三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
比良坂学園オカルト研究会、その部室は敷地内で最も古い建物だった。
部室棟の横、元々は宿直の教員が泊まる為の小屋ではあるが、今は校舎内に専用の部屋がある上に職員室から中の様子が見えるからって不良の溜まり場にも使われない立地、物置も新設されてからは不用品置き場とすら使われないのに取り壊すのを先延ばし続けたその場所が与えられたんだ。
「うひゃあ。こりゃ夜中になったら出そうっすね」
「そういった話題してると寄って来るって言うしな。まあ、ホラー漫画とかでは巻き込まれるよな、オカ研って」
実際、小屋の近くには低位の妖魔がチラホラと見えるし、多分夜中に一人で残っていると遭遇するタイプの妖魔はいるんだろう。
「残念な事に夜中とかには帰ってるっすけれどね。下校時刻とかあるし、運動部でもなかったら遅くまでは残れないっすよ」
「いや、マジで部長で唯一の二年生の俺に責任が来かねないから夜中に塀を乗り越えるとかやるなよ? 最近は平気でネット上に晒す奴とかいるんだからよ」
「警備会社に通知入るとかシャレにならないっすし、自分はしないっすよ。お小遣い無しとか有り得るっすし。にしても……ボロボロっすね。いや、部活の内容からしてらしいって言えるんっすけれども」
日当たりは部室棟の陰になっていて非常に悪く、老朽化での隙間風に近くの道路から振動が伝わるから居心地は最悪だ。
まあ、何度も創立されては不可解な事件で廃部から、教員の喉元過ぎた頃の設立申請許可を繰り返している部への扱いなんてこんなもんだろう。
「ドアノブも壊れそうじゃねぇか。帰りにホームセンターにでも寄るか」
握ってみたが根本が緩んでガタガタな上に回す時に軋む音が鳴るので、中に居る時にドアノブが外れでもしたら面倒だ。
窓も小さい上に歪んでいるのか途中までしか開かないし、扉蹴り破るしかねぇぞ。
「窓ガラスが割れていないのだけがラッキーすね」
何かあれば簡単に壁や天井が崩れそうなボロ小屋に俺は自分の選択を後悔するしかなかった。
他の奴が巻き込まれるよりマシだとお守り役として入部を決めはしたが、こんな所で部活を行うとか……。
「なあ、幾らあればリフォーム出来ると思……テメーに言っても無駄だな」
「無駄っすね。その辺はさっぱり分からないっす」
この時ばかりは普段しない母親の財力に頼って学園に莫大な寄付でもしようとさえ思う中、ドアを開ければ先客の背中が見えた。
「やあ、来たんだ。待っていたよ」
クッション部分が分厚くて座り心地が良さそうな肘掛け付きの回転椅子に座って背を向けたまま語り掛ける。
黒幕気取りか?黒幕気取りだよな、あれって。
顔の横に赤い液体が入ったワイングラスを掲げて余裕綽々といった態度なんだが、テーブルにブドウジュースのペットボトルが置いてるし、わざわざ演出の為に用意したんだろうな。
学生であると同時に小説家でもあるんだし、こういった演出好きだよな。
「ようこそ、オカルト研究部の部室へ。歓迎するよ、二人と……も!?」
小さな笑い声を漏らしながらクルリと橋本は回転して此方を向く。
組んだ足の上には猫の人形を乗せ、何処の黒幕だと思っていたら勢い余って止まれずに真横を向いて、慌てたのか戻ろうと体を傾ければ椅子も傾いたが、そりゃ上で暴れればそうなるに決まってんだろ。
グラグラと揺れた椅子は後ろ側に倒れたから体を打ってはねぇんだが、グラスの中身を顔面に浴びた上に鼻から気管に入ったのか咽せて鼻水まで出ている始末だ。
「……」
そもそも俺達だって部員だし、俺なんて部長を押し付けられてるからな? 尚、押し付けたのは此処に居ない泉を含めた三馬鹿娘。
「あら? 巻き込んだ手前、早くから呼ぶのは悪いからって大和さんには時間を遅く伝えるって言ってなかったかしら?」
「いや、それだと側から見れば後輩女子に掃除を押し付けて重役出勤かます馬鹿に見えるぞ、泉」
その最後の一人は掃除用具を何処かから借りて来たらしく、椅子と一緒にすっ転んだ橋本は完全スルーでスマホの画面に視線を向ける。
今日は早朝から掃除するって言ってたのに余計な気遣いしやがって、別に良いのによ。
いや、そもそも其処に気遣い向けるなら中学時代にもう少し俺を巻き込んでも平気な程度に自重をだな……。
「別に大和さんなら変な誤解はされないんじゃないの? 普段から人の手助けしているんでしょうし、どうせ」
「いや、どうせとか言うな」
「していないの?」
「してるが? 目の前で困ってたら助けるだろ、普通。それよかさっさと掃除を……うん?」
そういや小姫の奴が居ないよな?
中学時代同様に八雲・橋本・泉に振り回されるのは考えるだけで疲れるが、小姫が一緒なら楽しめそうだと思ってたのに姿が見えない。
俺が聞いていないだけで、退魔士として幽霊屋敷の事後処理でも……はぁ。
実際には吐けない溜め息を心の中で吐き出した。
二人のお陰でのし掛かっていた重しは退いた気分ではあるんだが、だからって思い返せば落ち込む程度のモヤモヤは残っている。
そりゃ目の前での人死にだ、簡単には割り切れる筈がないだろ。
「そういや大和さん、何かあったんっすか?」
そんで八雲は当然見抜くんだよな。
特に心配した様子こそ見せないが、俺に何かあったのかは分かっていたらしく聞かれても本当の事は答えられる筈が無い。
三人揃ってオカルト好きで傍迷惑な馬鹿だろうと、妖魔の存在とか知らない方が良いもんな。
「……散歩中にちょっと事故を目撃してな」
「そっすか。んじゃあ吐き出したい時に吐き出すっすよ」
「……そうさせて貰うわ」
隠してるって気が付いて何も言う気がないなら、気が付いてる事を隠せっての。
まあ、適当な時に話せる範囲を話せば良いか。妖魔関連で配慮が必要な相手だが、同時に一切遠慮が要らない相手だしよ。
「じゃあ早速掃除するぞ。マスクと三角巾持ってるか? エプロンもちゃんとしておけよ。ホコリを校舎に持ち込んだら迷惑だからな」
部室はボロ小屋、中はホコリまみれゴミまみれ、とても掃除無しじゃ過ごせる状態じゃねえ。
もう与えられたってよりも管理の為に押し付けられたって邪推しちまうよ。
……違うよな? 違うと思いたい。
「どうせ部活としてやるなら本格的にだ。僕達は中学時代に教室とかで活動してたけれど、どうせなら部室で部活動を始めたいよね」
この三人の纏め役は橋本だ。俺はブレーキと緊急時の対処役。
まあ、責任背負わせられる部長も追加だが、基本的には任せるとしようか。
「んじゃあ実質的なリーダーに指揮は任せたぜ。それとも掃除は俺が仕切るか? 時間掛けてじっくりやる気だが、どうする?」
それに部室から活動を始めるって、要するに準備が済むまではオカルト研究はお預けって事だ。
……掃除をダラダラやるのを二年続けるとか有りか?
「いえ、それは私がするわ。佳奈なんて掃除は学校の掃除の時間以外でしない子だもの。……それにさっさと始めたいし」
ちっ! 泉にもこの程度なら見抜かれたか。
元から絶対無理な作戦だったが、それでも見抜いているぞと視線で告げられたら悔しいもんだ。
流石だ、橋本。迷惑三人娘の常識人枠なだけは……馬鹿な思考は此処で止めておこう。
冷静だ、冷静になるんだ、俺。
「じゃあ、早速始めましょうか。ついでに今後の方針なんだけれど、佳奈の家で佳奈の家が所有していて取り壊した筈の屋敷が深夜になると跡地に建っているって目撃情報が寄せられていて……」
「幽霊が住む屋敷ならぬ屋敷の幽霊ってか? 橋本の家の所有地なら入っても問題は無いんだろうが、出るのが深夜ってのが問題だろ。テント張ってキャンプです、とか言っても無駄だぞ」
危ない危ない、既に解決はしたが三人の耳には既に入っていたって事で、昨夜緊急で入る事になったのも結果論だが幸い、いや、幸いとか言える終わり方じゃなかったな。
それでも橋本達なら幽霊屋敷を発見次第突撃かまして俺が昨夜以上に苦労する事になったんだろうが、今回は無駄足になるだけ、それも高校生が出歩いても補導されない時間帯にカメラを仕掛けるとか程度だろうし、他の話題に……あっ、そうそう。
「知ってるとは思うが足やら顔やらを奪う猟奇殺人が起きてるんだし、掃除が終わっても遅くまでは残れないからな? 八雲は俺が送ってやるとして、二人は……」
「分かっているさ。僕だって警察が捜査している事件にオカルトっぽいからって首を突っ込む程に馬鹿じゃない。自分一人で責任を背負えない子供だけれど、同時に子供なのを免罪符に出来ない程度には子供じゃないって分かっているよ」
「既に佳奈の家のメイドの……ほら、大和さんを一度勘違いで蹴りつけた彼女が車で迎えに来てくれるそうだから」
テケテケと面食いによる被害が未だに続いている。表向きは異常者による連続殺人事件、当然だが運動部だって放課後遅くまでの練習は自粛ムードになっているし、俺達も遅くまで掃除で残るなってお達しを受け取っている。
犯人らしき人物を見たとか防犯カメラに映った不審人物の映像を独占入手とか、嘘だらけの情報がネットに流されている。尚、八割以上は零課の仕事だ。
こういうのが後手に回れば新しい都市伝説からの妖魔誕生ってコンボが成立してしまう。だから国の息が掛かった心理学者が実際は妖魔の仕業だった事件の記録や犯人(本当は存在しない)と比べてのプロファイリングを語ったりとかな。
「連続殺人なんて大騒ぎになって当然っちゃ当然だがよ、随分と騒ぎになってるよな」
「しかも徐々に自分達の町に寄って来てるっすもんね。共働きとか片親で子供が小さい家は大変っすよ。直ぐに捕まれば良いんっすけれどねぇ」
大事になれば逆に大量の情報を流して意見の流れを変えるのに助かるとか聞いてるんだが、活動を控えさせる口実には助かるぜ。
妖魔自体は直ぐに倒したいんだが、民間人の心理的影響を除けば公での解決発表は待っていて貰いたいもんだ。
「何なら桂花と一緒に朝も送ってくれるし、大和さんは八雲ちゃんさえ……いや、他に送ってあげるべき相手がいるんじゃないのかい?」
俺が他に送るべき相手? 誰だろう……。
思い当たらず顎に手を当てる俺に何故か呆れた様な視線が向けられるけれど、本当に誰なのか分からない。
いや、少し考えれば分かるか。
「委員長だな」
彼奴ってわりと貧弱モヤシな所があるし、何か起きた時に瞬殺されるからな。リンマオ? いや、俺と同等……どうしてか分からないが呆れの視線が追加される。
「うわぁ……」
「何と言うべきか大変ね、あの子も」
「有り得ねーっす」
どうして八雲まで俺に呆れているんだ?
訳も分からず混乱している俺の背中に小さな手が触れて、振り替えれば小姫が少し寝癖が付いた状態で微笑んでいた。
「やあ、お待たせしたかい? 彼氏と一緒の部活動にワクワクしていて眠れなかったんだ」
……彼氏? あっ、俺って小姫と付き合っている(設定)だったか。
成る程、無駄に動ける八雲じゃなく、小柄な彼女(実際は俺より強い)を家まで送ってやれって事か。
そりゃあ俺でも呆れるし、心の中で罵倒するわな。
「いやいや、本当に呆れるね。僕も恋愛経験は皆無だけれど、流石にあれはない」
放課後、本来なら部活動に勤しむ生徒が大勢居て騒がしい時間帯に僕は迎えの車に乗っていた。
窓の外では近所の小学校の生徒が引率の先生との集団下校をしているし、この後で残った仕事をするのを考えれば教師ってのは大変だね。
「お嬢様、武尊さんにはお世話になっているんですから程々にしないと駄目ですよ」
「分かっているさ。大和さんには散々世話になっているし、迷惑ばかり掛けてるってね」
ハンドルを握りながら苦言を呈するのは僕の家で雇っているメイド。
昔、あの目付きの悪さを理由に大和さんを不審者と勘違いして飛び蹴りを喰らわせる所だった奴が何を言ってるんだ、このツインテール。
「まあ、佳奈の口が悪いのは前からね。彼のお母さんが理由かしら?」
「うっ! 否定はしないよ……」
桂花の言葉は実際図星、この天才文学美少女作家・橋本佳奈のデビュー作である“ダークサイドの少女”シリーズは発売すれば週刊ランキングを三週間は二位に君臨する程の……そう! 二位だよ、二位なんだ!
「おのれ、アンジェ・ファソニアンと甘味めぇ!」
大和さんの母親が出した科学捜査系サスペンスの日本語訳、それが偶然か出版社がライバルなので敢えてなのかは知らないけれど発売日を合わせてくるせいで何時も何時も一位になれない。
いや、一位になってチヤホヤされたい訳じゃないけれど、モヤモヤするんだよ。
「甘味? ああ、例の翻訳家兼精神科医の……」
「そうだよ。文章力は高いし、彼の出した心理学の本は僕だって参考にしているんだ。特に彼が学生時代に巻き込まれた事故の唯一の死者である少年の……」
『次は君に決めた!』
「あれ? 今、何か……」
小さな女の子の声が聞こえたと思った瞬間、まるで三徹明けで原稿を終えた瞬間に似た眠気が僕を襲い、抵抗すら出来ずに眠りに落ちる。
「うん? これは……夢? 明晰夢って奴だね」
目を覚ましたと思ったけれど、僕は後部座席から運転席に移っていて車の中には誰も居ない。
いや、通行人も他の車も視界からは消え失せて、意識はハッキリしているけれど夢の中だって分かったんだ。
「これは次の話の題材に……」
何かが高速で近付く音が聞こえて、バックミラーに何かが映り込む。こっちに向かって凄い勢いで来る何かが……:
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
『足、ちょうだぁい』
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし