三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「呪いの掛け軸? まーたテメーらが好みそうな話だな。買いたいなら買えば良いさ」
「お金で解決するのなら直ぐに手に入れているさ。ちょいと同じ様に手に入れたがっている連中が居るっぽくてさ。その“三すくみの掛け軸”をさ」
作品の執筆の為、そんな理由でやって来た佳奈達だったんだが、実はあったらしい別の目的を聞かされた心境はあんまり良くねえ
最初に思ったのは相変わらず懲りずに面倒な物を欲しがるんだからな。
クロワッサンを齧りながら不服そうにしちゃいるが不服なのは俺だっての。東の廃病院に幽霊が出ると聞けば向かい、西で呪いの人形があれば調査に直行する。
妖魔や妖魔以外の理由で危ない目に遭ったし、俺がどうにかしてやってた。もう逆に助けを最小限にしときゃ良かったかとさえ思うが、手の届く範囲に居て手を抜いた事で嫁入り前のアホ共に傷でも付いたら悔やんでいただろうし……。
「持ち主が変わって暫くするとカエルからナメクジ、ナメクジからヘビ、そしてヘビからカエルへと絵が変化して、持ち主には不幸が訪れるという呪いの掛け軸だ。是非実物を目にしたいじゃないか!」
「飯食いながら急に立つな。行儀悪いだろ」
それはそうと偶には拳骨でも落として反省させておくべきだった。俺の中での佳奈の評価はアレだ。妖怪とか悪霊に立ち向かうタイプの漫画とかで何度も怖い目に遭ってる癖に話したら出るタイプの怪談話をしたり、コックリさんとかの儀式とかするタイプのキャラ。
あれか? 今まで全部空振りだった(と思っているだけで本物もあった)から余計に本物に出会いたいとか?
「おい、桂花。大作家様が不幸になりたいとか言い出したしマゾに目覚めたみてぇだそ。ファン一号兼作家秘書としてなにかすべきじゃねえの?」
「言って聞く人じゃないのはよーく知っているでしょう? そんな訳で頼る事が多くなるので事前に頼みに来ました」
「普通は迷惑掛けない様にするもんだがな……」
その掛け軸を狙ってる連中ってのには心配していない。寧ろその連中ってのが心配だ。
「どうせ普段通りに噂だけの偽物だろうし今回は辞めとけって。面倒に巻き込まれるだけだろ」
妖魔は普段見えない触れないが向こうから襲って来た場合は別だ。要するに公安零課の加入条件である認識出来る事ってのを満たせなかろうが存在を知っている人は居る訳で、そんな人達による外部協力者が掛け軸を手に入れようとしている連中だ、姉さんから聞いてる。
一般人が掛け軸を手に入れようとしているって言ってたが、まさか佳奈だったとはな。……面倒臭っ!
頭ポンコツだろうとベストセラー作家、出版社やら取材先やらの関係で顔は広く今まで多くのいわく付きの品々を収集して来たが、
「ふっ。例え幾万の石塊の山があろうとも、探し続ければその中に眠る光り輝く宝石と出会えると信じているのさ」
「そうか。ババアになって臨終際に本物が見つかったって知らせてもらえれば良いな」
呪いが込められている、妖魔が封印されている、そういった道具を総称して『呪具』と呼ぶが、単純に霊力を使って武器としての性能を上げる等の一部を除いて何らかの条件を満たさないと使えないし出会えない。
それは特定の血が流れる上で一定の修行を収めるとか魂の相性が良いとかな。
封印されている奴は脱出するか関わった相手で遊びたいし、道具は死蔵されるのを嫌う。なので何も知らず偶然手に入れて巻き込まれる奴が居る訳で……。
「本当に程々にしておけよ? 何時も俺が巻き込める場所にいるとは限らねえんだから」
「ええ、引き際は私が見定めますのでご安心を。ですが巻き込める時は巻き込みますので宜しくお願いします。お礼とお詫びを兼ねてデートしてあげましょうか?」
「美少女二人だ。両手に花とは大和さんも嬉しいだろう?」
「え? 何でテメーらとのデートがお礼になって、俺がそれを喜ぶんだ? 罰ゲームを喜ぶマゾになった記憶はねぇぞ」
デートがお礼って。ハハハ! ……ねーよ。テメーらだって分かってるだろ、絶対。
「何か朝から疲れた気がするな……」
これまでの事を思い出し、これからの事を考えると頭が痛くなった俺はブツブツと文句を言いながら学校へと向かって行く。不機嫌なせいで目付きが更に悪くなったのかすれ違った人達が驚いているが気にしない事にして歩道橋を渡ろうとした時だった。
視線を感じで階段の一番上を見上げれば女神が其処に立っていた。……いや、俺は何を言ってるんだ。正確には、女神と見紛う美少女が階段の一番上に立っていたんだ。
両親は元は友人の様に仲が良い同僚でしかなかったが、それが恋に変わった瞬間に燃え上がったと話すのを聞いたが、その時に口にした胸の高鳴りや体温の上昇を今正に我が身を持って実感している。
一目惚れ、それをしてしまったんだ。
「……綺麗だな」
誰にも聞こえない程度の声でていた俺は背後に視線を向ける。俺を見ていたと思ったが、よく考えれば初対面の俺を見続ける理由はないからな。よしんば俺を見ていたとして、アメリカ人の母さんの影響で日本人の平均を遥かに超えた身長だから程度だろう。顔を怖がる様子が無いのは幸いだが、見たところ別の学校の制服だから関わる機会も無し、と。
はい、俺の初恋は終わりだ。ジロジロ見ても悪いし、さっさと行くか。
待ち合わせをしている最中に大男が前から来たから視線を向けていた程度と判断して階段を昇り切れば露骨に視線を向けなくとも正面に立っている関係で彼女の姿がハッキリと見える。
身長は低い。俺と比べなくとも同年代とさえ差があるだろうな。何処か気紛れな猫を感じさせる彼女は艶のある黒髪をヘアバンドで止め、顎に手を当てた状態で俺に視線を向けたままだ。一瞬視線が重なって胸が更に高鳴るから視線を顔以外に向けてしまった。
そう、しまった、だ。彼女から不自然じゃないギリギリまで視線を向けていたい欲求に負けて、顔から下を意識してしまう。何というか……デカかった。
中学の時、アメリカにある伯父さんの豪邸に遊びに行くとプールでは呼び寄せたらしいモデルや俳優達が楽しそうにしていたが、その中でも印象に残ったのはセクシー系のモデル。彼女達が持っていた物に匹敵する立派な奴を彼女は持っていた。それも低身長なせいで余計に目立つ。
「おやおや、私が気になるかい?」
不自然な挙動で視線を外して駆け足で通り過ぎようとした俺の背中に向かって鈴を転がすような声が掛かる。俺が胸を意識していた事なんてお見通しだとばかりに揶揄うのを楽しむ様なその声に思わず足を止めて振り返れば腕を胸の下で組んで少し押し上げる様にしながら笑っている。
「き、気に障ったなら謝る。じゃあな!」
幼い頃から周囲にいた肉親以外の異性はドロシーとアホ二人、中高と友人は出来たが互いに異性とは意識しない間柄。そんな俺が今の状況を耐えられると思うか? 耐えられないから謝って速攻で逃げ出したよ!
……あー、俺は最低のどスケベ野郎だ。あんまり嫌な思いしてなけりゃ良いんだがな……。
失恋と自己嫌悪の二つに悩まされて今日の気分は最低だ。友人に話す訳にも行かずに適当に誤魔化して遣り過ごした放課後、姉さんから電話が掛かって来た。
「大和、急で悪いけれど家にお客さんが来るんです。退魔士の名門一族の子で、協力者としてこの地域で動いてくれるそうなんですが、大和と顔合わせがしたいって言ってるんです。私も急いで
……急な話だな。そして電話の向こうから狂った様な笑い声が聞こえて来た……。
姉さんは忙しいのか返事を待たずに電話を切ってしまい、仕方が無いので俺は急いで帰る事にした。来客用の茶菓子は佳奈達には出さないし定期的に買っているので大丈夫な筈だ。
子って言ってたし未成年か? でも名門一族ってんなら俺よりは遥かに格上か。なにせ必須技術の『異界開け』でさえドロシー任せだし、邪魔になるから一緒に戦う事は無いんだろうが……。
相手を待たすまいと急いで家に帰ると既に門の前で誰かが立っているのが見えて近付けば怪しい笑顔を向けて来る。
「やあ。今朝ぶりじゃないか、先輩。ところで急な話だけれど……私の物になる気はないかい?」
その相手は今朝の少女で、俺は求婚の様な言葉を向けられてしまった……いや、急だな!?
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