三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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名無しの権兵衛 ⑫

 時は少し遡って窮奇と名乗る者の寝ぐらにて影女の肩に座るパンダが鏡を前に首を傾げていた。

 

 野望と欲望で目をギラギラ光らせ、髪と肌が脂でテカテカ光る彼が動く度に腹がユサユサ揺れ、年齢の平均よりもフサフサじゃない髪の間から頭皮が覗く。

 

『ねぇ、影ちゃん。あの玩具に説明はしてくれた?』

 

『あの禿げデブ雑魚なら勝手に都合の良い解釈をしてたので適当に済ませましたよ? うっかり寿命を削るって言いそうになったので、寿の所で術に使う霊力って誤魔化しましたけれど』

 

『そっかー。夢見がちなのを選んだから分かってたけれどねー。夢と目標と妄想は別物で、道は目を覚ました状態で歩くものだよ。夢うつつの状態で歩いたところで、フラフラフラフラと左右に揺れて、最後に溝に落ちるだけさ』

 

『……』

 

 

 基本的に食っちゃ寝で仕事を部下に押し付けてばかりの奴が何か言ってる、心の中でそう思う影女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 私の名は正凡人弥(せいはん ひとや)。私は選ばれた人間なのだ、至高の存在なのだ。金も地位も女も思うがままになって然るべきだというのに、それを凡百の存在は認めず異常扱いとし、理解出来る筈の同類でさえ私を平凡と呼ぶ。

 

 ああ、理解したぞ。歴史ある一族か何かは知らないが、私の才能を恐れて追い落とそうとしているのだな。

  事実、私の才能は人の理を外れた者達を惹き付けたのだから。

 

『皆様、パンパンショッピングのお時間です! 本日の商品は此方の魔水晶。なんと妖魔だけでなく人間の皆様の霊力を底上げしてくれるので、至高(笑いを堪えつつ)の存在とお呼びすべき方々(背中を向けて舌を出しつつ)にもピッタリ。そんな商品が本日は……タダ! えぇっ!? 本当に良いのですか!?』

 

「ふむ。私の尊顔を直視出来ず、更には出会えた光栄さに打ち震えているのだな」

 

『その通りです(嘘)! 何と素晴らしい時間なのでしょう(糞上司が近くに居ないから)』

 

 ある日、私は自分に霊力があり妖魔と戦える貴重な存在である事を知った。

 

 私に詳細を教えた事は評価するも、退魔士の一族とやらは大した力を持たぬ公安の凡人へ敬意を払えだの、複雑な納税の手段だの秘匿の重要性だのと世迷言を述べよって!

 

 特別な存在には特別な扱いが用意され、凡人共は敬いと恭順の意思を見せれば良いのだ。

 だから五月蝿い連中とは縁を切り、自らの正当性をどう知らしめるか考えていた時に現れたのが目の前の影女だ。

 

 

『朗報です! 特別なお客様の元へと私が派遣されて参りました!』

 

 影女の名は新人研修にて夢現ながら聞いた覚えがある。その様な存在がわざわざ媚を売りに来たのだし、私の潜在能力を見抜いての事なのだろう。いや、そうとしか考えられぬ。

 

 無駄に歴史を重ねただけの一族が到底及ばぬ極地に辿り着けるからこそこうして味方に引き入れるべく現れたのなら、正当な評価を最初にした褒美として考えてやらなくもないぞ。

 

 無論の話、用が済めば消してしまえば良いのだと、魔水晶で得た術を確かめながら考える。

 私の偉大さを世に知らしめ、人類の守護者であり支配者の頂点へと辿り着くのは当然ではあるのだが、どうせならば側近が欲しい、無論、人間の女。

 

「……この女にするか」

 

 動画サイトにて妖精使いを自称するルサルカという娘、前は頭が足らぬだけの底辺投稿者と思っていたが、力に目覚めた私ならば本物と認識が可能だ。

 妖魔の存在を世に広める活動をしているのだし、私の偉大さも理解するだろう。

 

 何なら色々と奉仕させてやっても良いな。歳は離れているが、抱き心地は悪くなさそうだ。

 散々容姿を貶されてきたが、本物には私の魅力が伝わるに決まっているのだから。

 

 脂ぎったデブではなく、豊かさを現すふくよかさ。不細工ではなく、常人には理解不能な神々しい尊顔。

 

 

「おい、この女を探し出せ。私の物にしてやるのだ」

 

『え? その子ですか? 今住んでいる街しか分かりませんよ?』

 

「役立たずめ。もう良い、私が呼ぶまで出て来るな」

 

 何という幸運、やはり私は生まれながらの王者、比類無き絶対的存在。

 

 さて、どうやって探す? ああ、目覚めたばかりの力の試験運用を兼ねて作ってみるか。

 

「説明の際に影女は何と言っていたか……」

 

 此処が私の覇道の第一歩、記念に写真でも撮っておくのならポーズにもこだわるべきかと考えている内に説明など頭から抜け落ちる。

 所詮は妖魔風情の言葉、それ程の重要な物でもなかろうから平気ではあるが。

 

 

 

「さてと。演説の内容でも考えておくか」

 

 祖父母の遺産を食い潰して遊侠に耽る碌でなしの両親の間に生まれ、友人の一人さえ居なかった人生、幻覚まで見え始めた時には自死さえ考えたものの幻覚の正体と己が身に眠る力を知った今では試練の一つだったと、無意識に私に嫉妬した愚か者の愚行であったと理解した。

 

 ああ、これから私の長き栄光の日々が始まるのだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そもそもアレを選んだ理由は?』

 

『ただ(の)ぼんじんや って読める名前だったから、おだてて調子に乗ったら笑えそうで!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定では欲しい物を全部手に入れてウハウハ気分でお肉を食べて、悔しがる小姫ちゃんを見て笑う筈だったのに。

 

「ほら、野菜もちゃんと食べないと」

 

「アタシ、ピーマンはちょっと……」

 

 お皿の上に乗るのは大量のお肉とお野菜。普段の通りにアタシが何もしなくてもお皿に盛ってもらえるけれど、色つやの良い緑のピーマンで箸が止まる。

 

 

 ピーマンなんて苦いだけだし、畑に妖魔でも大量発生して品薄にならないかな? 是非なるべきだと思うんだけど。だってアタシが嫌いなんだし。

 

「じゃあ、キャベツや玉ねぎにしておこうか。嫌いなのは無理に食べずに他の野菜を食べれば良いからな」

 

 おうちならパパやママにうるさく言われてちょっとだけ食べるんだけれど、今日は皿の上に乗ったピーマンが伸びてきたお箸に持っていかれて、その代わりにキャベツや玉ねぎが乗せられる。

 

 うん、お肉は美味しいし、別にピーマンじゃなかったら食べられるんだよね。

 小姫ちゃんよりも優先してあれやこれやと世話を焼いてもらえるし、その点では計画通りなんだけど……なんか予定と違ーう。

 

「かなえちゃん、デザートは食後だからな。リンゴやパインを焼くのは見逃すからシュークリームもエクレアも後だ」

 

「わかった!」

 

 アタシだよ? 超天才美少女のマニちゃんだよ? これじゃあただの子供扱いじゃん! 幼い見た目に見合わない女としての魅力とか満載なのに、どうして即座にアタシの物にならないんだろう。

 

 さっきからアピールしてあげてるのになー。

 

 

 

 

「わあ! お兄ちゃんったら力持ちさんだね!」

 

「そうか、ありがとうな。俺の事は別に良いから、準備ができるまでテレビも見ていてくれ。この時間帯だったら興味ある番組とかいろいろあるだろ?」

 

 例えば腕にぶら下がったりしてのボディタッチとか。

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん、お世話焼いてばかりじゃ食べれないでしょ? はい、あーん」

 

「良いから良いから。子供が気なんて使わんもんじゃないさ。ほら、次は何がいい? 客用に買っておいた小さい箸を渡したけれど使いづらくないか?」

 

 このアタシが食べさせてあげようとかしたのに!

 

 

 パパなんてアタシをマーちゃんって呼んでるし、家のみんなチヤホヤしてくれるのに!

 

 小姫ちゃんだって高校生なのに150ちょっとしかないチビなんだから背の高い女の子しか眼中にないってことないはずなのに変だよ、絶対。

 

 

「……うん? 電話か。悪い、次の焼くのはちょっと待ってくれ」

 

 お兄ちゃんはアタシの魅力に気が付かないまま皆のお皿に焼き上がった物を乗せると席から離れて行っちゃう。

 さっきからアプローチが一切通じないし変なの!

 

 一度教われば秘伝の術だって使えるし、霊力だって超豊富。おまけにすれ違った大勢が振り返る美少女。

 

 女の子の妖魔を三体も従えているみたいだし、アタシの方を選べば直属の使用人とかの名目で侍らし放題とか暗に伝えたのにさ。

 

「こんな筈じゃなかったのになー」

 

 お兄ちゃんが姿を消した方に視線を向けて、頬を膨らましてからお肉をホカホカ白米でバウンド、お肉とお米を一緒に口に放り込む。美味しー!

 

「はんっ。お子ちゃまが男をコロッと落とせるとでも思っていたのかい? 食べ物に直ぐに意識を向けるお子ちゃまがさぁ」

 

「小姫ちゃんだって胸以外はお子様じゃない。って、それはアタシのカルビ!」

 

 横から掛けられた声に意識が向いた瞬間にお皿から奪われるお肉! 瞬間的に最大まで霊力を使っての身体強化、それを私に察知させない様に予兆も無し。

 

 ふーんだ。霊力量はゴミカスの癖に運用だけは上手なんだね、ガス欠するのが早いから意味無いけれど。

 

 取られそうなお肉を箸で掴んで奪い返そうとするけれど、小姫ちゃんが箸の動きにフェイントを入れるから上手くいかないなんて生意気生意気ー! 出来損ないの癖にー!

 

「その胸がお子様とは違うんだよね、お子様とは。まあ、その胸に新たに栄養が行くのを黙って見ていたら良いさ」

 

 真下から片手でタユンタユンのユッサユサと動く胸、真似してみたけれどミス連発、アタシの手は何にも引っかからず空振り連打。

 

 そのまま小姫ちゃんが見せびらかすみたいにゆっくりとお肉を口の中へと向かわせて、口を閉じる寸前に消えた。

 

 

 

「けんか、だめだ、ぞー。しマい、だろー? なかよく、しろ」

 

「っ! ……饕餮」

 

 消えたお肉は饕餮の箸の先、奪う所なんてアタシ達のどっちにも見えなかった。

 人の身から完全に作り変えるんじゃなくって妖魔のパーツを継ぎ接ぎした人の肉体を持つ妖魔。

 

「あたし、は、かなえ、だぞ?」

 

 気が付けば皿の上には取られたカルビ、こっちも気が付かない間。

 

 

「そっか! 間違えちゃった」

 

 つまり殺す気で来たら抵抗する準備すら出来ずに死んでたって事だよ。

 

 あー、面倒。饕餮なんて名前を持ってるけれど中身は教育もちゃんと受けてない大昔のお子様だと思ってたけれど、逆だよ逆。

 

 人の肉体と人間擬きの中身を持っているけれど伝承に残る大物妖魔だって忘れちゃ駄目、一般人から退魔士の世界に入って自己顕示欲と自己評価が異常な馬鹿じゃないんだから見た目とちょっとの言動で油断するなんて!

 

「……かなえちゃんと前に契約してたって妖魔はどんな人?」

 

「たマひめ、かー? くち、わるい、けど、やさしい、ぞー」

 

「そうなんだ。あっ! ドロシーってお姉さんは?

 

「やさしい、ぞ? それと、ばか」

 

「そうなんだ」

 

 最後のは馬鹿にして見下しているって感じでもないし、気に様子じゃ格下って訳でもないみたい。

 つまり同格か格上、そんなのが二体も?

 

 元が人間の妖魔なら交渉次第で契約する事もあるけれど、普通に考えたありえない。

 元が人間だろうと妖魔になった時点で価値観が大きく変わるのに、それに加えて時代や身分による価値観からして満足行く対価を用意するべきなのは明白。

 

 

「ねぇ、小姫ちゃん。姿を見せない二人ってお兄ちゃんに従っているんだよね?」

 

 

「ああ、私の前での言葉は従者のそれだったよ。あくまでも彼に対する態度だけはね」

 

「ふーん、凄い人なんだね」

 

 何気なくの返答だけれど、小姫ちゃんの目はアタシに告げている。自分の前にはちゃんと姿を見せたのに、お前は紹介すらされないんだな、って。*1

 

 アタシ、侮られてない? 伊弉諾家の天才児だよ? 弟と次期当主の座を争わせようってさえされるのに。

 

 明日お迎えが来るからって今回の妖魔には関わらせない気みたいだし、わざわざ声を掛けてあげているのに始終子供扱いだし、ちょっとおかしいよね?

 

 

「ねぇ、小姫ちゃん。零課の人と連携して妖魔の調査を進めるんだよね?」

 

「ああ、車の前に現れたのが彼女を呪った奴だろうってのは霊力の質から判断出来るし、拠点も分かっているからね」

 

 要するに安全に安全を取って時間を掛けて事に臨むんだよね?

 じゃあ、そんな手間暇の準備も必要無い所を見せちゃえばアタシを認めないわけにいかないよね!

 

 

 

「じゃあ……マニちゃんがその手間を省いてあげる!」

 

 糸を通した針を操って小姫ちゃんのバックから妖魔の霊力を集めて込めた針を貰っちゃう。

 まさかの行動で生じた硬直、一瞬だけれど退魔士にとっては十分な時間。

 

 伊弉諾流罰糸術・蜘蛛織り

 

 小姫ちゃんの体を縛り、饕餮の方へと蹴り飛ばすなり窓から飛び出した。

 室内だから当然裸足だけれど、既に伸ばしていた糸が靴を絡め取って玄関から持ってきたから着地の瞬間には足元に。

 

 それをササッと履いて外へとダッシュ! うふふふ! これでマニちゃん、完全勝利!

 

 

 

 

 

 

「こひめー。なにか、の、あそび、かー?」

 

「いや、違うよ? 私もあの平ら胸も緊縛趣味は無いから」

*1
尚、片方はゲームに夢中だから




隠し文字あるよ

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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