三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
ネットやSNSの発達は便利な反面、色々と面倒な点も多いんだけれど、僕はそれを理解した上で楽しく使っているつもりだ。
裏付けのされていない、若しくは恣意的に歪めたり捏造がされた情報の拡散を信じて痛い目に遭うなんてのも珍しくない昨今、匿名性なのを良いことに悪意を広め、他人の匿名性やらプライバシーなんて知った事かとばかりに個人情報を調べられ勝手気ままに広げられる。
かくいう僕だってサイン会の時の隠し撮りをされた作家仲間がいるからってその手の話は断っている癖に自分は不可解な事件について流出した情報は集めているんだ。
「あの子って確か……」
何か執筆の参考になるかもと思って一度見てみたかった明晰夢、結局色々やってみても記憶に残る範囲では見れなかったその夢の中、両手で此方に急接近する上半身だけの少女の顔には見覚えがある。
確か致死量の血液と死体を持ち去った痕跡、そして過去に起きた同様の事件の被害者の遺体を残して消えた少女だったかな?
テケテケなのは残された死体が上半身だけって表向きは公表されていない情報の影響だろうけれど……。
「さて、捕まったらどうなるのやら。……気になる所ではあるんだけれど」
僕の作品って割りとグロテスクな描写があるけれど、流石に理科の実験レベルで済む事しか体験していない。
作品は大切だけれど、倫理観は捨てたくないからこその明晰夢への欲求だけれど、ちょーっと問題もあるんだよね。
ゴーストタウンに迷い混んだみたいに周囲は真っ暗なのに、後方のテケテケだけはスポットライトでも浴びているか、それとも黒い紙に絵でも張り付けたみたいにハッキリ見えるその姿は確実に近付いているし、このままだと十秒も経たずに車まで辿り着いて捕まってしまうだろう。
その場合、私がどうなる? 足を奪われるんだろうね。ああ、凄く痛そうだ。
夢かどうか確かめるのに頬をつねってみれば痛くないかどうかで、ってのは昔から使われている事だけれど夢の中でも痛みを感じる夢痛ってのが存在するし、どれだけ痛いのか想像も出来ないや。
「そういえば猿夢ってのもあったな。電車には乗らずにホームで眺めていてみたいなっと」
軽く頬の内側を噛んでみれば軽い痛み、その程度の刺激じゃ足りないのか、夢からは覚めないのは幸いなのか不幸なのか分からないけれど、流石に大人しく捕まってやる気はない。
幸いキーは刺さったままで、ゲームセンターのカーレースゲームで興味を持ったから私有地で運転もしてみているんだ。
……ゆっくりだよ? ちゃんと免許を持っている人を助手席に乗せてだからセーフセーフ。
『足足足足足足足ぃ!』
訂正、接触まで十秒もなかったみたいだ。多分獲物を前に興奮して両手に力を込めたって所だろう。推定速度は三割増し、ギアを上げてアクセルを踏み込めば僕の乗る車は急発進してテケテケとの距離を一気に開け……ない!?
「……おいおい、更に速くなるのかい?」
『何でなんでナンで置いて行くノォオオオオォォォぉ!?』
夢の中だ、どうせ制限速度なんて存在しないからと車はドンドン加速するけれどテケテケだって同じく加速、目の前に停まった車を避ける為に右に避ければ直進していた時に比べて当然生じる遅れ、その間にテケテケとの距離は縮まって、更に加速しても距離は変わってくれなかった。
「成る程ね。縮まった距離は開けないって事か」
何せ僕は更にギアを上げて速度を出したんだを? 影の上に載っているのか、それとも此方の最高速度を、とまで考えた所で思考を止める。
これは僕の夢だ。そんなホラー映画に対しての考察みたいな事をするよりも、明晰夢をどんな風に執筆の参考にするかの方が重要じゃないか。
「問題はこの追い掛けっこが何処まで続くか、かな? 多分あの場所以外は有り得ないと思うんだけれどどうだろう?」
窓の外に漏れる室内の灯りも街灯も一切存在しない闇の中の道路、ライトで照らした部分とテケテケ以外は暗くて見え辛いのに、そんな中で遠くの建物の中に一ヶ所だけハッキリと見える場所、僕の家がゴールだろう。
下校中にみた悪夢のゴールが家だなんて逃走系のホラゲみたいで分かりやすいが、それで目覚めるという確信は夢だから?
まあ、所詮は夢だし楽しむとして、折角ホラーな夢を見れているんだ。ほら、他にやるべき事は有るだろう?
『尚、そんな悪夢はぁ! 熊猫のプレゼントなのさ』
……うん? 今、何処かから声が聞こえたきがしたけれど。
「っと! 今は運転に集中すべき時だよね! ととっ!」
『ちょうウダい! 足をちょうダイ!』
目の前に倒れ込んでいた放置自転車数台を避けた事で再びの減速、テケテケとの距離が近付いた事でグロテスクな見た目が一層ハッキリと認識してしまうんだけれど、海外のホラーでも此処までグロい映像は中々見ないよ。
血でドロドロに汚れた服からはみ出した腸が道路まで垂れ下がって、そんな状態でも気にせずに車を追いかけるもんだから地面で何度も跳ねてボロボロになって行くし、手だって衝撃に耐えられないのか血が飛び散っている。
「此処までの映像を作り出せるとか流石は僕の脳ミソだ。それを馬鹿呼ばわりするんだから大和さんには困ったものだよ。若干ではあるけれど僕達に原因が在るのは認めないでもないけれど。……来た!」
目の前の道路には夢の始まりとは違って道路に停まった車や街路樹の飛び出した枝、穴が開いてコンクリート片がゴロゴロと転がっている場所さえ。
最早僕の知る道とは色々と別物だし、この辺が夢だなって思わされるけれど、記憶にある物の中で目当てだった奴がちゃんと在るのに勝利を確信する。
直線上には大型トラックが横倒しになって反対車線の一車線のみ通行可能、このままだと更なるタイムロスでテケテケに追い付かれそうになるんだよ、直進したらね。
「こんな言葉を知っているかい? 車は急に停まれない。そしてテケテケは……」
『足寄越せっ!!』
叫ぶと同時に曲がって飛び出した標識を掴んで勢いを着けたテケテケ、後ろは化け物で前には横転大型トラック。
『そして車の上には僕がいる』
「急には曲がれないから急いで曲がれ! ってね!」
そう、テケテケに追い掛けられた時は曲がり角に飛び込めってのは割りと有名な話、浮かんでいるタイプのは咄嗟に伏せろってのもあったよね。
幅ギリギリなのにスナックとかの店が看板とかを置いているから、普段は自転車でも通らない一方通行の道に向かって急ハンドル、サイドミラーの片方を壁にぶつけて壊しちゃったけれど気にせずにアクセルを更に踏み込めば、金属が擦れる嫌な音に混じって後方から聞こえるのはトラックに何かが猛スピードで激突した音。
これが現実なら車の両側に擦った傷があるだろうし一旦停車したい所だけれど、現実だろうと夢だろうと捕まったら悲惨な目に遭う化け物とのチェイス中に停まる余裕は有りはしない。
「残念だったね。多分保険は降りないよ。そもそもテケテケが事故被害者扱いになれるかどうかは知らないんだけれどね」
多分ってか、絶対無理だろうね。これで距離も開いたし、油断せずに行くとしようか。
『まあ、お化けには労災も雇用契約も無いし、労基も存在しないから』
「え?」
再び聞こえた気がした誰かの声に思わず視線を一瞬だけ上に向けた時、はみ出していた枝に車の天板が引っ掛かれる音が鳴る。
横も擦りまくっているし、現実でこんな状態にまでしちゃったら免許取るまで私有地だろうと運転させて貰えそうにないな。
所で擦る音以外に何か軽い物が枝にぶつかる様な音も聞こえた気がしたけれど。車の上に何か乗せていたっけ?
『しゃぁあ! 糞上司ざまあ! へいへいへーい!』
「うん、気のせいにしておこう。僕は何も聞いちゃいない」
確かにオカルトは好きだし心霊スポットにだって行きはするけれど、怖い思いならどんな物でもオッケーって訳でもないんだから、ちょっと今の状況は勘弁して欲しいんだ。
こんなのは中学以来、心霊スポットで狂暴な野犬に遭遇した時に、桂花共々大和さんに俵担ぎされて山道での逃走劇を繰り広げた時を思い出す。
「女の子二人を担いで犬から逃げ切れるとか普通に凄いよね、あの人。その人に平然と並走する八雲ちゃんも同類だけれども……」
あの時と違って相手はテケテケ、僕は車で、何よりも大きな違いで懸念事項は……トイレに行きたいって事さ
夢の中で漏らしたら高校生にもなって寝小便垂れって不名誉だよ、夜尿症でもあるまいし。
このまま追い付かれて襲われたとしよう。多分痛みは感じる、それも激痛だ。
それで我慢出来ずに泣き叫んで……。
「流石にそんな経験はごめん被る!」
バックミラーには横道に入り込んだテケテケの姿が映っているけれども僕がぶつけて倒した障害物が邪魔しているにも関わらず速度が落ちている様子は無し。
あれだけ走りにくそうにしていて尚、なんだから速度を保つってのは正解だったらしい。
今は稼いだ距離が有るけれど、もう直ぐ終わるこの狭い道で車の方も速度が落ちているから油断は禁物だ。
『助けて助けてタスけてたすけて助ケてタスけて』
聞こえて来る声は必死に助けを求める悲痛な叫び。都市伝説の内容からして即死するんだから助けを求めながら苦しむなんて有り得ないってのに、そもそも家の中で別の死体と入れ替わって行方不明になった子じゃないか。
「僕の中では無意識に他の都市伝説と混ぜてるのかな?」
襲われた被害者が今度は襲う側になる、みたいな奴といえば七人ミサキ。
え? 都市伝説じゃない? 妖怪なんて大昔の都市伝説みたいな物だよ。
やっぱり夢の中だ、明晰夢だろうと無茶苦茶な部分がある、と折角のホラー体験にはケチが付いた所で広い道路が後少し迄近付いて来る。
テケテケとの距離は結構縮まったけれども、目の前の道を左折すれば家まで僅か、見事にゴールだ。
「じゃあ、
『足っ!』
車体の半分程が一時停止の白線を突っ切ったのと同時に倒れた植木鉢を踏み台にテケテケが跳ぶ。
指先が届く寸前、その瞬間に急ハンドルを切れば後ろのガラスにテケテケの指先が触れると同時に砕け散って破片が僕の頬を掠めた。
でも、指先が一瞬車内に入っただけ。大きく揺れて片側のタイヤが持ち上がりながらも曲がった車体に弾き飛ばされたテケテケは跳躍の勢いを殆ど殺せず、車にぶつかって僅かに軌道を変えて飛んで行った先は建物の小さな窓。
窓枠とガラスを粉砕して建物の中に入り込んで、多分這い出すのに時間を要するだろうさ。
その間に僕は悠々と距離を開けさせて貰うとするよ。
「脱出系のホラゲだったら入り口の門の鍵を手に入れるか追跡者を倒した後位かな?」
つまりはゲームクリア寸前、このまま事故でも起きなければ確実に家まで辿り着いて悪夢は終わりだ。
ちょっと惜しい気もするけれど、これは執筆の参考になりそうだと笑みを浮かべているのに気が付いた。
「よし。次の内容は終わらない悪夢とかどうだろう? 何度も何度も繰り返す悪夢に疲弊するとかで……」
参考になりそうなホラゲの動画でも探すか、とバックミラーを確認するけれどテケテケが出て来る様子は無かった。
窓から出ようと手を伸ばすけれど枠に引っ掛かって出れない状態で、半分だけ出ている顔は恨めしそうに僕を見ているけれど、速度を更に上げればやがて小さく見えなくなって行く。
「あっ、明晰夢って脳が休まらないって聴いたな。帰ったら一眠りを……え?」
家の門が近付いて来て、テケテケとは別の悩みが生まれた時、僕は気を抜いた。
テケテケの声も走る音も聞こえて来ず、このまま勝利は決まった状態。
真横からバイクが突っ込んで来るその瞬間まで、僕は全てが終わったと思っていたんだ。
衝撃で車は傾き、そのまま頭を打った僕の顔を覗き込んだのはバイクの運転手。
「化け物め……:。保険は入ってるんだろうな……」
その顔を構成するのは巨大な口のみ。大きく開いた口の中は暗くて見えず、生臭い口臭に鼻が曲がる気分だ。
頭を強く打った影響か血が流れるのと同時に意識が薄れそうになる中で聞こえたのはあの音、聞きたくない音。
テケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケテケ
『足ちょぉだぁあああああああああい!』
あっという間に目の前まで現れたテケテケに腕を掴まれ車外に引き摺り出される時にガラスで切って更に血が流れ出した。
僅か数秒前まで全て終わったんだと安心していた状態からの危機は慣れ始めていた恐怖を際立たせ、逃げ様にも体が竦んで動けそうにない絶体絶命の状態。
そして、テケテケが手にした切れ味の悪そうなノコギリの刃が僕の足の根本に当てられて、そのまま皮膚を突き破り肉に突き刺さって……。
「っ! はぁ……はぁ……。またか……」
其処で目が覚める。これで一週間連続で見続ける悪夢。毎回夢の始まりで記憶を失い、こうして目覚めると思い出すんだ。
この夢は既に何度も見ている、ってさ。
昨夜は引き摺り出された所で、一昨日は倒れた車まで追い付かれた所で。
明日の夜は一体何処まで進むんだろうか……。
今回隠し文字使ってみた 前回も文字色白でやってけれど
隠し文字って携帯じゃちゃんと出なかった
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敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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