三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「さてと、自己紹介を先にしておくか。俺は二年の武尊大和だ。アンタは……一ノ宮で合ってるか?」
「は、はい。どうして私の名前を……」
幽霊かと思いきや妖魔に何かされたらしい犠牲者だった、それを知った俺は便所に行くと部室を抜け出すと彼女を連れて人目に付かない場所へと向かった。
傍目には誰も居ない場所に話し掛ける変な奴だ、それは勘弁してほしいし、誰にも見えないで困ってるだろうに周囲から居るのに居ない扱いをされるのは辛いだろうからな。
「ん? ああ、単純な理由だ。リンマオから新入部員へのトレーニングメニューについて相談受けていてな。未経験者で鍛えてもいない奴がリストにいたから分かった」
顔写真もあれば楽だったんだが、一目で分かる奴で助かったな。いや、名前を聞く前に知ってるって驚かせちまったか?
驚いた様な少し嬉しい様な顔で問題は無さそうではあるんだが。
「そうですか……」
「それにしても空手部なんてよく入る気になったな。別に興味を持ったなら自由だがよ」
一ノ宮アリス、それがリストに乗っていた名前であり、運動能力の評価は平均よりやや下、運動慣れしていない一般生徒ってもんだったし、服の上から見る限りじゃ同意見だ。
少し癖毛なのか先端がクルンってなったセミロン毛の先端を指先で弄くる姿には不安さが見えて、華奢な体つきも合わさって余計に弱々しく見える。
それなりの家のお嬢様って所か?
俺の周りにも歴史ある大きな神社の娘やら大きな会社経営してる一族やら妖魔退治の専門家やら、あれでも一応お嬢様かって連中はいるんだが、知らない奴が一目見て四択の中から選んだら誰を選ぶかっつーと大半は一ノ宮を選ぶだろうな。
「実は運動系の部活に挑戦してみたかったのですが、動くのは得意じゃなくって。それでマネージャーになろうと思ったのですが……」
そんな子が何故強豪空手部に入部したのか気になったが、聞けば単純だ。
「……リンマオが先走ったと」
「……はい。空手に挑戦したい新入部員だと勘違いされて、笑顔と善意の圧力でマネージャーとは言い出せなくて」
「あの馬鹿、ちっとは話を聞けよ。あー、友人として謝っとく。悪いな」
私がバッチリ教えてあげるネ! とか言ってる姿が浮かぶし、運動慣れしていない気弱な子なら押し負けて当然だろう。
その光景が俺の脳裏に鮮明に浮かぶ、人懐っこい笑顔で頼もしい感じではあるんだろうさ、毎回それが良い方向に働く訳じゃねぇんだが、特に今回。
「い、意外と楽しいですし、大丈夫ですよ? 初心者向けのメニューをいただいていますし。だから先輩が謝らなくても。……あの、それで私の状況について……あっ」
俺が冷静なのを見て何か知ってると思ったのか話題は一番重要な方向へと移る、かと思った時に一ノ宮の腹から空腹を訴える小さな音が。
「ひゃ、ひゃう!? 実は昨日の夜は食欲がなくって、朝は寝坊した上にお弁当も忘れちゃって……」
真っ赤な顔で腹を押さえる一ノ宮だが腹の音は鳴り止まない。運動部だろうに飯はちゃんと食えと言ってやりたいが、それは部活の仲間や顧問に撒かせるか。
「ちょっと待ってろ。直ぐに戻る」
こんな状態の奴を放置するのも可哀想だが、不安な状態で腹が減ってるのは良くないからな。
俺は一ノ宮を待たせて教室へと向かう、ちょっとだけ霊力で体を強化して、誰も見ていない所で走ったんだが、途中で出会してしまったのは困り顔の貞信さんだ。
「一ノ宮がお世話になっているみたいだね。……終わったら謝っておかないと、土下座……いや、五体投地で」
そういや貞信さんも見えてるんだよな、他の部員がいるから見えないフリをしてたんだろうが。
「言い訳をさせてもらえるならどんな奴に何をされたか不明な場合、関わり方によっては他の生徒も……いや、止そう。生徒を見捨てた最低な行為には変わらない。私がしたのは助かるために誘導しただけだ」
「一ノ宮が部室に来たのって……」
「何か奇妙な事が起きたらオカ研に行けば良い、冗談に見せかけて言ったんだ。やれやれ、自分の無力が嫌になるよ」
これだけを伝えに来たらしく、貞信さんは空手部の指導へと戻って行くが 何時もの堂々とした様子は何処へやら、肩を落として溜め息混じりだ。
あー、ちょっとムカついて来た、妖魔のせいで何人もが嫌な思いをさせられるんだからよ。
……五体投地ってなんだ?
「待たせて悪かったな。ほら、口に合うかは分からねえが食ってくれ」
貞信さんとの会話を入れても掛かった時間は五分未満、それでも迂闊だったと言えるだろうな。
誰にも見られず記憶すらされていない、そんな状態で自分を認識する相手と出会えたのに待たされたんだ、不安そうに周囲をキョロキョロと見回して、俺が戻って来たら安心した様子を見せる一ノ宮に罪悪感が刺激された。
せめて理由を言えば良かったってのに、親切心が逆効果ってリンマオについて何も言えないだろと思いつつ教室に置いてあった包みを差し出した。
「えっと、これは……?」
「弁当だ。不安な時に腹が減ってちゃ余計に気が滅入る。食いたいもんだけ……やべっ、アレルギーとか考えてなかった」
たんぽぽさんの病院なら大丈夫だろうが、誰にも気付かれない状態で病気の発作や大怪我でもしたら大変だ。
とことん抜けていると呆れるが、そんな俺にも一ノ宮は呆れる様子を見せなかった。
「ピーナッツを食べると痒くなる位ですけれど……」
「じゃあ大丈夫だな。嫌いな物しかないなら言ってくれ。弁当は予定通りに俺が昼食うだけだし、パンでも買ってきてやるから」
本日のおかずはひじき入りの鳥つくねに明太子入りだし巻き玉子、ほうれん草のごま和えにニンジンのしりしり、主食は煎ったジャコを混ぜた玄米ご飯。
パンは中の具の好き嫌いが別れるし、弁当取りに行く前にアレルギーや好みを訊いとけばって話だがな。
「飲み物は水を買って来たし……一旦保護してくれる人達にも連絡済みだ」
「保護してくれる人? あの、どんな……」
「今の一ノ宮みてぇに非現実的な状況が起きた時に対処する公的機関だ、税金から給料が出ているし、善人ばかりだから気にせず頼れ。んじゃあ、裏口で待ち合わせだから行こうぜ」
「……はい」
一人だけマッドっつーか変人がいるが言わない方が良いな、不安になるだけだし善人には違いないから。
一人で待つのも不安だろうし、俺も迎えが来るまでは一緒に待っていようと思ったら袖口を軽く摘ままれていた、多分放置されるんじゃないかって不安なんだろうな。
「あ、あの! 先輩はどうして私に此処まで……」
「困ってる奴を放置するのは嫌なだけ、半分は俺の我が儘みたいなもんだ。だから気にしなくて良い。助ける事が出来たから助けた、それだけだからな」
だから気にするなと伝えておく。この程度で申し訳無く思われてもいけないしな。
別に感謝される程でもないだろ?
……変な下心を疑われてないよな? それで不安になってなけりゃ良いんだが。
「……ん? あっ、悪い!」
「え? 何がでしょう!?」
「いや、いくら後輩でも会ったばかりで苗字呼び捨ては駄目だったって気が付いてな」
リンマオのリストから名前が判明した流れでそのままだったが、普通に失礼だからな。
先輩相手だし頼る相手だからと指摘しなかったんだろうが、気が付いたなら謝っておこうと思ったが、当の本人はキョトンとした後で慌て始めた。
「あ、あの、先輩には昨日もお世話になっていますし、少しも嫌じゃないというか、どうせなら下の……いえ、なんでもないです」
本人がこう言ってくれるなら、俺がしつこく言い続けるのも悪いかと思った時、裏門に零課の車が到着する。
「ん? え? どうして貴方が?」
その運転手はまさかの相手だった……。
「人生とは不思議な物だな。まさか私が公安の秘密部署に配属とは……」
私、日暮透随分と座り心地の良い運転席にて空を見上げて独りごつ。
幼き頃、兄が幽霊屋敷と共に失踪し、同じく幽霊屋敷の中で数十年後に再会するなんて誰が想像するだろうか、少なくとも私はしない。
ダッシュボードの中には非常用携帯食の名目で常備しているナッツ入りのチョコバー、兄が大好きだったロングセラーの商品だ。
あの日、私と兄を幽霊屋敷に誘い込んだ少年も、その兄との再会を齎したパンダも妖魔と呼ばれる存在であり、私がこれから立ち向う相手……いや、立ち向かう人々を支援するのが役目というべきか。
あの日から私は霊力が解放されたらしく妖魔の視認と底位であれば武器と相手次第では倒せる程度になった結果、ほぼ強制の引き抜き勧誘を受けた。
公安零課、それが私の新しい職場であり、幼き頃からの夢であった警察官を辞めてでも成すべき事がある場所、成したい事がある職場だ。
「それが成せるとは限らないが……」
兄を奪った存在が今だに存在するのなら止める、再会する切っ掛けとなったパンダには複雑ながら例の言葉を言いたい気持ちも僅かではあるが存在するのだ。
チョコバーはそのお礼の品であり、一度渡せば其処で終わり、私の中でケジメをつけて次からは敵として認識するだろう。
兄の死を目で理解して少しだけ先に進めた私の人生、ならば次は同じでも違っていても悲劇を繰り返さない、それが特殊な才能が必要な事で、それが私にあるのならば警察官を志した理由と重なるのだから。
まあ、警察官の立場が都合が良いからと関係者と名簿だけの人員の派出所に配属替え扱いだから警察官でもあるのだが。
尚、給料は増えているが仕事も爆増、その内に慣れると死屍累々の職場で告げられた。
慣れなくちゃいけないが、慣れたくない。
そんな公安秘密部署兼警察官というドラマにでも出て来そうな(……妖魔なんて物が相手だからアニメか?)立場の私の初仕事は何かというと……。
「不審に思うのは分かる。本当に彼処に本部が有るんだ」
女子高生を車でラブホテル(に偽造した公安の施設)に連れて行く事。
他の運転出来る人員は休みか気絶か事故で免停取り消し(そもそも与えるのが間違いレベルの事故)であり、相手は妖魔が見えないと認識不可能で知人にも忘れられる状態だ。
そんな状態だが私の目にはバックミラー越しに見える。大抵の者に見えないからこそ連れて行く必要があるが、後部座席に乗る見えなくて良かったと矛盾した想いも仕方が無いだろう。
そして、そんな彼女には事前に説明をしてもらってはいるのだが、見えて来た所で改めて説明しておく。
いや、私みたいな中年男性に連れて来られるのは不安だろうからで、気まずさを誤魔化す意図は三割しかないからな?
「は、はい……。日暮さんにはお世話になってので大丈夫です」
夜にはネオン輝く看板でラブラブキングダムという如何わ馬鹿らしい名前の建物に連れて行くが強い警戒は感じない。
「それにしても棒切れを振り回して冒険ごっこをやっていた子がもう高校生か」
「あの頃については言わないで下さい。……特に先輩には」
実は彼女、私が所属する派出所の管轄地域に住んでおり、小さな頃は頻繁に迷子になったお転婆娘の彼女を探したものだ。
それを口にすれば恥ずかしそうに顔を両手で覆い隠す。
それに反応からしてどうやら……。
「青春か……」
自分の若い頃を思い出せば蘇るのは男子校での灰色の青春、母親以外からバレンタインのチョコを貰ったのもあの頃だと思い出して直ぐに忘れる。
ああ、嫌な事は速攻で忘れるに限るものだ。
感想は一つ、地域のお巡りさんとしての頑張りは無駄では無かった。
「……むっ? あれは小学生か?」
車は順調に施設へと向かい、コンビニ近くの信号で止まる。これから食事はあのコンビニが多くなるだろうが、健康を考えれば自炊の方が良いのかと思った時だ。
コンビニからアメリカンドックとくじの賞品らしいヌイグルミを抱えた少女が出て来たのは。
可愛らしいポシェットや服装も少女向けで見た目も十そこそこの小柄な少女、この辺りに小学校もなければ、時間帯だって始業時間が迫る頃、警察官として話を聞くべきか? だが、家庭の事情が関わるのなら、下手に接すれば心を傷付ける事に繋がる。
そろそろ信号も青に切り替わるし、どうすべきかと悩む中、その少女は駐車場を出て此方の車の横を通り過ぎる、かと思いきや、窓を叩いて来た。
「もしもーし! 女子高生を連れたオジさん。零課の人でしょ? 乗せてって。断っても勝手に乗るけど」
そのまま少女はドアを開けて車に乗り込むとアメリカンドッグの残りに齧り付き、食べ終わった後の串を車内のゴミ箱に放り捨てた。
「オジさんみたいなざーこの名前は知らなくて良いけど、天才なアタシの名前は知りたいよね? マニちゃんでーす!」
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