三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
昔の人はお化けを恐れた、だから、行燈の油やロウソクの節約の意味もあっただろうけれどお化けが出るとされた夜は早めに寝ていたとか。
「家にいれば襲われないもんか?」
「家の中で悪さをするという逸話持ちでなくばな。吸血鬼も招かれねば入れぬという逸話を持っているだろう? 家とは一種の結界なのだ、雑魚にしか効かんが」
その辺りに関してはお玉に聞くのが早い、それでも知ってる事しか知らないし、そこまで博識って訳じゃないからな。
そんなお化けに関してだが、人間の友である犬と同様に長い間飼われて来た猫に関してだが飼い始める際は年季を言い渡したとか。
そしてだ、尻尾が増えない様に切っていたらしいな。
怖いんだよ、例え可愛がった猫であっても化け物になれば襲って来るんじゃないかって。
俺は猫じゃなくって犬が好きだが、そんな理由で尻尾を切られる猫は堪ったもんじゃねぇだろう。
化け猫が家族を食って成り代わったとか色々あるけれど、九十九神がそうである様に猫の妖魔も化け猫に関わる逸話が恐怖が猫を変化させるのだとしたら、化け物を恐れるあまりに化け物を生み出してしまうとか、皮肉だと思うぜ。
犬派からすりゃ犬の方が万倍可愛いが、猫が可愛くない訳じゃねぇし廃れて良かった因習だよ。
『さっきから何を人様……いや、猫様の顔をジロジロ見ちょるんじゃ、小童が。それよりも小娘をどうにかせんか。貴様が主人じゃろがい!』
「うっわ。可愛くねぇ……」
そんな猫が目の前で喋っているんだが、全然可愛げが存在しねぇ。
前言撤回、可愛いかどうかは猫による。声も嗄れた婆さんの声の上にドス利いた感じだし。
元々俺を威嚇するのを当番制で毎朝の日課にしていた隣の飼い猫共だが、幾ら何でもこりゃ酷いと本音が口からまろび出た。
『儂の声になんぞ文句でもあるんか? 婆ぁ猫なんじゃ、可愛らしい女童の声でも発すれば満足なんか』
しわがれ声は老猫なんだ、仕方ないだろう。でも、この喋り方と態度は幾ら何でもな……。
八雲にベタベタ文字通り猫撫で声で甘えていたのと同じ猫か? これが?
「マジで俺の前だと別猫だよな。可愛げねぇにも程があるぞ、テメー」
『貴様に可愛がられたいとは思うちょらん。どうとでも評価するとええわ』
この三毛猫のミケ、俺を随分と嫌っているのは分かっていたんだが、
内心でこんな風に思ってたのか……/
尻尾は先端が曲がったカギ尻尾で威嚇なのか全身の毛を逆立てて唸っているんだが、かなえちゃんは気にせずに抱っこした状態で耳をハムハム、口から涎を垂らしていて端ない。
「かんなちゃん、逃してやれ。そいつは一応、隣の家の飼い猫だからな」
『くっちゃ、だめ、か? ねこ、うマい、ぞ?』
「冷蔵庫に入ってるどら焼き、俺の分も食って良いから」
『どらやき!』
目を輝かせたかんなちゃんはミケを床に置くと凄い勢いで冷蔵庫の方に向かって行く。
お肉より甘い物の方が良いのか。出会ったばかりだから分からない事は多いんだが、ひとまずこれで一旦良し。
「もうちょっと現代の常識を教えてやらないと。おた……勇さんに相談だな」
勇さんなら相談に乗ってくれるだろ、テケテケ逹関連の事件の隠蔽工作で大変だろうけれど他に頼れる相手居ないからな。
一瞬だけ出そうになった名前? なんのことやらー。
「おい、貴様。今、我の名前を呼ぼうとして辞めただろう。何故辞めたのか、それをじっくりはっきり説明しろ」
あの子は良い子だ、それは間違い無いんだがが、育ったのが江戸時代、妖魔の感性も合わさって社会適合性はあんまり高くない。
家の外で行動するのは無理だな。今の所は大人しく……猫捕まえたりとか全然大人しくないが、そのうち外に興味を持って勝手に出るようになる。その前に、最低限の社会的常識は身に付けて欲しい。
ただそれだけなんだ、だから肩の骨を砕ける威力で掴むのは勘弁してくれ、いや、勘弁して下さい。
『無邪気と呼ぶ様にあの小娘を咎める気は無いわ。存在せん悪意をどう裁けちゅうんじゃ』
「そうか。助かる。所で……何で今頃になって話せる事を知らせて来たんだよ? あっ、何か食うか?」
ミケはかなえちゃんが走り去った方を見ているんだが、少し疲れた様子が声に滲み出ている。
耳も唾液でベタベタになって毛が寝てしまってるし、無理に抜け出そうと暴れもしなかったよな。
『……誰が貴様なんぞに飯を貰うか。神社の他の猫共には許可無しで神社以外で手に入る餌に手を出すなとキツく言うちょる。よりにもよって貴様なんぞから貰うたら面目丸潰れじゃ!』
えー、何で此処迄嫌われてるんだよ。俺、何もしてねぇぞ?
「神社の猫が他所で悪さしたって聞かないのはそういう事か。そういや、てめーら全員揃って妖魔の眷属なんだってな。長い間話し掛けなかった癖に今頃話し掛けて来たのはその妖魔の許可でも下りたか?」
妙に賢い理由はこの間解明されたが、だからって俺以外に誰も居ないのに話し掛けなかった理由は不明だが、神社なだけに猫神でも実は居るのかもな、お玉なら面倒だから伝えないって有り得るし。
俺の誘いをはね除けて不愉快そうにしつつ棚の上に乗ったミケは飾っている物に一切触れる事なく座り込み、猫とは思えない形相で俺を睨む。
何時の間にか頭に金属製の輪っかみたいな奴、確か五徳とかって名前の火鉢で使うのが嵌っていて尻尾も二又に分かれている。
あれ? 猫又?
『呆れたもんじゃな。大層なのは霊力量だけか。おい、この半端者の指導は貴様達じゃろうが』
「すまぬな。まさか此処迄鈍かったとは我も想定外だ。フォローするならば自らの霊力が邪魔をして探知能力に齟齬が生じ……いや、言わずにおこう」
『儂は五徳猫ちゅう妖魔じゃが、貴様程度が知っちょる筈がないか。眷属なのは儂等三匹を除く猫じゃ、愚か者』
何とも酷い言い様じゃねぇか。特にお玉! わざわざ額に手を当てて溜め息まで吐き出しやがって。
ああ、そうだ、俺は探知系の能力が著しく低いのは認めてやるが、揃って言わなくても良いんじゃないのか?
「……それで何用だよ。まさか日課に俺への罵倒を加えに来たってか? 威嚇に飽きたらずよ」
出来れば今日で終えて欲しいんだがな。未だ猫だったら良いんだよ、言葉が通じる化け猫なら別だ。
あれだ、せめて子猫にしろ、威嚇する姿も可愛いから。
『愚かモンが。貴様如きに其処まで手を掛けてやる訳がないじゃろうが。毎朝のあれはあくまでも縄張りの見回りのついでの嫌がらせに過ぎん』
憤怒、侮蔑、ミケの声に込められている感情はそんな所だ。
俺自身に覚えは無くてもここ迄嫌ってる奴の家まで来るとか何があったんだ?
「随分と嫌われてるもんだ。俺も犬なら別として猫に嫌われても少ししかショックじゃねぇよ」
「なんだ、少しはショックなのではないか」
「だって可愛いだろう、猫って。犬には大差で負けるがな」
それでもかなえちゃんが捕まえて耳をハムハムしても子供だからって怒らなかったよな。
その辺、見境無しの敵意じゃないってのは安心だ。
俺はガキの時分から嫌われちゃいるが、八雲は飼い猫を平等に可愛がってるからな。
死んだ時、あの馬鹿が暫く落ち込むんだぜ? そんな猫を敵に回すのは勘弁だ。
『猫が犬に負けるちゅう戯言は別として、今日は貴様に警告じゃ。八雲は……いや、袋耳神社の者達は古くから儂等が見守って来た子供同然の存在。三文芝居の茶番劇で部活が再開するんじゃろう?』
ミケは一層とドスを効かした声で俺を睨み、俺の肩に飛び乗って顔を覗き込む。
『貴様はどうなって良い。八雲が気にせん程度ならな。守れない、でなければ……』
「いや、その脅しに何の意味があるんだよ? わざわざ言いに来る事か? 暇なんだな、テメー」
その気がないのなら最初からオカルト研究会なんぞに付き合わないっての。この猫逹ともそれなりの付き合いだってのに何を言ってるんだか。
今度は俺が呆れを見せればミケは数秒固まり、鼻を鳴らして肩から飛び降りる。その際に俺の顔を尻尾で叩きやがって、せめて肉球のある後ろ足にしておけよ、糞が。
『これ以上は何も言わん。……いや、言うべき事があるか。あの小娘の躾はちゃんとせんか。朝の嫌がらせに来た猫が襲われたならば容赦せずに貴様を潰すぞ』
「なら嫌がらせを止めろ。躾はちゃんとするけれどよ」
よい子だけれど問題だってあるし、せめて最低限のルールは身に付けさせたいんだよな。
少なくても他所の飼い猫を食べようとしない程度には……。
『知らん。止めんから諦めるんじゃな』
この肉球っ!
犬の肉球も好きだが猫の肉球も嫌いじゃない俺のそんな願いは届かず、ミケは扉を開けて出て行った後で少し強めに閉める。
妙な所で礼儀正しい奴だな……。
それにしても好き勝手に言いやがる。事件の後処理にどれだけの人が手間を掛けてると思ってるんだよ、俺も詳しい数は知らねえけれど。
「茶番劇、か。関係者は大変でも妖魔にはそう見えるんだな。それとも猫の感覚か? なあ、その辺、どっちなんだ?」
「知るか。我に猫の気持ちなんぞ理解出来る筈がなかろう、愚か者め」
犬か猫なら間違いなく猫に近いお玉だが、そりゃ分かる筈がなかったな。
手厳しい言葉を受けながら視線を向けたのはミケが飛び乗った棚の上に置かれた新聞、最近起こった連続殺人事件の犯人の死亡が確認されて事件が終息したって内容だが、チラッと読んだ限りじゃ警察が後手に回った事への非難が専門家の意見として載っている。
「住所不定無職か。経歴もあやふやだし、どうせ適当な情報がネットに流れるんだろうな。そんで直ぐに政治家や芸能人のスキャンダルで事件への興味が移り変わる。……茶番劇っつー訳だよ」
本来の犯人は妖魔だ、当然発表された犯人は真犯人じゃないし、なんなら架空の人物なんだ。
不可解だけれど真相は明らかに出来ず未解決のままなんて不安が蔓延るだろ?
その為に用意された戸籍と写真と存在しない過去、インタビューを受ける知人だって偽物だ。
モザイクと変声って便利だよな。
何なら事件を風化させるニュースだって利用する為に放置したのを使ってるだけ、マスコミの操作を国家権力が行ってるって考えたら怖い話だが、怖い話に使われる化け物が理由じゃ仕方無い……のか?
「たまに妖魔とは無関係な事でも使われてたりしてな。不祥事の追求の最中に別のニュースで大騒ぎするとかある……し?」
隠蔽工作で毎回苦労している零課の事を考えたら貴重な隠蔽材料を使われるのは大変そうだ、そんな事を考えていたら視界が揺らいだ。
立ち眩みか? いやしかし、なんか違う気が……は?
「お玉、一瞬で化粧でもしたか?」
「何を寝ぼけた事を言っている。我とて一瞬で化粧なんぞ出来る訳が無いだろうに……」
どうしてか分からないが、お玉が凄く綺麗になった。
見た目じゃ分からないんだが俺をドキドキさせる何かがあって、キスをした唇や露出した肌から視線が外せそうにない。
体温も上がってるし、これって小姫に一目惚れした時の感覚に似ている気がするんだよな。
え? この一瞬で惚れた? 今更?
今すぐ抱き締めたいとかキスをしたいとか、そこから先に進みたいって欲望が湧き上がるのを感じるし、どうなっちまったんだよ、俺。
「ふむ。成る程な……」
「お、おい。顔が近……」
そんな俺の様子に怪訝そうな顔を向けていたお玉の顔が至近距離まで近付き、心臓が飛び出すかと思う程に跳ね上がった鼓動。
もうお玉しか見えないし、自分の鼓動以外はお玉の声と息遣いだけが聞こえる。
このままじゃ妙な事になると咄嗟に逃げようとしたら捕まり、そのまま唇が重ねられた。
霊力が流れ出す感覚で思い出したのはお玉と最初にキスをした時、霊力が流れ込む時の快感は気を失う程。
倒れ込んでも平気だろうが、それでも支えるべく抱き締めたんだが、あれ? 気を失ってねえ?
「ふ、ふん。この程度、意識していれば耐えられるに決まっていりゅだりょ」
蕩け顔になって呂律も回らず、熱に浮かされたみたいな赤ら顔で体も一瞬ふらついたが、今度は意識を保ったままだ。
どう見ても限界ギリギリ、このまま済し崩しに進めてもどうとでもなるんじゃないか、そんな邪な考えを追い出した俺だが、それに意識を向けていたのをお玉は見逃さない。
「さて、猫畜生にお膳立てされたのは不愉快だが……我も口付けの余韻で我慢する気は毛頭無いぞ」
それはどういう意味なのか、それを考える前に部屋に連れ込まれてベッドに向かって突き飛ばされる。
大の字に寝転がった俺の耳に鍵を閉める音が響いて、起き上がろうとするも押さえ付けられて起き上がれない。
「俺、今なんか妙な状態なのは分かってるんだろ? この辺で……」
終わりにしておいてくれ、その言葉は再びのキスで邪魔をされる。口の中に辿々しい様子で舌が入れられて乱暴に服のボタンが外されるのを感じた。
普段ならもう少し抵抗したんだが、どうも何かされたらしい今の俺じゃこれ以上は無理、寧ろ受け入れてさえいる状態だ。
「このまま身を任せよ。契約も何も無関係にこの時間を受け入れるのだ。……我も初めてだが、何とかなるだろうからな」
キスから解放された俺の耳元での囁き声。そして、そのまま……。
この日、長年続いた関係に変化が起きた。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし