三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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流れツイた物 二十四

 朝起きたら同居人が増えていた、そんな少し混乱しそうな状況に陥った事はあるか? 

 俺はある、寧ろ今はそんな状況だ。

 

 俺に移り香が着いていると知らされた翌朝、普段より少しハードな修行を夢の中で受けた俺が目を覚ます直前に小さな手が顔をペチペチ叩く。

 ドロシーが朝食を待ちきれずに起こしに来たか、とも思ったが、それならセクハラ込みの起こし方をする筈なのに耳元で囁いた上で舐めるとかもしねえし、幾ら小柄でも手が小さい。

 

 一体誰だと目を開ければ四つん這いになって俺の顔を覗き込んでたのは小学生位の女の子、それが八重歯を覗かせながら俺の頬に触れて来ていたんだから、混乱したよ。

 

「取り敢えず……名前は?」

 

『あたしかー? なマえ、かなえ! おマえ、は?』

 

「俺は大和だ。よろしくな」

 

『よろしく、なー!』

 

 変な奴なら二人が入れたりしねえだろうし、敵意も感じないから多分大丈夫だろうな、うん。

 

 無邪気な笑顔で言葉を交わすかなえちゃんは多分人間じゃないんだが、妖魔とも少し違う感じだ。

 コミュニケーションの基本は自己紹介からと名前を教え合いはしたが、さてさて、本当に誰なんだ?

 

「取り敢えず朝飯にするか。……急がないと不味いな」

 

 時計を見れば未だに早朝、でも二人の食事量を考えたらキッチンにダッシュで向かうべき時間帯だ。

 今日は起きた後の筋トレが休みの日だからまだ良いんだが、力士数人分は食うくせに全然手伝ってくれねえからなあ、あの二人。

 

「思い返したら少し腹立って来たな。娯楽とか順応するんなら、価値観も少しは更新しろっての」

 

 炊事は姫のする事じゃない、とは二人の弁だ。

 時代を考えりゃ分からんでもないんだが、ゲームや漫画を楽しんで一日中ゴロゴロしたり、組手で容赦無く攻撃して来る姿を見れば物申したくもなるってもんだ。

 今さら皿を並べるとか机を拭くとか頼んでも無理だとは思うんだが、理不尽なものは理不尽だし、別口で何かやって貰わないとな。

 

『めし、か? あたし、も!』

 

 服を引っ張られたから視線を向ければ人差し指を口元に当てて腹を擦る空腹のポーズ、腹が減ってるって事か。

 

「了解。食うんだったら用意する。着替えるからちょっと部屋の外で待っててくれ」

 

 今さら子供一人分増えた所で大して変わらないだろうし、食べたいって言ってるのに駄目だって言う理由もないしな。

 かなえちゃんは飯が貰えるのが嬉しかったのか、ベッドから飛び退くと素早い動きで出て行く。

 

 最初は警戒したが、悪い子じゃなくて一安心、残った問題は何処の誰かって事だ。

 

『たまごやき、あるか? あたし、すきなやつ、だ』

 

「卵焼きか? ああ、勿論あるぞ」

 

 着替えてキッチンに向かう俺の後ろをテクテクとカルガモのヒナみたいに着いて来るかなえちゃんは普通の子供にしか見えない。

 着てるのはボロボロの着物、それも質があまり良くない奴だが、どういう出自なんだろうか?

 

『てつだう、か? むかし、やってた、ぞ!』

 

 あっ、普通に良い子だ。

 人間じゃないし、常識は通じなさそうだからって警戒は残していたんだが、好物があるからって聞いたら凄く嬉しそうだし、自分から手伝いを言い出す辺り、あの二人とは大違いだな。

 

「……妖魔だよな?」

 

 気配がそれっぽいんだが完全じゃないし、チラリと後ろを見ても分からない。

 もう少し感知系の修行が要るとしか言えねえ、ちょっと前までは悩む必要無かったのにな。

 

 

 相手が人間じゃない、そんな予感が外れないでくれって願うのは初めてだよ。

 外れてないよな? いや、本当に当たっていてくれ。

 

「ドロシーの奴、ついに気に入ったのを誘拐しやがったか? 流石に違う……よな? 違うと思いたいが……違っていてくれよ、マジで」

 

 俺と二人は表向きは主従関係、つまり俺には重大な管理責任があるって事だ。

 主従関係とか鼻で笑うし、人前で俺への弄くり込みでそれっぽく振る舞うだけだがな。

 

 なのに欲望全開色ボケ娘のドロシーが女児誘拐をやらかしたら人生詰んでしまう、信じたいが、彼奴ならやりかねないな、と思いながら少女を見ているが、連れ込まれたなら怯える筈だ、俺はとくに顔が怖いのに。

 

 いや、そもそも二人って家から出れなかったな。この辺りは近所の通学ルートから外れてるのか、小学生の時だって俺と八雲は家の近くで他の生徒を見なかったし、今も遠目にすら……だから違うか。

 

「さてと、皿を並べてくれるか? その前に手を洗って……こうすれば水が出るからな」

 

 水道の前で困った様子のかなえちゃんに水の出し方と止め方を教え、大皿をテーブルに並べて貰っている間に調理開始だ。

 炊飯はタイマーで、可能なら電気調理器で行程を省いて兎に角量と種類を稼ぐ。

 一人で作るんだ、ビバ現代文明って位に楽がしたい。

 

 じゃあ、次は卵焼きだが出汁巻かネギ入りか……。

 

「甘い物は好きか?」

 

『すき、だ! あるの、か? マんじゅう、とか!』

 

「饅頭は昨日二人が食い尽くして買い置きがなくなったが、別のはあるぞ。飯食い終わったら羊羹出してやるよ。貰い物の上等の奴。秘蔵のをそろそろ出す頃だって思ってたし」

 

 隠しておかないと二人が勝手に食い尽くすからな、姫だってんなら慎みを持てってんだよ。

 現代の飯が人間だった頃よりも美味いからって好き放題食べ回る二人だが、用意するのは当然俺。

 しかも何種類もメニューの注文までして来る始末、かなえちゃんなんか卵焼きだけだってのに。

 

「取り敢えず今日は甘い卵焼き中心で良いか」

 

『あマい、たまごやき?』

 

 んっ? 甘い卵焼きって言われてピンって来てない感じか?

 かなえちゃんの服装からして卵も砂糖も高価だった頃の出だろうし、それも無理がないんだろうが。

 

「甘いの嫌か? だったら別の味付けにするぞ?」

 

『たべる! くいたい!』

 

「そうか。じゃあ、ちょっと待ってろ」

 

『みていたい! だめ、か?』

 

「いや、別に良いけれど包丁とか使うし割れ物もあるから走り回るなよ?」

 

 

 こうしている間にも時間は過ぎて行くし、一応何をしているかを気にしつつ料理を始めたが、冷蔵庫を物珍しそうに眺めるも勝手に開けないし、邪魔にならない場所で見ている辺り、躾がちゃんとされているらしいな。

 

 和食と洋食を並行して作るのは大変だが、片方が遅れたら拗ねるのは目に見えている、だからコンロを複数同時に使って作って行く中、今日ばかりは新顔のかなえちゃんの希望を優先だ。

 

 

 

 子供向けに砂糖を多めに入れて、一応出汁入りのも作っておく。

 

「卵焼き完成っと……味見するか?」

 

『する』

 

 完成したら皿に並べる予定だったんだが、台に手を置いて覗き込む顔を見ちゃったらな。

 これがドロシーなら許さないが、相手は子供だし良いだろ。

 

 小さく切った甘めの卵焼きを箸で摘んで差し出せば大きく口を開けて中に入れて、口を閉じた途端に驚きの表情遠浮かべる。

 

「美味いか?」

 

『うマい、ぞ! まだ、あるか? かなえ、の、ぶん!』

 

「そりゃ有るに決まってるだろ。食いたい奴の前で飯を見せびらかす趣味は無いからな」

 

 目を輝かせているし、じっくりと味わう様に口の中で堪能してから飲み込めば、残った卵焼きに視線が向いていて、そっと手を伸ばそうとするが途中で引っ込めた。

 

 手掴みで食べるなって注意する必要は無し、と。

 

 子供受けが良さそうな食器あったか、と棚の奥を漁ればパンについてるシールを集めて貰えるキャラ物の皿。

 

「俺の分、ちょっとやるよ」

 

 二人だったら何も言わずに食べるだろうに……本当に良い子だな。

 

『ほんとう、か! おマえ、いいやつ!』

 

「ちゃんとお手伝いしたらな」

 

『いい、ぞ! あたし、おマえ、に、したがう、な! たマひめ、より、ゆうせん!』

 

「大袈裟な奴だな。卵焼き程度で其処まで言わなくても。……玉姫? 姫……あっ!」

 

 一瞬分からなかったがお玉の関係か、名前や服装からしてそうだよな。

 いやはや、姫って分かっちゃいたが、玉姫なんて呼び方じゃ結び付かなかった。

 

 

「一応聞くけれど玉姫ってのは綺麗な黒髪の美人で、何だかんだで面倒見が良い奴だよな?」

 

『……たぶん、そうだ、な?』

 

 ちょっと迷った後で頷くかなえちゃん、一応そういう認識か。

 付き合いが長いと見た目以外の良さも見えて来るんだがな。

 

「それで口も目付きも悪いし乱暴で暴君で貧乳で、男っ気無いのに余裕ぶった演技する奴」

 

『そうだ、な!』

 

 今度は即答……そういう認識か。

 

「人使い荒いよな」

 

『なー! あったとき、われにしたがえ、いってた、ぞ! マんじゅう、と、ひきかえ、だ! けち! たいらむね!』

 

「どんな出会いだよ。俺も出会った時にあと少しで手下にされそうになってたからな……。あのペチャ……着物って映えるには余計な脂肪が要らないって」

 

『そーだな。もと、あるじ、きもの、にあってる、ぞ』

 

 好き放題言ってた俺達が急に褒め始めた理由? それは感じたからだよ、特大の殺気って奴をなあ!

 

 話に夢中になってたから気が付かなかったが、一体何時から聞かれてたのやら。

 分かるのは一つ。殺気が向かって来る方向を向いちゃ駄目だって事だけだ。

 

 誤魔化せ! 何とか誤魔化すんだ!

 

 この時、俺達の心は一つになっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほほう。それが貴様等の本音か?

 

 そして現実は無情、チラッと視線を送れば腕組みをしたお玉がキッチンの入り口を塞ぐ仁王立ち。

 誤魔化せると思ったのか、鋭い視線だけで伝えて来ていた。

 

 

 

 ……所でかなえちゃん、妙な事を言ってなかったか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其処の小娘は我の配下だ。我が人であった頃、壊滅した古寺で立ち尽くしていた所を従えた。かなえは古寺に住んでいた生臭坊主がやった名前らしい」

 

 その細身の何処に入るんだって量の朝食を大方食べ尽くした頃、漸くお玉がかなえちゃんについての話を始める。

 

 人間だった頃からの付き合いか、どおりで好き勝手に言えるもんだな。

 

 

『あたし、の、ちち、だぞ! あに、も、あね、も、たくさん、いたんだ!』

 

「家族が大勢居たのか。……その頃には既にか?」

 

「左様。人ではなくなった身、それも忘れられて名すら定かでなき神社に封印にも関わらず人の子として育てていたらしい。妖魔としての名は……どうでも良かろう。この場で呼ぶ必要も無し」

 

『ねがう、が、かなう、ため、らしい、ぞ! ゆらい!』

 

「そりゃいい名前を貰ったな」

 

『ようま、の、なマえ、きらい、だ。もと、の、わすれた。だから、かなえ。あたし、の、な! ちち、が、くれた!』

 

 二人程じゃないが、それでも大食い大会レベルの量を平然と食べ進めるかなえちゃんは家族の話になった途端に嬉しそうで、同時に普通の子供らしい様でらしくない所を見せる。

 

 家族と住んでいた場所が壊滅したってのを聞いても嬉しそうに語っていられる所とかな。

 

 

「察しているだろうが、昨日になって漸く呼び出せるようになった配下だ。後は正式な契約を結びのみ……だったのだがな」

 

「配下にしては……痛たたたっ!? おい、止めろ」

 

 会話の途中で言葉を濁したお玉の足が容赦無しに俺を蹴り付ける。

 地味に痛いから止めてくれと言っても無駄なんだろうが、ちょっと理不尽だろ!?

 

 その不機嫌の理由が俺にあったとしてもな。いや、少ししか悪くないよな!?

 

「俺だってまさか契約を結んじまうとは思ってなかったんだよ。飯の支度を手伝ってくれって頼んだだけで、まさか中途半端になっていた契約が上書きされるとか思わないだろ?」

 

 俺達三人だって俺の友達になりたいって言葉が契約になっちゃいたが、これが妖魔との契約か。

 視線を向けた先では残していたピーマンを恐る恐る口に運んで渋顔のかなえちゃんがいるが、多分本人にも自覚は無かったんだろうな。

 

 そんな理由から弁明してみたが失敗なのか蹴る力が余計に強くなるばかり、さっきから妙に黙っているドロシーまで加わった。

 

 

 流石に二人では酷くないか!?

 

 

「妖魔とは口約束すら交わすなと何度も言ったのだがな。まあ、良いだろう。貴様は我の所有物、故にその配下のかなえも我の配下だ」

 

「こんな小さい子をこき使うなよ? 今の時点で既に……」

 

 これだから江戸時代の価値観は困るんだが、俺の不始末を指摘されたら敵わない。

 そうだよな、どっちにしろ書類上は俺が従えてるって扱いで手続きもするんだが、二人同様にかなえちゃんを実際に部下として使う自分の姿が想像出来ないし……そもそも俺が誰かを指揮下に置くのがそもそも……。

 

 

「かなえちゃん、こっち向け。口元にソースが付いてるぞ」

 

 箸はちゃんと扱えちゃいるがフォークの扱いは当然不慣れなせいか、かなえちゃんの口の周りは少し汚れてしまっている。

 今後は慣れて貰うとして、部下だっていうのならお玉にも手伝って貰おうと思った時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかん! いかんぞ!!」

 

 さっきから黙っているから妙だと思わされていたドロシーが立ち上がって力強く人差し指をかなえちゃんに突きつける。

 はいはい、また妙な事でも思い付いたんだろ、当のかなえちゃんは首を傾げるばかりだが、慣れてくれとしか……。

 

 

 

 

「この様な美童、着飾らせざるは余の誇りが許さぬ! 大和、追加の給金を所望する! この娘の服を通販で見立ててやろうではないか!!」

 

「……思ったよりマトモな提案だな」

 

 半分は欲望混じりだろうが、同じ服装ばかりってのもな。女の子の服とかさっぱりだから任せるとして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お玉、テメーの部下なんだし服飾費は出してくれるよな? 今月の小遣いは使いきったみたいだが……分かるよな?」

 

「ちっ!」

 

 大きな舌打ちも表情も不機嫌さを一切隠す気なんて無い事の現れだろうが、それでも断りはしないか。

 かなえちゃんだって怖がってはいないし、出会った頃からちゃんと面倒見ていたっぽいな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、移り香関連頼むぞ」

 

「……良いだろう。此度の一件、それなりの妖魔が絡んでいると我は見ている。それに関わる情報も存分に手に入れて見せようではないか。だが、分かっているな? 服装の代金程度では賄えぬ報酬額だ。相応の報酬を請求する所だが……此処は一つ賭けよ」

 

「賭け? 大抵それを言い出したら負けまくりのテメーがか?」

 

 ちょっと前にトランプで負けて罰ゲーム受けていた奴が何を言ってるんだか。負けたら従うけれど不機嫌になるから嫌なんだよな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「拒否権があるとでも? ターゲットは学園内の者だと忘れたらしいな。貴様は常に霊力を使い続け、我と視界を共有させよ。さすれば我が見抜く、それだけだ。少しは働け。そして賭けの結果、我が勝てば一週間、毎朝毎晩共にマッサージを命じる。貴様の勝ちなら……有り得ぬ話だ、適当に決めておけ」

 

 話はこれで終わりだと、食べ終えた後の食器も片さずにお玉は姿を消す。かなえちゃんだっているんだし、流しにまで持っていってくれたら良いのに反面教師がよ。

 

 

 

「それにしても一日中強化続けるのか……。ちょっと継続するの苦手なんだが……」

 

 

 

 

 まあ、妖魔が本格的に何かする前に対応してくれるんだし、仕方無いんだろうが……。

 

 

 

 そして数日後、お玉は妖魔を倒した事を俺に報告するんだが……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで情報は?」

 

「……」

 

『たマひめ、ききだすマえ、に、おこって、だいなし!』

 

 よし! 勝った!

 

 

 

 

 

 

 

 




漸く次にいけるぞぉ

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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