三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「何か派手な事をして目立とうぜ! 皆には直前まで秘密にしてよ!」
あっ、また悪い癖が出たな。相変わらず馬鹿だよ、この人。
僕と兄は親の転勤に合わせて転校したんだけれど、今の所は特に目立った事も無い平々凡々な小学校生活の真っ最中。
漫画とかじゃ転校生が囲まれて質問攻めになるけれど、兄ちゃんが期待していた通りにはならなかったんだ。
まあ、他人に其処迄興味が無い人が多くなったんだろうね。
今は昼休みに図書室に連れ込まれて秘密の会議中、但し図書委員会はちゃんと当番を守ってる上に兄ちゃんの声が無駄に大きい。
はい、ネタバレ確定! 秘密になんてならないよ。
「また“最強兄弟参上!”って垂れ幕でも垂らすの? 今回は兄弟って部分は兄ちゃんの名前にしててよ」
目立ちたがり屋でお馬鹿な兄ちゃんのせいで無関係な僕まで変な目で見られたんだし、質問を予測して答える練習までしてた人と一緒にして欲しくはないんだよなあ。
参上より惨状の方が合ってるよ、このお馬鹿さんの場合。
「おいおい、俺が一度やった事を繰り返すと思ったか?」
うん、思った:。
何度も派手な悪戯をして親が呼び出されたよね?
馬鹿なだけじゃなくって叱られたいマゾなの? 小学生でドMなの?
僕に兄ちゃんの性癖を押し付けないでよ、迷惑だから。
「ううん。思わないよ」
なーんて本音を口にしたらドヤ顔の兄ちゃんからポカリと一発貰うんだろうし黙っておくけれど、そんな事よりも何をやらかすのかが心配なんだ。
無駄に行動力があるから言っても止まらないし、事前に親や先生に止められても実行するまでは繰り返す。
じゃあ、馬鹿を繰り返して僕まで同類に見られるよりも、馬鹿な兄を持つ犠牲者的な印象を持って貰えれば僕には同情が向けられるんじゃないのかな?
「それで何か候補はあるの?」
「未だ無い! だからお前も考えてくれ!」
「……えー」
思わず不満を漏らしたら軽くチョップを食らわされたよ、地味に痛い。
未だ何も考えてないんじゃ動けないよ、どうしよう。
目標は決まっても問題は山積み。
だって小学生の僕には印象操作とか心理誘導の技術なんてある訳ないんだし当然じゃないか。
兄ちゃんだけにヘイトを向けろって考えても、どうすれば良いかなんて大人でも難しいよね。
適当に騙そうにも無駄に勘だけは鋭いから難しいので悩んでいた時、頭の上から声が聞こえて来た。
”面白そうな話をしているね。ちょっと良い案が有るんだけれどどうかな?”
見上げてみれば本棚の上から覗く顔、僕も知らないし兄ちゃんも知らないっぽい見た目。
兄ちゃんが五年生で僕が三年生だけれど、見た目的に僕よりは年上かな?
「良い案ってなんだよ?」
もしかしたら正義マンが悪さしようとしている馬鹿二人を探ろうとしているのかも知れない、僕はそう思ったんだけれど、前の小学校ではまんまと引っかかっておいて学習しない兄ちゃんは興味を惹かれたっぽい。
僕まで共犯だと思われたら嫌だし、正義マンだった場合に備えて何とかしたいけれど……。
ノリノリになった兄ちゃんは止められないし、邪魔したらそれはそれで面倒な奴だ。
家族だから仲良くやれているし、面倒見は良いから嫌いじゃないけれど友達にはしたくないタイプだよ。
だからどんな話なのかと聞いていれば指差したのは窓の外、転校初日に立ち入り禁止だって言われた森の方向だ。
禁止されたら破りたくなるらしくって森に入って遊んでいる奴が結構居るらしいけれど……その奥に誰も住んでいない屋敷があって、この時点で僕には予想出来ていた。
これ、幽霊とかそっち系だなってさ。
「面白いな、それ!」
そしてもう一つ。あっ、兄ちゃんはノリノリだけれど普通に犯罪系の奴じゃん。
不法侵入とかで警備会社と親と警察にメッチャ怒られる奴だ、廃病院に忍び込もうとして秒で警報に引っ掛かった兄ちゃんが怒られてるのを見た
「でもさ、誰も住んでいなくたって普通は簡単には入れないんじゃ?」
話を聞いていると幽霊屋敷の噂はあっても具体的に人影を見たとかの話は出ていないらしい。
森の中だけれど屋敷周辺は開けていて日当たりも良いし、普通は夜の森になんて入らないし、デタラメが丸分かりなら噂だって広まるもんか。
最近じゃデジタルカメラなんて物まで流通してるんだぞ。
だから適当に話を終わらせようとしたんだけれど、どうやら入れる所は有るらしい。
塀に囲まれて門には鎖が巻き付いているけれど裏には潜って入り込める穴が空いた場所があって、門は時々風で揺れているらしいから鍵と蝶番が壊れているらしい。
それに管理会社の看板も無いんだって教えてくれたよ。
……それにしても変な奴だな。
話し始めてからずっと本棚の向こう側から移動しないし、図書委員もそれを注意しない。
廃墟に入るって話だぞ? 聞かれているだろうに普通の声で話してるし、余り関わりたくない相手だな。
僕の中で目の前の奴の評価が下がり続けているけれど、その間も兄ちゃんと仲良さそうに話す姿に嫌な予感を覚える。
多分だけれど兄ちゃんと関わりを増やさせたら駄目なタイプ、自分は何だかんだ言い訳して来ようとしないのがその証拠。
「ねえ、名前聞いていないんだけれど」
僕は先に名乗って兄ちゃんも続くけど、目の前の奴は幽霊屋敷の噂の方に話を移して誤魔化そうとしていて怪しい。
行動力のある馬鹿を煽るだけ煽って自分は安全圏に居たいって奴だろうし、名乗らないのも僕達を唆した時に名前を言わせない為にって所かな?
僕が疑っているのが分かったんだろう、覗かせていた頭が引っ込んで走り去って行く音が本棚の向こうから聞こえる。
顔以外も確かめようと本棚の裏から出たけれど既に居ない、随分と逃げ足の速い奴だ。
「何だよ。図書委員ねてるじゃん。伝記の漫画があったから借りたかったのにさ」
急に走り出した僕を追っかけて来た兄ちゃんが見ている方に目を向ければ机に突っ伏して寝ている……様に見える図書委員の姿。
イビキがわざとらしいし、多分さっきの奴の友達だな。
何かあったら知らぬ存ぜぬで押し通す気だと腹立たしいけれど、どうせ兄ちゃんは止められないんだからどっちにしろ同じだ。
「居眠りを先生にチクってやろうよ。委員会の役目をちゃんとしてないって」
「えー? 俺、職員室に良い思い出無いんだけれど」
それは頻繁に怒られているからだよ、なんて言葉を飲み込むと僕はわざとらしく急ぎ足で兄ちゃんと一緒に図書室を出ていく。
どうせ先生が来る頃には寝た振りを終えてるだろうから細やかな嫌がらせだ。少しは慌てれば良いよ。
……それにしても脚立が無かったし、本棚に登っていたらしい事は本当に言おうかな?
それなら見逃した図書委員も……いや、止そう。悪巧みについて話されるかも知れないしさ。
「……もう二人とも行ったかな? わ、私は何も見てないから」
君は賢いね。騒がず寝ていた事にしていれば見逃してあげるよ
「何も聞こえない。何も知らない……」
でも、誰かに喋ったら……分かってるよね?
「じゃあ、明日には帰るから良い子にしておくのよ。お兄ちゃんの面倒をちゃんと見ててね」
幽霊屋敷への肝試しの最大の障害は親の目を盗んで家を抜け出す事。
だったら大きな音を立てて見つかっていたら兄ちゃんはその内に忘れちゃうって期待してたのにこれだ。
お父さんは出張、お母さんは夜勤で僕と兄ちゃんはお留守番。
どうせなら近所の人か近くの親戚に面倒を見てもらえればどうとでもなったのに、普段の僕がしっかりし過ぎてるからこの通り!
てかさ、弟が面倒見る側って変じゃないの?
まあ、ウダウダ文句言ってもどうにもならないんだし、兄ちゃんの事だからゲームをしてテレビでも観てれば忘れるに決まってるか。
「テレビが急に壊れるなんてな。明日観たいアニメがあったのに」
「そうだね。ついてないよ」
なんで! なんでこのタイミングで故障するんだよ!?
宿題も簡単なのしか出ていなくって、お母さん仕事に出てから一時間経った位に僕達が居たのは森の中の屋敷の前。
森の中でも周辺の街灯の灯りが入ってくるし、木も疎らで月明かりで照らされてるから懐中電灯も要らない位。
虫は多いから虫除けスプレーを持って来ておいて良かったけれど、思ったよりも綺麗な屋敷を前に僕のテンションはダダ下がりだ。
「思ったより綺麗だし、どうせなら秘密基地にしようぜ!」
「流石にそれは不味いって。前も使ってないプレハブ小屋に色々と持ち込んで怒られたじゃない」
覚えてないの? 覚えてないか、兄ちゃんだもん。
今更この程度の事で呆れる付き合いじゃないけれど、こんな事に巻き込まれるには今回で最後にして欲しいよ。
「階段とかは崩れたら危ないし、壁とか天井が崩れそうな所は近いちゃ駄目だからね? それと埃っぽいだろうからマスクして、マスク」
懐中電灯や消毒薬や絆創膏、その他にも虫除けスプレーやら変質者と出会った時の為に落ちが高く鳴る笛とか色々と鞄に詰めて来たんだけれども、放置されていたならホコリだらけだろうとマスクだって持って来たのを兄ちゃんにも渡す。
いや、どうして僕が色々と準備してるの? 兄ちゃんは何一つ持って来ていないのにさ。
「サンキュー。それで例の何とかカメラは持って来てるか?」
「デジタルカメラだよ。お父さんは新しい物が好きだけれど直ぐに飽きるからね。流通始めに直ぐ買って直ぐに飽きてたから持ち出すのは簡単だったよ」
今までのカメラとは使い方が違うからお父さんは投げ出して、仕方が無いから僕が説明書を読んで教えるとか色々とやらされたんだけれど、どうして僕は此処まで物事を押し付けられるんだろう?
いや、結局流されて行動しちゃう所が原因なのは分かっているんだけれど、放置したらしたらで面倒な事になるのは間違いないし。
「どうしたんだ? 急に立ち止まったりして。あっ、もしかして怖いんだな!」
自分の流されやすさについて悩んで僕が立ち止まっていたのを不審に思ったんだろう、ドアノブに手を掛けた所で兄ちゃんは僕の方を振り向いて手を伸ばしてくる。
「まあ、見付かって怒られるのが凄く怖いよ。下手したら来月のクリスマスに何も買って貰えないんだから」
僕が今より小さい頃から兄ちゃんはこうだ。怖がった僕の手を握って先に先にと一緒に進もうとする。
僕を巻き込むなって思う事は度々有るんだけれど、それは同時に僕を置いて行く事が無いって事で……。
「ヤバイな、それ! 写真をさっさと撮って帰ろうぜ!」
「今直ぐ帰るってならないのが兄ちゃんらしいよ……」
だから僕は呆れながらも兄ちゃんの手を握る。さてと、さっさと終わらせて帰らないとね。
願うなら、今回みたいな事はこれっきりにしたいけど。
良いよ
「あれ? 兄ちゃん、何か言った?」
「いや? 空耳じゃねえ?」
「空耳……かな?」
一瞬聞こえた誰かの声は耳に残らず、どんな声だったのかも思い出せない。
だから僕は兄ちゃんの言った通りだと自分に言い聞かせて……押し寄せる不安を誤魔化したんだ。
僕は幽霊とかの話が馬鹿馬鹿しいから嫌いだ。
フクションだと分かってるのは娯楽しては面白いけれど、幽霊が出る場所に行ってキャーキャー騒ぐのは別なんだよね。
「兄ちゃんは幽霊って怖いと思う?」
「宙に浮いたり透けたりするだけで人間だろ? そんなのサーカスとか手品とかでもやってるし、暴走族とかヤクザとか怒った母ちゃんの方が怖いだろ」
「だよねー」
幽霊だって元は人間、普通に社会の一員として生きていただけの人だった筈だよ、存在するって仮定した場合だけれど。
呪いとか取り憑く? 何で死んだら超能力者になれるのさ? いや、それなら超能力番組だってサブタイトルに身の毛もよだつとか付けるべきじゃない?
そんな理由で僕が怖いのは夜中に出歩いて私有地に不法侵入したのを怒られる事と、目の前の屋敷ならホームレスが住み着いているんじゃないかって事だ。
ほら、全然怖い要素なんて一つもないから僕と兄ちゃんは手を繋いだまま屋敷へと入る。
うわっ! 凄いホコリ。
入るなり漂うホコリ臭さ、足元を見れば真っ白になるまで積もったホコリ。
これではマスク無しで来ていたらクシャミや咳が止まらなかっただろうし、既に帰りたい。
「凄いぞ。これなら本当に誰も入ってなさそうだし、隅から隅まで写真撮って回ろうぜ」
「えー?」
それなのに兄ちゃんは目を輝かせると僕を引っ張りながらホコリだらけの床をドンドン歩いて進んだ時、急に外から風が吹き込んだ。
ホコリが目に入らない様に目を閉じて空いた手で顔を庇っていると聞こえたのは扉が強く閉まる音。
それも強く閉まった後に聞こえたのは硬い物がぶつかり合う音で、続いて何かが床に落ちて数回跳ねる音だった。
何が落ちたんだろうと扉を見れば風で煽られたのか扉は閉まっていて、内側のドアノブは根本から外れて床に転がっている。
「閉じ込められたっ!?」
「うん? 普通に開くぞ」
兄ちゃんが軽く蹴れば外側に向かって動く扉、そういえば普段から風に煽られて動いてるんだったよ……。
それからホコリが舞う屋敷の中を探検する僕達だったんだけれど、少し進む度に不気味な事が起きる感じがしたんだ。
「肖像画の目が動いたり壺が勝手に落ちる気がしたんだけれど……」
「そもそも壺も肖像画も置いてないよな」
「調理場のドアの隙間から血塗れのコックが包丁を持って出て来る様な……」
「ドア、倒れてるな。中には机も何にも無いぞ」
「誰も居ないのに階段から足音が……する筈がないか」
「階段崩れてるから二階に行けないのが残念だぜ」
何かが起きる気がして、具体的に姿が浮かぶお化けが出てくる予感がする。
でも、何も起きない。行ける範囲を回って写真を何度も撮っても変な声も入口の空耳以外は聞こえないし、時間ばかりが過ぎて行くだけ。
僕がそろそろ帰って寝たいと思い始めたその間も兄ちゃんと手を繋いで歩いていたんだけれど、急に立ち止まった兄ちゃんが声をあげた。
「おいっ! 今、何時だ? 確か今日はあの番組が……」
「あの番組? ああ……」
兄ちゃんが言っているのは深夜に放送する大人向けの番組、兄ちゃんが前の学校の友達から聞いた話では女の人の下着姿とか胸とかが映される事もあるらしいし、お母さん達が観るのを許さない奴だ。
「はいはい。じゃあ、さっさと帰って観る? 僕も眠たいし、写真のチェックをしたら帰ろうよ。ほら。最後に一枚撮るからポーズ」
「おう!」
この屋敷に来てから初めて僕達は手を離し、兄ちゃんが特撮ヒーローのポーズを真似ているのを撮って、これで肝試しは終わりだ。
えっと、一応チェックしないと別の日に撮り直す事になる可能性があるから……あれ?
デジカメの画面に表示される映像に妙な物が写り込んで、なんて事はなく、写っているのは何処にでも生えている様な雑草だらけの森の中の原っぱ。
おかしい。僕は屋敷に入る前に建物をバックに撮ったけれど、それ以外は全部室内で撮った筈。
なのに画像のデータは全部草っ原での物ばかりで、僕は混乱しながら次々にデータを調べて最後の一枚も確かめるけれど全部同じこと。
「兄ちゃん! ここは何か変……」
だから急いで逃げ出そう、そう言う為に顔を上げたら兄ちゃんは居ない。
それだけじゃなく、僕は屋敷の中になんて居なかった。
デジカメに写った画像と同じ草っ原の中、僅かに残った屋敷の残骸に囲まれて一人ぼっちで立っていたんだ。
「うわぁああああああああああああああっ!?」
僕はデジカメを放り出して無我夢中で走り出した。
途中、枝や草で肌を切っても、石に躓いて転んでも必死になって走り続けて、家にまで辿り着くなり部屋に飛び込んで布団を頭から被って……何時の間にか朝になっていた。
「ねえ、聞いた? あの子のお兄さんが失踪したんだって」
あれから数日、僕は兄ちゃんが浴びたかった注目してを浴びながら学校に通っていた。
皆、遠巻きに眺めてヒソヒソと好き勝手なことを言うばかりで話し掛けて来ないけれど。
兄ちゃんが居なくなってから僕は話したんだ、屋敷について。
「森の中の屋敷? そんなの何年も前に雷による火事で崩れ落ちたぞ」
結局、僕は夢を見たか嘘をついているのかって事になって、兄ちゃんは家出をしたとして警察に任せる事になった。
僕達に幽霊屋敷について教えた奴を探したけれど見付からなくって、だったら図書委員の彼女なら何か知ってるんじゃないかって手掛かりを求めたんだけれど不登校になって来ていない。
転校したばかりで兄ちゃんまでいなくなって、誰も僕に関わりたがらないから住所だって調べられなくって、僕に出来るのは兄ちゃんが帰って来るのを願うだけ。
せめて神様を頼ろう、幽霊が居るなら神様だって居る筈だ、そんな風に神社やお寺に通っていただくある日、声を掛けられた。
「あのね。あの日の事なんだけれど……」
声を掛けて来たのは探していた図書委員の女子生徒。
何かに怯えている様子で、それでも兄ちゃんを探す僕について知ったから黙っていられなくなって会いに来てくれたんだって。
「あの日なんだけれど、私が見たのは……」
「うわっ!?」
突然強い風が吹いて僕は思わず目を閉じて、開けたらあの子は消えていた。
……あれから早数十年、警察官になった私は兄の手掛かりを求めてオカルトにも調査の手を伸ばすも手掛かりは見つからない。
だが、諦めはしない。必ず兄を探し出して……。
折角見逃してあげたのに、あの子は馬鹿だったなあ
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