三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
目前の十人の命を救う事よりも妖魔一体を討伐せよ、勝てぬと判断したならば即撤退。それこそが先の世にて万人を救う事になりえる。
それが無尽蔵に湧き、日夜新たな存在が産み出される妖魔に対抗する退魔士の在るべきとされる姿。
貴重な才能、研磨に掛かる手間と時間と人材、それらを考えれば目の前の一般人(但し、退魔士もあくまで特殊技能持ちの一般人であるとする家も多いが)よりも己を優先させるのが長い目で見れば最適解であるとされている。
その一族の屋敷の一室、実状を知らない周辺住民からはヤクザか大地主か世襲を続けた政治家一族と思われている広大な敷地内でも特に広い畳の間。
四方をおどろおどろしい百鬼夜行図を描いた襖で囲んだ部屋にて集まったのは、拳大の珠を繋げた数珠を首から下げた修験者に尼僧や烏帽子を被った平安風の優男等の如何にもな服装の者は一切いない。
居るのはシャツにジーパンや大量生産物のスーツ姿と退魔士には少々似付かわしくない姿ばかりだ。
「それじゃあ新人研修では今まで以上に公的機関との連携の必要性を説いて、ビジネスマナーを身に付けさせるって事で」
「異議無し。昨今は公的な補助の必要生が増しているというのに、それを理解せず力を貸してやっているという考えの者が増えていますからな」
「特に霊力に目覚める迄は此方側と無関係な家の者に多いですよね。漫画やゲームじゃないんだし、特別視が過ぎるんですよ」
「気合いを入れる為か如何にもな服装をしますが、あんなの戦闘じゃ動き辛いでしょうに。高下駄よりもスニーカーの方が良いでしょう、普通に考えて」
プロジェクターによってスクリーンに投影された資料を眺めつつ続けられる会議は和気藹々と和やかな様子。
所々頭を悩ませる様子を見せつつも話し合いは穏やかに進む中、司会進行役が続いて映し出したのは大和の写真を載せた資料だ。
「続いて霊給者についてですが、どうやら新たな妖魔との契約を行ったとの事です」
「こらこら、名前で呼びなさいな。能力で呼ぶのはちょいと失礼だよ。例えこの場に居なくてもね」
「失敬。では以降彼は武尊君と呼びましょう。姫さんと友人程度にはなっているみたいですし」
その退魔士を平安時代以前にまで遡るほど昔から続け、血筋の者以外の退魔士さえも数多く傘下に置いた一族である伊弉諾家、その本家の屋敷にての会合の割には空気が軽い。
「上位相当の妖魔二体を既に従えていたんだっけ? 姫さん、新しい奴の力はどの程度って?」
此方は写真等の資料は無いのか見た目の特徴と態度等の少ししか分からない。
ただ、美少女二人と聞いて口笛を吹いて横の者に小突かれる者や苦笑を漏らす者が数名。
「これこれ、若人とはいえ下衆な勘繰りは止めてやりなさい。先入観は目を曇らせる」
それを咎めたのは少女の声だ。
「御意見番殿……」
上座に座った男の斜め後ろで正座をしている眼帯の少女。眼帯は革製で顔の左側大半を隠している他、白髪を長く伸ばした以外は年若い見た目に反し、醸し出す雰囲気は老婆のそれであり、嗜められた者も悪戯を叱られた子供に似た反応だった
「それよりも新しい妖魔について話してくれるかい? 引き込むにしろ横から掻っ攫われるにしろ、知っておくべきだからね」
「それが新たな妖魔も上位相当なのですが、名前を“かなえ”と名乗っているらしく……」
その名を聞いた御意見番は僅かに眉間に皺を寄せ、額に指先を当てて口を開くのだが、先程までと違い、少々重々しい雰囲気だ。
「かなえ、ねえ。確か江戸時代辺りで分家がやらかしたポカにその名前が出てたっけ」
各自に配られたのは当主の娘である小姫からの報告書。
定期的に送られるそれによればテケテケと面食いの討伐報告を零課にした時、新しい契約相手について意見を求められて軽く顔合わせをしたとの事だ。
「然り。記された特徴が小姫の報告と一致しているよ。封印が緩んだ所を孤児を育てていた生臭坊主に拾われ、名を与えられて大人しくしていたという妖魔とな。中身も子供だったので他の子供とも仲良くやって、美談でめでたし……で終わらなかったんだ」
「模造品とはいえ中国の大物妖魔だってのに、中身も子供だからって助命懇願したんだろう? その結果、誘き寄せられた妖魔に孤児も坊主も喰われたらしいが……話が少し逸れたな」
「今は武尊少年についてですもんね。片手間に話すことではないや」
「まあ、例の少年については姫さんが引き込みを頑張ってるらしいし、妖精使いの介入も問題無いって事で……四凶についての話題にしときます?」
「その前に……まーちゃん、盗み聞きは駄目だと言っただろう。腹芸や政治を学んでから正式に参加しなさい」
上座の男が溜め息混じりに視線を向けたのは背後、僅かに隙間が開いた襖。
その隙間から中を覗いていた目が引っ込んでパタパタと小さな足音が遠ざかって行く中、男は背中に責める様な視線を感じていた。
「当主殿、下の娘を些か甘やかし過ぎでは? 非才の身でも退魔士としての道を選ぶなら、と上の娘には能力相応の扱いをしているというのに」
「面目有りません、御意見番殿。ただ、あの子は未だ小さいですし……」
「その若き身に余る才と周囲の者の持て囃しで随分と増長しているのだが? やれやれ、此処は老骨が軽く説教でも……」
苦言を呈しながら立ち上がろうとする彼女に当主である男が少々恥いる顔を向けた時、彼女の動きが止まる。
立ち上がる寸前で停止し、表情すら微塵も変わらない彼女に向けられるのは心配の表情で、中には慌ただしく誰かを呼びに行く者までいた。
「不味い。今、ミシッって音がした。急に立ち上がったせいで腰がヤバい。い、医者を……」
「見た目は若くともガタが来てるんですから無理しちゃ駄目ですって。昨夜も夜通し雨虎の牽制で暴れまわったんでしょうに。冷や水が過ぎますよ」
「しかし、此処であの子を放置してはならぬ。医者は後で良い。悪い事をしたら直ぐに叱らねば、ふぐぁっ!?」
それは意地なのだろうか? 周囲が止めるにも構わず決心した顔で覗き見をしていた者を追いかけんとして立ち上がり、今度はゴキリと大きな音が鳴ってその場で崩れ落ちた。
「四凶の他に議題って何が有りましたっけ?」
「原材料費高騰で呪具の値段が上がってるって事とかですね。フリーでやってる人には痛手だし、支援をどうするとか」
「じゃあ、御意見番殿が回復するのを待ちましょうか」
腰痛で悶える見た目少女の上役に慣れた様子の彼等。
その様子を先程の盗み見の犯人は遠くから盗み見していた。
本人は隠れている気だろうが撫子色のツインテールが見えているし、周囲の者が指摘しないだけでバレバレだ。
「御意見番様も情けないの。ロートルは大人しく隠居して、アタシみたいに才能豊かな若手に席を譲れば良いのに。まっ、マニちゃんと同レベルなんて居ないんだけれど」
顔立ちは小姫に似ており、血縁を疑う余地は無い。チャックが開いた兎のポシェットからは過剰に詰め込んで少し砕けた物まであるお菓子が覗き、朱色の瞳には渦巻きの紋様が見えた。
尚、年の頃は小柄ながら十代前半なのだろうが、小姫どころか同年代と比べても貧しい体型、つるぺたすとん。
小姫が特盛りなら彼女はミニ、凪の状態、見渡す限りの大平原、血の繋がりは疑わしいと前言撤回したくなる。
「小姫ちゃんったら偉そうにしておきながら霊力以外でもざーこ。さっさと引き入れちゃいなよ。あっ! そーだ!」
大切な事なので最後に追加を。胸部の戦闘力は圧倒的な格差だ。
「マニちゃんが引き入れちゃえば良いんだよ、そのお兄ちゃんを。だってざーこな小姫ちゃんを強化するよりも最強無敵なアタシを強くする方がこーりつ的だし? あったまいー!」
ポシェットから取り出した小さいスナック菓子の袋を開けて一気に口に流し込んだ少女は八重歯を見せて調子に乗った笑みを浮かべる。
己の考えに微塵の間違いも存在しないと信じ切った顔であった。
「土に……お還り下さいませ、ご主人様」
学校から帰ると玄関で既に待っていたのかお玉が出迎えてくれたんだが、その表情は俺を射殺す感じにズバズバ突き刺さる鋭い物で、噛み締めた奥歯がガチガチと音を立て、お辞儀の際に前に置いた手は震える程に握り締められている。
尚、服装はミニスカメイド服だった。髪はポニーテールにしていて、袖も胸元も布が随分と削られていて、これはメイド服ってよりはメイドプレイ用の衣装だろ。
まあ、見ていて悪い気はしないな。胸はちょっと貧しいけれど。
「何だかその服装って新鮮だな。特に生足、がっ!?」
普段は垂らした長髪を束ねてポニーテール、長い裾でギリギリ足首が見えるからどうかだったのに今はうなじも生足も見放題。
グッジョブとばかりに服装を選んであろうドロシーを褒めながら足に視線を向けた瞬間に顎を蹴り上げられた。
「この服装がどうか死にますか、ご主人様?」
「さっきも思ったけれど殺意が言葉に漏れてるからな!?」
蹴り倒されて尻餅をついた所で顔の横に刀が添えられる、これは下手な事言ったらヤバいな……。
似合うな! → 我に女給の服が、それも如何わしい丈の物が似合うだと?
エロいよな → 死ね!
大体こうなるに決まってるよな。肌を隠すのが当然の時代の姫だ、絶対怒る。
でも、多分似合わないとかスルーしても怒りそうだし……面倒臭い!
「偶には違った姿のお玉が観れて嬉しいとは思うぞ。新鮮味があってさ」
「……ふん」
どうやらセーフだったらしい、基準が分からん。
俺の顔の横から刀を引くと、不機嫌そうに睨んだままだが鞄を引ったくって運んで行く後ろ姿に目をやれば背中が大きく露出しているし、左右に揺れるポニーテールに隠された首筋がチラチラ見えるのは妙な色気が。
さて、此処ら辺で重要な事を聞かなくちゃな。
「何でメイド服着てるんだ?」
「今更か、ご主人様。……我は己の言葉に責任を持つ。かなえを御し切れなかったのも我の責任故、こうして大口の代償を支払っているのだ」
「お、おう。流石だな、うん。そういう所、素直に尊敬する」
大口ってテケテケ達を倒しに行く時の賭けだよな? 重要な情報を手に入れられるかどうかって。
一体が京都に居るって聞き出したのに、それは正確には本当ではあるが違う、とか言い切ってたもんな。
「別に俺に対してご主人様呼びの必要ってないだろ? 普通で行こうぜ」
「ドロシーの馬鹿が罰ゲームに今の服装でメイドとして振る舞えと言って来たのだ、ですよ。誰に、とは言う前に腹に一撃入れてご主人様を貴様にしてやったのですが、有り難く思え」
敬語使えてねえなあ、人間時代どうしてたんだよ。
ボロが出まくりだってのに自分ではちゃんと熟せていると思っているのか、そもそも口約束でこの有り様って妖魔との契約云々なのかも知れない。
「阿呆ですか、ご主人様。我程にもなれば己の意思で契約の有無を選べる。粗忽な貴様とは違うのですよ、ご主人様」
「つまり何だかんだ言っても今のメイド服は自分の意思という事か。……いや、凄くむず痒いから話し方だけでも普段通りにしてくれ」
「良いだろう、それが貴様の願いならば許可してやろう。感涙して感謝せよ」
うん、やっぱりお玉はこうでなくちゃな。
何かあれば即座に拳が飛んで来そうな、テメーはそれでメイドのつもりなの!? な態度だから最初から破綻してはいるが、正直メイド服は笑えても敬語使われるのはちょっと。
「その服装は新鮮だし、話し方は来客時にしちゃいるが、何時ものお玉が一番だな。俺は普段のが一番好きだぞ」
だから普段通りにしてくれと頼んだが、満足そうな笑みを浮かべて頷いているし、これで八つ当たりは防げる。
「ふむ。……ならばこれはどうだ?」
不意に伸ばされた手に掴まれて扉に押し付けられた俺の顔をお玉が至近距離で見つめて来るんだが、普段とは違う雰囲気を服装で感じたせいか思わずドキリとしてしまう。
何せ傍若無人な暴君だろうと凄い美少女、出会った年齢と状況次第じゃ惚れていても不思議じゃないと思ってる相手だからな。
それにこの至近距離で大きく開いた胸元が見えてるんだよ。想定された大きさより薄いせいで隙間があって、雪みたいな白い肌の先端が僅かに……サラシ無し!?
「気になるか? ああ、この服装には無作法と言われたがブラはどうも落ち着かぬのでな。それで、どうする? このままメイドらしく奉仕をしてやろうか?」
「メイドの仕事じゃない気がするぞ? 絶対違うだろ……」
「この卑猥な服装の時点でそれ用の使用人であろうに。さて、返事は聞かん。このまま部屋に行くぞ」
最初は質問だったのに強制かよ!?
耳に息を吹き掛けられて一瞬固まった体を預けていた扉が内側に開いて行く。
こんな時、ドロシーが乱入して有耶無耶になるんだろうが、確か今は沈められているんだよな。
まさかと思ってお玉を見れば不敵に笑っている、確信犯か!
「精々励め。でなくば食い千切ってしまうやも知れぬぞ?」
顔は真っ赤で目は泳いでいるのに声は余裕綽々、もつれてフラフラの足取りがなければ今頃押し倒されておっ始まっていた所だ。
「案ずるな。天井のシミを数えている間に終わるだろうよ。所詮は童貞だ」
あっ、流されそうで……。
『やマと、かえった、か! ねこ、つかマえた、ぞ! くおう!』
そんな雰囲気はバタバタと足音を響かせて飛び込んで来たかなえちゃんによって壊される。
いや、食われる所だったのを助けられたが、猫は食わねえよ?
しかも八雲の所のミケじゃねーか。
「その猫は逃してやれ。そもそも猫は……」
『従えた妖魔の躾も出来ちょらんのか、小僧。おどれ、何をやっとるんじゃ』
あれ? 今、喋った?
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
-
五凶星 ごきょうせい
-
悪六烈 おむれつ
-
七福塵 しちふくじん
-
四従死地士 しじゅうしちし