三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが   作:ケツアゴ

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傍迷惑な呪い

「初めまして、先輩。私が今度からこの地域で活動する事になった退魔士の伊邪那美小姫(いざなみ 小姫)だ。小姫と呼んでくれたら嬉しいな。今日は急な来場を受け入れてくれて感謝するよ」

 

「あ、ああ……。俺は伏柄大和だ。好きに呼んでくれて構わない」

 

 うちにはアホ二人の他に数人程度なら女子が遊びに来たりするが、それは全員友人だ。異性と認識しているし配慮はするが意識はしない、そんな俺の隣には今朝出会ったばかりの初恋の相手。

 座る様に進めたソファー、テーブルを挟んで向かい合って座る筈が何故か隣に座って肩が触れ合う距離で見上げて来ていた。

 

 ……あー、他の連中が至近距離に居ようがこうならねえぞ。別に女と縁遠い訳でもないってのに。良い匂いがするし、触れたら柔らかいのが伝わってくるしで胸は高鳴るばかり。

 

「その……何で此処まで近いんだ?」

 

 抱き付かれている訳じゃねえが隣に座るだけにしては近い距離。さっき名乗りあったばかりの間柄にしては少しおかしいだろ!?

 

 思わず口から疑問が飛び出るも当の本人には意に介した様子もなく、逆に何故その質問をしたのかって言いたそうな表情だ。

 

「おや、駄目かい? 私としては先輩とは仲良くしたいんだけれどね。それに……」

 

 不意に胸の辺りに手が添えられ、驚く間も無く小さな円を描くように撫でられた。ベタベタ触って来る奴や殴り合いをする奴、会う度に頬にキスをして来る子やら色々とスキンシップを受けて来たが初恋の上に初対面の相手だ。

 

 咄嗟に退きたくなったが、触られる事が少し嬉しいのと相手が急に表情を真面目な物へと変えていたのがそれを止める。

 俺に触れる事で何かを探っているみたいな、そんな感じだ。

 

 これは話し掛けない方が良いか……。

 

 俺の退魔士の、正確には霊力を使った戦闘術の教師はドロシーだ。だからどうしても人間としての戦い方とはちょっと違うと聞いている。

 そもそも身体強化以外に適性が無いそうなので基礎知識以外さっぱりで教えても無意味だって言いきられてるんだけれどな。

 

 時間にしてどの程度かは分からない。俺の感覚じゃ数十分だが、実際は数分な気もする。それが終わったのは急で、何も言わずに手を離すと両手を左右に広げ、やれやれとばかりの表情で顔を左右に振っていた。

 

「うん、完全に呪われているね」

 

「は? 呪われ……」

 

「大丈夫大丈夫。呪われているのは君じゃないから。君に呪いの移り香がしてね。……知らなかったのかい?」

 

 呆気らかんと言ってるが呪いって普通に大事だよな? え? 一体どういう事だ?

 

「生憎感知能力には乏しいからな。……他も乏しいが」

 

「いや、私はしっかりと訓練を受けているから感知出来たんだから卑下しなくて良いさ。私が驚いたのは家の前に来た時から私を警戒している彼女に教えてもらっていなかったんだって事さ」

 

 彼女ってのが誰を指しているのかは考えずとも分かる。其奴が今何処に居るのかもな。小姫が不意に視線を向けたのが反対側のソファーだった事で隣に座らなかったのが理解出来たぜ。

 

「おい、ドロシー。呪いたぁ一体どういう事だ? 説明しろ」

 

 誰も居ないソファーに向かって声を掛ければ瞬きの瞬間にドロシーが姿を現す。クッションを枕にして寝転び、少しばかり不機嫌そうな視線を俺の隣に座る小姫に向けていた。

 

 俺に呪いについて隠していたって言葉を信じたが、それは小姫の方が信用出来るからとかじゃなく、此奴ならやりかねないって長い付き合いで分かっていたからだ。

 

「なんだ。随分と矮小な器の持ち主だと笑い死にさせる為の刺客かと思いきや技術の方はそれなりか。お主とは真逆であるな、大和」

 

 器が矮小? 鼻を鳴らし嘲笑する様子に視線を小姫に向けてみれば言われ慣れているとばかりに肩を竦めるだけ。俺と真逆ねぇ。ちょっと予測出来るな。

 

「おい、話を逸らすな。呪いってどういう事だ? まさか姉さんか……あの二人か?」

 

 どれだけ仲が良くても、人の姿になれて言葉が通じても、それでもドロシーの価値観は俺達とは大きく違う。俺については心配してくれたりもするが、他は基本的にどうなろうと気にしない。

 

 姉さんについては殺しても死ななさそうだから心配するだけ無駄って事だけれどな。

 

 だから呪いの移り香と聞き、思い浮かんだ友人知人達の中で呪われそうな二人を挙げれば正解なんだろう。漸く気が付いたとばかりの反応だ。

 

「ああ、何一つ問題は無い……とは言えないけれど呪い自体は害があるとまではいかない物なんだよ、先輩。例えるならSNSの広告みたいな物さ。強い力と自我を持つ呪具や封印されている妖魔が手当たり次第に電波みたいに広範囲に呪いを撒いて、相性が良い人が受け取ってしまう」

 

「……成る程な。俺も思い当たる節はある」

 

 呪われているって言葉に動揺してはいたが、よく思い出せば最初に大丈夫だって言ったのはドロシーじゃなくて小姫だった。

 妖魔じゃなくて退魔士が言うのなら慌てる必要は無いのか? でも、呪われているのは俺じゃなくて佳奈と桂花みてぇだし。

 

 此処は……。

 

「おい。先程から黙って見ていれば近過ぎるぞ。余が静観の構えを取っているからと調子に乗るでない」

 

 呪いについて詳しく聞いておくかと思った矢先、思考に割り込むように不機嫌そうな声が低く響く。寝転がった姿勢から起き上がったドロシーは少しだけ不機嫌そうな表情を浮かべる。

 俺からすれば十年以上の付き合いで見慣れている少し拗ねた程度の物、面倒臭いって程度だ。

 

「は、はは。これは申し訳無い。其方の不況を買う気は無かったんだ」

 

 でも小姫は違ったらしい。声は平静を装っているが乱れて頬には冷や汗が伝う。俺に感知能力が不足しているからか、それとも俺には向けていない何かを感じとっているのか分からないが、あと少しで密着と呼べる距離だったのを少し離れる。

 二人の間に出来た一人分のスペース。ドロシーはフクロウの姿で其処に収まると人の姿になって両腕を伸ばして俺の….俺達の腕を掴むとそのまま腕を組んで引き寄せた。

 

「うむ、うーむ! やはり余は両手に花、いや、花に囲まれていなければな!」

 

 俺と小姫に(強制的に)挟まれてご満悦だが、小姫は落差に戸惑って固まっているからな? 満面の笑みを浮かべてテンション上げちまって、数秒前の大物妖魔っぽい態度は何処に行った!?

 

 

 

 

「何か悪いな? うちのドロシーって年中発情期で両刀なんだ」

 

「あっ、うん。見ていたら分かるよ」

 

「何を言うか。その小娘がお主に自分の物になれとか言っていたが、体目当てだからな?」

 

 ……はい? 話し合いが始まってから色々あって聞きたくても聞けなかったが、そういう意味? えぇ!?

 

 初恋の相手がドロシーの同類だったかもしれない、そんな衝撃的な可能性に俺は固まった。否定してくれと小姫に視線を送るものの体目当てで近付いたと言われて怒るでもなく驚いたり恥ずかしがるでもなく、少し困った様子だ。

 

「……うーん。まあ、否定は出来ないと言うべきか、その辺はおいおい考えるとして……今夜辺り一緒に出掛けないかい?」

 

「否定しないのかよ!?」

 

「いや、私は未だ処女だしキスすらしていないけれど、儀式として肉体関係を持つ一派は世界中に居るには居るし」

 

「声が震えてるし目も泳ぎまくってるぞ。無理すんな」

 

 処女って口にする時点で声が跳ね上がってたからな? おい、ドロシー。テメーは舌舐めずりしてんじゃねえよ。

 

 そして話題が大きく逸れたが(主にドロシーの仕業)呪いってどんなのなんだ? 対応出来ないとか危険性はそこまで高くないとかしか聞いていないんだが……。

 

 

 

 

 そしてこの日の夜、俺は小姫と共に夜の公園までやって来ていた。

 

「……オカルトへの好奇心を刺激してブレーキを緩めるとか傍迷惑な呪いだな、おい」

 

「未だ言ってるのかい? 相手は呪具や妖魔だし、人の良識を求めても無駄さ」

 

「そうであるぞ! 妖魔に人のルールを求めるでない。故に余はお主に好き放題して良いのだ!」

 

 尚、ドロシーも一緒に来ている。この時点で普通のデートじゃねえな。いや、夜中って時点で論外だが。

 

 俺に移り香を付けた呪い、それは要するに傍迷惑な肝試しやらオカルト研究を人にさせるという物。その手の物への興味を刺激された奴は本来より行動に制限が掛からなくなるとか。

 

「単純ゆえに広範囲にばら蒔けて発生源の探知は困難。そして呪われたら運命が繋がって僅かだけれど発生源と出会う可能性が増える」

 

「解除には妖魔なら追加の封印か討伐、呪具なら使える誰かの所有か破壊。面倒な話だぜ、こりゃ」

 

 つまりアレか? あのアホ二人の反省を知らない無駄な行動力の何割かは呪いの影響で、それで今までと今後の苦労が約束されていると。

 

 ドロシーが黙っていた理由? 聞いたら平然と答えたよ。

 

 

 

 

「何故余があの二人を気遣う必要がある? 侍らせてやっても良いが、わざわざ話す程の労力を割く程でもない。呪われた結果無惨に死のうが興味も関係も無いからな。それに大和が余に構う時間が増えるではないか」

 

 だとよ。まあ、こんな奴だって分かっていたさ。

 

 

「それよりも今は熱烈な視線を送っている彼女のお相手をしようじゃないか、先輩。異界開けを頼めるかい?」

 

 そう、俺達は此処に無駄話をしに来たわけでもデートに来たわけでもない。最近出没した妖魔を退治しに来たんだ。

 

 

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

どうして?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 声が聞こえた。まるで泣きながら怒っているような女の声。それは地の底から響くようで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして?

 

 

 低い場所から感じる視線に目を向ければ、地面から頭の上半分を出した女が空洞の眼窩から血の涙を流しながら存在しない目で俺達を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




因みに伏柄姉弟の実力差を例えるなら 年号の変更に怒ってる奴と桜餅の食いすぎで髪色変わった人くらいです(適当)

敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず

  • 五凶星 ごきょうせい
  • 悪六烈 おむれつ
  • 七福塵 しちふくじん
  • 四従死地士 しじゅうしちし
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