三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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春賞与入ったし漫画発注する予定  問題はどのシーンかなあ  出来ればメッセージの方で1pで収まるのを意見して欲しい まあ、そこまで人気の有る作品じゃないっすけれどww


流れツイた物 二十三

 夢は夢、所詮は脳ミソが繰り広げる仮想現実なんだから、夢の中で怪我をしようが死のうが現実に何ら影響を与える筈がない。

 

 ……とは言いきれないのが人体の不思議って奴さ。

 

 思い込みによって本来負う要因が存在しない怪我をしたりもするし、夢の中のショックな出来事で起きた時に心臓が早鐘の如く鳴り響くなんて経験した人はそれなりにいるんじゃないかと僕は思う。

 

 まあ、何が言いたいかと説明するなら……この夢の中での死は現実での死に直結するだろうって直感があったのさ。

 

 

 ヤバイやばいマズイ不味い不味い不味い!

 

 迫る大口の奥は至近距離でも見えず、底無しの闇が広がっている、仮に丸飲みにされたら何処までも何時までも闇の中を落ち続けるんじゃないかと思わせる光景だった。

 

 逃げたくても僕に小さな肩にはアンナの……その姿に化けた怪物の指が食い込んで骨を砕こうとする勢いで掴んで放しちゃくれそうにもない。

 恐怖や痛み、そして絶望と後悔。最近の悪夢とは違って懐かしい風景を楽しめる夢だと油断して、そして結局悪夢に変わった。

 

 毎回記憶を失った状態で不気味な夢だと思いつつスリルを待ち侘び、事実苦痛も恐怖も味わったけれど、嬉しさも存在していたんだ。

 

 今は違う、恐怖とは無縁の筈だったのが急変、感情の落差は強雨を際立たせて楽しむ余裕を奪い去った。

 

 まるで今までの悪夢自体が油断を誘い、鮮度を最高まで高めた恐怖を僕に与える為の様で……。

 

 

「嫌だ…こんなの絶対に嫌だ……」

 

 

 夢だと分かっていても死ぬのが怖い、痛いのは嫌だ。

 もがいて暴れて抵抗して、それでも逃げ出せないから今すぐ目覚めて欲しいと願うけれど叶っちゃくれなかった。

 僕の恐怖を煽って楽しむ様に化け物の大きく開かれた口はゆっくりと近付き、服の上から突き刺さった指先は布地を巻き込んで僕の肩の肉に食い込んで行く。

 この日、僕は初めて好きなオカルトに関わる物を嫌だと思って、同時にとある直感が働く、まるでテケテケとの追い掛けっこの悪夢の時に思い浮かべた猿夢の様に。

 

 この夢の中で死んだ場合、僕は現実でも死んでしまうんだって。

 

 ここまで思考を重ねても未だに顔を食われていないのは相手の嗜虐心ゆえか、それとも死を前にして思考が加速しているのか。

 後者なら本当に迷惑な話だな、と何処か諦め混じりになりながら瞼を閉じる。そんな事をしても恐怖や痛みが和らぐ筈がないって分かっているのにね。

 

 

 そして暗闇の中、肉が千切れる音が見に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

g

 

アァああああぁァァァァァッ!?

 

「黙れ、下郎めが。我の御前であるぞ。控えよ」

 

 

 

 どうも気位が随分と高い感じの声の持ち主相手だ、化け物に突き刺す時に僕に掠るなんて一切気にしてないのだろう。まるで人が道を歩く時にアリを踏み潰さないように注意などしないみたいに。

 

 それなりの家に生まれ、ベストセラー作家として業界人にも大勢対面して来た経験が僕に告げている。

 後ろの人物は、いや、とても人と思えない相手は僕を助けるつもりで現れたんじゃないって。

 

 

「退けぬか、小娘。邪魔である。死にたくなければ退け」

 

 ほらね、それを肯定するかのように降圧的な声を背中に受けて僕は横に体を動かす。

 巻き込まれないように、背後の相手の気分を害さぬ様に、そして、余計な好奇心を発揮して背後に抱いてを見てしまう、いや、見惚れてしまった。

 

 真っ直ぐに伸びた黒髪からは椿の香りが微かに漂い、偉そうと感じさせる声は高貴で誇り高さを否が応でも見る者に印象付ける顔立ち、目付きの鋭さは美姫である事を一切阻害しない、する筈がない。

 

 これで蝶よ花よと育てられた箱入りのお姫様なら話は別だったろうが、気高さや強さを覚えさせる彼女は違う。

 立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は何とやら、それが咲くのは修羅の道、屍山血河のほとりに咲く彼岸花。

 

「いや、駄目だ。こんな言葉じゃ……」

 

 巨大な物を山に例える場合があるが、山の大きさを山で例えるのはちょっと違う気がする、個人的には。

 そう、これは僕の個人的な感想、彼女の美しさを何かで例える必要は無く、例えたくない。

 

「美しい」

 

 花の美しさを他の花で例えるかい? 僕はしない、彼女の美を褒め称えるにそれ位がの言葉は必要無いんだ。

 

『アぁ、ァアアあぁあア』

 

「塵が。成り代わりの逸話から発生した下位妖魔なのだろうが夢に干渉する力など本来は有るまい。他の妖魔の手引きか、或いは……」

 

 美しい姫武者の言葉は刀が刺さったまま腰を抜かした化け物に関する事ではあるんだけれど、恐らく化け物に対しての言葉じゃないんだろうな。

 無価値で無意味、邪魔になる路傍の小石に向ける物ですらない視線を化け物に向けてはいるけれど、あれは視界の一部に入れているだけ、単体で視線を集中させてはいないんだ。

 

 首に刺さった刀は切れ味の鋭さが相当なのか苦痛から身を捩るだけで肉が断たれて傷口は緩くなって行く。

 

 あまりにも鋭い切れ味なのも考え物かと何気無く頬に触れてみれば血の生暖かくドロリとした手触り以外は何も伝わって来ず、あまりに鋭い刃による傷だったが故にこの超短時間で癒着したんだろう。

 

 それこそ腕さえもスパッと切り落とした後で断面を合わせれば接合するんじゃないかとさえ……流石に無理か。

 

 

「……最早耳障りな叫びで耳を汚すのも不快である。疾く、失せよ。永遠にな」

 

 彼女は白く細長い脚を惜し気もなく晒すかの様に挙げ、柄頭にそっと添えるなり踏み込んだ。

 傷が広がり側面まで達する寸前だった刀は根本まで深々と突き刺さり、その勢いで仰向けに倒れた化け物を地面へと縫い付ける。

 その勢いは化け物を地面に沈み込ませ、鍔が肉に食い込んだ事で抜け落ちる事さえ無いだろう。

 

「ぁ…ァあ……」

 

 漏れるのは僅かな声のみ、最早断末魔の叫びすら出ずに僅かに痙攣する事のみを許された化け物、その首と刀の隙間から溢れ出すのは蒼い焔。

 完全燃焼のそれではなくて亡霊の周囲で舞い踊る鬼火の類いを連想させる物で、熱気が少し離れた場所まで届くにも関わらず真冬の滝行を嫌でも想起させられる寒気に自分を抱き締めてしまっていたよ。

 

 あれは死者の物、冥土の焔なんだろう。

 

 

「或いは……何か余計な物でも被った、いや、被らされたか? ……特別に返答を許す。貴様の生涯における最大の誉れとして恭しく受け取るが良い」

 

「え? 僕?」

 

 

 そう、燃え尽きて灰になった化け物の痕跡には目もくれず、彼女の鋭い視線が射貫くのは僕の居る方向。背景の一部、それこそ壁の僅かな汚れ程度に向ける物であった先程までとは大違い、単体としての視線を苛立ち混じりに向けられて、刀の切っ先も僕の方に突きつけて微動だにしていない。

 

 

 驚いて自分を指差すけれど、眼中にもない僕が知る由も無いから事を訊ねられる筈が無いよね。

 

 もしやと思って視線を背後に向けるも上下左右に何一つ影すら在らず、僕が認識される理由も然り、その結果が自分を指差した状態で行う質問への質問、普段の僕なら成るべくしない事だけれど、今回ばかりは自己弁護をさせて貰いたい。

 仕方が無いじゃないかって、ね。

 

「僕もこの夢に囚われて……あっ、結果的にでも助けて貰って礼儀がなってなかった…です。有り難う御座……」

 

 目を離した積もりなんて当然無く、そんな素振りも同じだったにも関わらず、僕の目の前の手を伸ばせば届く距離で彼女は刀を横に凪払う、僕の頭を切り裂く軌道で。

 刀の振るわれる姿は見えず、直感的に来ると思っただけだが、それは正しく、同時にそれは成されない。

 

 何故かって? 別に間一髪腰を抜かして避けられた訳でもなければ寸止めされた訳じゃ……いや、後者は微妙に当たっているのか?

 

 先ず、刀が狙ったのは僕の頭、その僅か上。軌道上の毛が幾つか風で飛んで何処かに行った。

 二つ目の理由、刀は止めたんじゃなくって止められた、僕の頭上から聞こえた硬い物同士がぶつかる音が教えてくれた。

 

 

 

 

 

『酷いなあ。この子、驚いて漏らすギリギリだったよ? 殺気はちゃんと抑えないと』

 

「我が視界に入り込んだだけの小娘に何故気を遣うのだ? 死のうが死ななくも同じ事、我の興味を一切惹かぬわ」

 

 間近で眺める彼女の顔は遠くよりも魅力を際立たせ、僕に一切の興味関心を向ける事無く、頭上に居る何かに返答するのみ。

 女の子の声に聞こえたけれど、絶対碌な相手じゃないよ。

 僕に構わず刀を振るった事を咎める様でいて、十歳の目的は自然な流れに見せ掛けて隠したい事を暴露する事なのが伝わって来た。

 

「性格悪っ、そして恥ずかしい……」

 

 とんだ勘違い、枝毛の一本程も興味を向けない僕じゃなく、察知すらさせずに頭の上に乗っていた相手を見て、それを個として認識、言葉を投げ掛けていただけだ。

 

 あー、恥ずかしい恥ずかしい。とんだ自惚れじゃないか。

 

 

 

「貴様が先程のゴミを持ち込んだ物であろう? ゴミは適切な場所で処理せぬか。お陰で我の所有物に余計な物が付着した。臭くて臭くて不愉快な移り香がな」

 

『え? 臭かった? メンゴ』

 

 その相手は女の子の声が良く似合う可愛らしいパンダのヌイグルミ、僕が懐かしい過去の再現の中で真っ先に違和感を覚えた存在。

 それが戯けた様子で口ばかりでさえない謝罪を口にすれば、漏れ出る殺気は僕にも届く。

 

「逝ね」

 

 再び振るわれた刀は今度こそ彼女の腕の可動域が許す範囲を凪払い、僕の頭に乗っていた何かは寸前に避けたのか何かが宙を舞う音と気配のみが僕に伝わって、此度の攻撃での成果は僕の髪の毛が幾つか、それとパンツも不味い気が。

 

 心底不機嫌そうな顔でさえ心を奪われ、声に魂を引き抜かれる気分だ。

 ずっと見ていたいが、同時に気になるのは彼女の注目を一心に集める存在であり、どうやら悪夢に深く関わる可能性の在る存在。

 

 ……お札を触っちゃった祠関連とか、カメラを仕掛けた曰く付きの神社の神様じゃないよね?

 どうしよう、大和さんを巻き込める様になってから行動範囲も関わり方も大きく広がったけれど、本気でヤバい事には手を出せずに終わる始末。

 でも、その前にアプローチしてヤバい事に繋がりそうな心当たりは山程……。

 

「……あれ? 僕、何で……」

 

 目の前では振るわれる刀をヒラリヒラリと避け続けるパンダの姿、振るうのは心を奪われる程の美人、だってのに僕はどうして変な方向に思考を持って行っているんだ?

 

 何時もの僕ならしない事、それを自然としていると自覚すれば違和感が波になって押し寄せる。

 頭を抱えても答えは出ず、まるで思考に靄が掛かったみたいだった。

 

 

『酷いなあ。僕は自分以外を玩具としか見ていないだけで人畜有害なパンダなのにさ』

 

「被れていない猫を被るな。言わずとも腐り切った性根が伝わって来る。声を聞くだけで不愉快だ。そのくだらん物を被るのをやめればどうだ?」

 

『わーお。見抜かれてるぅ。被るの結構大変なのに凄い凄い。じゃあ、見抜いたご褒美に一つだけ質問に答えてあげる。……何か知りたい事があって来たんだよね? 可愛い部下の後釜である僕に何を聞きたいんだい?』

 

「部下? ああ、奴の事か。お見通しの様で詰めが甘い。……いや、従えてはいるぞ? 何せ我だからな」

 

 近くにいるだけで身が震える殺気、そう、殺気なんて今までの人生で浴びる事が無かった僕でさえ殺気であると理解するそれを浴びながらもパンダはふざけた態度を崩さない。

 徐々に動きを読まれて裂傷が増えているけれど綿が飛び出すだけで平気な様子、ヌイグルミだし痛みはないのかな?

 

 そんなパンダの問い掛けに彼女が苦々しそうな表情を浮かべた時だった。

 何かが周囲に降り注ぐ、ベチャ! って音を何度も響かせて、その内の一つが僕の足元に転がって来て何なのかがと思って見てみれば、それは頭の一部を食い千切ったテケテケの頭部、行方不明になっていたあの少女の無惨な姿。

 

 脳が穴から溢れ落ち、目玉も半分飛び出してぶら下がっている状態で視線が動いて目があった。

 それに地面に転がっているのは人間の上半身、バラバラで所々食べられていて……。

 

 

『タス…ケ……』

 

「ひゃぁあああああああああああっ!?」

 

 もう限界だった。気絶しなかったのは作り物として見ていたとはいえグロテスクな映像を見慣れていたからで、それでも頭だけの状態で喋ったり、散らばった指や手が一斉に僕の方に這い寄って来たら叫ばずにはいられない。

 

 全力で放り投げたテケテケの頭は弧を描きながら地面へと向かい、飛び出して来た人影に受け止められる。

 おいおい、この状況で追加!?

 

 

 

『たマひめ、これ、たべて、いい?』

 

「後にしろ。おい、下郎。天探女は何処だ? 貴様程度なら知っているだろう? って、おい!?」

 

 頭を抱えて着地したのは黄色っぽいツインテールの少女、身長は伊弉諾さんより十センチは低いだろう。

 丸っこい目付きに、青緑色の瞳。渦を巻いたぐるぐる目で、ニカっと笑って見えた口の中にはギザ歯、八重歯が若干太い。

 

『いただきマす』

 

 まるでお菓子を差し出された子供みたいにテケテケの頭を口元に持って行き、返事も聞かずに……。

 

 

「食べ…た……?」

 

 あっ、駄目だ。もう限界……。

 

 視界がグルグル回っているし、世界が白く溶け出している様にも感じる。

 意識が少しずつ薄れて行く中、塵になって消えていくテケテケの頭を放り出した少女はパンダの方を見て動きを止めた。

 好物を前にした子供みたいな表情から一変、今は感情が抜け落ちた人形みたい。

 

 

『おマえ、は!』

 

 あの表情を僕は知ってる。急激な落差でグチャグチャになった感情の制御が出来ない状態だ。

 人差し指をパンダに向けて、そして溢れ出す寸前の感情によって身体が震えている。

 

 怒りの臨海点ギリギリなんだろう。

 それを煽る様にパンダはお尻を向けて左右にフリフリ動かしている、性格悪っ!

 

『久しぶりだね、饕餮。君の後釜の窮奇だよ。いやいや、面白い事になってるね、君。周囲の連中を消したかいがあったよ』

 

 

 饕餮? 確か中国の妖怪だった筈、凄く大食いの獣体人面で魔除けにも使われている。

 それと天探女も神話に出て来て、別名は……。

 

 

 記憶を総動員する間も視界の揺らめきは強くなり、徐々に地面が沈んで行く、いや、違う。

 この夢の世界に来た時とは逆で引き上げられているんだ。

 地面を見下ろせば刀を手にした彼女がツインテールの少女の頭に拳骨を落として……うわっ。

 

 

 

「地面が陥没する程の威力に驚けば良いのか、それを食らっても痛そうに摩るだけに驚けば良いのか」

 

『両方じゃない?』

 

「そうだね。両ほ…う?」

 

 視界が白く染まって行く中、最後に見た光景に思わず呟けば耳元で聞こえる声、あのパンダの声だ。

 あのパンダが僕の肩に乗っている。

 

 

 

「テケテケがやられちゃったし、一緒に帰らせて貰……」

 

 そこまで喋った所で地面から引っこ抜かれたらしい道路標識がパンダの頭を貫通して飛んで行き、僕の耳も僅か掠る。

 ああ、嫌だ嫌だ、パンダが嫌いになりそうだ。

 

 やがて意識が一瞬途切れ、目を開ければ信号待ちの車内。窓の外の風景は殆ど変わっていなくって、肩や耳や頬が少し痛い気もする。

 

 夢の中だとはいえピンチは去ったらしいね。

 

 ホッと一息、胸を撫で下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アンナ、ちょっとそこのガソリンスタンドかコンビニに寄ってくれるかい?」

 

 でも、ただ今絶賛乙女の尊厳の大ピンチ。早くしないと家に引き返す事になっちゃうよ。

 

 

 

 

 

 




次は大和視点でちょっと それで次章

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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