三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
アタシ達みたいな退魔士が常に心掛けておけって習う事は二つ。
目先の犠牲よりも未来に出るより多くの犠牲に目を向けろ
退魔の力は特別だが、それを持つ者は特別ではない
当然だよね、アタシ達みたいなのは貴重だし、戦える素質を戦える実力にまで鍛え上げるコストと時間、そして妖魔を取り逃すリスク、それを考えたら目の前の人命最優先とか馬鹿だもん。
目に入る全員を助けるんだ! ってのは二次元だけで頑張ってー。
後者? 当然だよね? インフラに農業に工業、販売店に公共福祉、世の中は様々な人で成り立ってるもん。それを理解しないのは頭ざーこ、もう一回、ざーこ!
アタシが思うに退魔士は特殊な技術が必要な専門職、芸術とかその辺りが該当するんじゃないのかな?
ほら、結局凡人が頑張っても天才には敵わないって感じでさ。
その理論で言うなら、特別な存在じゃなくたっても、業界内では才能や実績で優劣や上下はあるよね〜。
例えばぁ、霊力ショボショボのざーこな小姫ちゃんと、霊力タップリで術だって直ぐに会得する天才のアタシの間とか正にそうじゃない?
「あのお兄ちゃんもアタシ側に付く方が得だって今回で分かるだろうし、もしかしたら次期当主とかいけちゃうかも? キャハ!」
弟は可愛いけれど、マニちゃんが全権掌握するのには邪魔だしー? 此処らでアピールが必要だよね。
霊給者は好意によって供給効率が変わるけれど、才能も見た目も将来有望なマニちゃんならその辺は完璧。
「で、でもキスかあ……。中学生まではお預けしておこうっと」
霊給者が霊力を与えられるのは陰と陽の性質の関係で異性だけだし、アタシが手に入れちゃったら完璧じゃない?
「小姫ちゃんみたいなざーこを強化するよりもアタシを強化した方が凄くお得なのになぁ。パパは分かってないんだから」
なーぜか小姫ちゃんとセットにしたがってるけれど、アタシに単独任務をくれなかったりだし、パパの考えって理解不能ー。
アタシはバリバリに最強なんだし、ちょっと過保護だよ。
「見つけたぁ」
でも、そんなお子様扱いで窮屈な任務は今日でお終い! 小姫ちゃんを出し抜いて事件を解決したら、そのままお兄ちゃんをお持ち帰りしちゃおっと。
今回の犯人が残した霊力の痕跡を辿り、行き着いたのは昼間も人通りが少なさそうな路地裏。
「あれ? この辺って確か……」
何処かで見た景色だと首を傾げていると、遠くから漏れるテレビの音に思い出す。
ネットで密かに話題になってる洋菓子店の近くだ! それでグルメ番組で取り上げられたんだった。さっさとざーこな犯人を倒して買いに行こうっと。
お財布の中身を確かめて自分へのご褒美には十分だと判断したアタシの手の辺りで浮く針が激しく振動して目的の相手が近くにいることを知らせてくれる。
「まあ、術の精度だけは認めてあげるわ、小姫ちゃん」
霊力の糸を指先に絡ませれば針は激しく振動してる。指し示す先に居たのは冴えないオジさん。
髪の毛は薄いし、服装はお金を掛けていそうだけれど、スキンケアを含めて手入れがなってない感じ、一度高い物を買えば終わりとでも思ってるタイプね。
ふんふん、如何にも駄目駄目って感じで、ざーこ決……あんなのが妖魔っぽいのを操るとか、才能が尖ってるタイプ?
アタシが向こうを観察しつつポシェットの中から飴玉を取り出した時、オジさんがこっちに気が付いて近付いて来たけれど……臭い。
体臭を全く気にしないタイプに加えて獣タイプの妖魔特有の獣臭さにカメムシが加わったWパンチ
「そこのお嬢ちゃん、この娘がこの辺りに住んでいるんだが見た事はないか? 私の妻になるべき者だ」
「わあ、キモーい」
脂ぎった顔のオジさんの口からそんな言葉が出ちゃうなんて、天才のアタシもビックリ、直ぐに分かっちゃったよ、これは急に力に目覚めて思い上がった人だって。
ついつい口から本音を漏らしつつも油断はしない、だって人を襲ってるもの。
「失礼なガキだな。私の偉大さが分からんらしい」
「偉大じゃなくって卑猥の間違いじゃないのぉ? どう見ても高校生相手に嫁とか、もしかして鏡の存在を知らない人? わあ! アンビリバーボー」
露骨に不機嫌そうになるけれど、反応からして自分を特別だと思ったタイプね、頭ざーこな奴。
だから覚えたばかりの力で人を襲えて、それを何とも思っていない。
銃を手に入れたとして、普通の人は嫌いな人相手でも発砲できる? 普通は小動物すら苛めていないのに、人を傷つけて平気でいられる?
「まー、別に良いや。独学で出来る範囲は越えてるし、使い方を教えた人の情報をパパっと吐いちゃってよ、ざーこ。
服の内ポケットに入れた裁縫セットから伝わるパチパチって感じの静電気みたいな嫌な感覚。袖の隙間から飛び出した糸は紫電を纏って真っ直ぐにオジさんに向かって行って、あの鼻が曲がりそうな刺激臭が一揆に強くなる。
あー、まさかとは思ったけれどざーこの極みで面倒なパターンじゃんか。
「ふんっ! 見せてやろ、うっ!?」
電撃を込めた細く短い糸、速度だって並の人間じゃ視認は不可能。そしてオジさんは並の人、但し体臭は除く。
アタシが何かしようとしているまでは察したけれど、それがオジさんの限界だった。
タプンタプンの巨乳(笑)を揺らして胸元を大きく開こうとした所で糸が巻き付き電撃を流す。
「え? 肉体の強化すらしてないの? うわぁ……」
普段ならざーこを煽るのが趣味なんだけれど、あんな偉そうな事を言ってた癖に一切抵抗出来ずに気絶って、えぇ……。
流石のアタシもドン引きで、嫌な予感は的中みたい。アタシ、今回の犯人は選民思考系の頭ざーこって思ってたのに、何も知らない普通のざーこだったんだ。
「さっさと連絡したら甘い物食べて帰ろっか……」
ビクビク痙攣しているオジさんの服に操った糸を絡ませてみると思った通りに呪具の反応がある。
急に凄い力が使える様になったんじゃなくって、凄い力をくれる道具を手に入れただけ、偉そうな態度の根拠は道具の力でしたー。
「うっわっ! 獣臭いと思ったらこれかぁ。マニちゃん、絶対にこんなの使いたくなーい」
オジさんが首から下げた小さな袋を破いてみれば転がり出したのは真っ黒でとっても臭い結晶体。力次第じゃ使ってあげようって思ってたのに、ここまで臭いのは嫌だもん。
アタシの知識には無い呪具、それも呪いが籠ってるなんて元から碌でも無い道具の中でもこれはピカイチだよね、見れば分かるわよ。
糸を通して触れるのすら抵抗を覚えるけれど、このまま放置するのも嫌だし、零課に連絡して……あっ、やっば。
「電池切れてる。うへぇ、アタシが運ぶべき状況?」
このキモいのを? こんな臭いのを? やだー!
娯楽や情報入手手段が多いこのご時世、キモい虫だのグロいモンスターだのの知識が広まって、迷惑な事にそれっぽい妖魔の相手だってしなくちゃだけれど、倒せば消える相手と違い、目の前には脂と汗でテカテカ光る生身の相手、何ならパパみたいに加齢臭がするし、それ以外の嫌な臭いだって。
「メリットだってそんなに無いし、小姫ちゃんに譲ってあげたら良かったよ」
このオジさんを見る限りじゃ道具で調子に乗ったけれど、それを渡したのは思想犯じゃなくって愉快犯、事件そのものが目当てだからオジさんみたいな使い捨ての道具に手掛かりなんて……げっ!?
考え事で意識を逸らした瞬間に結晶体から溢れ出す嫌な霊力、そして飛び出すパンダの前脚……なんで!?
持ち主への攻撃、袋から出る、遠隔操作、時間経過、直接何かしてなくたって呪いが発動する理由なんて多種多様。
本当に厄介で面倒だと思って距離を取ったけど、それが失敗だったなんて。
伸びたパンダの前脚は四方八方に伸びて直ぐに戻って来たんだけれど、あの使い魔っぽいのに加えて底位の妖魔まで表面にビッシリと。
「うわぁ、キモい。ハエ取り紙っぽい」
しかも上から捕まえたせいで虫っぽい妖魔が腹を見せながら足をジタバタ動かすのまで見えちゃってゾワっとしちゃったわよ。本当に小姫ちゃんに任せれば良かったんだと後悔したけれど……。
「即逃亡……は流石に不味いかな?」
いや、普通だったら予想外の事態には戦略的撤退が普通だけれど、アタシって手掛かり持ち出して街中で仕掛けてるのよね。
最低限の責任感ってのに加えて後が怖いし……大体、こんなざーこがアタシに勝てる訳が無いんだし。
「そうよね。さっさと倒して予定通りに甘い物を、キモっ!?」
『ヒヒ、ヒヒヒ。嫁、私に相応しい嫁ぇ……』
オジさんの声の質が変わる、キモい人から邪悪な妖魔の物に。
同時に体が膨らんで服が弾け飛んだ。
股間だけは辛うじて布が残っているんだけれど膨らんでいるし、身体中からパンダの前脚に引っ付いた妖魔の足とかが飛び出してジタバタ動いている。
そして更に大きく突き出したお腹の部分は黒く染まり、あの名前を奪う力があるらしい使い魔擬きの顔が幾つも浮かび上がって口をパクパクと動かしていた。
「金魚……とは一緒にしたくないわね」
一瞬浮かんだイメージの対象に失礼な内容だったと頭を振り、足元の小石を幾つか拾い上げる。
「先ずは観察、そして推察」
まるでゾンビみたいに突き出した手、虚な目、譫言みたいに呟き続ける臭そうな口、ぶっちゃけ直視には嫌悪感しか覚えないけれど、やっぱり倒さずに撤退するにしても最低限の仕事はしなくちゃ。
「それで確認っと」
人間が妖魔になるには幾つかの方法がある。取り憑かれて身も心も支配される寄生、身も心も妖魔へと作り変わる変化、そして外骨格みたいに纏う装着。
基本的にどれも人間を捨てちゃうけれど、寄生なら体から追い出せば無事な死体が残るし、装着なら……。
握り込んだ石を強化した腕力で投げれば眉間や左胸、鳩尾と僅かにタイミングがズレて命中、反応も三つ。
「ビンゴ。寄生と迷ったけれど装着の方ね」
今の石自体には霊力を込めていないのに効いた、それが装着の特徴。妖魔としての能力や肉体強化の効果こそあっても霊力の込もらない攻撃を無効化出来ない。
まあ、要するに現代兵器や周囲の重くて硬い物をぶつけるとかが有効だって事、凄く楽じゃない?
「あー、でも鉄骨とかコンクリートブロック落ちてないし、アタシの腕力じゃ接近戦は無理ね。生理的にも触りたくないし」
だって相手は殆ど全裸のキモいオジさん、超絶美少女のアタシが触れたら駄目な相手じゃない。
うぅ、本当に小姫ちゃんに丸投げしておけば良かったわ。
「火来針、雷集追針、蜘蛛織り」
お兄ちゃんを虜にするのに夢中だったから焼肉を食べ足りないアタシはちょっと小腹も減っちゃったし。
だから速攻で終わらせる事にした。
「使うのは基本的な技、それでも霊力をたぁっぷり込めれば十分でしょ? 見てるかも知れない黒幕さんは不満だろうけれど、そこは思惑がざーこだったって事で。あはっ」
火来針 火来 火
「……へ?」
過剰な霊力を込め、後始末を公務員に任せた術の同時使用。妖魔になっちゃったら戻れないのが普通だし、こっちが危険を犯して死体を残す意味って無いよね? それも悪人な訳だし問題なーし!
そんな風に気軽に放ったアタシの術から名前が消えて行く。煙が立つ様に浮かび上がり、風に吹かれたみたいに消え去って、術は術の力を果たせずに消え失せた。
「言霊!? 有り得…ない……」
文字には、名前には、そして言葉には力が宿る。その言葉に宿るのが言霊、アタシ達が術の名前を叫ぶのだって漫画的な分かり易さの為じゃなく、その方が力を発揮するから。
それを利用された。術に宿る力、それをアタシの言葉を経由して術から名前を奪う事での無効化。
有り得ない話じゃないけれど、こんな三下が使うだなんて有り得ない!
「あっ、ヤバ……」
身体中に漲る力が抜け落ちる感覚、これは霊力の強化が解除された? 違う、術を無効にした瞬間に術とアタシの間の繋がりを経由して吸いとったんだ。
『ヒ、ヒハッ! オ仕置キダッ!』
「あぐっ!」
霊力での強化が解除されたらアタシの肉体は年相応より少し動ける程度。でも、強化を再びするのは一瞬で、退魔士が立ち向かう相手はその一瞬すら与えてくれない。
首を捕まれて宙吊りにされただけで息が出来ない。意識が朦朧として霊力を練るのもままならない中、手を引っ掻いても相手は強化されているから小学生の爪なんて通用せず、そのままオジさんは空いた手を振り上げる。
あっ、死んだ。何処に食らっても終わりだ。
お腹だったら内臓破裂、頭だったら頭蓋骨粉砕……いや、多分貫通するかも。犠牲者の死体がどんな状況下なんて気にしてたら自分が死ぬって思ってたけれど、自分の死体がグチャグチャなのは嫌ね。
b
この時、アタシは諦めて目を閉じる。骨の砕ける音がして、首の苦しさから解放された。
グシャッ!
「大の大人が子供相手に何をやっているんですか?」
あれ? アタシ、誰かに抱えられて……。
目を開けるとそこに居たのはスーツ姿の女の人、公安零賀支部長のお姉さんがアタシの首を掴んでいたオジさんの手首を握り潰していた。
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし