三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
言葉には力が宿る、言霊って奴だ。伏柄流の奥義を使う際に技名をわざわざ叫ぶのだって気合いが入るからで、それも言霊の一つだ。
「中学の頃から名無しのラブレターは貰って来たんだが、俺が晒すとでも思われてるのか?」
小学生の頃、同級生が好きな相手にラブレターを送ったら翌日には掲示板に張り出されていたのを思い出しつつ手紙を封筒に戻して鞄に入れる。
この差出人不明のままでラブレターを送る心理は気になるが、聞いても三人じゃ無理そうだな、作家の橋本ならギリギリ行けるかも知れないが……。
「晒すだろう相手にラブレターを送ったりはしないさ。所で普通に読むんだね。大和さん、恋人いるのにさ」
「わざわざ書いて靴箱に入れるまでした手紙を読まずに捨てる方が嫌われるからな。この程度で破局なんざしねえよ」
そもそも本当は恋人じゃねえし、好きだって伝える前に他の女とヤッちまってんだがな。
「うわっ、付き合い始めて僅かの癖に惚気っすよ」
「付き合い立ては浮かれるタイプだったか」
「変に自身持って浮気したら即座に破局だから注意して」
例え相談に乗るだけの能力があったとして、この三人には絶対に相談したくねえな、したら敗けだわ。
いや、何に対しての敗けなのかは分からないが、取り合えず他の生徒の邪魔になる前に移動しないとな。
「じゃあ、お先に。部室で待ってるからな」
匿名のラブレターならこれまで何度か貰った事はあるんだが、この手紙は少しだけ気になった。
文字が特別綺麗だとか、文章が特別上手だとか、そういうんじゃねえし、相手が名乗って告白してきても受け入れる事は無理だとして、気になって仕方がない。
「誰かに聞いてみるか? 話を聞いてくれそうなのは……」
あっ、駄目だ。頼れる相手が思い浮かばねぇ。
学生組は当然として、相談出来る大人組もガキの頃から知ってる人か変人、頼れる相手はいなかった。
それが関わる相手の偏りなのか総数自体が少ないからかは辛くなるから考えない事にして、何となく手紙が入った鞄に目を向けて固まる。
「はっ!?」
ほんの数分前までは何故か気になる程度の差出人不明のラブレター、今は粘り気を帯びた霊力を放つ呪具。
言葉には力が宿り、それは直接声に出しただけじゃない。想いを込めて文字として残し続けた言葉は声に出した時よりも長く力を宿し続け、時に淀む。
恋文を入れた箱から出た煙を浴びて鬼になった男、手紙を入れる箱それ自体が妖怪になった存在、そんな伝承が残る様に只の手紙が時に呪いを発揮して、それが俺の目の前で存在していた。
「……何が起きた?」
手紙を手に取って思わず固まってしまったのは階段を登りきって直ぐの所、人より大きい俺は普通よりも邪魔になるから立ち止まったりはしない場所だ。
でも、さっきまで普通の便箋だった筈、なのに今は呪いが篭っている。
微弱な霊力が何かの影響で膨れ上がったのか? それとも遠隔操作か、それとも……。
「デカい図体で人が通る場所に立つのは止めるヨロシ。手紙なんか持てどうしたアル?」
おっと、確かに邪魔だったか。
背中に走ったわりと強めの衝撃に振り返れば不機嫌そうに唇を尖らせたリンマオが足をゲシゲシと蹴って来る。
「いや、幾ら邪魔でも俺じゃないなら痛い程度で済まないんだから手加減しろよ? 自分の強さ考えろ」
それでもだ、女子空手の全国王者が何やってんだと物申したい。七割位の力だったし、新入部員十五名は男女揃って悶絶か失神するレベルだっただろ。
「馬鹿ネ、大馬鹿ヨ。ワタシも大和なら平気だと判断してるアル。それよりも教室に十四名分のワタシ考案んl個別練習内容のプリント忘れたから急いでるネ。ささと退くヨロシ」
十四人? 何度も十五人だって聞いてたんだが、辞めたのか? ウチの空手部って強豪だし経験者が集まるから多少の猛練習じゃ……いや、リンマオが心を折ったか。
部長と副部長と自分の三人で五名ずつ受け持つって言ったのを覚えてるし、覚え間違いじゃねえよな?
「へいへい、何で一人減ったのかは聞かねえが、残りの指導を頑張れよ。……取り敢えず渡す前に顧問や部長に内容を見せとけ」
テメー、絶対に自分基準でやってるだろ? 自分がこの位の実力の時はこの程度やってた、とかよ。次の部長は実力からリンマオになるんだろうが、他の部員や顧問の頑張りが大切だろうな。
組み手の相手がいなくて困ってたんだ、後輩の指導でも才能の差で同じ轍を踏むんじゃないかと心配になったんだが、何故か額に手を伸ばされた。
「大丈夫カ? ワタシ、十四人だて何度も言たヨ。熱でも有るカ?」
「十四人? 最初から?」
「こんな事してる場合違うかタ! 調子悪いなら保健室で寝るヨロシ!」
そーいや朝練の時間帯だもんな、急げ急げ。それにしてもオーバーな奴。
指導する本人が十四人だって何度も言うなら俺が間違ってるんだろうが、その程度で熱を疑うなんてな。
心配したのは本気らしいので気恥ずかしさを覚えつつ鞄を教室に置いた俺は何となく携帯を開く。
「いや、十五人ってなってるじゃねーか」
メールで一度相談を受けたんだが、名前と当時の実力まで詳しく書かれていた。
ん? じゃあ、人数だけ勘違いしてるのか?
「それじゃあ次に調べるのは奇妙な死亡交通事故についてだよ。はい、資料」
モヤモヤを抱えながらも部室に向かえば既に橋本達三人と小姫は既に揃っていた。
ふーん、この事故は数日前にネットで話題になってたよな、直ぐに政治家のスキャンダルの方に話題を奪われたけれど……うん?
事故自体は横断歩道で子供が足を轢かれて出血しした、それだけなら悲惨な事故ってだけで終わるんだが、奇妙な点が幾つか。
その子供、トラックの車輪で足を潰されただけで即死せずに這って横断歩道から出た所で長時間生きていたらしい。
足を潰された子供がいるのに、血の跡がしっかりと残っているのに運転手も歩行者も全く反応せず、夜遅くまで子供がいない事に家族も気が付かなかった。
「大和さん……この子、苦しんでたのに誰も助けてくれなかったんっすよね? 人通りが少ない場所でもないのに」
八雲も渡された資料を見ながら珍しく真面目な顔、此奴でもこんな顔をするんだとは驚きだが、普通の轢き逃げ事故とは違うからな。
運転手だけじゃなく、家族にも非難や疑いが向けられる様な一件、それこそ二代目議員の親まで巻き込んだ贈収賄事件に関心が向かなければ大騒ぎされていただろう内容、とても普通じゃない。
「普通の事故じゃないんだよな」
「そう! 噂では子供が発見される前に家族が妙な通報をしているらしいんだ。知らない子供が出入りして荷物を持ち込んだ痕跡が有るってね」
「これだけの事故なのに誰一人子供に気が付かないなんて確かに不思議ね。でも、流石に起きたばかりの事故に首を突っ込むのは不謹慎じゃないかしら?」
「それなんだけれど、過去にも似た内容の事件や事故があってね。どれも死人が出ていて、何故か発見から少し前まで被害者の存在を忘れてしまったらしくって……」
俺が思わず呟く中、橋本は少し興奮した様子で語りながら過去の記事のコピーを見せて来るが、確かに周囲の証言はそんな感じだ。
こりゃ決定だ。これは普通の事故や事件じゃない…多分妖魔が関わっているんだろうよ、スキャンダルも零課の仕業として……。
「今後暫くは過去の事件や事故について調べたり討論したりって事で良いんだな?」
「まあ、事故現場は遠いから気軽に出掛けられないし、ましてや死人が出たばかりで近所に聞き込みも迷惑だろうさ。オカルトは趣味、趣味で他人を困らせたら趣味人失格だよ」
散々巻き込まれて迷惑している俺は良いのかと思ったが、それより今は別に気になる事が一つ。
「……見えないフリをお勧めするよ」
小姫に言われて視線を送るのを一瞬だけにしたのは窓の向こう、外から部室内を覗き込む底位妖魔である幽霊、正確には死者そのものじゃなくて死者だと思い込んだだけで一部の記憶と人格をコピーしただけの贋作。
今までで一番人間らしい見た目の幽霊、何なら学園指定のジャージ姿だし、元になったのは学園の生徒か?
「取り敢えず人に迷惑を掛ける行動は無しだぞ。立ち入り禁止の場所に入ったり人が大勢居る所で騒いだりとかだ、八雲
「え? 自分限定っすか?」
「やらかすっつーったらテメーだからな。寝小便垂れてた頃からを思い出せ、馬鹿」
どうせ俺以外には掛けていないとか言い出すんだろうが、それは俺がギリ防いで来たからだっての。
不服そうな顔をする馬鹿の鼻を指先で摘みつつ小姫が隠し持った鏡に目を向ければ幽霊は未だ窓の外、普通は記憶は朧げで知能も酔っ払いが寝惚けた程度あれば賢い方だってのに、随分と賢いみたいだな。
「なあ、談義だけなら俺は不参加で良くねえか? 女子だけの所を狙う馬鹿対策に部室には居るけれどよ。……正直面倒だ」
元々危ねえ事をして怪我したり周りに迷惑を掛けない為の入部だし、実在を知っていて戦いすらしてる俺がオカルト関連の話に入っても面白くないのが最後の言葉の理由の半分、もう半分は幽霊が賢いって事だ。
死者に同情する様な優しい奴や逆に馬鹿にした行為をする大馬鹿、そして自分の姿を見える奴ってのに幽霊は関わろうとする。
自分を人間だと思い込んでるせいで人に関わろうとした結果で、その本能に高い知能が関われば……。
「おや、だったら私の隣に座っていてくれるだけでも良いさ。君は可愛い彼女と一緒に居れて、私は愛しい彼氏と一緒に居ながら部活も楽しめる。最高じゃないか」
「……そーだな」
あの、近いんですけれど、小姫さん? 確かに俺達は交際してるって事にはなってるぞ? だが、人前で体を押し付けるのはちょっとやり過ぎじゃ?
俺の首に手を回して凭れ掛かりながら密着されれば押し当てられる感触と鼻腔をくすぐる甘い香りに意識を全部持っていかれそうだ。
幽霊に向けていた意識の多くを小姫に向ける中、橋本は目を輝かせながら紙とペンを取り出した
「ラブラブだな、二人共。まさか大和さんがここ迄の姿を見せるだなんて思わなかったよ。それで何処まで進んだんだい?」
「キスまでかな。私としては先に進んでも良いんだけれどね、獣になってくれても一向に限らないのに親子なんだかヘタレなんだか」
「おいっ!? 何を聞いてるんだ、馬鹿! そして何を答えてやがる、小姫」
「いや、既にナニ迄行ってるかなって思ったんだ。面白いネタに繋がるかなって」
おい、少しは羞恥心とか色々無いからのか? 無いからこんな事を平気で口にしてやがるんだよな、分かってた。
「小姫、一旦離れてくれ」
「一旦で良いのかい? まっ、朝の部活の時間は短いんだ。じゃあ、放課後の部活が終わったら続きにしようか。……何処まで進めるかは大和先輩の胸先三寸って事で」
一瞬だけ頬に当てられる唇、だから人前で何を言ってやがるんだよ、三馬鹿娘っつっても人前なんだぞ?
せめて泉だけでも何か言ってくれるんじゃないかと思ったが、恥ずかしそうに顔を背けつつも興味深そうに横目で視線を送る。
「ま、未だ高校生なのに羨ま……じゃなくってはしたないです!」
ほら、幽霊にすら言われて……幽霊に言われた? ちょっと待て、幾らなんでも頭の方が人間らしいにも程があるだろ。それにこの声って最近何処かで……。
「……昨日の子か?」
ああ、髪型とか雰囲気が結構違うから気が付かなかったが、昨日買い物途中で会った子だ。え? あの子、あの後で死んだのか?
「悪い、ちょっと独り言だ」
思わず口から出た言葉を誤魔化すが、思わず窓の外を見ながらだったからか幽霊に完全にバレてしまったらしい。
「私の姿が見えるんですね! 良かった、朝練の準備中に皆から見えなくなって困ってたんです!」
ほら、嬉しそうに話し掛けて来た。窓がボロだから声は通っても中には入れないけれど、外に出た時について来るだろ……。
なまじ人間の姿と知能を残しているからかぶん殴って解決って訳にもいかねえし、だからって放置してたら低位を餌にするのが来る。
釣り餌にする為に退魔士は放置する事もあるらしいが……。
「ねぇ、セ、ン、パ、イ」
再びの密着、そして耳に吹き掛けられる息。背筋にゾクリとした物が走る中、耳に糸が結ばれていた。
何時の間に結んだとか、三人が一切気が付いていないみたいだから霊力でどうにかしているみたいだなとか、思う所は色々あるが、本当に心臓に悪いから勘弁しろ。
「照れちゃって可愛いな」
テメーも可愛いがな。
からかうのが目的だったのか直ぐに離れた小姫の指に結びつけられた糸は俺の耳に繋がっていて、口に出さない声を俺に届ける。
「囮になりそうだから放置していたけれど、気が付かれちゃったなら仕方が無いね。彼女、妖魔に襲われて大切な物を奪われた被害者だよ」
成る程、じゃあ思ったよりは面倒な事態でないらしい。少なくても窓の外の彼女をぶっ飛ばすみたいな事態よりはな。
最近来ない感想 新作の方もブクマは増えるんですけれど
漫画にしたいシーン決まったし、そろそろ依頼したい 残業代出そうだし 普通は出て当然ですが
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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