三流退魔士の俺が名門退魔士一族の落ちこぼれお嬢様に『君が欲しい』と言われたんだが 作:ケツアゴ
「初対面の相手に馬鹿を見る視線を向けないで下さいよ! ガキには分からないでしょうが、
「……なんかすいません」
「あのクソ上司! あのクソ上司!!」
DJのノリを無気力にしながら現れた妖魔が急にキレた。地団駄を踏む姿に思わず謝っちまったけれど俺って悪くないよな?
上司死ねとか小さな声で言ってるが、妖魔の間でもパワハラとかあるんだ。それも意味不明な登場させるって意味不明な命令するのか……。
今まで俺が戦って来たのは知能の低い連中ばかり、先輩退魔士が知能を持つ相手と戦う際も姉さんが参加させなかったからドロシーしか知らないんだが、知らなかったっつーか知りたくなかった事実に俺は黙って見ているしか出来ない。
あれ? 地面に突っ伏して拳を叩きつけながら泣いてね?
「ふぅん。これは興味深いね。良い情報を知れたよ」
俺と同じく小姫も反応せずに黙っていたが、ブランコを蹴る仕草を始めた影の妖魔を眺めながら何やらメモを取り始めた。
「え? 妖魔もパワハラするって事がか?」
「いや、妖魔は基本的に単独か同族と組むし、部下がいる場合の奴にとって部下ってのは餌か捨て駒ってのが多いからね。それよりも先輩も研修で習ったんじゃないのかい? 要注意リストの中に【影女】の名前があるのをさ」
影女……あっ!
妖怪画にも描かれている存在で、その場に存在しない女の影が障子に映るというもの。それだけ……なら要注意リストには入らない。
正直しくじったな。どうも情け無い姿ばっかり見せている。
絵でしか見ていないから実物を見ても即座に思い出せなかったってのは言い訳にしかならず、退魔士ってのは言い訳をしたくなる事態に陥ったら犠牲者が出る様な立場だ。
それが思い出せませんでしたじゃ話にならない。
一見するとパワハラ上司に心身をすり減らして自棄になっているだけで、影女自体が人を襲う伝承は無い。少なくても俺に渡された資料では。それだけなら人を驚かせる程度、昔話で人を騙す狐狸の方が危険な位だが、厄介なのは……。
視界の端で蠢く姿、下も上も虫が大量発生したかの様に小さく気持ち悪い姿の奴等が現れる。切断面から血を垂らしながらヒールの音を立て鳴らす膝から下の足、無数の目玉をくっつけて虫の羽を付けた奴、一節ごとに目玉を持つムカデ。
それこそ霊力が宿っていれば小学生のパンチ一発で霧散するカトンボ程度の脆さの弱小妖魔……人に危害を加える程の力も無くて他の妖魔の餌にしかならないが、それが百を超える数になって公園中で無秩序に蠢く姿には吐き気すら覚える程だ。
最下層の【
これこそが影女に付随する厄介な伝承、曰く影女が現れた場所では他の妖も姿を見せるという。
「先触れなのか誘引なのかは不明だったけれど、意味深に登場する辺り後者らしいね。それよりも影女が何者かの傘下で動いていると知れたのは僥倖だったよ」
成る程、こんな厄介な奴を動かしているのが居るって知れただけでも、って事だったのか。
それなら今からどうするか? 此処で倒すか捕らえて裏に居る奴について吐かせるのかと考えるが、小姫を見れば先程使った針を出す様子も無い。
せめて俺が動くべきなのか、そんな風に迷う時に耳を軽く啄まれた。
「止めておけ。あの女、今のお主が太刀打ち出来る相手ではない。まあ、今宵は今知れた情報と……何をするのかだけ見ておれば良い」
危なくなったら俺だけ守るって付け加えたドロシーだが、その危なくなったらってのがなあ……。
「それって私は助けられても助けないって事だろう? はいはい、自分自身の無力さはよーく分かっていますよ」
少し拗ねた様子で両手を挙げる姿からして最初から影女と戦う気は無かった訳か。それは俺が邪魔なのか勝てる自信が無いのかは分からないが、勝てない相手には挑むなってのは研修時に先輩から言われた事だ。
あの先輩の言葉は参考になる。所々抜けているし軍服のコスプレ衣装を私服にしちゃいるがな。
そして危なくなったらって言ってるが、その基準が俺とドロシーじゃ全然違うんだよな。多少の欠損なら生きているには支障が無い、寧ろ自分を頼らせられるし、そんな傷さえもどうにか出来る人が居るからと気にしない。
そんな判断でも俺を想って守ろうとはしてくれてはいるんだが……。
こうして話す間にも底位達が集まって来る中、影女は未だブツブツ文句を言いながらブランコの柱を蹴り続けるが一発一発が足の形をクッキリと残す程の威力だ。
高位の妖魔なら容易にへし折れるんだろうが、それでも霊力を持たない人には脅威でしかない。
「よし! ささっと終わらせて本でも読みましょう。……それでは最初のなんばー行くぜー! ちぇけらっちょ!」
あの喋り方が多分JDとかその辺りを参考にしているんだろうが、使い方が合ってるかはどうか分からん。影女自体が適当にやってるっぽいしな。
問題はどんな態度かじゃなく、それで何をしようとしているか。懐から何かを取り出す動作の後に出て来たのは白黒の球。何かを描いてるみたいだが底位達が邪魔で離れている此処からではよく見えやしない。
「クソ上司くたばれ! ……あっ、間違えた」
八つ当たり気味に叩き付ける勢いで投げられた球が幽霊モドキが居た場所に飛来する瞬間にそれに何が描かれているかが見えた。
「パンダ……?」
そうだ、パンダだ。キャラ物のボールみたいにパンダをデフォルメして球状にして描かれていたんだ。
「何かが起きるのは分かっているのに情報集めの為にそれを止められないのは見捨てられた落ちこぼれの悲哀って奴だね」
地面に着弾する寸前、一瞬だけ裁縫セットの箱に手を伸ばそうとした小姫が自嘲しながら手を止め、球が地面に触れると同時に弾けて中から白と黒が入り混じった霧が周囲を包み込む。
それは公園全体に広がると風呂の栓を抜いたかの様に着弾地点に向かって収縮していく。底位達はその流れに飲み込まれる様に霧に流され中央へと向かって行き、最後に地面に飲み込まれて消えた。
公園内の底位達が完全に消え去って静寂だけが残る中、霧が吸い込まれた地点から指の折れ曲がった手が飛び出す。それは間違い無くさっき倒したばかりの幽霊モドキの右腕。だが長さも太さも一回り大きく、続いて飛び出した左腕には服と肉を貫く形でアイスピックやドライバー、ハサミが突き刺さっていたんだ。
「ああ、目玉を繰り抜かれたとはなっていたけれど何を使った迄は明確じゃなかったね」
「所でアレって相当不味くないか?」
「うん。色々な意味で不味いかな」
幽霊モドキは左腕に刺さった凶器を指の間に挟んで引き抜くと大きく振り被る。引き抜いた側から別の凶器が突き刺さった状態で現れ、力任せに振り抜いた腕から俺達に向かって凶器が飛んで来た。
速度は凄まじいが軌道は単純、動きも大振りとあって避けるのは楽だ。左右に跳んで回避すれば俺達が居た場所を通って後方の滑り台へと向かって行く。鈍い音が響いて見てみれば凶器は滑る部分に柄が軽くめり込んで止まっていて、正面から喰らえば流石に不味いだろう。
さっきまで力自体は架空の被害者相当、要するに成人女性程度だったってのに随分と強化されたもんで……。
色々な意味で不味いって言いたくもなるもんだ。楽に終わる筈の相手が此処迄強くなった事、何より他の妖魔の手で強くなったって事態が本当に不味い。
まさか目の前の幽霊モドキ以外には相性の問題か例の球の生産の問題で使えません、だなんて都合の良い事は起きやしねえだろうし。
「次が来るよ。……参ったな。防いで飛び込みたいけれど、これを防いだら決め手がなくなってしまう」
ブチブチと袖と肉を引き千切る音を立てながら幽霊モドキが左腕の狂気を次々に指の間に挟んで行く。それも右手で取った凶器を左手に持ち替えて両手を振り被り、さっき以上の速度で投げて来た。
勝つ為に防ぎたいけれど防げない、か。じゃあ俺がやろう。
両手の人差し指に霊力を集め、親指の腹に当てて力を入れて溜める。狂気の群れが飛来する中、溜めた力を解き放った。
「伏柄流古武術奥義・
指が弾いたのは空気。それに込めた霊力を混ぜ込んで撃った空気弾は迫る凶器を正面から弾き飛ばす。撃って撃って撃ちまくり更に激しさを増す凶器の投擲を相殺した。
これが姉さんなら狂気を弾いて尚、空気弾の勢いは削がれずに向かって行ったんだろうが、妖魔と戦えるだけの霊力を持つのは俺だ、足りない物をねだっても仕方が無い。
俺がすべきは信じて突き進む小姫に一本たりとも凶器を届かせない事だけ。低い姿勢で体をほとんど上下させずに疾走する姿からは迫る凶器を防ごうとする様子は全く見られない。
ただ、目の前の敵を打ち倒す、その意思だけだ。
「どうしてどうシてドウシてドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテッ!」
凶器を投げ付ける前に小姫が攻撃を仕掛けられる間合いに入った瞬間、幽霊モドキは掴んだ凶器の切っ先を向けながら腕を真下へと振り下ろす。
それを僅かに軸をずらして避けた瞬間、幽霊モドキの額と手足に針が撃ち込まれた。
「伊邪那美流罰糸術奥義・
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