三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
早朝、未だ日も昇り切っていない時間から俺の一日は始まる。
いや、昨日は妖魔退治で遅くに寝たし、夕方に仮眠は取ったが正直言って眠い。
だが、俺の上に乗ってニタニタ笑っている二人が寝かしてくれないんだよなぁ。
「ちゃんと動け、雑になっているぞ」
「このような朝から余の様な絶世の美女とついでに美女が奉仕をしてやっているのだ。精々励むのだ。成果次第では褒美をくれてやろう」
「ぐぎぎぎぎ……」
上から聞こえるのは満足していないって感じの厳しい声と、楽しんではいるが足りないって感じの少し柔らかい声。
まるっきり正反対の2つの声だが、どっちも俺を追い立てるのは変わらない。
途中で挫けてしまいそうになる俺だが、そうなればどんな罵倒をされるか分かったもんじゃねぇ。限界来るのが早過ぎるとか未熟とか言われりゃ悔しいし、一度やると決めたからにゃやり抜くのが当然だろ?
努力なんてしてて当然なんだよ。
「ほれ、片手逆立ち指立て伏せ残り百回だ」
「この後にランニングも控えているぞ。さっさとこなせよ?」
地面に食い込みそうになる指で体を支えて肘を曲げるのを繰り返し、左右に広げた足の裏には俺の鍛錬を見張る2人の姿。
「ふんっ! 所詮は端役。主役でない者に最強の称号は重過ぎたな。……おのれ、作者め」
右足にはお玉が乗り、俺が未だ読んでいない漫画を先に読んでいる。
おいっ! ネタバレ呟くなっ!
「今日は風が冷たくて心地好い。紅茶も格別になるというものだ」
そしてもう一人、左足の上に一本足の椅子を乗せた状態で優雅に座って紅茶を飲むドレスと大きなリボンが特徴的な金髪の女がドロシー。
普段俺達に色ボケ認識される問題児だが、こうして余裕を見せている姿は育ちの良さを感じさせる。
だが、椅子はグラッグラ揺れて紅茶が俺に飛び散ってるからな?
バランス取るの大変なんだからせめてティータイムは後にしろ、後に!
「……これでラスト一回!」
指先だけで全体重と二人を支えながらの片手逆立ち腕立て伏せを規定回数終わらせるが、大変なのはここからだ。
片手、となっている以上は地面に着いていても良いのは五本の指だけ、つまりは腕を交換する際は次に支える側の手が地面に触れる寸前に今支えている方の手を地面から離す事になる。
背中に当てていた手をそっと地面に近付けて、指先が触れる寸前に今体を支えている手を引いた瞬間に交代した手の指先で衝撃を殺す。
今じゃ失敗せずに行っているが昔は指先を痛めたり転んだりしたし、当然足の裏に乗っている二人も落としてしまった事で怒られた。
「それでは五百回……いや、今日は手の交代に普段より二秒多く掛かった罰として百回追加とする」
「百回は多いのではないか? 五十回で良かろう。昨夜とて下位妖魔の相手をしておろうに定刻で起きて鍛練をしておるのだからな。しかし、それは別として……」
「毎度の事だが哀れみすら醸し出す無才だな。最早知恵ある妖魔なら敵対しても同情して見逃すだろうに」
二人の視線が注がれているのはさっきまで指立て伏せをしていて今は背中に回している方の腕。
本来なら空いている腕だが、何もさせないのは時間の無駄だと霊力を肘から先のみ放出し続けている。
それも枯渇を考えない全力での放出で、その反動は多少……いや、微小ながらバランスを崩しそうになるんだが、戦いの最中に均等に行き渡らせずに片寄るなんて事も有るし、その時の練習って事だな。
霊力は妖魔の認識以外に触れる事や攻撃の衝撃を通す事、そして身体能力の強化にも使えるんだが、この時にもバランス感覚は必要になる。
全身隈無く強化なら良いが、一ヵ所だけ大幅にパワーが上がるとどうしてもな。
「好き放題言ってくれるな。今に見てやがれ」
そして俺の放出量なんだがチョロチョロとかタラーって感じです。凄くショボいと思ってくれれば良い。
平凡な退魔士の放出が水道のホースだとした場合、俺のは水鉄砲みたいなもんなんだ。
当然、強化する力もショボいから俺は三流って所だろうな。
才能は選んで生まれて来れないし、持ってる物で勝負するしかないんだが、これでも成長はしているんだぜ?
修行してそれって指摘は勘弁だ。
それに素の肉体自体は有難い事に大きくて頑丈だし道場にも通わせて貰った。
だから本来なら俺程度の三流には倒せない相手にだって無傷で勝てる事があるんだしな。
「まあ、励め。大口を叩くだけの成果を見せれば褒美をくれてやる」
「良かったな、大和よ。強くなればお玉の初物を味わえるそうだぞ。まあ、平たい胸族の物より余の体を堪能したくば遠慮無く申せ。無論、それなりの対価は……あ痛っ!」
おお、見事なハイキック、長くて細い足が見事にドロシーの脳天を捉えて良い音が鳴る。
そして足の上で暴れられたら倒れそうになるんだが喧嘩は他の場所でやってくれよ、本当にっ!
「阿呆が。大きな胸など着物が映えなくなるだけだ。それに初物だのなんだの言うが、婚姻前の娘がそれを守るのは貞淑と呼ぶのだ。性に奔放で何人もに抱かれたと豪語する貴様とは違うのだと分からぬか」
「余達が死に、人外に堕ちて今の状態になってから幾百の年月が流れたと思っているのやら。それに余は抱かれたのではなく抱いたのだ!」
……他所でやれとは思っても、この喧嘩をしている状態の二人に割って入ると矛先が俺に向くからな。
足の上で暴れられるのも凄い罵り合いも鍛練の為だと思い、此処は粛々と……。
「ふっふっふ。そうは言いつつも昨夜大和めに夜伽をさせようとしていたではないか。実は余が羨ましかったのであろう?」
「あ、あれは女を知らんこの男を上位者として弄んでやろうとした軽い冗談、そう易々と肌を許してなるものか。姫ぞ? 我、姫ぞ?」
そうだ、俺の上で揉めていようが気にせず続ける胆力と集中力を身に付けろ。
雑念を捨ててやるべき事のみに意識を向ければ何も問題は……。
「その様に矜持にかまけていては永久に未通女のままだぞ? あの男を抱いた時の至福の蕩ける幸福感。ああ、それなのに余達は大和の家の敷地と夢の中から出れん。テレビで興味を持ったグルメもレジャーも行けず、何よりも男漁りが出来ぬとは!」
「ああ、確かに出会いの時に主従の契約さえ結べていれば今ごろは楔としたこの男を従えて第二の人生を謳歌していただろうに。……一応言っておくが今の関係も悪くはない。あの時に騙されて下僕になっていればと後悔せずとも良いぞ? 無論、今から下僕になりたいのであれば受け入れる度量は持っている」
「まあ、インターネットで欲しい物は手に入るから、余も其処までは不満ではないがな」
一瞬不穏な雰囲気になりかけたが、これでも十年以上の付き合いだ。
その間に得た絆が何とか二人を落ち着かせてくれる。
正直、この二人のどっちと戦っても秒で叩きのめされるからな、それもハンデ有りで。
負けた場合、何されるかが分からないのがお玉、どうも徳川幕府の時代の出身とは聞いているんだが物騒な所があるからな。
ドロシー? 食われる気がする、どんな意味かは黙秘で。
「……確か置き配で大量の下着を注文していたな。それも際どい物を」
「今も穿いているぞ。特に際どいパンツをな。こう食い込みがな……」
目にした実物を思い出すだけでも恥ずかしいって様子のお玉だが、こいつって態度は大きいけど、その手の事は本当に苦手だよな。
俺をからかおうと色々と口にはしてもドロシーみたいにグイグイ行動に出る事は無いしよ。
逆にドロシーはグイグイ行動に出過ぎなんだよ。
この前も朝風呂に乱入しようとして流石にお玉が止めていたし……。
「我は穿かぬ故に下着の事は良く分からんが、インターネットも良く分からんから今度一緒に注文をしろ。最近気になった本をまとめ買いしたい」
所でそのインターネットでの買い物は当然俺の支払いだし、妖魔退治の報酬って殆どがそれに消えているんだが……俺、貢がされてる?
ふ、二人には世話になっているし、霊力の扱いの授業代だと思えば、まあ。
金目当てで戦ってるんじゃねーし。
「しかし、お主とて経験が無いであろうに、寝床で屈服させられると思うとは、人を辞める時に大切な物を捨ててしまったのではないか? 因みに余は何時でも相手をしてやろうぞ、大和。何ならばお玉と共に抱いてやる。どちらも美味そうだ」
ドロシーは頼むから恥じらいとか自重を拾ってくれ、本当に頼むから。
「……五百九十九、六百! ランニング行って来る」
二人が足の上から退くなり即座に走り出す。
この場に残ってたら巻き込まれかねないし、ちょいと年頃の男には刺激が強いんだよ、あの二人の会話って。
「……行って来る」
「そうか。昨日よりもタイムを縮めよ」
「縮めれば余の胸を一晩好きにする権利を与えるぞ?」
「要らねえ!」
俺だって男だし、意中の相手こそ居ないが異性に興味が無い筈もなく、あの二人は付き合いが長くて長所も欠点も貞操に関する部分がだーいぶ違うのを考えても美少女だと思ってる。
それが誘惑して来たり下着だのの話をされりゃあ、気になるってもんだ。
「ほんとにあの二人は……」
時々新聞配達のバイクとすれ違う時間帯、できるだけ坂道を意識したコースを走りながら俺は普段から溜まっている不満を口にする。
俺が家にいる間、他の2人は常に姿を現しているわけじゃなく、 魂が封印されているらしい人形の中にあるプライベート空間にいるとの事だ。
通信販売で買い漁った物もその空間に持ち込んでいるお陰で妖魔なんて関わらなくて良い知人が家に来た時に、女性用の服や下着が散らかってまくっている事をどう誤魔化すか悩まなくて良い。
何の力も持っていない凡夫に関わりたくない、そんな風に言ってはいるが俺への気遣いなんだろう。
まぁ、それに対してお礼を言おうものなら怒られるんだろうがな。
「せめて、もう少し欲望に忠実なのを控えてくれたら助かるんだがなあ」
世話になっているし、妖魔という立場上、余計な連中の介入を避ける為に書類上は俺が従えているということになっている。
かなり屈辱だったらしいが、友達の俺のことを考えて受け入れてくれた。
……普段から姫だのなんだの生まれ育ちの高貴さを口にしているし、無理矢理襲われるわけじゃないから贅沢なのかもな、この悩みは。
「贅沢と言えば一応は美少女二人と同棲してるみたいな物なのか? そうと言えば、そうなるんだかなぁ」
俺の両親は仕事でアメリカに行っているし、親がいない広めの一軒家で美少女二人と同棲、それだけ聞いたらどこのラブコメ漫画だって事になるんだろう。
「あの二人とは小さい頃から一緒に育った関係だから、どうもそんな気が……あっ」
ランニングの最中、明らかに法定速度を大幅に超えた勢いで大型のバイクが道路を挟んだ向かい側の歩道を走って……いや、走っているんじゃない飛んでるんだ。
バイクは両輪共に地面に着いていないし、エンジンすら動いていなかった。
「遅刻するっ! あーもー! 走るよりも遅いけど楽ができるからって大型バイク何か買うんじゃなかったっ!」
「なんだ、勇さんか」
一体何事かと思ったが、よく見ればバイクを担いで走ってる女の人が居た。
二十前後、人によってもう少し若いと思うであろう年頃の真面目そうな女の人。
大型バイクを担いで明らかに大型バイクよりも速く走っていなければスーツ姿も相まって遅刻しそうで走っている普通のOLにしか見えない。
「急いでるみたいだし、職務質問されなかったら良いけれど。見つかったら絶対呼び止められるよな……」
尚、大型バイクを担いで走っている時点で普通の所じゃない。
そんな彼女は昔からお世話になっている近所のお姉さんで、自分の雪がやってる道場に俺を誘って気絶させた人だ。
「大人って大変だよな」
向こうも俺に気が付いていないみたいだし、下手に時間使わせても悪いから声は掛けないで……今見た姿は忘れよう。
そうと決めた俺はランニングに集中する事にして、今の姿を見た事に気が付かれる前にその場から遠ざかった。
「相変わらずだな、此所は……」
ランニングの途中で立ち止まって呟いてしまう俺だが、目の前の光景からすれば仕方が無いだろう。
何せ幾つもの路線が枝分かれをしている停留所、屋根付きの大きめの椅子には傘や帽子といった忘れ物が毎日残っている。
「管理している人もこれは大変だな」
もう見慣れた光景だが、椅子の下に入り込んだ子供向けのバッグを取りやすい場所に置こうと何の気無しに手を伸ばす。
「っ!?」
何か嫌な予感を覚えたのに従って手を引っ込めた瞬間、飛来した何かがバッグに突き刺さり燃え上がった。
「無警戒が過ぎるんじゃないのかい? 君。退魔士ならばもう少し警戒心を持ちたまえ」
そして声が聞こえた方を振り向いた瞬間、俺は……。
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感想待ってるよ 本様に、本当に
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし