三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
転職して五時おきがデフォだから九時半にはベッドに入らないと辛いから書く時間が中々
彼女は学生時代から人気者だった。靴箱には毎日の様に恋文が入れられ、告白やナンパをされない日の方が珍しい程。席替えでは嫌われ者の番長や自身を二枚目だと信じる秀才さえも神に隣同士になる事を望む。
そんな彼女が選んだのは幼稚園の頃からの付き合いである幼馴染で、彼女を殺したのもその男だ。
デートの帰り、夜の公園で紐を使って絞殺した上で目玉をくり抜いた彼は犯行後に自首し、取り調べで動機を語った。
「優しい彼女は彼氏の自分が居ても他の男を邪険に扱えなかった。他の男を彼女の目が映すのが嫌だった。だって小さい頃から彼女を自分だけの物にしたかったんだから」
その後、彼は留置所にて何者かに殺された。恐怖に染まった叫び声を上げた事で職員が駆け付けると扉には滲んだ血で染まった爪痕が刻まれ、目玉の存在しない顔は恐怖に引き攣った状態だったという。
不可思議な事にカメラを見ても男以外は映っておらず、見えない何かに怯えて扉を必死に開けようとした後で手で目を覆って転げ回る男の映像は上層部の決定によりカメラの故障で残っていない事になった。
それからだ、彼女が殺された公園に目玉の無い幽霊が出ると噂される様になったのは。復讐を果たしても怨みが消え去る事は無く、今でも若い男女の前に現れては男に襲い掛かるそうだ。
どうして? そう問い掛けながら…。
「まあ、実際はストーカーが公園で捕まっただけの事件に尾鰭が付いただけなんですよ。……噂流した奴死ね!」
「落ち着けって……」
地中から浮き上がる様に姿を現した幽霊モドキを前に姉さんの叫びを思い出した。人の口から始まって何時の間にか段違いの凶悪事件にまでなっていただけのストーカー案件、その結果が目の前の妖魔だ。首には紐がキツく巻き付けられ、噂通りに目玉をくり抜かれて無惨に殺されたらしい姿。
白いワンピースは眼窩から滴り落ちる血で汚れ、折れ曲がった指を俺の方へと向けてくる。
噂通りの死に方をした結果で化けて出たのなら同情だって湧くんだろうが……。
「どうして? じゃないんだよ。架空の被害者への想像が形を持った程度の分際でさ。君の存在で零課の皆さんの仕事がどれだけ増えると思っているんだい?」
そう、呪いや術によって妖魔へと化けた人間の記録はあっても本物の幽霊の存在は確認されていないんだ。こんな場所だから出る、こんな事件や事故があったから出る、そんな人の想像が幽霊の様な姿をしているだけ。
だから目の前の悲惨な状態を引き起こした犯人も居らず、被害者遺族も存在しない。
それっぽい存在の妖魔、さっさと倒してしまうべき相手でしかないんだ。
「強さはギリギリ人に危害を加えられる程度だけれど、気弱な人が見たら心臓や精神への負担が大きそうだ。さっさと倒してしまおうじゃないか、先輩」
「おう」
「じゃあ、異界開けはお願いするよ。この土地で頑張ってきた君の力を見せてほしいな」
「……おぅ」
『異界開け』は現代の退魔士にとって必須の術だ。簡単に説明すると妖魔と自分を周囲から切り離す結界を張るんだが、此れで周囲への被害や目撃を抑えられる。
尚、町中で妖魔を見掛けた時にも便利な術だが、防犯カメラには突如人の姿が消えて級に現れるという零課の皆さんの労働案件だし、強い妖魔は普段は結界の中に引きこもって用事があると出て来たりする。
まあ、消耗する霊力も少ないし便利なんだが……俺は使えないんだよ、技術的な問題で。
「ドロシー、頼む」
「おや? 先輩じゃなくて彼女がするのかい?」
ドロシーが僅かに翼を動かせば空気が一変する。周囲の景色は変わっていないが、一定範囲からは見えない壁で進めず、どれだけ物的被害が出ても結界の外には反映されやしねえ。
噂が広がりやすい現代なだけに俺が使わない事が少し不思議そうに小姫が首を傾げている。そうだよな、普通は変に思うだろうさ。
「この男、霊力は桁違いに持っている癖にコントロールが酷くてな。故に余が手取り足取りサポートしてやっているのである。無論、対価は請求するがな」
「バラすな……」
そりゃ俺が素人に毛が生えた程度で、ドロシーが居なかったら現場に出られないってのは直ぐに知られる事だが、だからってアッサリバラす奴がいるか!?
俺だって自分が持って生まれた物で人助けが出来るならしたいんだよ。それでドロシーに頼りっぱなしにはなってるけれど!
まさかの、そう言うには予想出来た事ではあるんだが横からの裏切りに俺が不平を口に出すも本人は知った事かと言いたげな態度で鼻を鳴らし、そのまま翼で小姫の方を指した。
「どうせ直ぐに知られるのだし、無駄に見栄を張るでないぞ? それにだ……其処の小娘とて使えるが使えぬのだぞ」
うん?
「ウァアアアアアアアアア!! どうして? どうして? どうして? どうしてぇぇぇぇぇっ!!
嘲笑の混じった言葉の意味を問いただす間もなく幽霊モドキが耳障りな叫び声を上げる。金切り声と共に身体中を震わせれば指と爪が細長く伸びて前腕と同じ長さになって俺へと飛び掛かる。
……あれだな。信頼していた相手に惨殺されたってのが本当だったら悲惨の話だが、面白半分に流された話から生まれて存在しない恨みを人に向けるってのも悲惨なもんだ。
適当に考えられた偽りの空っぽの恨みで動く虚しい存在だからな。
異界開けの件で気恥ずかしいのもあるが目の前の存在が哀れにさえ思い拳を構えて霊力を漲らせた時、小姫の小指に結え付けられた糸が幽霊モドキを雁字搦めに巻き付き締め付ける。
糸の先端には凄まじい霊力が宿り、糸にも大幅に見劣りする微量だが質の違う霊力が込められていた。
「死者ですらない奴が逆恨みですらない恨みで人に危害を加えようだなんて感心しないね。
幽霊モドキが抵抗しようとするも糸の拘束は一寸も押し戻せずに食い込み、その体をバラバラに切り裂いた。細切れになった幽霊モドキが光の粒になって夜の闇の中に溶けて消える中、糸車に巻き取られるように小姫の指へと戻って行く。糸の収縮が止まったのは小指の長さと同程度にまでなった時で、針はポケットの裁縫道具入れみたいなケースの蓋を開ければ勝手に中に収まったんだが、ケースはちょっと可愛かった。
「好きなのか? クマ」
そう、高い霊力が込められた針を入れたケースはピンクでデフォルメされたハンバーガーに抱き付くクマのイラスト付き。多分術に使う呪具なんだろうけれど、趣味なのか偽装なのかそれっぽくねえな……。
「そりゃ仕事道具に自分の趣味を入れたいさ。素人上がり程如何にもな道具を使いたがるけれど、古めかしい木製の入れ物とかそれっぽ過ぎて逆にダサいし」
「俺は道具使わないから分からねえが、そんなもんなんだな。それにしても罰糸術だったか? 凄いな、あれ。俺なんて祖父さんから習った古武術を使う程度だから羨ましい。まあ、俺の場合は霊力の関係で術の殆どが使えないんだけれどよ」
俺は霊力自体は異常なレベルで多い……らしい。感知が苦手なので他人がどの程度の霊力を持っているかは分からないから比べられないが、分かる人から多いって伝えられたから他人よりずっと多いんだろう。
そのせいでコントロールが難しいのは残念だけれど。
「私の場合は秘伝の術を幼い頃から叩き込まれたからね。どうだい? うちの一族に入るなら教えられる物だって幾つかはあるよ」
「成る程。あれはそういった意味だったか」
自分の物になれとか言われて変に意識しちまったが、俺の霊力量に目を付けた勧誘だったって訳だな。私の物とか言う辺り、派閥に分かれて対立でもしてんのか?
そう考えるとベタベタ触って来たのはハニトラ的な奴なんだろうが、変に緊張して損な気分だわよ
意味が分かって少し残念な様な早々に分かって良かった様な気分が混ざり合う中、俺の返答を自信ありげに
「あー、悪いけれど将来を今決めるには抵抗があるし返答出来ねえわ。今は零課の手助けに専念したいしな」
姉さんから聞いた話だが、零課が対応するのは一般人への被害が出かねない案件で退魔士一族やフリーの退魔士はは金や権力を持っている連中からの依頼を優先するとか。零課から依頼を受けて動く事もあるらしいが、家の利益とかで行動に制限が掛かるのはちょっと困る。
「えー? 何なら体だけの関係でも良いんだよ? 定期的に抱いてくれたら君はラッキー、私は助かるとウィンウィンの関係じゃないかい?」
「其処でやったぜヒャッハーになる俺とか俺が普通に嫌なんだが? ドロシーじゃあるまいし」
「だから言ったであろう。この小娘は体目当てだと。……まあ、それはそうとして終わってはおらぬぞ」
不意に粘り着く様な、鬱陶しい様な霊力を感じてブランコの方を見れば外灯から伸びた人の形の影が見えた。着物姿で髪を結った時代劇に出てきそうなシルエット。
だが、その影の主は存在しない。女らしき姿の影だけが外灯の根本から明かりに照らされて伸びていたんだ。
そして持ち主の居ない影は俺達に挨拶をするかの様に右手を上にあげるポーズになり、その方向から女の声が聞こえた。
「いえーい。今日は私のライヴに来てくれて感謝するぜ、べいびー。準備は良いかい? あーゆーれでぃ? いぇぇぇぇい」
その声は無気力で、場に似つかわしくない内容を棒読みで喋っていた。……意味が分からん。妖魔ってのは本当に理解出来そうにない所があるよな。
影女さんは再リメイクでも苦労させられるそうです① パンダ抹殺作戦007
敵幹部の総称アンケート 枠埋めは募集掛けるかも 今のところ三体は埋まってる 但し死従者死地士と五凶星の場合は一名入らず
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五凶星 ごきょうせい
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悪六烈 おむれつ
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七福塵 しちふくじん
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四従死地士 しじゅうしちし