三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

70 / 110
名無しの権兵衛 ⑪

 この日、俺は目の前に鎮座する存在に驚きうち震えていた。こんなのは本当に久し振りだったよ。

 

 

「マジかよ。こんな肉、家では伯父さんの所でしか食った事がねぇぞ……」

 

 もう直ぐ夕食の準備に取り掛かろうとしていた時だ、クール便でその肉が届いたのは。

 包みを開ければ見事な霜降り牛+αの焼き肉用、送り主は零課から、添えられた手紙によれば……。

 

「"この度、協力関係を三年以上続けて頂いている方に季節ごとの贈り物をする事と相成りました。つきましては今後とも良い協力関係を継続したいと……"。予算はマジで余ってんだな」

 

 母さんが連れて行ってくれた高級焼き肉店では一皿二万以上の品、それが運動部の男兄弟がいる家でも全員が満足するレベルで楽しめる量だ。

 霜降りの部分以外にもホルモンやらタンやらが既に切り分けられてい

て、近日中にお召し上がりください状態。

 

 こういうのを事前に知らせてくれなかったのはサプライズ……いや、余裕が無かったんだろうな。

 

「冷凍じゃない辺り、うちの大食らい共の事を考慮してるな。個別対応とか、予算は豊富でも人員は不足だってのに……」

 

 世の中の発展で妖魔は量も種類も増えている、だから公的機関に従ってくれる協力者の長期確保は必要なんだろうが、こりゃ大変だろうな。

 個別に合わせた方法、もしかして内容すら変えての発送作業、死屍累々の仕事場を見てると上が現場を理解してない職場は大変そうだ、と心の中で勇さん達に手を合わせる。

 

「じゃあ、今日は焼き肉だな。楽しまないと悪いし……」

 

 白米! キムチ! 韓国海苔! そして焼き肉のタレ各種に牛肉だけだと飽きるから豚トロにセセリや海産、サンチュだって忘れずに。

 もう今日は焼き肉だよな、焼き肉しかねぇ。ネットショッピングでドロシーが勝手にちょっとお高い焼き肉プレートを買って棚にしまいっぱなしだったが、遂に御披露目だな。

 

「本当なら外で炭火でってのも悪くないんだが、隣から丸見えだしな」

 

 同居人二人は力士数人分は食べるから牛肉での焼き肉なんて満足行く量は無理だった。だが、今日こそは……。

 

 早速伝えねえとな。絶対喜ぶぞ、三人共!

 

 美味い飯は大勢で和気藹々とが一番、本来一人で暮らす筈の俺だったら八雲の所に呼ばれない限り無理だった話だ。

 だからまあ、一緒に居てくれる二人には感謝しかねぇよ。二人がいない人生とか退屈だっただろうしな。

 今じゃかなえちゃんも加わって随分と賑やかなこった。騒がしいが退屈とはマジで無縁だよ。

 

「居なかったらどうなってたんだろうな……」

 

 下手すりゃ八雲の馬鹿が偶に吐く妄言みたいに惰性で付き合う真似とか……おぇ。

 うん、妖魔相手に困らされる日々程度に思ってさっきのは忘れるか。

 

「多分俺が焼く係に徹して二人がバクバク食うんだろうな。まあ、上げ膳据え膳当たり前のお姫様方に任せるのも無理だし仕方ないだろ」

 

 あの二人のどっちかが他人の飯を優先するとか無いだろ、普通に。

 無理してるか企み有りのどっちかとしか思えねぇよ。

 

 

「メインの食費が結構浮いたし、その他を普段より奮発すっか」

 

 じゃあ、直ぐに今日は焼き肉だって伝えて何か付け合わせに欲しい物が無いか聞かないと。酒は無理だがジュースとかの飲み物も必要だし、ナムルも作ってみるか。

 もう口も頭も焼き肉の準備完了、マジで楽しみだ。

 

 

 

 

 

「焼肉? 悪いが余はそれ所では……くっ! このこの! のわっ!?」

 

 先ず向かったのは父さん拘りのホームシアターを設置したシアタールーム。暗くする必要があるからって母さんから此処でのゲームを禁止されていた俺だが、そんなの知った事ではないとでゲームしているドロシー(ゲームはド下手)

 

 画面から目を離さず焼肉ってワードにも反応無しだ。

 焼肉だぞ、焼肉。それも普段より上等な肉だってのに。

 

 

「明後日には新作が出るのでな。この赤い帽子のヒゲのシリーズは悪くはない。RPGもクリアした事だし、三面で止まっていたのを進めねば!」

 

「テメー、アクションゲームが特に下手だからな。一面の最初のステージで五連続ゲームオーバーとかだもんよ」

 

 ありゃ酷かった。最初のザコを踏もうとジャンプから目の前に着地でダメージってのだけでゲームオーバーになったもんな。

 

「五月蝿いぞ! 残機を99まで増やしているのだ、最早砦の中間地点に辿り着くなど赤子の手を捻るも同じであるぞ」

 

 漸く慣れた初期のステージで残機を増やす作業を始めること、数時間。もう既にクリアしたみたいな達成感溢れる顔をしていたのを覚えている。

 そして必死に稼いでもゴリゴリと削られていっている。

 

「じゃあ、後で肉食いたかったとか無しだからな。お玉とかなえちゃんと食うから文句無しな」

 

「うむ! 今宵は食事の気分ではなく、娯楽に時間を費やす時であるからな」

 

 文句言うなとは言ったが、文句は出ないだろうな。

 頭ピンクで発情期だが、腐っても王族の誇りがあるのか口にした事は守る。

 それが飯よりもゲーム優先ってのが情けないがよ。

 

 

「のあっ!? だ、だが、残機は未だ20は残っているのだ。それでボスまで辿り着ける筈」

 

「倒せるかどうかは別だけれどな」

 

 多分っつーか、絶対無理。三回ダメージを与えればボスを倒せるけれど、二回ダメージを与えられれば大したもんだよ、ドロシーの腕じゃ。

 

「五月蝿いぞ! 余だって何度もやって……ああっ! また同じ所で!」

 

 こりゃ今晩中は同じ面に挑戦続けるだろうな。ボスの所に辿り着けもせずに。

 泣きそうな顔でコントローラーを握るも次々に減って行く残機を眺めつつ声は掛けない。

 

 これがゲーム優先して後から摘み食いでもするなら一言言うんだが、ドロシーは言葉の通りに食事は必要無い、普段の食事は人間だった頃の習慣と娯楽でしかないんだからな。

 

 

 だから普段は馬鹿みたいに食うんだよな、二人共。必要量が無いから逆に許容量だって無いんだし。

 

 

「しゃーねぇ。三人で食うか」

 

 デザートのアイスだけ用意してやろうかと向かったのはリビング、お玉の姿が見えねえから知っていそうなかなえちゃんの所に向かってみれば算数の勉強中だ。

 

 

「もも、と、みかん、いくつづつ……」

 

「おっ、頑張ってるな」

 

 寝っ転がりながらなのは行儀が悪いが、一年生用の算数の問題集を広げて悩みながらも結構進んでいる。

 チラッと見る限りじゃ間違ってもねぇか。

 

 

 時代的に読み書きも計算も苦手って思っていたんだが、聞いた話じゃ育ての親が教えてくれていたらしい。

 どうも生臭坊主だったらしいのに孤児を何人も育てて将来困らない様にって随分と立派な人だよな。

 

 

 ……だからこそ世の中は理不尽だ。お玉がこの子と出会った時、この子の家族は妖魔に皆殺しにされていたってんだから。

 神も仏も人の心から生じるってんなら、そんな立派な人達にはちゃんと恩恵があって欲しいのにな。

 

 

「かなえちゃん、今日は焼肉だぞ。ドロシーは要らないってよ。お玉知らねぇか?」

 

「たマひめ、も、いらない、ぞー。ざぜん、くむ、いってた。みっか、かかるらしい、なー」

 

「お玉の方もか。これだから飯は娯楽でしかない連中は」

 

 食事を楽しむスパイスとして空腹や満腹感を自分の意思で調節出来るらしい二人らしいが、本当に二人揃って事前の連絡も無しだってんだからな、ちょっと困る。

 

 その上、食う時は異常な量で食費が家計を圧迫するんだから……。

 

 

「焼肉は中止って気分じゃねぇし。もう焼肉以外は考えられねぇ。だからって二人はな」

 

 別に俺が焼きに徹してかなえちゃんが満足した頃にゆっくりと食べる、俺自体はそれで良いんだが、この子は気にするだろうしな。

 だからって延期は有り得ず、欲しいのはかなえちゃん以外で食べに徹する奴だ。

 

 

「かなえちゃんを何とか誤魔化せれば三馬鹿を呼ぶんだがな。そろそろ誕生日だし、プレゼントの代わりとでも言って」

 

 三人揃って誕生日が近い八雲、橋本、泉の三人だが、知り合いなのもあって誕生日プレゼントは贈ってる。

 っつーっても八雲にはランチバイキングを奢ってやったり、橋本と泉にはゲーセンで欲しい景品を選ばせたりとだ。

 

 後者が沼って金が掛かる時もあるし、お玉とドロシーも会った日に記念日の贈り物を要求して来るんだから節約可能な所では節約したい。

 問題は付き合い長いから親戚の構成まで知ってる八雲だ、馬鹿だが発言から橋本辺りが怪しんで面倒に繋がり……いや、待てよ?

 

 

 

「かなえちゃん、ちょっと夕飯に人を呼んで良いか?」

 

「きゃく、かー? いいぞ!」

 

「そうか。じゃあ、お礼に好きなアイスを買ってやるよ」

 

 口実も出来たし、向こうだって何度か来ているんだ。だから……家に呼んでも良いよな?

 少しの緊張と期待に指先を震わせながらスマホを操作、何度か間違ってしまったが目的の相手に掛ける事に成功した。

 

 

 

「今晩俺の家に飯食いに来ないか、で良いよな? 変にお洒落っぽい事を言わなくても……」

 

 こんな事なら女の子の扱い方とか伯父さんから教わってりゃ良かったよ。

 

 

「きゃく、かー? あたし、かくれてる、か?」

 

「ん? 別に良いぞ。かなえちゃんの事も知ってるから」

 

 気を使わせちまったか、こりゃ子供相手に情けない。ちょっと不安そうな顔をしていたので頭を軽く撫でてスマホに視線を向ければ緊張は少し収まっていた。

 

 未だ出ない通話先の名前は“小姫”。そう、俺は惚れた女の子を家に招待する事に未だに少し緊張しているんだ。

 早く出て欲しいって気持ちと出るのを遅らせて欲しいって気持ちがせめぎ合う中、遂に声が聞こえて来た。

 

 

『やあ。こんな時間に電話なんて夜のお誘いかい? 勝負下着でも持って行こうかな?』

 

「いや、夜ご飯の誘いなんだが。良い肉を貰ったから焼肉に誘おうと……」

 

『焼肉だって!? 行く! ……は? 自分も連れて行けだって? 誘われてないのに……』

 

「妹さんが居るのか? なら一緒に来てくれ。大人数の方が楽しいからな。……あと、それと一つ」

 

 話してみれば残った緊張も綺麗に消え失せてあっさりと誘えたんだが、食い付きが凄かったってのがあるよな。

 あれで緊張が吹っ飛んだってのもあるんだが、言わなくちゃならない事があるから声を強める。

 

 

 

 

「家庭の教育方針があるだろうから妹さんについては口出ししないが、かなえちゃんの前ではその手のジョークは無しで頼む」

 

『あっ、うん、注意するよ。それと我が家も子供の性教育は学校任せだから』

 

「じゃあ、妹の前で言う事じゃねぇな。止めておいてやれよ」

 

 俺を弄るのにその手の話題を使うのは高校生だし良いとして、小学生にはちょっとな。

 余計なお世話かと思ったが一言だけ言わせてもらい、近所のスーパーで買い出しを済ませて準備を進めれば約束の時間はやって来る。

 

「お招き感謝するよ、先輩。この余計なのが一応妹のマニさ。姉への礼儀も胸も無い奴だけれど気にしないでくれたまえ」

 

「うっわー! マジで凄い霊力だね、お兄ちゃん。あっ、この霊力がざーこな小姫ちゃんと違って天才児で将来有望なマニちゃんでーす。ヨロシクねー」

 

 初対面に印象はそっくりな姉妹だなーって感じだった、顔もそうなんだが、二人とも肘で小突き合ったり足を踏んだり爪先で蹴ったりと行動が似てやがる。

 

 まあ、一緒に来る辺り、根っ子まで険悪って訳じゃないだろうってのは両親の祖父母への態度と比べたらな。

 母さんは子供の頃に失踪されて、父さんは好き勝手と陰謀説が過ぎて実家から絶縁(母さんと俺には親戚として接するんだが)、周囲の家族関係にそこまで険悪なのは他に存在しないし、ベタベタするのが仲良しって訳じゃない。

 

「おう! 宜しくな、俺は大和だよ。好きに呼んだら良いからさ。えっと、マニちゃんって呼ばせてもらえるかな?」

 

 膝を曲げて腰を落として視線を合わせる。多少強面が相手だろうと妖魔なんてのを相手する一族だ。

 だから接し方は基本通りってな。

 

「別にお兄ちゃんならマニって呼び捨てでもいーよ? ねぇねぇ、小姫ちゃんよりマニちゃんと組もうよ。将来有望だよ?」

 

「そうか、マニちゃんはおませさんだな」

 

 人差し指を唇に当てて微笑む姿は微笑ましい。最近の子供って進んでるんだな、漫画とかの規制って強くなってるんじゃねーのか?

 ネットでも簡単に情報が見付かるしな。

 

「まあ、その手の話はその内にな。マニちゃんもその内に好きな男の子が見付かるかもだし、慌てなくて良いさ」

 

 さてと、飯にするか。腹減ってるとちゃんと話も出来ないしさ。

 

 

 

 

 

 

 

「わあ! アタシの家でもお祝いとかじゃないと出ないよ」

 

「お祝いとかだと普通に出るのか。マニちゃんの家はお金持ちなんだな」

 

「うん! 妖魔退治以外にも被害が出たことで、価値が下がった。不動産とかを安く手に入れてるし、底位でも妖魔が増えてる会社は社員の精神にまで影響を与えて碌な事にならないから株価が暴落するのも分かるしね」

 

「お、おう。退魔だけで食ってるわけじゃないんだな」

 

 まあ、そりゃそうなんだろうけれど……うーん。なんだろう、この微妙な感じ。

 

 

 この時、俺達は予想していなかったんだ。マニちゃんがあんな事をしでかすなんてな。

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。