三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
どんな状況であっても生きているだけで儲けもの、死んだ方が幸せな運命、まあ、考え方や感じる物、それらには違いって物が出るのが人間……いや、生きている奴なら違いが出るものさ。
例えば有名な殺人鬼切り裂きジャックの時代じゃ貧困からの捨て子や娼婦が大勢いたらしいけれど、子供を捨てたり体を売る事よりも生きていく事を選ぶか選ばないかの選択肢で同じ方ばかりが選ばれた訳じゃないだろう?
幸福不幸、その状況をどう感じるかは本人次第、他人がとやかく言うべき事じゃない……とも言い切れない事だってある。
ほら、どう考えても不幸になる選択肢を選んでる相手には注意したいけれど、当人はこれが自分の幸せだって言い張るパターンとか。
おじさんも可愛い姪っ子が駄目男と交際して結婚までしようってんなら絶対に反対するからさ。
因みに最近で一番死にたいって思ったのは、外出先で入る店が他にないからってメイド喫茶に入ったら姪っ子しか手が空いている店員がいなかった事かなあ。
昨夜からの仕事が終わったのがお昼過ぎ前、零課絡まない案件で送り迎え無かったし、空腹な上に大小合わせて漏れそうだからって入った店で身内に会うとか呪いの類なの?
「お帰りなさいませ、ご主……」
「他に店がなくてね。……トイレ何処だい?」
互いに笑顔が引き攣ったけれど、本当に気まずかったよ、本当に。
ケチケチせずにタクシーでも使えば良かったよ。それか腹痛と喉の乾きと空腹程度我慢すればね。
てか、他にバイト先なかったの? いや、メイド喫茶を差別する気は無いけれどさ……。
「嫌な事を思う出させる敵だねぇ」
『お客っ……』
フォークを握って飛び掛かって来たメイドの化け物に投げた札が張り付けば次の瞬間には真っ赤に染まって爆散、周囲のメイドと一緒に消え去ったけれど、その肉体を構成する負の念は消えずに周囲に取り込まれて行くだけ。
「元から一分か……」
上下関係を構築した妖魔を幽霊屋敷が体内で飼っているのかと思ったけれど、戦う前から何か妙だと勘付いて、戦えば何となく分かって倒せば確信だ。
出来れば外れて欲しいけれど、幽霊屋敷とメイド達は共生とか腸内細菌とかじゃなくて白血球とかの完全に体の一部の類いだろう。
三流が一見した程度じゃ分からないだろうけれど、つまりは材料費は消耗せずに、それを除いた製作費用だけで下位の少し強い奴を作り出せるって事で……。
「こりゃ若者二人を発見次第即座に退却、お巡りさん白血球犠牲になって貰うしかないか」
自分を囲むメイド達にトラウマを刺激されつつも一歩踏み出せば四方八方から飛んで来るのはフォークやナイフに加えてシルバートレイ。
札を翳せば周囲を光の壁が覆って全部防いでくれはする。
でも、倒せど倒せどキリが無い奴を相手するのも霊力と時間の無駄だよねえ。
特に幽霊屋敷の内部ならさ。
こうしている間にも霊力が徐々に吸い取られているんだし、さっさと若者二人を探しだして出て行きたいもんだ。
周囲から一斉に殺到するメイド達だけど連携なんか全く出来ていないからぶつかり合って互いに動きの邪魔をしている所を一足飛びに飛び越して、そのままの勢いで正面の扉を蹴り破れば一キロ先まで続いていそうな長い廊下。
左右に壊れて誰の物なのか分からない胸像が並んで……あれ?
「何でパンダの像だけ無事なのさ? 妙に綺麗だし……。まあ、妖魔の考える事なんか分かる筈もないか」
考えても無駄とばかりに後ろに向かって札を投げれば追い掛けて来たメイド達の前に現れる光の壁、攻撃を防いだり幽霊屋敷に込めた霊力を吸い取っているから持って数分以内? つまり霊力で強化した足なら中年男性でも十分だって事だね。
遥か先の扉が何処に繋がっているかは不明、なんなら今さっき通った扉を再び開けば別に場所に繋がってさえ。
「つくずくおじさんが知っている幽霊屋敷とは別物だけれど、どうなってるのさ? 君は」
どうせ答えは帰って来ないだろう質問を天井に向かってするけれど、まあ、結果はお察しだ。
肩を竦めて扉まで一気に進んで……その途中で動きを止める。
あっ、急ブレーキの反動で腰にダメージが。
「あらら~。坊や、一体何時の間に入り込んだんだい?」
足を止めた理由はパンダ像の台座の横で座り込んでいる子供、多分小学生高学年位?
最近口臭が気になっているから少しだけ距離を開けつつしゃがんで話し掛ければ少年の着ている服がよく見えたんだけれども、怯えている様子も無いな、関心関心。
いやいや、肝試しに来た先で妖魔に襲われた結果、怯えてしまって救助に差し障るとかマジ勘弁だしさ。
「おっさん、誰だよ? 警察じゃないよな?」
「おじさんは不動産……この建物を管理している会社の人さ」
妖魔には見えないし、取り込まれた子だろう。つまり要救助者が増えたって事かぁ。
疑わしそうな目を向ける少年に取り敢えず無難な立場を偽れば直ぐに信じて驚き顔だ。
「本当かよ!? おっさん、こんな変な場所で仕事とか馬鹿なのかよ」
「そんな場所に入り込んだのは君でしょうに。おじさん、暴力は嫌いだから手を出さないけれど、人によっては殴られてるよ?」
この子、元気なのは良いけれどちょっと悪ガキっぽいかな?
おじさんもこの子と同じ頃には大人に生意気な態度を取っていた記憶はないけれど、これから礼儀を知っていけば良いんだから今は小言を切り上げようか。
「じゃあ、此処から先はおじさんと行動しよう。変なのがいるみたいだしね」
おじさんは割と現実主義の退魔士だから命の取捨選択だってして来た身だ。
何処にいるのか分からない馬鹿が好奇心の末に危ない目に遭ってるのを救う為、貴重な退魔士の素質持ちが向かうのは本末転倒だし、死ぬのを選ぶなら前者だと断言するけれど……。
「お、俺は良いから弟を探してよ。透って名前のチビなんだけれど逸れちゃったんだ。俺が無理に連れて来たから、助けるならあっちを優先してくれ。俺は兄ちゃんだから我慢出来る!」
目の前にいるこーんな子供を見捨てるってのは駄目だよねえ。
差し伸べた手に対して迷いながらも首を横に振って弟を優先する姿に思わず嬉しくなった時、少年はポケットから出したカードを手に乗せた。
「これ、俺の宝物だけれどおっさんにやるよ。だから透の奴を見付けてくれよ」
確かこれはスナック菓子のオマケだったっけ?
おじさんはアニメ派だったけれど、兄貴は特撮が好きだからヒーローや怪人のカードには興味が無かったけれど、このヒーローは知ってるよ。
「仮面ランタン二号じゃないの。レアでしょ、これ」
ハロウィンのカボチャみたいな仮面のヒーローのカードの裏を見れば『明』って書いてるし、プレミア付いてても高くは売れそうにないね、こりゃ。
「三ヶ月間の小遣い全部注ぎ込んで漸く当てたんだ」
「そっか。じゃあ、君と弟の二人共助けないと貰い過ぎになるね、これじゃあ」
新品同然な既に販売終了されたカードをポケットに入れて、明君と手を繋ぎながら溜め息を押し殺した。
参ったなあ。若人二人よりも先に核を見つけて倒さないといけないじゃないのさ。
それにしても……この子は外に出ずに死んだ方が幸せだなんて世知辛いよ、嫌になるね。
「だからこそ大人は色々と背負う必要があるんだけれど……」
いやいや、世の中は希望で溢れていると信じていた子供時代に戻り……いや、割と子供の頃から分かってたね、おじさんの場合。
「……うん?」
遠くから何かが聞こえて来る。これは……子供の鼻歌?
私達の周囲に現れた無数の絵画、全部同じ人が描かれているんだけれど、どうして日本人じゃないの?
此処って元々日本人が住んでいた筈だけれど……。
「最近増えたホラー系の謎解きゲームの影響かな?」
ホラー系動画投稿者としては他の方の動画のチェックは欠かさない私だけれど、個人的に好きなのはゲームを題材にした物。
怪物から逃げつつ鍵を集めて時に怪物に立ち向かう、たまに自分でも遊んでみますけれど動画の演出の参考にもなるもん
……最近はパクり動画だと言われてるけれど。おのれ、オカルト解明系動画投稿者。
「余裕だな、あんた」
「だって何かしたくても出来ないし……」
はい、開き直ってるよ。
動く絵画達は上半身だけを外に出して霊力の弾を放ち、大和さんは何故か指で弾き飛ばした空気に霊力を混ぜて迎撃しているけれど、片手で私を抱えているので全て弾き落とすだけで精一杯。
そう、私はぶっちゃけ邪魔にしかなってないし、振り回されて酔う一歩手前。
うっぷっ! 吐きそう。
背中側に顔を向けているから良いけれど、この状況が続けば絶対に吐いちゃうよ。
足手纏いなのにゲロ吐いちゃうとか乙女としてかなりのダメージだし、口元を両手で押さえて耐える。
妖精さえ! 妖精さえ直ぐ側にいたら!
「ダメージ覚悟で突っ込んで一体ずつ倒すか? いや、しかしだな……」
分かっている、それを選べないのは自分の強化も出来ない私を担いでいるからだよね。
少し焦った様子の声に私は何も言えないでいた。
私なんて気にしないでほしいと言うのは簡単だけれど、被弾したら確実に怪我をする以上、こんな状況に陥っている人が頷く訳がないので自己満足の自己陶酔、役立たずに耐えられないからそれっぽい事を言ってるだけ。
……打開策は実はある。
私が霊力での自己強化が使えないのは妖精使いとしての特性の影響、皮肉な事に才能溢れる私は自分の霊力を全て妖精の力へと変換可能で、同じ消費量なら妖精達に強化して貰った方が出力も燃費もずっと上……なんだけれど。
変換効率が良すぎて逆に普通の使い方が出来ないんだよね、私って。
「ね、ねえ、ちょっと提あ……」
でも、それをどうにかする秘策が一つ。
秘策って言っても結局は私がどうにかするんじゃなくって、して貰うんだけれどね。
私の霊力が使えないのなら私以外の霊力を使えば良い。
つ、つまり霊力を供給して貰うって事で、あの後で詳しく調べたら最初にパスを繋ぐには……キスをしないと駄目なんだよね!
意識した途端に胸がドキドキし始めたし、手を口に当てていて、自分から初めてを捧げるって言うと思ったら……。
「悪い。ちょっと提案があるんだが」
「ひきゃんっ!?」
え? もしかして大和さんも私と同じ事を!?
急に掛けられts真剣な声に心臓は爆音を奏でて今のも頭がショート寸前。
でも、私から提案するのははしたないから……。
今まで男の子との接点なんて殆ど無かった私が理由あっての事とはいえ交際もしていないのにファーストキスをあげちゃうなんて想像もして来なかった。
拝啓、革新派の仲間達。デートすらした事がない私達でしたが、ルサルカは一歩先に……。
「悪い。投げるぞ!」
リードして、そのまま彼氏……ほへ? 投げ……る?
ポワポワした思考から一転、予想とは違う言葉の意味を理解する為に意識が戻ったのも束の間で、急に視界は上へと向かう。
何が……ほへ?
「へ? ひゃきぁあああああ!?」
次の瞬間、投げられた。真上に向かって投げ飛ばされた。
忽ち迫る天井、思わず目を瞑るけれど天井が迫る圧迫感を覚える中、真下から床を踏み砕いて跳ぶ音が。
恐る恐る視線を下に向ければ私と彼の何方を狙うべきか動く絵画の動きが迷いで鈍って、大和さんは横回転を加えて指を構える。
「貫気貫気貫気貫気ぃ!!」
片手ではなく両手、そして狙いを定められずに生じた動く絵画の遅延、それはこの場では決定的。
咄嗟に放った霊力の弾は霊力を纏った空気の弾を迎撃せんと迫るけれど、彼の方は物量が単純計算で倍なのだから互角だった先程と同じ結果になる筈がない。
撃ち落とし切れない攻撃が絵から飛び出した部分も絵の部分も額縁も撃ち抜き、攻撃を食らって迎撃の手が緩めば更に攻撃を食らって終わり。
先程急に現れた動く絵画は現れた時と同様に急に姿を消して、私は天井ギリギリで止まって……落ちた。
「おっと」
でも、落ちたと思った瞬間には下から迫った大和さんに受け止めて貰って少しも怖くなかったし、今の状態って……。
「お、お姫様抱っこ……」
こ、これはさっき少し期待していた抱き方。
まるで少女漫画みたいで思わず声に出ちゃう。
「おう。直ぐ止める」
「へ?」
そして空中でもそのまま再び肩に担がれて着地、かなりの高さだったのに私には衝撃は殆ど伝わらなかった。
さっきの投げた時もそうだけれど、この人は霊力の出力こそ低いのに体の動かし方と素の能力がかなり高いんだ。
……ちょっと高過ぎとも思うんだけれど。
「一体撃ち漏らした? いや、違うな」
彼の警戒した声、今度は頭の方向が同じだったから視線を向ければ無傷の絵画から上半身を出した男性の顎が外れた様に大きく開いてゴムみたいに大きく伸びる。
その喉の奥には強い霊力を放つ小さな妖魔と、それに結合した紫の球があった。
応援待っています
こりゃ漫画発注するべき?
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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