三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
俺の退魔士としての師匠はお玉とドロシーだが、蓙学分野においては専らお玉が担当してくれていた。
実戦に勝る経験無し、そんな共通する意見を述べる二人の内でどうして片方だけなのかと言えば、武家の娘と王家の娘、同じく姫様と呼ばれていた身分でも立場と所が変わったせいもあってか人間の時からの経験が違うんだとさ。
「……にも関わらず妖魔としての力は互角なのが気に食わぬ。理解しかねるな。ああ、そうだ。理解出来ないというのが、知らぬという事が、どれ程に厄介な事なのかというのを覚えておけ」
近接戦闘ではお玉に軍配が上がるのは近接戦闘に持ち込ませない為の術やら何やら、要するに単純な力だけで相手を判断するなって事なんだろう。
敵を知り己を知れば何とやら、科学やら常識的な観点が通じないのが妖魔だからそりゃそうだ。
今、目の前に存在するのは一見すれば普通の建物、俺の稚拙な霊力関知じゃ妖魔が住み着いている建物と同じ風にしか感じない。
でも、妖魔なんだよな?
試しにとばかりに外壁に触れてみても、内部に入った場合と違って霊力が吸われる感覚も無い、いたって普通の洋館だ。
窓の内側は分厚いカーテンが閉まっていて内部は見えないが、今みたいに暗くなった時間帯に誰かが中を歩いていたらライトの光が漏れて見えるもんだが……。
数歩下がって上から下まで観察するが、どう見ても普通の心霊スポット。
動画サイトで見掛ける化物から逃げながら謎を解く系のゲームの舞台になりそうだ、そんな浅い感想しか出ない俺が情けないので、此処は経験豊富で幽霊屋敷についても詳しい二人の意見が欲しいと思ったら、丁度良い事に話を始めた所だ。
「本当に面倒だよね。放火や爆破で外から倒すのが一番楽だって習ったよ。霊力吸われながら探索するよりも瓦礫を吹っ飛ばしながら核を探す方が結局は一番手っ取り早いって」
「分かる分かる。おじさんも単独で相手する機会があって、外から一斉攻撃して倒そうとしたよ」
核を逃さない様に包囲網を敷いて、と言いながら頷く裏飯さんだけど、その表情は直ぐに嫌な事を思い出したって感じになって、ヒソヒソと話す様なポーズを取ったんだが、その様子に倉持さんも何か思い当たったって感じで嫌そうだった。
「準備整えてさっさと発破掛けて終わらせてソー……風呂にでも行こうと思っていたら人が入ったって連絡入ってさ」
「別に良くない? 一人で相手するなら発破一択だろう?」
「誘き寄せられて中に入ったのが地方議員のドラ息子だって判明したせいで突入する羽目になっちゃってさ。……本当に疲れたのを思い出す」
「公的な相手からの依頼じゃそうなるんだよね。普段は多少の犠牲は……おっと、汚い話はこの辺にしておこうか」
普通なら中に入ってからあれやこれやって作戦を立てるって思いそうだが、二人は普通に外からの力業を推奨だが、そりゃそうだ。罠だと分かっていて飛び込むのは馬鹿だろうな。
二人の会話に出て来た通り、幽霊屋敷を倒すのに一番楽なのは外からの破壊であり、手段を用意出来さえすれば一方的に終わるからこそ厄介な能力を持っているにも関わらず階級やら危険度が低く設定されているとか。
幽霊が出る屋敷、その土地に溜まった怪談への恐怖、そして実際に何かが出て誰かが犠牲になれば盛り上がれるという無意識下の悪意、それが屋敷という分散先を失った土地に幽霊屋敷を呼び寄せる。
本体が土地に残る建物の記憶を再現、内部を領域へと変えて獲物を閉じ込めるんだが、内部は空間も時間も外とは別で、幾つかの条件を満たさない場合は幽霊屋敷自体が解放しない限りは出られない。
それはそうとマジで大変だな、退魔士。
それはそうだと思ってしまえば其処までなんだが、人助けよりも妖魔の討伐が優先だってスタンスが普通でも時と場合に依っては変わる。
それが個人の裁量だったら良いんだが、巻き込まれた相手の立場に影響されて危険を背負う時もあるんだからな。
俺は下位の相手ばかりだったが、地域に依ってはその手の仕事をやらされていたのかもな。
「入り込んだお巡りさんって出てくると思います?」
「無理。だって私達がこうしてやって来たし、入り込んで来たのを逃したら見逃されるとかは思わないさ」
「解放されるのって悪い言い方をすれば撒き餌になりそうなのらしいよ。心霊スポットとかに周囲を巻き込んで向かうタイプ。適当にちょっとビビらせるけれど結局は帰れて、恐怖が和らいで人数連れて来たら閉じ込めるってパターンさ」
「観察眼が優れているのさ、意外な事にね」
一縷の望みに託して問いかけるけれど無意味な希望は与えてくれはしないって事か。
じゃあ、入った人が条件を満たして出て来るのを待つって手もあるんだが、今現在出て来ない時点で……。
「皆さん、今この時にも危ない目に遇っている人がいるんですよ!? 今直ぐにでも向かいましょう!」
あっ、流石にルサルカさんが我慢の限界になったか。
スタンスの違いが大きいんだろうが、二人が呑気に会話をしていて、しかも内容が内容なだけに随分と苛立った様子だった。
正直、この反応は間違っていない。老若男女や貴賤と命の価値は無関係。
だから誰でも助けるべきだってのはな。
だが、同時に小姫達が間違いなのかって訊ねられたら、俺は否と答えるだろう。
「おいおい、今の会話で怒ったのかい? そりゃ取り壊した筈の屋敷があったら関係者が入ったりはするんだろうけれど、十中八九は肝試しの不法侵入、お望み通りに何かが起きた。それで?」
「それでって……」
「自分から危険に突っ込む馬鹿の為に危険を犯す理由が分からないよ、私にはね。救助隊だってどんな状況でも救助を実行しないし、政治家と一般人がいる場所じゃ警察だって前者を優先するんだ。非難される理由は無い」
苛立ちながら急かす彼女に呆れた様な眼差しを向ける小姫の声色は平然としていて、それが逆にルサルカさんをたじろかせているんだろう。
俺はその意見に反対する気にはならなかったけれども。
そう、ルサルカさんに賛同すると同時に小姫達の意見も納得が行く自分がいる。
危ない目に遭っている人がいれば助けたいって気持ちは分かるが、同時に誰にでもそうすべきだって口に出来ないのも俺だ。
理想と現実、自己責任論、そもそも異常な存在を相手にするってのが正常な状況ではないし、だからって失ってはいけない物もある
これは今まで俺が気にせずに済んでいた事で、今後は自他や他者同士を天秤に掛けて行動を決める時が来るんだろうが、俺はその時に後悔しないのか?
「そ、それでも助けられる命が目の前にあるのなら助けるのが力を持つ人の役目で……」
「そして無茶を続けた結果、もっと大きな事件で力が出せないと。自業自得な十人の為に落ち度の無い百人を死なせる方が駄目じゃないかい?」
この二人の会話に大人達は割って入ろうとはしない。
裏飯さんは大人としてワカモノ達で意見をぶつけ合うべきだってスタンスらしく両方の意見に否定的な表情は見せず、倉持さん達も自分達は直接動かないからと普段通りの沈痛な面持ちで見守るだけ。
俺も取捨選択の機会らしい機会は最近あったばかりで信念らしい信念もないんだ、何か言う資格は無いと思っている。
ただ、妖精達もルサルカさんの感情に引っ張られてザワザワし始めたし、味方同士で怪我をさせ合うなんて本末転倒になる前には止めるか。
この時の俺達は完全に油断してしまっていた。幽霊屋敷は食虫植物みたいに獲物を待つタイプで、近寄った獲物に襲い掛かるなんて記録には残っていない。
獲物だって長い間生かさず殺さず延命させながらジワジワと霊力を奪うだけで、逃げられる事以外に緊急性は低かった。
だからだろう、扉が勢い良く開いて中から赤い絨毯が伸びて来たのに瞬時に反応が出来なかったのは。
「へ?」
長く細い絨毯は蛙が舌で虫を捕らえる時みたいにルサルカさんの腕に絡み付き、抵抗するよりも前に引っ張って足を地面から離れさせる。
って、やべぇ!?
この時、俺が動けたのは話でしか知らなかったからだろう。直接にしろ間接にしろ幽霊屋敷の討伐に関わっていたからこそ本来なら有り得ない行動に反応が遅れた二人と違い、咄嗟に動けたのは困惑が僅かに少なかっただけ。
まあ、咄嗟に腕を掴んだ俺とは違って二人は小太刀やら御札を取り出して絨毯に攻撃を加えようとした辺り、不恰好な体勢で掴んだ結果が一緒に引っ張り込まれそうな俺とは経験の違いを見せられているんだが。
俺の抵抗が僅かに時間稼ぎになったのか小姫が振るう小太刀が絨毯を切り裂く……その寸前に屋敷から甲高い叫び声が鳴り響いた。
『ウァォオオオオオオオッ!!』
ガラスや黒板を爪で引っ掻く音に似た耳障りな声、それでも妖魔の相手をするならこの程度では怯むものかとばかりに止まらない彼女の刃が絨毯を半分まで切り裂いた瞬間、二階の窓ガラスが内側から割れて破片が地面へと、いや、小姫と裏飯さんへと降り注いだ。
今まさに障害になりうるのだと二人を評価と認識の対象にしての牽制、それは彼女の動きを一瞬だけ鈍らせて、その一瞬で俺とルサルカさんは屋敷の中へと引っ張り込まれる。
「手をっ!」
ガラスを打ち払いながら伸ばした小姫の手は俺の手に触れるけれど互いに握るよりも前に離れ、扉より内側には一筋の光も存在しない闇の中に入り込んだ俺の目の前で無情に外と闇との繋がりが音を立てて閉じてしまう。
そして闇の中で感じるのは引っ張られ続ける浮遊感、前に向かって落ちていく奇妙な感覚は屋敷の面積から考えて有り得ない程、体感からして三分以上続いた所で急に消え、俺達二人は急に薄ぼんやりと見え始めた床に向かって投げ出された。
「あっ……」
僅か、ほんの僅かだ。半秒にも満たない出遅れがこの事態を招いたのだと奥歯を噛み締める。
長い歴史を持つ伊弉諾家の書庫に納められた妖魔の資料、その中には幽霊屋敷についての記述も当然存在する。
数行程度に収まる短い報告でも記述され、徹底的に対策が取られていたからこそ長い長い戦いが続いている。
無知とは恐れ、未知とは脅威、故に眉唾物の情報であっても、徹底的に精査し、対策の糧にして来た。
だけど、あんな風に強引に中に連れ込むなんて平安時代から一切記述に存在しない。
精々が他の妖魔に獲物を騙くらかさせて誘い込む程度だった……筈なのに。
「不味いね、これは……」
数百年、いや、千年単位で前例が存在しない事に頬にを冷や汗が伝うのを感じた。
……いや、本当にこれってピンチとかそんなレベルの話じゃないよね!?
いやいやいやいやっ!? マジで本当にどうしたらいいんだい!?
手に触れた瞬間に霊力は少しは貰ったけれど幽霊屋敷の中を探索するには心許無い。
だって本来とは違う動きをするんだし、強さとか、その辺が想定通りなはずがないじゃないか!?
これじゃあ私の成り上がりとか、散々利用するって名言したのに受け入れてくれた彼への義理立てとか洒落にならないからね!?
見捨てるのは論外で、突入は共倒れの自殺行為、論外以前の問題だ。
危険な状態に足手まといが行ってどうするんだ。RPGでパーティ枠を圧迫する邪魔なだけの強制参加の雑魚NPCかい!?
あっ、冷静にものを考えられないし、これって本当にヤバいよね!?
「彼の霊力なら余裕はあるけれど……」
出力はお粗末でも圧倒的な霊力量の大和先輩なら早々危ないって事態には陥らないだろうけれど、問題は頭お花畑の妖精使いと一緒って事だ。
世間知らずで純情にも程があるからキスを通り越して更に先までって可能性は低いと考えているけれど、状況が状況だけにハグ程度は有り得るんだよなあ。
それで吊り橋効果とかなったら私が彼を射止めるのに大いに邪魔だよ!
惚れられているってアドバンテージだって出会ってからの期間がそんなに変わらないんじゃ直ぐにでも追い抜かれそうだって位には退魔士の名門一族は面倒臭いんだよ!?
ぶっちゃけ私ならごめん被るし、だって私の実家程じゃないにしても彼の家だってお金持ちだし……。
「じゃあ、お嬢ちゃんは核が飛び出したら倒す役目って事で」
普通に心配なのと予想外の事態と私欲が混ざり私の思考が乱れる中、何か普通に裏飯さんは扉を開いて中に入ろうとしていた。
「いや、思いきりが良いにも程があるだろう!?」
「誰か貧乏くじを引くべきって状況だし、おじさんに任せておきなよ。それにこの任務が終わったら元カノが兄貴と結婚するから祝いの品を選びに行く予定でさ。直ぐに帰りたいんだよ、正直言って。……おっと、忘れてた」
私の言葉に足を止めた彼は胸ポケットに手を入れて、直ぐに残念そうに首を左右に振った。
「そういえば禁煙したんだった。まあ、ちょっと様子を見るだけだし、さっさと少年達を見付けて戻るよ。その時には既に幽霊屋敷を倒しているだろうし、別に構わないだろう?」
フラグが立つかも知れないからね!
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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