三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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カエル

 カエルはカエルよ、カエルんだ。カエルカエれルカエカわル

 

 カエルカエって、ひっくりカエル。カエってカエれ、カエルとカエル

 

 長らく地域住民に愛されている、そんな風に表現すれば聞こえは良いが、要するに少々古ぼけた建物の『カエル幼稚園』。園長がカエル好きな事から飾りや遊具のデザインにもカエルがあしらわれていて、園長室に飾られたカエルの掛け軸は随分な値打ちがあるとの噂だ。

 

 深夜の園内に忍び込んだ若者達の目当てもそれだ。受ければ入れる程度の荒れた高校を選ぶ余計な勇気は無かったが授業をちゃんと受ける真面目さも無く、将来の事等は考えもせずに授業中に騒ぎ、事勿れ主義の教師や不良っぽい言動をする自分達に怯えた普通の生徒の姿に気分良くなる程度の小物だった。

 

 流石の親も我慢の限界か小遣いの支給を止めるも万引きや気弱で言い付けられない生徒を選んでの恐喝で補う中、ゲーセン帰りにタバコをふかしていた一人が思い出した様に口を開いた。

 

「なあ、近くにカエル幼稚園ってあるじゃん? あの門の飾りがダサいカエルの所。園長室に飾ってる掛け軸が値打ちものらしいぜ」

 

「おっ、良いな。盗んだら自慢出来そうだ」

 

 安易に犯罪を選ぼうとするものの罪の意識は薄い。彼等にとって盗んだ物や奪った金は一種のトロフィー程度。将来に響くなど微塵も考えず、補導されてもゲームに負けた程度の軽い認識だった。

 

「でも、最近は防犯とか厳しいんじゃね? 俺、高難度は良いけれど無理ゲーは勘弁よ?」

 

『それが最近電気系統の不備があってセンサーやカメラが停止してるって聞いてさ。これってチャンスだろ。今夜辺り行ってみようぜ」

 

 このまま罪を罪と認識せず坂を転がり落ち続けた先に待っている将来、彼等は今の自分の行動を後悔するのだろうか? 答えは、否。

  

 全て他人の責任にするから? 落ちた先で上手くやるから? 最初から自分に何も期待していないから?

 

 一人一人違うが、概ね選択肢の内容が待っているだろう。……待っていただろう。

 

 

 

 カエル幼稚園への侵入は思いの外上手く行った。防犯装置は偶々聞いた話の通りに作動せず、金髪にピアスや態度など如何にも不良っぽい姿の少年達が幼稚園の方向へと向かう姿を誰かに見られて不審者として通報されてもいない。

 

「俺達ツイてんな。なあ、掛け軸売った金で何するよ?」

 

「新しいバイクとか欲しいし、ちょっと良い案があるんだよ。俺の家、両親が暫く留守にするし、年齢偽ってデリヘル呼ばねえ?」

 

「それ最高じゃん! じゃあ掛け軸手に入れたらファミレスで祝ってからサイトで色々調べようぜ」

 

「ギャハハ! 良いな良いな!」

 

 実際はここに来るまでに前を通った店舗の防犯カメラにノーヘル二人乗りで走るバイクの姿をナンバーも含めてしっかりと映されており、事件が発覚すれば直ぐに容疑者リストに名前を連ねる事になるのだが、今この瞬間に順調に行っている事でこの後も順調だろうと根拠も無く考えて浮かれている。

 

 直ぐ近くに住宅が無いだけで全く誰も近くを通らないなんて事もなく、馬鹿騒ぎの声か敷地内に入り込んだ姿に誰かが気が付けば直ぐに通報されるだろうが、それを気にして慎重になる様子も無く窓ガラスにガラス切りで穴を開けて鍵を開けて侵入する。

 

「おっ、ガキの描いた絵が飾ってるぜ。うわっ、下手だな。ゴミだろ、こんなの」

 

 侵入したのは年長組の部屋で壁には最近遠足で行ったらしく動物園の絵が描かれているのだが、その中の猿が描かれた一枚が壁から引き剥がされた。

 壁に張り付けたテープの部分が少し破けたのも気にせずに幼稚園児の絵を鼻で笑っていたが、何を思ったのか仲間の一人を指差した。

 

「これってお前じゃね? ほら、そっくり」

 

「は? ざけんなよ! 貸せ!」

 

 猿の絵にそっくりと笑われたのが癪に障ったのか絵は乱暴に引ったくられて破れてしまう。それでも気が収まらない彼は絵をクシャクシャに丸めて投げ捨ててしまった。

 

「うわぁ、かわいそうな真似しやがるぜ」

 

 かわいそうと言いつつも顔はヘラヘラと笑っており、猿の絵と同じようにキリンの絵を壁から引き剥がすと丸めて投げ捨てた。

 

「一人だけ絵が無いのもかわいそうだし、他の絵も捨てた方が良くね?」

 

「それ良いな! やっぱ小さい子供には優しくしてやらねえとよ」

 

「じゃあ、俺はこの絵を捨ててやろうっと」

 

 夜中に盗みに入っている最中だというのに既に興味を持っていかれたのか四人揃ってばか笑いをしながら絵を丸めて投げ捨て続ける。

 数分後、壁には絵が引き剥がされた痕跡のみが残り、園児達の楽しかった思い出の結晶は無惨な姿で床に散らばっていた。

 

「帰る前に庭に深い落とし穴掘ってみようぜ。大人でも怪我しそうなの」

 

「ダリィって、それ。取り敢えず次の教室では何したらガキが驚くと思うよ」

 

「動物の死骸とかあってもガキが見る前に片付けそうだな」

 

 絵を全て丸めて捨てても満足しなかったのか少年達は別の教室でも何かをやろうと笑いながら教室を出る。懐中電灯では灯りが外に漏れると思ったのかライターの火を便りに進むと探検でもしている気分だったが、掲示板に張られていたカエルの絵に目的を思い出した。

 

「そうだよ! 掛け軸盗みに来たんだった!」

 

「園長室って何処だ?」

 

「知らねえよ。偉いんだから二階じゃね?」

 

「あっちに階段あったよな?」

 

 人目を避けるために少し遅い時間に来たからか少し眠い。先程まで余計な遊びに熱中していた事も忘れて駆け足で二階へと向かっていった。

 

「あった!」

 

 階段を昇った先に廊下の奥、園庭で遊ぶ子供達がよく見えるようにと庭側に大きな窓がある部屋に飛び込めば机と椅子が置かれた側の壁に目当ての品らしき掛け軸が飾られていた。

 

 大きな岩に乗った巨大なカエルを囲む数多くのカエルを墨で描いているが今にも鳴き声が聞こえてきそうな品だが、暗くてはよく見えない。

 電気を付けるわけにもいかず、もっと近くで見ようと近付いた時だった。

 

「やべ!?」

 

「何やってんだ、馬鹿!」

 

 ライターの火が掛け軸に触れてしまい引火する。慌てた少年が咄嗟に手に取ったのは花瓶。それを飾られた花ごと掛け軸に向かってぶちまけた。

 水浸しになって水滴が滴る掛け軸に目当ての品が台無しになったと少年達のテンションは大きく萎んでいった。

 

「なんか冷めたな」

 

「もう帰ろうぜ。あー、馬鹿馬鹿し……」

 

 

 

 

 

 

 

ゲコ!

 

 カエルの鳴き声が直ぐ近くから聞こえ、少年達は何となく探すも暗いせいか姿は見えない。そしてカエルの鳴き声程度にそれ程の興味が向けられる筈もなく、ダラダラとした動きで帰ろうと扉を通って廊下へと出ていく。

 

 

 

ゲコゲコゲコ!

 

「は?」

 

 一人だけ、出ていこうとした部屋に入った。確かに廊下へと踏み出した足は園長室の床を踏みしめ、向いていた筈の方向に背中を向けて。

 

「おいおい、何やってるんだよ。忘れ物か?」

 

 出ていこうとして入った彼は一番後ろだった。だから仲間からすれば彼が途中で後ろを向いたのだろうとしか思っていない。

 

「いや、それが出ようとし…たら……」

 

 呆然としながら何があったのか説明しようとした時、暗闇にも関わらず水浸しの掛け軸だけはハッキリと見えた。絵からカエルが次々に飛び出して来たのが見えた。

 

 

 巨大なカエルが掛け軸から顔を出したのと目があった。

 

 

ゲコゲコゲコ!

 

 

 

「うわああああああああああっ!?」

 

 腰を抜かして這うように逃げ出した視界の先で仲間達が自分を置いて逃げ出すのが見えて、逃げ出そうと手を伸ばせば視界は廊下から園長室へと切り替わり、大きく開いた大ガエルの口から伸びた舌が絡み付いて彼はそのまま飲み込まれた。

 

 

 

 

 

「くそっ! 一体どうなっていやがるんだ!?」

 

「おい、退け!」

 

 背後から聞こえた悲鳴を無視して互いを押し退けながら少年達は逃げて行く。一瞬振り返った時、大ガエルの口から見知った足がはみ出しているのが見えたのも恐怖と混乱を際立たせる。

 

 階段を駆け下り、踊り場に向かって飛び込んで……。

 

「さっさと逃げて……え?」

 

 そのまま彼は天井に落ちて体を強かに打ち付ける。頭を強く打ったのか意識が朦朧とする中、階段で騒ぐ仲間を見上げながら何とか立ち上がれば天井に上下逆さまに立っている。

 

 

 

 

 

ゲコゲコゲコゲコゲコ!

 

 園長室から大ガエルが出て来る。逃げ場は……無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、さっさと開けろ!」

 

「うるせえ! ボロいせいで引っ掛かるんだよ!」

 

 一階まで駆け降りて、再び聞こえた悲鳴を聞こえなかった事にして目に入った入口から出ていこうとする。取っ手をガタガタ動かしても開かず、鍵が掛かっている事に気が付いて開けようとするも老朽化のせいかうまく鍵が回らない。

 

 階段の上から重い物がゆっくりと階段を降りて来る音が聞こえて焦りから余計に鍵が開かなくなる。

 

 

 

 

「開いたぞ!」

 

「直ぐに逃げて……」

 

 転がる様に飛び出そうとした少年の腕に長い舌が絡み付く。そのまま引っ張られそうになった彼が咄嗟に掴んだのは扉。

 必死にしがみつくも引っ張る力が増していくばかりで限界は近い。

 

 

「お、おい! 助け……」

 

 助けを求めて仲間の姿を探せば自分を見捨てて逃げる背中が目に入る。次の瞬間、手が扉から離れて大ガエルの口へと引っ張られて行く。

 

 その瞬間、時間がゆっくりと流れるように感じた。自分を引き寄せる舌の動きは亀の歩みで、大きな口の中がハッキリと見える。

 

「あの野郎! 自分だけ逃げやがって……」

 

 どうして自分なのか。食われるのは自分ではなく彼奴であるべきだとのどす黒い感情が溢れ出し、自然と言葉が口から出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

じゃあ、カエル?

 

 恨みを口にした瞬間、何処からか声が聞こえた。小さな子供の楽しそうな声。彼が思わず頷けば視界が切り替わる。気が付けば園庭に居て、逃げ出した少年は大ガエルに食べられていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ…ははは……。助かった」

 

じゃあ、君もカエルね

 

 再び声が聞こえ、彼の意識は途切れる。目を覚ました時、聞こえて来たのは子供の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゲンちゃん。 こんなところにカエルさんがいるよー」

 

「どこからきたんだろうねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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