三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
キャラの立ち絵もあり
別に観光名所が近くに有る訳でもない街に存在する大きさと歴史だけは誇れる温泉旅館、それが私の家である『童邸』。
名前の由来は旅館と同じ位に歴史がある祠です。なんでも座敷童を祀っているとかで、拝めば翌日には幸運があるとかないとか。
でも、私って昔から懸賞に当選した事が無いし、なのに遊びに来ていた友達ばかり幸運が訪れるから座敷童が本当に居ても嫌われてるんじゃ……。
そんな歴史ある旅館なだけに、お化けが出そうと言うべきか、小さな時は夜に一人でトイレに行くのが怖い古い建物……今はちゃんと改装してますよ? 消防法とかありますし、古いせいで床が抜けてお客様に怪我をさせたら大変ですしね。
「こんな家に生まれた以上は手伝いはちゃんとしてもらうわね。色々と大変だけれど頑張りなさい」
「はい、頑張ります」
こんな感じの会話を昔から何度もしていますが、旅館の下働きには不満はありません! だって旅館が大好きですし、働く人達の姿に憧れていましたから逃げ出したいとも思わないんです。
ただ、ちょっとだけ思うのが、同級生の子達みたいに遊び回ったり、恋をしてみたいって事なのです。
高校生の間だけの最後の我儘として始めた部活、ちょっと想定とは違ったけれども楽しい時間。
あとは素敵な人とお付き合いをしてみたいのです。恋に憧れるだけで特定の誰かを好きになった事なんてないけれど……。
「そんな私が恋を知ったのが昨日の事、お使い帰りに帽子を風で飛ばされて川に落としてしまった時に助けてくれた人こそが……」
あの出会いを思い返せば胸の中に心地よい温かさが生まれて、同時に既に相手には交際相手がいるのを知って、それでもと途中まで話した所で話し相手の方を見ればゲームに夢中で聞いてる様子が無し。
「えっと、聞いてる……かな?」
揺れる車の中でゲームをしていたら車酔いしそうだし、目にも悪いから止めたほうが良いかな? でも、ちょっと話し掛け辛いなあ。
日暮さんもバックミラー越しに困っている顔が見えるし、典型的な最近の子供は苦手なのかな?
聞いて来たのはこの子なのにと困っているけれど、私の方に顔を向けたマニちゃんは退屈そうな顔でした。
「あっ、興味無いから聞いてなかった。お姉さん、ちゃんとマニちゃんの話聞いてた? 自己紹介と今の状態になった時の状況だけで良いって言ったよね?」
「え、えっと……」
言われちゃった、私の方が話を聞いていなかったみたいな扱いだ。えー……。
「お姉さんのお名前と妖魔、要するに化け物が現れたり声を掛けたり、それか異変が起きた時の事だけ話してよ。それ以外は無駄でーす」
話を聞かせてと言われたから話したのに、目の前の少女はゲームの画面から目を離そうともせず、その声には本当に私への一切の興味が感じられない。
どうしよう、心が折れそう。お腹も減ったし、早く建物につかないかな。
部活が終われば家で旅館のお手伝い、姉さん達や従業員の皆さんに混じっての仕事は多岐に渡る(何故か一時期を境に厨房は出禁)のですが、こんな対応は初めて……駄目駄目、お世話になるんだから頑張らないと。
「えっと、個別の練習メニューの紙を忘れたからって、一年生皆で部活の先輩を待っていたら聞こえたの。名無しのラブレターを書いたのはお前かって」
恋人がいるって知っていたけど、それでも気持ちを胸に秘めたままではいられなかった。
でも、いけないことだってわかっていたから名前は書かなかったし、普段朝練で来る時間よりも早く来て、誰の目にもつかないように手紙を入れたはずなのに、あの声は多分確信してたよね。
恥ずかしいし、罪悪感もあって普段だったら誤魔化してたと思う。
でもその時私はそれはできなかった、だってその時聞こえたのは紛れもなく……。
「……先輩の声で、そう、確かに、あの声はあの人の声だった。戸惑いとほんのちょっとの期待で認めちゃって、そうしたら急に誰も私を認識しなくなって、それで困っていたら先生が雑談で怪奇現象はオカ研に相談しろって言ってたから……」
「はい、ボス撃破ー! マニちゃん最強! ああ、もう話は分かったし、気が散るから黙ってて。それと相変わらず余計な部分が多いね。お姉さん国語の成績悪いでしょ?」
「そ、そんな事は……」
通信簿は、小学校中学校と割と良い方だったのに。家庭科は除く。
片手を私に突き出して関わるなのポーズ、これじゃあ何も言えない。
何とも居た堪れない話ですよね、同じくこういった事に関わってるらしい先輩は気を遣ってくれた上にお弁当までくれたのに。
怖くて不安で震えてる私から無理に話を聞き出そうとはせず、ただただ心配をして、優しくしてくれた。
許されない恋心が更に強くなるのは仕方ないこと……だよね?
なのにこの子はちょっと酷い。高校生と小学生の差で済ませるにはあまりにも……。
「アタシ達にとって重要なのはより早く確実に妖魔を滅する事であって、犠牲者のケアとか守護とか興味無し……」
コンコン
酷いと思うと唇を尖らせた時に真横から聞こえたノックの音、走行中の車内に響いた有り得ない音。
普段なら気のせいとでも思って終わりだけれど、今の有り得ない状態に陥った私は音がした方を向いてしまって、それを直ぐに後悔しました。
「見ちゃ駄目だ!」
日暮さんの声が響き車が急アクセルで加速したのは僅か後、ほんの少しだけ私が向くのが早かった。
やあ。素敵な名前を有り難う
「ひっ!?」
猛スピードで走る車に平然と並走しながら私に声を掛けるのは薄い墨で全身を塗り潰した様な男の人小説の挿絵で背景に描かれる顔も定かでない江戸時代の町民を思わせる服装のナニカ。
窓ガラスが間にあるのに耳元で囁く様に声が聞こえ、そこだけ執拗に炭を擦ったみたいに濃い黒で見えない筈の表情は笑っているのが何故か分かった。
「反応しちゃ駄目だよー。お姉さん、其奴に呪われてるから反応するだけで力が吸われるから。えっと、どこに入れてたっけ?」
小さな悲鳴が出る前に教えて欲しかった、そんな声を上げようにも体に力が入らない。
あれ? 凄く寒くなって……。
今日は少し日差しが強く、冷房が効いている車内でも日差しが差し込む窓の真横だったら暑く感じる程だったのに、いまは毛布が欲しいくらい。
この感じ、昔何処かで……。
朦朧とする意識の中、私の脳裏に幼い頃の恐怖が蘇る。棒切れを振り回して雑木林を駆け回り、生花の稽古を抜け出して木登りをしていたお転婆だった時の思い出。
その日は昨日から雪が降り続けた寒い日の朝、吐き出す息が白くなる中、私は友達と近所の池にまで遊びに来ていた。
今は埋め立てられた小さな池で、水切りをしたり友達が家から持ち出した親の釣竿で釣りをしてみたりとしていたお気に入りの遊び場所。
危ないから子供だけで近付いたら駄目だと大人からは言われていても、周囲の雑木林で何かいい感じの棒が見付かったり、駄目だって言われたから余計に行きたくなってしまた。
氷が分厚く張った池を見て、誰が言い出したのか上に乗る事に。ちょっと大きい石を投げても平気だからって思ってて、でも実際に乗るってなったら怖いよね、誰も最初に乗るのを嫌がったんだ。
私以外は……。
大丈夫だって言いながら氷の上に乗って、飛び跳ねてもヒビも入らないから真ん中まで歩こうとして……。
『何をやってるの! さっさと逃げなさい!』
「え? 誰……きゃっ!?」
あの時、確かに誰かの声が聞こえたけれど、どうして今まで忘れていたんでしょう?
戸惑う幼い私の足元からピキピキと音が鳴り、そして真冬の冷たい池の中に落ちてしまった私が必至にもがくけれど上ろうとした氷まで崩れていって、冷たい池の水の中で意識は段々薄れていって……。
「おい! 大丈夫か!? これに掴まれ!」
その時に聞こえたのが男の子の声、服を繋げてロープ代わりにして投げた物が私の前に落ちて来たのを掴めたのは私が生きたいと願ったからか……誰かの小さな手が私の手に重ねられたのが気のせいじゃなかったのか、兎に角私は助かった。
その時の男の子の名前は知らない、救急車が来た後で慌てて帰って行ったらしい。その子もお母さんに池には近付くなって言われていたから濡れた服をどうしようって困ってたって。
その時の私と今の私は同じ状態、あの時は知らない男の子が助けてくれたけれど、今は誰がどうやって助けてくれるのか、それは全然分かりません。
もしかしてこのまま死んでしまうんじゃ?
嫌だとは思うけれど、薄れて行く意識じゃ強い恐怖すら感じずに意識を失う、その寸前に熱気が私の顔に叩き付けられた。
「熱っ!?」
まるで炎天下に放置された車のボンネットに顔を押し付けてしまったみたいな熱さが私を襲い、続いて窓ガラスが割れる音が響いてガラス片が飛んで来た。
え? 何が起きたの!?
強制的に浮上させられた意識の中、咄嗟に顔を庇った腕の隙間から真横を見れば見事に割れた窓、窓枠は少し焦げていて、窓の横にいた化け物はいなくなっている。
そして道路の片隅が燃えている、って言うか、火柱上がってる!?
「伊弉諾流裁針技法・火来針。ふっふーん! ざーこな小姫ちゃんとは実力が違うマニちゃんなのでしたー」
「あれ? これって隠蔽案件? 普通に消防署とか警察とか……どうしたら良いんだ?」
太陽が高く昇っているのに火柱がそれ以上に周囲を照らしていて、車は急停車。カーナビの大きな画面を操作している時の日暮さんの背中は煤けて見えて、画面の向こうから怨嗟と絶望の声が聞こえて来ました。
「こんな先にラブホテルしかない場所に小学生女児を乗せた車と運転手の中年男性。……どうしよう」
「落ち着いてください!? それもそうですが、他にも問題がありますよね!?」
全く収まる様子を見せない火柱によって道路は焦げているし、下手したら火が燃え広がってしまうかも。
そもそもコンビニから近いから通報だって誰かにされるかも知れないんですから……。
「……んー? さっきの妖魔、ちょっと変だったなー。ざーこなのは良いけれど、倒した時に塵にならなかった? お姉さんの呪いも解けてないし、分裂か、それとも手順を踏まないとそのままのパターン?」
ちょっと不穏な言葉が耳に届くけれど、今の私には理解出来ません。
尚、この後で何とか事態は収まりましたよ。国家権力って……凄いですね!
『あらら、ちょっと強い子が来ちゃいましたね。どうしますか? 私がやるなら今すぐ終わらせてノー残業が良いんですが』
『あの自称選ばれた超人君に任せるって言ったし、ここはそのままで。影ちゃんは四凶会議の報告書をお願いね。実は全然やってないんだ』
『残業確定じゃないですか!? しかも五十連勤中だし! 労働基準法って知ってますか!?』
『知ってるよ? 労働者の権利を守る決まりだよね。じゃあ、僕はオヤツの後のゴロ寝するからガンバ!』
来客を知らせるチャイムが耳に届き、俺は少しだけ緊張をしていた。
零課の支部に姿を見せたという妹に対し、小姫は放課後になるなり悪態を吐きながら向かい、俺は用事があるからって部活には顔を出さずに直帰だ。
三馬鹿、余計な騒ぎ起こしてないよな? 未だ調査前で打ち合わせの途中だし、流石に大丈夫とは思うんだが、無駄に行動力があるポンコツ娘達を放置するのは胃に悪い。
嫌な予感に襲われながらも客人を出迎えれば相手は笑顔を向けて来た。
「やあ。久しぶりだね、大和君。アンジェさんの一時帰国以来かな?」
「ええ、あの時は本当に両親がすいませんでした」
来客は黒髪を短く刈った青年、見ようによっては十代にさえ見えるが実際は三十代。
言っちゃ悪いがスーツに着られてるって印象が否めない幼さの残る顔立ちで、周囲から甘く見られそうな彼の名は
「俺からすれば蘭さんは立派な人だってのに、うちの両親は子供扱いなんですから」
そんな彼は母さんの小説を日本語訳している翻訳家であり、精神科医の免許と心理学の博士号を持っている紛れもない天才。
数年前まで母さん達と同じ研究所に所属していた人であり、そして……。
「良いよ。僕を若造扱いするのは仲間内でのじゃれ合いさ。じゃあ、饕餮……いや、かなえちゃんの面談をしようか」
そして、今は零課の本部に所属して、俺みたいに妖魔との契約をした奴がしっかりと従えているかを調べる調査員でもある。
尚、ぶっちゃけ両親から今だに坊や扱いされてるし、仲間とは認めていても侮ってはいるんじゃねえの?
心理学を不確かとか曖昧だって言ってるし……。
「所であの二人とは猥褻な行為まで行った? まさか淫らな行為まで……」
冗談めかしてこんな事を言っちゃいるが、二人が人前でしている演技を見抜かれてるんだよなあ。
それで問題無し判定する辺り、大物なのか適当なのか分からん人だよ。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし