三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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流れツイた物 ⑧

「うげぇっ!」

 

 幽霊屋敷、その名前を聞いた瞬間に小姫が出した心底嫌そうな声に俺は思わず視線を向けるんだが、どんな妖魔なのかをお玉達から教わっている俺も気持ちも分かる。

 裏飯さんだって資料を手にしながら嫌そうな顔をしているし、周りの反応にキョトンとしてるからルサルカさんだけは知らないんだろう。

 

「……悪いね。でも、皆も気持ちは分かるだろう? 幽霊屋敷が出た以上は速攻で討伐しないといけないし、心底面倒な敵だからね。いや、私は相手をした事がないんだけれどさ。それにしても……」

 

 思わず声を出したのが恥ずかしかったのか資料で顔を隠しながら呟くが、俺だって思わず声を上げたかったけどな。

 

 何せ資料は二種類、載っている写真の建物も二軒。

 

「こっちの洋館は確か彼奴の家の別荘みたいな物で、こっちは……潰れた旅館か」

 

 どっちも事故があったとかじゃなくて、片や取り壊して新築の計画段階だけどデザインで揉めていて、もう片方は後継者がいないからって潰れて放置されていたのが忍び込んだ馬鹿による火の不始末で、だった筈。

 

「おや、知り合いの持ち物件なのかい? 大和先輩も顔が広いね」

 

「中学の時から八雲とつるんで俺と関わる奴なんだ。オカルト要素のある小説まで書いてるんだが、ちょっと面倒だな」

 

「自分の家が所有している土地に取り壊した筈の建物が在るんだし、そっちに興味がある人間が噂を知れば見に行くだろうね。……って、よく見たら橋本さん家の所有物件だった奴か」

 

 多分早い内にどうにかしておかないとオカ研の最初の調査に行く事になるだろうな。

 土地も建物も自分の所の持ち物だし、不法侵入だの下手すれば時間も考えずに済むとかで、下手すれば中で合宿するとか言い出すぞ、あの馬鹿。

 

「心配だね。本来なら見捨てる所だけれど……」

 

「ああ、引率もいないのに年頃の男女が宿泊とか問題だからな」

 

「いや、そうなんだけれど、今はちょっと違うだろう?」

 

 

 俺が知っている限りじゃ発生事態は希少な存在で、相手をしたくはないけれど相手をする機会事態が滅多にある訳じゃないんだが……。

 

 

「これが雨虎の影響か……。滅多に起きない事態は低確率なら起きるから遭遇する奴が出るのは仕方無いんだが、それが同時に起きちょっと勘弁して欲しいl。

 

「それでどうするんだい? ぶっちゃけ、おじさんは一度戦った身としては勘弁して欲しい相手なんだけれど、そうは言えない状況だもんねぇ。増援とか期待出来ない?」

 

 実家の方から助けは呼べないのか、そんな風に言いたそうな裏飯さん。

 俺も話に聞いた時点で出来るなら相手をする機会が来なけりゃ良いって思っていたんだが、この反応からして想像以上に厄介なんだな。

 

「無理……かな? 確かに実家には保護の名目で吸収した退魔士が所属しているけれど、それでも人手不足だ。わざわざ私に増援なんて送ってくれないさ」

 

「格差の拡大に世界情勢の悪化、病の流行。今も昔も大変だけれど、おじさんが君達と同じ歳には此処迄酷くはなかったよ。この分じゃ二十年後はどうなるのやら」

 

 その懸念は俺も持っている。だって、二十年前から情報伝達技術はどれだけ進化した?

 その点に詳しくないから答えられないけれど、多分凄く進歩したんだろう。

 

「だからこそです!」

 

 ガクリと肩を落として深く溜め息を吐き出したのに合わせる様にルサルカさんが立ち上がって、俺達はその声に引っ張られ彼女の方に視線を向けるんだが、何を言い出すか分かるかだけに心配なんだよな。

 

「だからこそって、妖魔の存在遠公知の物にするって事かい? お嬢ちゃん」

 

 まさかそんな訳はないよね? とでも言いたそうな裏飯さんだが、そのまさかなんだよな。

 

「はい! そもそも妖魔への対策への人手が不足しているのか。それは妖魔の存在を秘匿しているからでしょう」

 

「あー、はいはい。そりゃ実在を知ってれば刃物持った不審者と同じ扱いだし、一般人も警戒する上に交番やら地区の掲示板で警告出来る。()()()()おじさんも賛成かな」

 

 その点は、明らかにその部分だけ強調して語る裏飯さんが一瞬だけ見せた渋い顔。

 

 彼が言った通り、妖魔の存在が秘密にされているからこその弊害は俺も否定はしないし、もう少し公に活動したいなって思う事はあるんだが……いや、高校生の俺が危険な化物と戦うとかどう考えても非難の的だし母さん達がマジギレする案件だわ。

 

「そうでしょう! 私も幼い頃からそう思って動画をネットに流しているんです!」

 

 あー、何か嬉しそうな顔だな、ルサルカさん。

 裏飯さんが賛同したみたいな事を言った途端に嬉しそうにグイグイと来ているし、俺からは何も言えそうにない。

 

 だって、裏飯さんの表情って一見すれば笑顔に見えるんだけれど、浮かべているのは賛同じゃなくて同情だ。

 

 

 

「君はどうやら周囲に恵まれたみたいだね」

 

 この時、彼の声には何処か羨む様な感情が籠められていて、ルサルカさんには相変わらず通じちゃいない。

 妖魔の存在の秘匿が常識の世界じゃ彼女の考えが異端なのは分かるし、三馬鹿娘みたいに実在を知らずに心霊スポットやらの妖魔の住処に突撃かます連中を知っている身からすれば否定は出来ないんだが、それは似たり寄ったりの考えの奴だってそれなりに多いとは思う。

 

 そして、どう考えても最終的に賛同されない理由だって分かる。

 

「はい!」

 

 でも、ルサルカさんにはそれが分かっちゃいないらしい。

 言葉に籠められた真意にも気が付いた様子も無しに素直に喜んでいるみたいだし、裏飯さんにしせんを向けたら同じく視線で助けを求められたから、これは相当迷ってるな。

 

「でも、ちょっと世間を知らない。今の社会だと厳しいんだよねぇ」

 

 多分それは年長者としての優しさだ。

 俺でさえ直ぐに思い当たった彼女の理想の問題点、それが本人に分からないのは頭の回転とかではなくて、妖精使いとしての育ち方からだろう。

 

 問題だらけでも理想は理想、それを真っ向から叩き伏せるのは気が咎めるのか言いにくそうにしていた裏飯さんはルサルカさんじゃなく、自分自身を嗤う様に呟く。

 今まで通りに遠回しに伝えるんじゃなく、残り一歩まで踏み込んだ言葉は流石にルサルカさんにも通じたのか喜色が薄れて代わりに浮かんだのは困惑だ。

 

 何っつーか、これが大人と俺達未成年の違いだって見せ付けられた気分だな。

 

「え? それは一体どういう……」

 

「世の中、正論ばかりじゃないって事さ。さてと、こうしてる間も犠牲者が出る可能性があるんだし、さっさと話を進めようじゃないの」

 

 話は此処で終わりと言いたそうな裏飯さんに賛同する様に電話が鳴る。

 このタイミングでの連絡、少し嫌な予感がして、大抵その場合は当たっているもんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 零課所有の車で現場まで向かう最中、話題に出たのは先程の電話での連絡内容について、予想通りに緊急性の高い内容だ。

 

 幽霊屋敷に人が入って行った、その連絡は俺達を速急に動かした。

 こんな場合、小姫は放置して準備を優先させるべきだって言い出しそうだが、今回ばかりは事情が事情。

 幽霊屋敷討伐の為に準備をする暇もなく車に乗り込んだのが現状だが……。

 

 

「……小姫とは別の車か」

 

 大型の車がラブホに停まっていても目立つ(派遣型のアレな店の送迎車っぽいかららしい)し、普通車で向かうからと、此処でグループ分けをどうするかが問題になった俺と一緒の車に乗っているのは裏飯さん、運転するのは倉持さんだった。

 

「いやいや、女の子と一緒が良かったんだろうけれど悪いね。幽霊屋敷について確認事項もあるし、ハイドリヒちゃんと君のどっちかとは一緒になりたかったんだけれどさ……」

 

「そりゃ駄目ですよね」

 

 ちょっと不味かったかな? そんな風に苦笑しているけれど、俺は別に良かったとは思う。

 問題は通じてるかどうかだけれど、理想を持って動いていて、その動機が理解可能な内容なら普通は否定とかし辛い物だとも。

 

 

 まあ! 動画とか全然伸びてねぇし、ククルルさんに余計な仕事増やしているだけで具体的な成果も被害も有る訳じゃないんだが。

 否定し辛い理由って其処もあるよな。

 

「小言っぽいの言っちゃったばかりだもん。若い子にお説教とか慣れない事はするもんじゃないいね、マジで」

 

「でも必要だったとは思いますよ? 通じていたかは別ですけれど」

 

「だよねえ。あの子の年齢じゃ感情のコントロールよりも悪感情を抱く感情から遠ざけるのを優先させられる筈だしさ」

 

 俺は八雲くらいにしか小言言わないから分からないんだが、会ったばかりの相手に説教とか確かに後で気まずそうだ。

 

「俺も大学時代にサークルの後輩に飲み会で生活態度を注意したんだけれど、酒が抜けた後で話し掛けるのがちょっと抵抗あったっけ」

 

 うん、この話題は此処で終えた方が良いな。

 世の中には触れちゃ駄目だ。

 

 だから俺は今のちょっとむさ苦しい……もとい男だらけの車内で戦いに備える事にした。

 

 

「しかし発見してからそんなに経ってませんよね? 倉持さん、発生してかr(ら)」

 

「警察官が幽霊屋敷に侵入とかどうなってるんだろうね? 随分と鬼気迫る感じだったらしいけれど……」

 

 裏飯さんが首を傾げるのも当然の話で、幽霊屋敷の出現を察知して直ぐ、協力体制を取っている部署の人達が監視作業に入ってくれていたんだが、一般人を遠ざける為のその監視に引っ掛かったのが何故か地域のお巡りさんだって話だ。

 

 制服姿で如何にもパトロールの最中の彼に見覚えがあった人が何かしらの理由を付けて追い返そうとしたんだが、幽霊屋敷を目にした途端に声を掛けられたのにも気が付かない様子で中に突入したとかだが、どうも普通じゃないよな?

 

「オカルトマニア、って訳じゃないんですよね?」

 

 幸いにも公務員で身元も割れているから顔見知りの話も幾つか資料として渡されたのを見ているんだが、逆に心霊スポットに近付く連中を追い返したり、その手の話を嫌っている様に見えたとあるし、それが端から見て鬼気迫る様子で建物に突っ込んで行くか?

 

「前に補導され掛けたんですが、見えないけれど気配は感じている様子で、それが何か分からなくても危険な存在だとは認識していましたけれど……」

 

「地域の人からも署内からも評判は良い真面目なお巡りさんって評価だしね。……所で経験有るけれど、君みたいな子が補導って何やったの? おじさんは年齢偽って特殊な風呂屋に行ったら近所のお姉さんが相手でバレちゃって危うく警察呼ばれる所だったよ」

 

「いや、随分とヤンチャしてますね。何をやってるんですか……」

 

 ナニもヤれなかったんだろうけれど、随分とはっちゃけたエピソードは目の前の裏飯さんからは想像も……いや、そもそも初対面の相手だわ。

 薄いにも程がある付き合いでくたびれた真面目そうな中年って表面だけしか読み取れてねえだろう、馬鹿か。

 

「若い頃は無謀と勇気を混同するものさ。倉持さんだって何か若気の至りとかないかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一応聞いておきたいんだけれど、君は幽霊屋敷についてどの程度知っているんだい? 勿論一般的な意味じゃない方で」

 

「どんな妖魔なのかは知っているんですけれど、この周辺で取り壊されたのは最近でしたから見た事さえ無いです」

 

 幽霊屋敷といえば心霊スポットとかの幽霊が住み着いた場所のイメージだが、今回は妖魔の個体名の事なんだ。

 幽霊の屋敷じゃなく、屋敷の幽霊、但し実際は幽霊なんて存在しないから幽霊擬き。

 

「まあ、おじさんも一度しか相手をした事が無いんだけれど面倒な相手だったし、人海戦術でさっさと潰すに限る相手だよ」

 

 肩を竦めながら心底嫌そうに語る裏飯さんだが、話を聞いた限りじゃそれが正解だ。

 

 幽霊屋敷が出現するのは普段は人の目に付かない場所に存在する廃屋、その中でも心霊スポットになっている物……の跡地だ。

 

 肝試しに心霊スポットに行ったけれど何も起きず、帰ってから建物は既に解体されているってオチの話から発生した妖魔らしいんだが、その階級はバラバラ。

 今回は中位未満下位以上の其処だけ聞けば俺以外なら難なく倒せる相手、但し手間が非常に掛かる。

 

「核を破壊しないと倒せないんですよね?」

 

「そうそう、外から核を狙っても攻撃が擦り抜ける上に内部も霊力で満ちてるから探知が難しいんだけれど、肝心の核は脆いからね」

 

 虎穴に入らずんばって程じゃないのは楽なんだけれどもね、と裏飯さんは笑って告げる。

 何でも隠蔽工作をしてくれる公的な補助があれば簡単に取れる方法があるらしい。

 

 それでも、面倒くさいらしいが。

 

 そんな相手なのに嫌そうなのは核が逃げ隠れする上に内部に居る間は霊力を徐々に吸い取られ続けるなんて特性のせいだろう。

 

 

「その上、内部を破壊し過ぎれば逃げて行くんですよね? ……面倒な奴」

 

 例えるなら心霊スポットにスリルを求めて来た奴を招いて食べる食虫植物みたいな相手って事か。

 ああ、確かに相手したくねえな、手間が掛かる。

 

「現場で相手をする側からしたら階級を一つ高くして報酬も上乗せして欲しいんだけれどねぇ」

 

「……ちょっと支部で決めるのは無理です」

 

「おっと、冗談だよ。じゃあ、お詫びに面白い話をしよう。竜宮城って知ってるだろう? あの出て来たら数百年経っていたって奴」

 

 

 あれも幽霊屋敷だろうって噂だよ、と冗談っぽく言った所で車は目的地の前で停まった。




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