりゃ、その言い方だと自分を妖魔と同じみたいに言ってるもんな。

 伏柄流の技には妖魔さえドン引きだったけれど、勇さんは普通の人間だから嫌だろうさ

 幾ら鉄板を指で貫通させるなんて楽勝な超人でも、普通の……普通って何だろ?

 

「俺は陥没が精々だし……普通だな」

 

「その武術は人を妖魔に変える外法の技か何かであるか?」

 

 この一連の流れで冷静に戻った榊原さんは真顔で訊いてくるが、只の武術じゃ化物にはならないだろうに、これだから伏柄劉は本当に……。

 

 俺はあくまで門下生だし、師範や勇さんにはお世話になりつつも、それはそれでこれはこれ。

 それでも勇さんからすれば代々受け継いだ武術だし、少し不満そうだ。

 

「平安時代から受け継がれる普通の武術です! 開祖の名は金ぴ……」

 

「支部長、さっさと話を進めませんか?」

 

 横合いからの冷静な意見に勇さんの言葉が途中で途切れる。

 倉持さん、お疲れ様です。

 

 

 

 

 

 

 

「近辺で出没が確認されている妖魔達、それについては既に調査が済んでいます。資料を見て下さい」

 

 達? 達って事は……。

 

 

「水虎の件がありますから同時期に流れ着いただけ、と思えれば良いのでしょうけれど、犠牲者の遺体の特徴からして外れて欲しい予測が当たりでしょう。……二体が組んで入り込んでいると見ています」

 

「マジかぁ。おじさん、従えているのは遭遇した事あるけれど、妖魔が手を組んでるのって初めてだよ。まあ、話には聞いた事があるんだけれど……影女が絡んでるっぽい?」

 

 

 影女、か。

 頭がおかしいとしか思えない話し方は別として、よく分からないが厄介な奴だってのは分かっている。

 

 でも……。

 

 

 

「資料にあった通販番組みたいな話し方をする変な妖魔であったな。妖魔にもパッパラパーはいるとは驚きである」

 

 そこ、口に出さないで下さいよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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