三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
昼休みに今日の分の掃除の仕上げや軽い片付けのみを行ってオカルト研究会の活動を終えた俺は……俺達は帰路に着いていた。
流石に流石な状況なだけに小テスト赤点組も放課後に残っての追試は課題に代わり、帰ったら八雲の勉強を見てやる必要が出たって事だよ、迷惑だよな。
普段なら橋本と泉の二人に投げ出す所だが、こんな事態じゃそうは言ってられねぇ。
まあ、二人は苦手科目で赤点取らなかったし、俺も復習のつもりでやるしかないだろ。
貴重な放課後の時間を潰した復讐はテケテケ共で晴らすがな。
夜中に仕事入ったら睡眠時間削られるし、昼寝とかしたいんだよ、ったく。
「……頼られるのは別に悪くないんだがな」
誰にも聞こえない程度の小声で呟きながら思い出すのは学校での事、出来るだけ集団で帰って寄り道も控えろとのお達しがあった後の事だ。
「ね、ねぇ。親に頼み辛いし、送ってくれないかな?」
「私もちょっと怖いし、武尊君なら安心出来るかなぁって」
「知り合いから美味しいお茶菓子を貰ったし、送ってくれるならご馳走するよ? 今、親は家に居ないから気兼ねしないし……」
こんな感じに事件を不満に思ったらしい女子が護衛を頼んで来たんだが、中には喧嘩してるが彼氏持ちだっているんだがなあ……。
え? あんなのどーでも良い? そうか……。
いや、まあ、このガタイに目付きの悪さに加えて空手全国大会優勝のリンマオと互角だって知られているし、人格も評価されての状況なんだが、正直困ったが
怖いなら無碍に断れないが、それでも色々あって困っていた時だ。
教室の入り口から声がした。
「ちょっと良いかい? 愛しい彼氏にお願いがあって来たんだけれど」
連続猟奇殺人事件が発生、更にこの近辺に接近しているとあっちゃ当然の事だが、部活動を早々に切り上げるかそもそも中止になった連中は警察への不平不満を呟きながら帰る奴も少なくはない。
「何やってんだよ、ポリ連中はよ」
「あんな派手に動いてる犯人の手掛かり無しとか。……いや、案外掴んでるけれどヤバいから出せないとか?」
「警察官僚とか政治家の身内が犯人だったりして」
口々に好き勝手な憶測を飛びかわせ、何処か他人事なのは平和ボケとでも呼んで呆れるべきなのか、それだけ日本の治安が良いんだと喜ぶべきなのか、兎に角こう思っているんだ。
「どうもテレビの画面越しに見ている感じだね。まさか自分が巻き込まれる筈がないだろうってさ」
「そう聞こえはするよな。でも仕方が無いだろ? 体のパーツが行方不明とかドラマみたいな話だしよ」
「それで目を逸らす為に頑張っているお巡りさんに不満ってまでなるのは理解するけれど納得は出来ないね」
間違い無いって言えるのは、俺の真横で小姫が不満を漏らしたみたいに、退魔士は平和ボケだって呆れるんだろうって事だ。
相手は神出鬼没の妖魔だし、警察は勿論として零課だって完全に足取りを掴める訳じゃないが、同時に不安を紛らわせる為に矛先を向けやすい相手に向けるのだって理解は出来るんだよな。
「……悪いね、大和先輩。怖いから送ってくれと下心をチラ見せしながら君に声を掛ける女生徒達を見てイラついたんだ。不機嫌に見えたのなら……いや、悪いのはそっちか」
「俺っ!? 何をしたってんだよ……」
肩が触れる程の近距離で並んで歩き、周囲に見せびらかす様に繋いだ手の指と指は絡んだ状態の恋人繋ぎ。
その指先をこれ見よがしに軽く立てるのは恋人への嫉妬心を一目で分かりやすくする為か、普段はマイペースな彼女が頬を膨らませるのは可愛らしいから頭を撫でたくなる。
「付き合いたての彼女がいるのに他の女に囲まれていたんだ。向こうから来たとか関係無しに埋め合わせとして存分に構ってくれるんだよね?」
「ぐっ!」
そう、俺は恋人を家まで送り届けている最中で、他の女子数人に送ってくれないかと相談されていたから拗ねられているんだ……という援護の真っ最中だ。
だって実際は彼女じゃなくって一緒に行動する言い訳の恋人設定、惚れた相手との恋人ごっこは嬉しいんだが、ちょっと段階飛ばしてだからドキドキがやべぇ。
寄り道控えろって言われてなきゃデートにでも誘うんだが。いや、そんな度胸無いけれど絞り出せばギリギリ行けるか?
「怖いから送って、とか、お茶菓子くらいご馳走する、とか頼られてるじゃないか、私の彼氏は」
「この目付きを怖がられて遠巻きにされるよりはマシだったが面食らったな、ありゃ」
尚、件の女子達は小姫が登場した時点で解散、直ぐに親に電話で相談したり他の男子に送って貰ってたんだが、確か親が忙しいとか言ってたのも居たよな?
普段から人に親切にする様には心掛けちゃいるんだが、先ずは親を頼れば良いのに。やっぱ本当に忙しいから遠慮してんのかもな。
字面だけ見れば頼られる彼氏に自慢と嫉妬の両方感じているみてぇだが、顔を見れば俺の反応を楽しんでいたって感じだよ。
そりゃそーだ。あくまで恋人ごっこ、現在は仕事上の相方ってだけで、それも俺は
「俺も両親が忙しいから構って貰うのに遠慮したから気持ちは分かるんだがな……」
「え? あの二人、特にオバさんの方は大和さんにベッタリだったっすよね?」
「まあ、 学者と作家の兼業の合間に色々と構ってくれたから寂しい思いはしなかったな。父さんは父さんで昆虫学者業とは無関係に昆虫採集とかに連れて行って貰ったし、寧ろ外出する時やら門限やらに厳しかったが」
多分母さんのは過保護とは少し違ったと思っている。
何処で誰と何をするかを毎回言わされて、相手に電話で宜しくお願いしますって感じに確認まで。
それが普通だと思ってたのは僅かな間で、直ぐに変だとは思ったけれど、俺は何も言えなかった。
「……両親が子供時代に揃って失踪したんだから当然だろうな」
GPS付きの携帯とかまで持たされはしたんだが、嫌がるとあの人が不安そうにするから何も言えなかったんだ。
「ふーん。君の所も大変だったね。私の親も若干育児放棄っていうか無関心になっていたし……この話はやめておこうか」
「ふへぇ。大変っすね、二人共」
小姫のボロアパートまでの恋人ごっこ、回りに見せびらかすのが目的なだけあって恋人繋ぎにしたり、ちょっと道が狭い場所では必要以上に密着してくれたりと正直言って役得って奴だったが、惜しい事に二人っきりじゃないんだ。
「なんか自分も重い話とかするべきっすか?」
「ねーだろ。無理にすんな。出来れば黙ってろ」
最初俺が送ってやろうと思っていたら呆れやがった三馬鹿筆頭の八雲も結局一緒に帰っている。
……いや、別に其処まで不満は無いんだぜ? 元々送る予定だったし、家だって俺の家の隣だから別に小姫に余計な遠回りをさせる必要も無い。
それにあくまでも恋人ごっこ、周囲から見れば彼女とイチャイチャしつつ他の女と一緒にいる風に見えても実際は恋人ってのは嘘で、寧ろ見せつけるべき相手だからさ。
「それにしても良かったんっすか? 小姫ちゃんからすれば一目惚れからの猛アタックした相手なのに、こうして自分が一緒っすし」
「彼女にかまけて幼馴染みをこんな状況で放置しない人だから好きになったのさ。別段浮気されている訳でも無いし、それに愛しい相手について教えて欲しいからさ」
「おっ! じゃあ自分が知る大和さんの子供時代について話しちゃうっすよ。大和さんも黒歴史とか話しちゃっても平気っすよね?」
たださ、さっきから俺よりも八雲の方が長く話しているのは何故なんだ? 俺、恋人って事になっているよな?
楽しそうに話す姿も可愛らしいし、会話に集中せずに顔を見ていられるのはそれはそれで嬉しいが、どうも釈然としねぇ。
小姫の奴、何の目的で八雲を誘ったんだ? まさか本当に俺の昔が知りたかったとかなら嬉しいんだが……。
「敢えて黒歴史を話そうとするんじゃねえよ。こっちはテメーが幾つまで寝小便垂れていたかも知ってるんだからな」
「うげっ!?」
「更に付け加えればサンタを何歳まで本気で信じてて、割りとガチな罠を仕掛けた挙げ句に猫に怒られた事とかも詳しく話すぞ」
「ぎぴゃぁああああああああああっ!? まさか自分が知られたくないアレコレを広めたりしないっすよね!?」
「先に話そうとしたのはそっちだろうが、ボケ。そもそも俺に黒歴史なんてねぇっての」
先に聞く配慮が可能なら最初から話そうとすんなよ、それに普段からベタベタ引っ付くな、ガキじゃないんだし。
「レディの扱いが悪いっすよ!」
「少なくてもレディってのは人の背中に飛び乗ったりはしねえ」
「それは大和さんの背中が乗り心地良いのが悪いんっすよ」
「悪いのはテメーの頭だろうが、アホ」
大体、高校生にもなって頬を膨らませんな、昔から全く成長しないのは胸だけにしておけってんだ。
ムカついたので軽くデコピンを食らわせて黙らせるが、これじゃあデート気分が台無しになっちまうな。
小姫と帰宅の最中だけでもデート気分を味わいたかったけれど、それは口にはしないし顔にも出さない。
出しちまったらガツガツしている風に見えそうで嫌だった俺は特に何も言わずにいるが小姫がどんな反応を示すのかが心配な中、手を繋いでいる状態の相手が立ち止まったので俺も慌てて足を止める。
「どうした?」
「ちょっと思う所があったし、興味を引かれてね」
それでも僅かに遅れたせいで引っ張る形になったのか少しよろめく事になった小姫は……その演技のままに俺に抱き付いて、こっちも少し不満そうな顔だが俺が何かしたか!?
「ちょっと屈んでくれるかい。そうそう、背中も向けてだ。分かってるじゃないか」
い、一応言う事を聞いておこうか、うん。
惚れた弱みか演技の延長だからか考えるよりも先に俺は屈んでいた。
小姫と少し距離を開けて背中を向けてなのは癖だ
ジェシカちゃんも毎回同じ事をおねだりしてくるからな。
それにしても小姫はどうしてこんな事を?
「従姉妹が会う度に同じ事を頼まれるから、なっ!?」
俺の顔に何かする気なのかと身長差から考えたが、それだと背中を向けるのも妙だと思った瞬間に背中に走る衝撃。
この衝撃を俺は知っている。幼く可愛い従姉妹のジェシカちゃんが会う度にオンブや肩車をせがんで来る時や、八雲の奴が年齢や周囲の目を気にせずにする愚行と同じく背中に飛び乗ったんだ。
「私にも君の背中を堪能する権利をくれるかい? 逞しく大きい背中だ、乗り心地だって悪くない。いや、良い乗り心地だよ」
いや、これだとジェシカちゃんや子姫が八雲程度と同じレベル扱いだな、反省反省。
首に腕を回されて体を浮かす事なく背中に預け、耳元で囁かれると何とも言えない気分だな。
今の小姫は小柄で非力な女の子って事になってるから落ちない様に足を持って支えれば、手に伝わるのはスベスベの肌と太ももの感触。
……幾つになろうとも頭と胸がお子様の八雲とは大違いだ。身長ばっか無駄に伸びてるのに他が成長しやがらねぇ。
「何か失礼な事考えなかったっすか?」
「事実だけだ、気にするな。じゃないと追試代わりの課題手伝わねぇぞ」
「う、うっす! いえすまむ?」
「誰がマムだ、誰が」
「それは流れからして大和さんっすよね?」
いや、どうして何を言ってるのか分からないって顔して首傾げてるんだよ、テメーがよぉ!
「……見てやるの半分だけな」
「何故に!?」
こうやって八雲と会話をしてでも気を逸らしたい理由が在る。
おませさんだが年齢一桁のジェシカちゃんには一切意識せず、八雲の場合は憐れみを感じるのと同じ理由。
そして八雲と一緒にしてはならない事、それは……考えるな!
考えるな意識するな気にするな、背中に感じる重量は軽いのに一部だけはズッシリとした重量感を主張する二つの塊については何も知らないし一切理解しちゃいない事に……。
「うおっ! こうして目線合わせたら胸がデカいのが凄く分かるっすね。大和さん、感触はどんな感じっすか」
おぃいいいいいいいっ!? 口に出すな、馬鹿!
言われた途端に気にしない様に努めていた事が頭に流れ、全身で受け止めきれない情報の波が背中を中心に押し寄せる。
餅突け! じゃなくて落ち着け、俺! ヒーヒーフー……はラマーズ法か。
こんな時、落ち着くのに最適なのは道場で習った精神統一法だ。目を閉じ、毛先にまで意識を集中させれば自分以外の情報が完全に遮断される。
昔は座禅を組んだ状態で何とかだったが今ではこの通り、戦いで使うには未熟な段階だがな。
「……ふぅ」
息を整えるのに費やしたのは三秒、やってて良かった、伏柄流。
入試の面接の時もこれで乗り切ったのを思い出しつつ進めばボロアパートが見えてくる。
惜しい気も安堵する気も両方在るが、これで今の状態は終わり……あれ?
「小姫、寝てないか?」
「寝てるっすね、完全に」
……どーしよう。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし